鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで── (旧題名 ダンジョンマスターもの)   作:想いの力のその先へ

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乙女心

 ……あれ、ボク?

 

 いつの間にか横になってた? いつ、寝たんだっけ……?

 頭の裏に柔らかい感触がある。でも、ボクが使ってるまくら、じゃないよねぇ……。それに、なんだか安心して――。

 

「あら、起きたのアレク」

「リズ、姉……?」

 

 すぐ近くから声が聞こえた。でも、どこ?

 ダメだ、まだ少し頭が重い……。考えがまとまらないや。

 こういう時は、なにをやってたかを思い出さないと……。えっと、たしか……。そう、最初はリズ姉の案内でダンジョン内を進んで、中にいるマスターくんに挨拶を――。

 

 そこで連鎖的にすべて思い出した。慌てて飛び起きる。辺りを見渡すと後ろにリズ姉が座ってた。どうやら、ボクを膝枕してくれてたみたい。……じゃなくて!

 

「ぁ、うぁぅ……!」

 

 かぁ、と顔が暑くなる。きっと、火が出るみたいに赤くなってるよ。

 それもこれも、マスターくんが……!

 

「うん……? リーゼロッテ。彼女、起きたのか?」

「ええ、そうよ」

 

 ……ひゃう!

 突然、マスターくんの声が聞こえて、びくん、と身体が跳ねてしまった。……し、仕方ないじゃないかっ! まさか、ボクがあんな形で口説かれるなんて想定もしてなかったんだから!

 そりゃあ、ボクだって女だし? 白馬の王子さま、なんてことは言わないけど、男の人とお付き合い。なんて、夢を見ることもあるさ。

 まぁ、実際のところ。帝国の支配者の血筋だから、そんな恋愛なんてことは不可能だって分かってる。特にボクの場合、父さまが男として養育してたから、さらに特殊な事例だけど。でなけりゃリズ姉じゃなくて、帝国の重要な貴族相手に降嫁、なんて可能性もあったろうし……。あった、のかなぁ……?

 

 と、ともかく!

 普通に、普通に……? いや、そこは重要じゃなくて! とにかく、ボクだって男の人と出逢って、恋に落ちて、子供を……。

 

「……はぁ」

 

 そこでボクは自身の身体を見て、現実に引き戻される。……すとーん、なんて音が聞こえてきそうなほど、真っ平らな胸。……いやいや、ちゃんと。ちゃんと少しはあるんだから!

 ……なだらかな起伏が。うん……。自分で言ってて悲しくなってきた。このお子さま体型、どうにかならなかったのかなぁ。男って偽るにはちょうど良かったけど――。

 

 ――可憐なレディ。

 

「ふぐぅ……!」

 

 マスターくんの声が反芻されて、思わず呻いちゃった。いや、ボク相手にそんなこと言うわけないし、社交辞令なんだろうけど! けどぉ……。

 

「おい、彼女大丈夫なのか?」

「大丈夫、だと思うけど……。ここまで面白いことになってるアレク、初めて見たわね」

 

 なんか、二人がこそこそ、と内緒話してる気がする。でも、いまはそんなこと重要じゃ……。いや、まぁ重要なのかもだけど。

 それ以上にマスターくんの声が脳内に響く度に、お腹の奥がじゅん、と疼いちゃって……。

 

 気、気をしっかり持たないと……。気が抜けた瞬間、手が、その……。股とか、胸に行きそうで……。

 さ、流石に男の人がいるところで、そんなはしたない真似なんて、しちゃったらダメだし。……ダメ、だよね?

 

「アレク皇女、大丈夫か?」

「ひゃいっ!」

 

 まさかマスターくんに声をかけられると思ってなくて、変な声だしちゃった。それだけじゃなくて、いつの間にかマスターくんの顔が見上げるとすぐの位置に……!

 

「ひゅっ、ふ、ぅ……?!」

 

 ――し、心臓に悪い! いくらなんでも、こんなの。

 

 ボクのことを心配そうに見つめる切れ長の目。瞳は黒曜石のように綺麗な色。顔立ちはこちらで見ることのない、不思議な感じだけど、整ってる、んだと思う。

 髪も黒色のサラサラとしたものが短いけど、ワイルドな感じに纏められてて……。

 それに、リズ姉の話だとマスターくんは文官寄りだって聞いてたけど、同じ文官の次兄。マクシミリアン兄さまに比べると胸板や二の腕も筋肉質、って言うほど筋肉達磨じゃないけど、ほどよい身体つきで。もし、もしもだけど、あの腕で抱きしめられて、胸板に押し付けられて。さらには、耳許で囁かれたりなんかしたら、ボク、もう……。

 ……って、そうじゃないんだって!

 

 妄想を振り払うように首を振る。突然の行動にマスターくん、ビックリしてる。なんか、ごめん……。あぁ、なんかボク、本当におかしくなっちゃってる。でも、この状態がとても心地良い。

 ……きっと、マスターくんはボクを皇女だなんて言ってたけど、それでもボク個人を見てくれてる。帝国のボク、ではなくボク自身を。それを感じちゃうから、安心できる。甘えたくなっちゃう。……だから、もう良いよね?

 

「ね、ねぇ。マスターくん」

「なんだい?」

「ボ、ボクもリズ姉みたいにマスターくんの名前、呼びたいな。……い、良いかな?」

「……まぁ、良いぞ」

 

 …………やった! よ、よし。じゃあ呼ぶぞ……!

 

「マ、マス……じゃなかった。ヒデヨシくんっ。……え、えっと。ボクの名前も呼んでほしいな。ボ、ボクの名前はアレクサンドラ、だから――!」

「……なるほど、だからアレク、と。確かに、君に似合いの知的で華麗な名前だ。……改めてよろしく、アレクサンドラさん」

「……え、えへへぇ」

 

 ……嬉しい。名前を呼んでもらっちゃった。

 顔があつい、ヒデヨシくんがビックリした顔してる。……うん、原因は分かってる。

 だって、いまのボク。絶対蕩けた、淫靡な笑みを浮かべてるもん。……あぁ、いつか、きっと――。

 

 

 ――ヒデヨシくんに、身も心も捧げたいな。だって、想像するだけでゾクゾクするほど心地良いんだもん。もし、それが実現したら……。

 この日、ボクに明確な夢が生まれた。きっと成就させる、そんな夢が。

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