鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで── (旧題名 ダンジョンマスターもの)   作:想いの力のその先へ

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教会にて

 歩いてルディアの町まで移動するのも良いけど、主さまの指示もあることだし、転移で入り口まで行くことに。

 ぐにゃり、と視界が歪む。転移特有の感覚。昔は慣れなかったですが、流石にこの感覚にも慣れました。

 

 ……そう言えばあたくしのこと、町の人間は知ってるんでしょうか? いままで主さまの側で手伝いしているばかりでしたし……。流石に不審者として拘束されるのは勘弁なんですけど。まぁ、本当にそうなったら逃げますが。只人ごときに捕まるほど耄碌してませんし。

 

 もっとも、その警戒は杞憂だったようで入り口の門番。内の住人たちにもとくになにか言われることはありませんでした。ただ単に警戒が薄い、というのであれば問題ではありますね。そちらだった場合、主さまへ報告を上げておきましょう。

 

「おや、あなた様は……」

 

 つらつらと考え事をしていたあたくしへ話しかけてくる者。何者だろうか、と目を向けてみるとそこにはぽつぽつと白髪が見えるご老人。確か、あの人は……。

 

「ルディア元々の村長さん、だったかしら?」

「えぇ、そうです。良くご存じで」

 

 どうやら間違ってなかったよう。以前、主さまに関係者の写真、でしたか。それを見せてもらった甲斐がありましたね。恥をかかずに済みました。

 

「そういうあなた様は、確か……。ジャネット様、でよろしかったでしょうか?」

 

 まさか、村長さんに名前で呼ばれると思っていなかったあたくしは、少々驚いてしまいました。

 

「そちらこそ、良くご存じで……。あたくし、ここへ顔を出すの初めての筈ですが……」

「いえ、こちらは以前に、ダンジョンマスターさまから、近々あなた様がお見えになるので案内してほしい、と言われておりまして……」

 

 なるほど、流石に主さまも先々を考えて既に手を打っておられたご様子。なら、心配するまでもありませんでしたね。

 それではご厚意に甘えるとしましょう。

 

「では、村長さん。聖神教の教会まで案内していただけます? ルードさんの側室、セラさんに用事がありまして」

「彼女に、ですか……」

 

 セラ、セラ・セント・クレアの名前を出した途端、顔をしかめた村長さん。なにか問題でもあったのでしょうか?

 

「……ちなみに、どのようなご用事で?」

「……? 主さま、ダンジョンマスターから外交のため、ともに諸部族連合へ使者として赴くよう命令がありまして。……なにか問題が?」

「いえ、その……。実は――」

 

 やはり、何らかの問題があったようで。まぁ、どちらにせよ、一度会わないことには話になりません。村長さんに悟られぬようため息をつきながら、再び案内をお願いするのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 移動自体は問題なく終わり、いまは教会の前。いったいどんな問題が起きてるのか。あたくしは痛くなりはじめた頭を振って、中へと入ります。

 

「……ギ、ヨウ、コソ……? はじめ、マシテノ、ひと?」

「…………へ?」

 

 扉を開けると、そこにはモンスター。緑色の肌を持つ小人、ゴブリンの姿が。……ここ、教会よね?

 一瞬、意識が飛んだあたくしは悪くない筈。いくらなんでも予想外すぎる光景だった。

 ……いや、まぁ。町中をゴブリンたちが闊歩してたんだから、ここにいてもおかしくないんでしょうけど。……って、そうじゃない、そうじゃない。

 

 あたくしはゴブリンに視線を合わせるようしゃがみ込むと話しかけた。

 

「ここに僧侶のセラさんがいる筈なのだけど。ご在宅かしら?」

「ンッ、イル。……カァサマ、オきゃくさま」

 

 ゴブリンが振り返って、中へ声をかける。……それは、良いのだけど。このゴブリン、なんて?

 お客さまはあたくしのことでしょうけど、かあさま?

 あたくしの困惑をよそに、やり取りは続いている。

 

「ロイ、いま少し手が離せないから、ちょっとだけ待ってもらえる?」

「うンッ、わカッタ」

 

 そのやり取りのあと、頭を下げるロイ、と呼ばれたゴブリン。わぁ、礼儀正しい――じゃなくて。半ば現実逃避してましたわ。

 

「えっと……」

「カァサマ、いま、てはなセナイ。すこシマッテ」

「そ、それは良いのだけど……」

 

 良い、悪い以前にちょっと待ってほしい。むしろ、こちらがそんな気持ちです。本当に訳が分からない。

 半ば(すが)るように村長さんを見る。せめて、せめてこの状況を説明してほしい。そんな気持ちを込めて。しかし、悲しいかな。竹馬(ちくば)の友でもない村長さんに通じる訳もなく――。

 

「ロイくん、こんにちは。セラさまは元気かね?」

「うン、げんき。いま、ファラおばサンみテル」

 

 ファラ、おばさん? ファラ、というのはルードさんの正室の、かしら? 体調不良などの報告は来てなかったと思ったけど。

 ……それと、村長さんがあのゴブリンに聞いた、ということはそういうことなんでしょうね。

 聖職者がモンスターに孕ませれた上に産んで、なおかつ愛情をもって育てている、なんてどんな冗談なのだか。しかも、育てる場所が教会って……。主神に中指突き立てる勢いで喧嘩売ってません? まぁ、こちらからすればどうでも良いことですが。

 それよりも――。

 

「ファラ、というとルードさんの奥さんでしたね? 何かあったのです?」

「……実は、いえ。見てもらった方が早いかもしれません」

 

 村長さんがそう言うと、先ほどの声。おそらくセラさんがいる場所へと案内されました。そこには――。

 

「あ、ぅ……。お、客さま……です、か?」

「ファラさん、ゆっくり……」

 

 青白く、衰弱した様子の女性が横になっていました。

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