鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで── (旧題名 ダンジョンマスターもの)   作:想いの力のその先へ

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サブマスター

 本来はあまり推奨されない方法、か。まぁ、理屈として理解しているが一応確認してみるか。

 

「それは、やはり利権の問題か?」

「そうですわね、それもあります。なにせ、ダンジョンコアが2つあって、それぞれにDPが確保できる。早い話、実質的なDPが二倍になるんですもの。使わない手はありません。が……」

 

 船頭多くして船山に上る、というところか。目の前にご馳走があるのに、仲好(なかよ)小好(こよ)しというわけにもいくまいよ、本来ならば。

 

「その顔、ちゃんと理解できているようですわね」

 

 こちらを見たジャネットは満足そうににこり、と微笑む。どうやら間違ってなかったようだ。

 

「ダンジョンマスター一人にコア1つ、なんて決まりはありませんもの。奪えるなら奪って然るべきですわ。それだけダンジョンを強化できるのですから」

 

 やはり、そうか。マスターとコアは一心同体だと思っていたが、それは思い違い。コアが破壊されればマスターは終わりだが、その逆。つまり、マスターが死んでもコアに影響はでない、もしくは少ない。というところだろう。

 しかもおそらくマスター側の利点はそれだけじゃない。コアが破壊されればマスターは死ぬ。だが、そのコアが複数あれば? つまり、簡単に言えば擬似的な命のストックができる、ということ。ならば、なおさら手に入れない道理はない。

 ……しかし、本当に文字通り人間離れしてきたなぁ、おい。人間、というよりも生物離れ、というのが正確かもしれないが。

 

 だが、そうなるとますますもってマスターどうしの協力、というのは絶望的だ。誰が寝首をかかれると分かっていて協力するというのか。

 もっとも、それは本来の話。今回の場合、少し様子が異なってくる。それは俺とジャネットの関係。すなわち、召喚主たるダンジョンマスターと、召喚された側、臣下としてのジャネット。明確な主従関係が出来上がっている、ということ。

 なおかつ、ジャネットからも召喚された側は召喚主に対して、強制的な好意を植え付けられることを明かしているし、それは嘘ではないと理解している。もっとも、ジャネットの思惑はそれだけじゃなさそうだが……。

 

「もちろん、今のあたくしはダンジョンマスターではありませんし、だからこそコアを譲渡することも可能です」

 

 ダンジョンコアを指の腹でころころ、転がしながらジャネットは告げる。

 そんなジャネットの言葉にナオは目をぱちぱちさせている。彼女の提案が信じられないようだ。その気持ち、分からなくもない。が、おそらく必ずしも譲渡するわけでもないだろう。

 

「可能だが、するつもりもない。だろう?」

「ご明察、さすが主さま」

 

 くすくす笑っているジャネット。こちらをからかっているつもりなどなく、単純に自身のことを理解していると分かって嬉しいのだろう。

 

「そもそも、貴様自身駆け出しダンジョンマスターに召喚されるような珠でもあるまい」

「駆け出しダンジョンマスター……。えぇ、駆け出しダンジョンマスター、の筈よね……?」

 

 ……そこで常識を壊された、認めたくない。みたいなアンニュイな表情を見せるんじゃないよ。色々認めたくないのは分かるけど、俺が駆け出しなのは事実なんだから。

 あと、俺自身のダンジョンコアであるナオも似たような表情をしてる件について。お前はこっちの味方でいろよ。と、突っ込みたい気分だけど、きっと俺自身が規格外だと思われてるんだろうなぁ。こちらからすると比較対照がないので分からないんだけど。

 と、ともかく。部屋の中の微妙な空気を払拭するため咳払いをする。

 

「ん、うっ。……ともかく、コアをそちらで持っておく、というのはもちろん理由があってのことだよな」

「えぇ、それはもちろん。あたくしとしては、もともとダンジョンマスターへ返り咲くため、人界へ渡ろうとする中で一番手っ取り早い方法をとっただけですし」

「ふむ……?」

 

 ダンジョンマスターへ返り咲くため、か。強制的な好意を植え付けられることを知っていてなお、そんな行動をとるということは、何らかしらの対応策があった、ということだろう。

 その方法、気にならない。と言えば嘘になるが……。

 

 そんな考えが顔に出ていたのだろう。ジャネットは嬉々として対応策について話してきた。

 

「もちろん、当初の予定では反乱、というより下克上? を起こすつもりでしたわ。方法なんていくらでもありますもの。血を吸ってあたくしの眷属とする。暗示を使って、こちらに好意を抱かせるよう洗脳する。武威をちらつかせて強制的に要求を飲ませる。ざっとでもこれだけの候補があります」

 

 楽しげに、目の前に欲しかったおもちゃがあるようのを見つめるように目を輝かせている。

 

「まっ、今となってはどうでも良いんですけど」

 

 いきなり、スン、と真顔になる。移り変わりが激しすぎる。いったい何が彼女をそこまで駆り立てるのか。

 かと思えば、今度はくぎぎ、と歯ぎしりしそうなほど悔しげな顔を見せる。

 

「……まったく、今度こそあの娘へ勝とうと思って意気揚々と出てきたら、本命は既に死んでいたなんて。勝ち逃げされたこちらの身にもなって欲しいですわね」

 

 はぁ、とため息をついている。それほどまでに悔しかったらしい。

 

「かといって、休眠状態とはいえ半身を受け渡す、というのもまた別だと思っていますから」

 

 まぁ、そこら当たりは理解できる。俺自身、同じ立場ならおそらく同じような行動をとっていた、と思う。

 

「なので、主さま?」

 

 くふふ、と悪戯っぽく笑っているジャネット。何らかの提案があるようだ。

 

「あたくしをサブマスター兼アドバイザーとして、あらためて雇いませんこと? 決して損はさせませんわよ?」

 

 心底楽しそうに告げてきたジャネット。まぁ、そうなるよな。そして、俺の答えは既に決まっている。

 

「あぁ、もちろん。よろしく頼む」

 

 ジャネット、いや、サブマスターへ了承しつつ手を差し出すのだった。

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