鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで── (旧題名 ダンジョンマスターもの)   作:想いの力のその先へ

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利用価値

 ダンジョンコアの部屋で仕事をしていた俺のもとへ報告が入った。どうやら、ルード麾下のライダー隊のひとりが早馬としてこちらへ来たらしい。

 その報告によると、ルードたちは無事に撤退成功。どうやらジャネットは間に合ったようだ。一安心、と言ったところか。

 

「しかし、こうなるとリーゼロッテたちがアルデンへ侵攻したのは悪手だったか」

 

 なにしろ、公国の正統後継者の生き残り。それが首都を奪還するために来た筈なのに、一当てもせず退却したのだ。あちら側はこれ幸いとばかりに、戦果として喧伝するだろう。

 しかし、撤退しなければ最悪全滅している可能性もあった。つくづく、あちらの計略を読むことが出来なかったのが悔やまれる。

 しかし、報告には気になる部分もあった。

 

「撤退開始直後、勇者襲撃せり、か」

 

 おそらく、王国の公国奇襲。それの一番の立役者が現れたわけだ。だが、ジャネットもまた歴戦の戦士。そうそう遅れを取るとも思えないが……。

 それより問題は――。

 

「下手にアルデンへ攻め込めなくなった、ということだよな」

 

 いや、一応攻め込むという行動は可能だ。が、もしそれで敗走。しかもこちらが潰滅、などという結果になれば民心がリーゼロッテから離れる可能性は十分ある。

 そうなってしまえば、最悪こちらの大義名分すら失うことになる。その結果など、考えたくもない。

 

「いま、ダンジョン単独で独自路線などというのは夢物語。最低でもどこかしらの後ろ楯が必要、なんだよなぁ」

 

 現状では、それが公国。つまり、公国とダンジョンは一蓮托生であり、公国を盛り立てていくしか道はない。いや、待てよ……。

 

「ジャネットは諸部族連合の地域でダンジョンマスターをしていた、と言ってたな……」

 

 ダンジョン自体は壊滅したようだが、配下の生き残りはいるような口ぶりだった。そこをうまく利用出来ないだろうか?

 それに、帝国に力を借りるのは良いが、あまり頼りすぎると、後々足下を見られる。というのは十分考えられる。それを防ぐためにも、複数のルートを持つのは重要かもしれない。

 

「それにその考えに従うならば……。俺が()()()になる、というのも選択肢のひとつか」

 

 この場合、悪い男というのは独裁者や虐殺者などという意味じゃなくて、女性を誑かすという意味で、だ。

 これだけじゃ意味が分からないだろうが――。

 

「いくら変質したとは言え、俺だってもとは人間。木の股から生まれた訳じゃない」

 

 そう、誑かす対象はアレク皇女。アレクサンドラ・ルシオン皇女殿下だ。彼女が俺のことをひとりの女性として恋慕を抱いていることくらい理解している。それを利用する。

 

「ふん……。最低の男だな」

 

 知らず、自嘲が漏れる。が、それがどうした。俺は荒木秀吉()という前にダンジョンマスター()なのだ。為すべきを為さないのは怠慢でしかない。

 我思う故に我あり、という言葉がある。俺の場合、この我とは荒木秀吉という男の残滓ではなく、ダンジョンマスターという首魁にして装置。ならば、為すべきことはひとつ。

 

 ――ダンジョンの、そして配下たちの繁栄。ただそれだけ。そのためならば泥水すら啜る覚悟を持たなくてはならない。

 

 過去に王とは国家の奴隷、と語ったが、それは俺にも当てはまる。当然だ、俺はダンジョンマスター。言い換えればダンジョンの王だ。当たり前の話だろう。

 そして、打てる手があり、それがこちらに利をもたらすのなら、検討し打つのが当然の話。そこに情も欲も関係ない。

 

「さてと、ならば……」

 

 まずは考えなくてはなるまい。何がこちらの利になるか、害になるのかを。

 

「まず、前提条件として望むのは、ダンジョンが滅ばないこと。まぁ、これは当たり前だな」

 

 滅んでしまえば繁栄もなにもあったもんじゃない。これは本当に、本当に最低限の条件だ。

 

「その上でこちらの生存、は当然として。ダンジョンの成長、いまは嫌な言い方をすれば属国の立ち位置に甘んじるしかないが、それを脱却。自立すること」

 

 いまのルディアだってリーゼロッテの、公国の承認があってダンジョンに属している。それがなくなれば、最悪攻められるのは必然だ。とくに帝国からすれば安全保障上の問題から放置など出来る訳がない。

 

「そのことを考えた場合、アレク皇女の存在はこちらにとって福音と言える」

 

 なにせ対外的にはリーゼロッテの婚約者にして、ルディアの実質的支配()に恋慕を抱く女性だ。悪い言い方になるが、これほど使いでの良い駒はない。

 表向きはリーゼロッテとアレク皇女の共同統治。実際のところは……、というやつだ。

 

「それに出来るかどうか分からないが――」

 

 俺とアレク皇女が行為に至って、もし子を成せたなら、それは帝国への楔となる。……まぁ、心情的にはどうかと思うが、使えるものは使わなくては。……うん、最低だな。ふたたび死ぬことがあれば、今度は間違いなく地獄行きだろう。ま、そんなものは今さらだ。

 それに、子ができなかったとしても、アレク皇女と繋がるという時点で、こちらからすればメリットがある。

 なにしろ、アレク(帝国)リーゼロッテ(公国)という繋がりから、個人の繋がりに変えることが出来る。すなわち、公国の傀儡化という事態を防げる可能性が高まるのだ。これを使わない手はない。

 

「こちらは正直思いつきに近かったが、意外と都合が良さそうだ。後で本格的に考えてみるか……」

 

 うんうん、と頷きひとり納得する。それよりも、いまは本命。こちらの北方にある諸部族連合、こちらについて考えるとしようか。

 俺は今後の予定を組み立てながら、本来の思考へ傾けていくのだった。

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