鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで── (旧題名 ダンジョンマスターもの)   作:想いの力のその先へ

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血筋

 さて、本命の諸部族連合についてだが……。

 

「直接ジャネットを乗り込ませて、従えと言うのは流石にナンセンス、だよな」

 

 はい、そうですか。と、唯々諾々するわけがない。そうでなくとも頭がおかしいと思われるのは確実だ。最低でも手順を踏む必要がある。

 そうなると交渉役を派遣する必要がある訳だが……。

 

「まぁ、誰を派遣するかなんて、決まってるよなぁ」

 

 諸部族連合の外交官であるエルフのリィナさんと顔見知りかつ、本人も外交経験あり、ということを加味したらルードの第二夫人、セラしかいない。ただ……。

 

「……なんとも面倒くさいことになってるよなぁ」

 

 頭を抱え、ため息が出る。ルード経由でリーゼロッテから話があった訳だが、セラの家系は元貴族。しかもアルデン公国、より正確に言えばその前身。ハミルトン公爵家と関わりがあったという。

 通りで教育が行き届いてるし、礼儀作法もしっかりしてる訳だよ。それも宗教系統の家系だと言うんだから僧侶として動いてたのも当然だ。

 ……正直、外交関係で信頼される実績、名声があるという点は良い。良いんだか、問題はそれが発覚したことで彼女が()()()()の可能性が出てきたことだ。

 

「流石にダブルスパイ、なんてことじゃないとは思いたいが……」

 

 確実に違う、と断言できない。それがもどかしい、と言ったところか。むろん、ルードとの仲睦まじい様子を見ると大丈夫と思えるのだが……。

 問題があるかもしれない以上、あらゆる可能性を考え、対策するのが俺の仕事だ。とはいえ――。

 

「現状、判断材料に乏しいし、取れる手段がない以上彼女を使うしかない」

 

 それに話を聞く限り、少なくとも王国の首輪つきではなさそうなのは確かだ。ならば当面は大丈夫だろう。あとは――。

 

「ジャネットがダンジョンマスターだった頃の生き残りがいれば、おそらくトントン拍子で話が進むが……」

 

 高望みかもしれないが、そうあってほしいものだ。そしてゆくゆくは諸部族連合、帝国、公国による王国包囲網の形成。まぁ、包囲網と言っても囲える訳じゃないし、矢面に立つのは公国=ダンジョンの兵力となる。

 実質、諸部族連合と帝国の後ろ楯を得るというのが正解か。

 

「主さまぁ」

 

 考え事をしていた俺の耳に甘ったるい声が響く。かしゅ、と空気が抜ける音とともに扉が開く。そこには早くもこちらへ戻ってきたジャネットの姿。

 

「……大丈夫か、ジャネット?」

 

 勇者と交戦したという話だったが、予想よりぼろぼろになっていた。とくに酷いのが右腕だ。袖部分が半ばから失くなっていて、一部は乾いた血で赤黒く染まっていた。

 しかし、顔は余裕そうでにやり、と不適に笑っている。

 

「えぇ、えぇ、大丈夫ですとも。存外、あたくしも楽しめましたわ」

 

 どうやら本心から言っているようで、喜色が浮かんでいた。そのままジャネットの口から心底楽しそうに弾んだ声が響く。

 

「なかなか面白い女の子でしたわよ。件の勇者さまは」

「そうか」

 

 確か、俺に似ていると話題の少女だったな。

 

「油断しているつもりはありませんでしたし、最初は素人丸出しの戦い方でしたのよ? でも、刃を交える度に鋭くなって、最後には手傷まで負わされました」

 

 そういう割には愛おしそうに渇いた血の部分を擦る。そこに手傷を負わされた、ということだろう。

 

「きっとあの娘、もっと強くなりますわよ。それだけの素質があるように見受けられました――」

 

 うっとり、と。まるで恋する乙女の表情で吐露する。しかし、次なる言葉で俺は目を見開くこととなった。

 

「――あの、荒木万純という人間は」

「…………っ!」

 

 驚きに息が詰まる。ジャネットがにやり、と笑った。

 ……こいつ、分かって言いやがったな。

 この世界で荒木という名字。というより家名は珍しい、を通り越して皆無だろう。そんな名を勇者が名乗った。俺の関係者である可能性が高い、と考えた筈だ。

 あぁ、まったくもってその通りだ。間違いなく関係者だよ。だが、万が一の可能性もある。念のため、確認を取る。

 

「その少女、肩口くらいまでかかる黒髪で、ちょっと小柄な娘か?」

「やっぱり、知り合いですの?」

 

 それは実質的な肯定だった。はぁ……。深々とため息が出てしまった。

 もしかして、とは思っていた。しかし、本当にそうだったとは……。

 

「あの娘、万純ちゃんは人間だった俺の姪にあたる娘だ」

「姪、とはまた。結構近い血筋だったんですのね」

「あぁ、そうだな……」

 

 血筋、か……。そんなこと気にしたこともなかったが、そうだな。この世界の常識で考えると、結構重視する要素か。その辺から、こちらへ取り込むことが出来れば万々歳だが……。

 なにせ、ダンジョンマスターの親族だ。……自分で言っておいてなんだが、ダンジョンマスターの親族ってなんだよ。余人に聞かれたら頭がおかしいと思われかねないな。

 

 そのことは後で考えるとして……。

 

「ジャネット、お前に頼みたいことがある」

「……? なんですの?」

 

 頭の上に疑問符を浮かべているジャネット。これからのことを考えると、色々と憂鬱になりそうだ。まぁ、一つずつ片付けないと。一つずつ、な。

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