鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで── (旧題名 ダンジョンマスターもの)   作:想いの力のその先へ

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前例と驚愕

 ナオを戻すと決めたのなら、善は急げ。俺は早々に通信を繋ぐ。

 

「ナオ、聞こえるか?」

「マスター、会談の方はよろしいのですか?」

「我が同盟相手たちに紹介したい。戻れるか?」

「……正気ですか?」

 

 訝しげな表情で問いかけてくる。しかし、本気ですか、ではなく正気ですか、か……。それほどまでに狂ってると思われるわけか。それが彼女の声色にも如実に現れている。……まぁ、俺がナオの立場なら同じ心配をするな。

 

「あぁ、俺は正気だし本気だ」

「……了解しました、いま戻ります」

「頼むぞ」

 

 ……ふぅ、これでナオの方は問題なし。俺の気が狂っていようが、なんだろうがこちらの指示があった以上、ナオは部屋へ戻ってくる。

 それより、問題はむしろ――。

 

「……? ヒデヨシくん、どうしたの?」

 

 可愛らしく、コテン、と首をかしげているアレク皇女。その側ではリーゼロッテもぷかぷかと頭の上へ疑問符を浮かべている。この2人、ナオが戻ってきた時にどんな行動をとるのか、予測できないことだ。

 おそらく、リーゼロッテの方は大丈夫だろう。以前、護衛騎士のアリアとともにこの部屋に招き入れた時も問題は発生しなかった。今回も問題ないだろう。

 しかし、アレク皇女の方は――。

 

「……??」

 

 俺の視線を受け、きょとん、としている。

 意外と彼女の行動が読めない。俺にたいして気があることは確かなようだが。それがどれくらいのレベルなのか……。

 

「マスター、戻りました」

 

 ……考えている間にナオが戻ってきた、か。

 

「ヒデヨシ、彼女は何者?」

 

 リーゼロッテが少し警戒した様子を見せている。いくら同盟しているとはいえ、まったく知らない第三者が現れたら警戒もするか。

 

「ふむ、リーゼロッテも一度会ったことが――」

「がるるっ……!」

 

 唸り声? 誰の声かと周りを見渡す。そこには犬歯を剥き出しにして威嚇するアレク皇女の姿。えぇ……。

 

「ちょっ、アレク……?」

 

 さすがに予想外なのか、リーゼロッテも驚いている。なんと言うかアレク皇女、切れ者のイメージだったんだが、おもしれー女枠になってないか?

 にしても、なんでナオに威嚇を……。あぁ、そう言う――。

 

 彼女、アレク皇女の視線をよく見てみると、ナオの豊満な、グラマラスな肢体に注がれている。具体的に言うと、はち切れんばかりの胸とか、くびれた腰とか、まぁ女性らしい部分に。

 いきなり男好きする身体の女が現れて、なおかつ自信過剰じゃなければ俺相手(好いた男)と親しそう、だなんて、恋敵として警戒しないわけがない。

 とくに彼女、自身の幼い身体つきにコンプレックスを抱いているようだし……。

 ならば敵がい心を剥き出しにするのは当然の反応。向けられたナオからすれば堪ったものではないだろうけどな。

 とはいえ、まずナオのことを話さないと先へ進まないな。こほん、と咳払いをすると2人に紹介する。

 

「へっ……? 彼女、あの時の水晶玉なの?」

「へぇ、ダンジョンコア…………? ダンジョンコアぁっ!」

 

 一度見たことがあるリーゼロッテの鳩が豆鉄砲を食らった顔をするのは分かる、んだけど。アレク皇女のノリツッコミ――もとい、驚き様はなんだ?

 

「ヒ、ヒデヨシくん? あの人がダンジョンコアって本当……?」

 

 わなわな、とナオを指差しながら愕然とした様子のアレク皇女。これは間違いなく、何かある。ということか。

 

「あぁ、間違いなくナオはこのダンジョンのコアだ。その姿になったのは、本当につい最近の話だけどな」

「うっそぉ……」

 

 アレク皇女は返答を受け、呆然としている。それほどまでにすごい、または想定外の事態だった。ということだろうか?

 驚きのあまり、魚のように口をぱくぱくさせていた皇女。しばらくして落ち着いてきたのか小声、なおかつ早口でなにか呟きはじめた。

 

「いや、待ってよ。こんなことある? 確かにうち(帝国)でもダンジョンコアが肉体を持ってた、なんて眉唾物の情報の記載された史料はあったよ? でも、それだって信憑性は低いもの扱いだったし、いや、でもぉ……」

 

 ちらちら、と俺とナオを交互に見つつぶつぶつ呟いている。その態度からは驚きと困惑が半々だということが見て取れた。

 そして、おずおずとした様子でこちらへ確認を取ってきた。

 

「えっと……。それって、実は冗談でした。なんてことはないよね……?」

「まぁ、確認したいという気持ちは分からなくもないけど。いくら疑ったところで徒労にしかならない、とこちらは断言できるな」

「……そう、だよねぇ。うわぁ、マジなんだぁ……」

 

 なんと言うか、信じられない。というよりも信じたくない、という反応に見える。いったい、どうしたのだろうか?

 そんな疑問を持っていると、顔に浮かんでいたのだろう。察した皇女が疑問に答えてくれる。

 

「あぁ、うん……。ボクたち帝国の史料にも過去、ダンジョンと交流をもっていた。なんてのがあったんだけど……」

 

 どこか申し訳なさそうな言い草で察することができた。つまりは――。

 

「眉唾なもので信用してなかった、と」

 

 俺の問いかけにこくり、と頷く。まぁそれが普通だろう。人とモンスター、しかも棲み家であるダンジョンが交流しているなんて考えるほうがどうかしている。

 なにせ、本来不倶戴天の敵なんだ。それが仲良く、なんて信用できるわけがない。

 

 しかし同時に、こちらとしたら収穫でもある。過去に手を携えたことがある、という前例があるのとないのでは大違いだ。

 この事実は、今後こちらを有利に運ぶかもしれない。まぁ、なんにしても。いまは目先の王国軍をどうにかする必要があるわけだが……。

 

「そう言えば……」

 

 そういえば、その王国軍。なぜ、公国へ奇襲を。なんて選択肢を選んだのだろうか……?

 ふと抱いた疑問。その理由を考えて、頭を捻ることになるのだった。

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