鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで── (旧題名 ダンジョンマスターもの)   作:想いの力のその先へ

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恋慕と秘密

 ……なぜか知らないが、アレク皇女から捕食者の目で見られている気がする。こう、なんというか。逃がさん、お前だけは……。そんな目で。いや、そこまで剣呑な感じではないけども。

 

 まぁ、理由は何となく予想できる。少し話しただけでも彼女が理知的、地頭が良いというのは分かる。それゆえ、女だてらに、なんて嫉妬を受けていても不思議じゃない。

 そこに彼女を肯定するような男が現れれば……。とくに彼女は皇族であり、リーゼロッテと同じく男に免疫などないだろう。下手に頭が良くて男に免疫がない。悪い男に騙されるタイプだな。

 心配だ、なんてことを俺が言うべきじゃない。俺がその悪い男なんだから。

 

「それで、えっと……。アレク皇女?」

「なぁに、ヒデヨシくん?」

 

 にこにこ、と花開く笑顔をこちらへ向ける。そこだけ見れば、本当に可愛らしい、のだが……。

 

「問題はそこじゃないんだよなぁ……」

「……ん? どうしたの?」

 

 笑顔を見せながらも、首をかしげ頭の上に疑問符が浮かべている。邪気のない笑みだ。きっと、本質は良い娘なのだろう。育ちの良さが滲み出ている。そして、そんな彼女はリーゼロッテのことを、リズ姉と慕っている。リーゼロッテもまた、アレク皇女のことを可愛がっていることは理解できた。……ちょっと、可愛がる方向性が明後日の方向へ旅立っているが。

 それはともかく、リーゼロッテとアレク。公国と帝国の仲が良好なのは喜ぶべきこと。ではあるが、言い換えればリーゼロッテを排斥する。という手、策は取れなくなった。すなわち、これ以降なんとしてでもリーゼロッテと協調路線を歩まなければならなくなった、ということでもある。

 (さいわ)い、と言うべきか。アレクがこちらを懸想(けそう)。異性として慕ってくれているから、味方となってくれる可能性が高い、というだろう。

 

 ……………………それに、問題はそこだけじゃなくて。

 

「……うっ、ふぅ――。本当に、アレクったら……」

 

 身体をゾクゾクと震わせ、男、というより他人に見せられない淫靡な表情で頬を紅潮させているリーゼロッテ。明らかに性的な興奮を覚えてるだろ、あれ。

 ……あれと今後、協調路線を取らないといけない、ってマジで? 協調できる未来が見えないんだけど。

 まさか、こんなことで頭の痛くなる日が来るとは思ってもみなかった……。

 

 

 

 と、ともかく。そんなことで頭を悩ませていても仕方ない。……と、そうでも思わないとやってられない。気を取り直して、今後のために動かなければ。

 

「……すぅ、うん。アレク皇女、1つ確認したいんだが」

「うん、なに? それとボクのこと、呼び捨てで良いよ?」

 

 ……できるか! と、叫ばなかったのを、自らの事ながら誉めたい気分だった。

 確かに、リーゼロッテのことは呼び捨てにしている。だが、それはあくまで公国が実質的に滅亡していること。ダンジョン()アルデン公国(リーゼロッテ)が対等な同盟を結んでいるからだ。

 それに対して、ルシオン帝国(アレク皇女)は比較するのが烏滸がましいほどの大国。この大陸の二大国家の1つなのだ。

 そんな国の姫君と懇意だと、世間にアピールする。という意味ではありだろう。どう考えても家格。権威という意味で釣り合いが取れていないことに目を瞑れば。

 ぶっちゃけ、アレクという愛称で呼んでる時点でかなりの冒険だと言える。これが公的な場であればこうはいかなかっただろう。

 それほどまでに本来、権威。権力というのは面倒なものなのだ。

 

 俺が言葉を詰まらせたことでアレクも察したのだろう。明らかに不満です、という顔をしながらも話を続ける。

 

「……ぶぅ。…………良いよ、それでヒデヨシくん。確認したいことって?」

「あ、あぁ。助かる。……アレク皇女が公国救援のために派遣された帝国軍の司令官、ということでよろしいか?」

「うん、まぁ、そうだね。流石に現場の指揮なんかはボクじゃなくて前線の指揮官やリズ姉へ任せることになるけど」

「なるほど……」

「まっ、ボク自身戦場での槍働き。なんてのはできないから、頭を使うお仕事中心になるかな?」

 

 頭を使う仕事、ここであえて言ったということは司令官、という意味じゃないのだろう。策略家、あるいは軍略家。すなわち、軍師という意味合いだと判断できる。

 もしかしたら、この絵図面を描いたのもまた彼女が一枚噛んでいるのかもしれない、というのは流石に尖った見方か。

 

 さて、そう考えると問題は彼女にナオのことを教えるか、ということ。もしも、彼女が絵図面を描いたというのであれば教えることは危険だろう。

 いくら彼女本人に戦闘能力がないにしても、頭脳をもってすれば悪用する方法などいくつも思い付く可能性は高い。その危険性を犯してまで、奥の手とも呼べる受肉したダンジョンコア、という存在の明かす必要があるのか。

 

 こちらをきらきら、と恍惚した表情で見つめるアレク皇女。彼女の表情を見つめると――。

 

「…………疑う方がバカバカしいよなぁ」

 

 こうまで純粋に好意をぶつけられると、まるで疑っているこちらの方が悪いのでは。と感じてしまう。

 教えても問題ないだろう、きっと……。そう考えて、俺はあえて席を外させていたナオを部屋へ戻すことを決意するのだった。

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