鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで── (旧題名 ダンジョンマスターもの)   作:想いの力のその先へ

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悪戯心

 実際問題、話すといってもどこから話すべきか。そう頭を悩ませる俺にボクっ娘がジトっとした目で話しかけてきた。

 

「ねぇ、ダンジョンマスターくん? さっきからボクのこと、不躾な目で見すぎじゃないかい?」

「……おっと、これは失礼――」

 

 ……ここで少し、揺さぶりをかけるか。

 

「貴女のような()()()()()()相手には失礼だったかな?」

「……なにを、言ってるんだい?」

 

 ボクっ娘の声が不機嫌なさまになる。が、表情は別で頬を紅潮させ、満更でもない笑みを浮かべている。おそらく無意識なのだろうが、女として誉められて嬉しいようだ。もしかしたら、女として見られること自体、そこまでなかったのかもしれない。それでも己を律しようとしているのは流石、と言えた。

 さて……。それはともかくとして、ここではまだまだ攻めるのが上策。

 

「なにをもなにも、その可憐な所作で男、というのは無理があるよ」

 

 これも事実だ。

 実際、彼女の赤焦げた茶髪も短く切り揃えているものの、柔らかくふわふわとした質感で、目鼻立ちも中性的ではあるが、どちらかと言うと女性らしく整い、生来の優しさが滲み出ている。

 身体だってそうだ。どう贔屓目に見ても華奢で抱きしめるとそのまま折れてしまいそうな儚さを感じさせながらも、所々に女性らしい丸みを帯びている。

 胸の部分がそういった意味では顕著だ。もともと小さそうではあるが、それをサラシかなにかで潰しているのだろう。不自然な固さが見てとれた。

 

 彼女、ボクっ娘の動きにもそれが出ている。本人は意識して男らしい、キビキビとした動きをしているようだが、所々に無意識なのだろう。男へ垂れかかるような柔らかい、媚びた動きをすることがある。あるいは内心、男として演技することに忌避感を抱いてるのかもしれない。

 

「え、ぁ、う……。そ、そんなこと、ないよ…………?」

 

 こうもはっきり女性である。と断言されたことはなかったのだろう。どぎまぎとした動揺を見せながら反論してくる。しかし、言葉は尻つぼみになっていた。

 そんな彼女の反応を見て、俺の中で悪戯心がむくむくと大きくなってくる。

 

「なら、証拠でも見せるかい?」

「えっ……」

 

 気の抜けた声をあげる彼女へ近づくと、顎へ手を添え、くいっ、と見上げさせる。

 突然、異性に触られたこと。その異性と見つめあっていることで、ボクっ娘の顔がみるみるリンゴのごとく赤く染まっていく。

 

「ひ、ぁ……。うぅ……」

 

 そして二人の顔が近づくにつれ、ボクっ娘の、アレクの瞳が情欲に濡れ、潤んでいく。唇は半開きになり、はぁ、はぁ、と暑い吐息が漏れでる。

 そのまま顔がさらに近づいていき――。

 

 ――横から冷たく、怜悧な気配を感じる。

 

「あら、わたしがいるところで婚約者を口説く、なんてなにを考えてるのかしら、ヒデヨシ?」

 

 リーゼロッテだ。どうやらおふざけが過ぎたらしい。……と、思っていたが、彼女がそこまで怒っているようにも見えない。どうやら、俺のおふざけに乗ってきたようだ。ニヤリ、と笑うと彼女もまた笑った。

 

「おや、おふざけが過ぎたかな?」

 

 アレクの顎から手を放すと、彼女から力が抜け、ぺたり、と女の子座りとなる。しかし、顔だけはこちらを向いており、ぽぅ、と呆けた様子で見つめていた。

 

「その割には、ずいぶんと情熱的だったようだけど?」

 

 リーゼロッテのからかうよくな言葉。それが聞こえたアレクは俯き、胸を手で抑える。きっと、彼女の心臓はいま、バクバク、と激しく鼓動を打っているのだろう。

 

「なに、魅力的な女性相手に口説かないのは、それこそ失礼というものだろう?」

 

 アレクの側からぼふん、という音が聞こえた気がした。どうやら相当に追い詰められているらしい。と、言うより彼女が初心(うぶ)すぎるだけだろう。

 なお、俯いている彼女は気付いてないが、リーゼロッテは可愛いものが見れたとばかりに、にこにこ笑っている。

 

「あら、つまり。それはここを出る時に口説かれたわたしも魅力的、ということかしら?」

 

 からかいを含んだ言葉。それが聞こえたアレクはバっと顔を上げる。その顔はもはや、火を吹くのではないかと思えるほど赤く染まっていた。

 

「あ、ぅ、あっ……。リズ、姉も……!?」

 

 戸惑い、なにより羞恥を含んだ声。きっと、彼女の頭の中ではすごい光景が繰り広げられていることだろう。具体的にはベッドの上でまじわるここにいる三人、とか。

 

 心配そうに寄り添うと、そのまま抱きしめるリーゼロッテ。しかし、俺は見逃さなかった。彼女の表情が嗜虐的に歪んでいたことを。

 

「ええ、そうよ。気を付けないと、アレク。もしかしたら、二人で仲良くこの人に食われるかもしれないんだから」

「あ、ぅ……! 食わ、れっ…………!?」

 

 その言葉で想像が補強されたのだろう。もはや顔どころが、全身が赤くなっている。そして、そのまま目がぐるぐると回りだして……。

 

「きゅぅ……」

 

 力なくリーゼロッテへ寄りかかる。どうやら、色々な負荷がかかりすぎて頭の許容量を突破、気を失ったようだ。

 どうやらやり過ぎてしまったらしい。

 苦笑いを浮かべた俺だったが、ふと、リーゼロッテを見る。頬を薄く朱に染めながら、嗜虐的な笑みを浮かべている。いま性癖に追加されたのか、元からそうだったのかは分からないが、どうやらドSだったようだ。

 彼女の意外な一面を知った俺は、乾いた、ひきつった笑みを浮かべるに至るのだった。

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