鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで── (旧題名 ダンジョンマスターもの)   作:想いの力のその先へ

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思案

「リーゼロッテたちが奇襲、いや、強襲を受けたか」

 

 ゴブリンライダーが一騎だけ帰還。その異常事態と報告を受けたベルクによる通訳で、今回の事態が発覚した。

 正直、ひきこもるだけかと思っていた王国側の対応に驚いていた。確かに、地の利はこちら。リーゼロッテ側にある。だが、わざわざ防御拠点という有利を捨てて攻撃を仕掛けてくるとは……。

 

「それに単騎で、か……」

 

 捨て駒、というには上等な戦力だ。なにせ、あのリーゼロッテと互角に切り結ぶことができる逸材。噂による召喚された勇者か?

 それに報告には気になる内容もあった。

 

「ルード、リーゼロッテともに襲撃者が俺に似ている。と、言っていたらしいが……」

 

 黒髪黒目の少女。日本人、ということか。まぁ、別の国の人間から見たら似た顔立ちをしていて見分けがつかない。というのは往々にしてある話だろう。

 

「まさか、な……」

 

 こちら、ダンジョンだった洞窟で目覚めた当初、記憶の混濁があったのは確かだか、それも時間が過ぎるとともにある程度治まっている。とはいえ、まだまだ虫食い部分があるのも事実。それはともかく、俺と似た少女か。

 

「まさか、本当に万純ちゃんだったりするのだろうか……?」

 

 荒木万純。俺の兄貴の娘、姪にあたる少女だ。確か、いまは十六歳。高校一年生だった筈。こんな俺を秀兄(ひでにぃ)と慕ってくれている。それに大のヒロインオタク。

 ヒロイン、というのは世界各地で活躍する超常の力を持つ少女や女性の総称だ。とくに日本は超能力を扱う娘や超科学の申し子。魔法を使える少女などバラエティに富んでいた。

 ……そういえば、万純ちゃんが近所の仲良しさんが魔法少女。ヒロインになった、と興奮して電話してきたことがあったな、と思い出す。

 機会があれば紹介する、なんてことまで言ってくれたが結局会えずじまいだった。年下だけど、かっこいい女の子なんだ、と我がことのように自慢していたのが微笑ましかったのを覚えている。

 

「いや、いまはそんなことを考えてる場合じゃない」

 

 (かぶり)を振って雑念を追い出す。そもそも、そんな感傷に浸っている場合じゃない。それに――。

 

()()()()()()荒木秀吉は死んだ。これは、間違いない」

 

 ……覚えている、というより思い出した。俺は確かに殺されたんだ、化け物に。それが怪人なのか、はたまた別の存在なのかは分からない。

 一つ正しいのは、確かに俺は万純ちゃんを庇って殺された筈なのだ。その後、どうなったのかは分からない。

 もしかしたら、万純ちゃんも殺されたのかもしれない。ヒロインの助けが間に合ったのかもしれない。

 

「万純ちゃん、生きていると良いんだが……」

 

 これも、人間としての荒木秀吉の残滓。残された感情なのだろう。それでも、そう願わずにはいられなかった。

 

「だが、それで敵対するというのであれば……」

 

 敵として討たねばならない。それがダンジョンマスターという新たな荒木秀吉の選択。もっとも、本当にそうなのか、いまは分からないのだが。

 

「それに、本当に万純ちゃんなのだったら、ある意味問題があるのがなぁ……」

 

 それは彼女が()()()()()()()だということ。そして、意外に行動力があるということ。と、いうのもあの娘。何気に身体能力が高いのだ。

 それゆえ、ある程度のヒロインが行った動きの再現ができてしまう。しかも、それだけじゃない。

 

「かつて最強とまで評されたヒロイン。嘘か本当か、特殊な力など持たず身体能力だけで、その座へたどり着いたってんだからなぁ……」

 

 さすがに眉唾だと思いたい。が、火のない所に煙は立たぬのも事実。誇張されていたとしても、ある程度事実に則している可能性は十分あった。

 

「そして、これは身内贔屓なのだろうが、あの娘だってそれを成し遂げてしまいそうな雰囲気、というものはあった。流石に最強、とまではいかないだろうけど」

 

 実際、リーゼロッテと切り結んで怪我一つ負ってないのだ。可能性として十分あり得る。リーゼロッテ、それにアリアはあちらの世界でもヒロインとして通用する力を持っているのだから。

 つまり、逆説的に彼女と敵対して生き残っている時点で、そこらの弱小怪人や戦闘員程度なら屠れる実力があるという証明。どう考えても油断して良い相手じゃない。

 

「頭が痛くなるな。救いがあるとするなら、彼女が狙ったのがルードだった。それと、リーゼロッテと少し切り結んで即座に撤退、という判断を下したこと」

 

 おそらく、強襲してきた少女はモンスター相手ならともかく、人間を殺す覚悟などできていない。まぁ、純粋に彼我の戦力差を冷静に分析して、即座に逃げの手を打った。という可能性も捨てきれないのだが。

 

「ま、そんな心配をここでしても仕方ないのだけど」

 

 とりあえず、リーゼロッテたちはそのまま進軍することを選択したようだし、こちらのとれる手は少ない。ましてや、援軍など――。

 

「いや、一応方法はあるんだよな、方法は……」

 

 このダンジョンにも特記戦力と呼べる者たちは存在する。ダンジョンコアとしての化身(アバター)を得たナオ。しかし、こちらは論外だろう。誰が好き好んで弱点を外へ出そうと言うのか。これがダンジョン存亡の危機だとすれば選択肢に入るだろうが。少なくともいま打つべき手ではない。

 そして、もう一つの選択肢。ついこの間召喚した吸血姫。日の下で行動できる高位の吸血鬼にして、かつてダンジョンマスターでもあったジャネット・デイ・シュルツ。いまのダンジョンではまさしく鬼札とも言える存在。彼女に援軍へ出てもらう、という選択肢。

 一応の懸念事項で言えば、彼女の戦闘力が未知数だということ。本人曰く、かつてアルデン公国を建国した女傑。アンネローゼ・フォン・ハミルトン公爵令嬢としのぎを削ったとの談。そしてさらに彼女曰く、リーゼロッテ・アルデンはアンネローゼと伍する実力者だという。

 どこまで信じて良いか分からないが、判断の一助にはなるだろう。さて、どうするべきか……。

 

 俺はジャネットを援軍に派遣するか否か、頭を悩ませるのだった。

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