超次元ゲイム ネプテューヌ - 終界の新生(ヴィダークンフト) - 作:倉公
パープルハートは飛翔する。
駆ける大空のただ中、雲の下にある遥かなる足元……地上の都市を目指して。
数日ぶりに拝むその景観を瞳に映しながら、思うのは自分と、愛する児らの事であった。
ようやくここまで戻ってこれた。
昨日の戦いにおいて傷ついた身体で、ここまで飛んで来たのだ。
万全とは言い難いが、問題とも呼べぬほどの些事だ。取るに足らない。
自分は、一人では無いから。
故郷たる世界に残してきた、愛児たち。
一人一人が祈り、願ってくれているのだから。
それは単なる気休めでは無く。
都合の良い妄信などでは無く。
これより戦いに臨む自分に、確かなる力を与えてくれるものであるが為に。
「みなさんの力を貸してください」
遥かなる次元の彼方で、自分に信仰を捧げてくれる最愛の子ら。
今も全ての人間達が一丸となり、唯一神へと信仰を捧げてくれていた。
ただの人の身に過ぎぬ彼ら彼女らは、女神たる自分と共に戦うことは叶わぬから。
だから、せめて祈る、願う。
最も尊きと崇める、女神パープルハートの勝利を。
だから、自分は一人などではないとパープルハートは熟知している。
信仰の力、シェアエナジー。
最愛の国民らが、今も次元の壁を超越し、それを捧げてくれていると知っているから。
「頑張りましょう。大丈夫です」
ゆえに、これは孤闘ではなく共闘。
自分はただ一人で背負っている、国と世界。
そこに住まう者たちが、自分を待ってくれているのだから。
「みんなもゲイムギョウ界も、私が守ってみせます」
深遠たる声で、静かに告げた。
それはまさに、不安に暮れる幼子をあやす母親のような底知れぬ慈愛を以って。
案じることは無い、私は負けないのだから、と。
早く、全てを終わらせて帰りますから……と。
温かく、その胸に燃える篝火へと、誓うのだった。
パープルハートは飛翔する。
あたかも、地表から天の彼方を目指す流星のように。
迷いなど無く、大気と雲とを裁断しながら直線に飛び続ける。
そのみちゆきが進むにつれ、昂ぶり練磨されてゆく己の闘気――それとは裏腹に、自身を満たすシェアエナジーが温もりを帯びてゆくのを感じていた。
お願い勝って、ここで待ってるから絶対帰ってきて、あなたが負ける筈が無いのだから、と。
声無き声達が告げる、幾千の信頼……数多の祈り。
飛翔を続ける自分の背後の、地上の都市。そこに住まう、国民達の願いが聞こえてきたのだ。
同じく、コンパにアイエフ、ノワール、ベール、ブラン、イストワールに、そしてマジェコンヌの想いもまた。
そしてそれだけではない。
今ネプテューヌの内に響き渡るのは、加えて六つの祈りの声。
女神はそれが何かを瞬時に悟った。
かつて旅の仲間として共に戦ってくれた、六人の戦友達。
ここではない場所、世界の何処かから、彼女らが同じく祈ってくれているのだ。
ありがとう、みんな。と、ネプテューヌが胸裏で述べる謝辞は極めて簡潔。
それで十分であった。
過たず、仲間達と人々の信仰は徒にしないと誓える為に。
そして、自分を今この場に立たせてくれる、全ての者達にいらえる。
「ええ、分かっているわ。負けはしない――!」
全身を満たす人々の想いの力、それが、あまりにも暖かく、優しさに溢れたものだったから。
この時、この瞬間。
至大の純度まで高められた戦意は、彼方に現れた敵影を捉えても、衰える事は無かった。
秒針が進み刻まれるたび、両者は距離を零に近付けてゆく。
それはネプテューヌも、パープルハートも等しく同じであり。
二つながらに清絶なる二神の姿は、合わせ鏡のように互いの姿を目指し……共に、示し合わせたかのように、一定の距離で停止した。
対峙する両名、共に黒紫のプロセッサユニットを纏う女神。
「一日ぶりね、『パープルハート』」
先んじて口を開いたのは、ネプテューヌである。
それを受け、立ち塞がる少女はこくりと頷いた。
「はい。けれど、会えて嬉しい、とは言いません」
「……同感ね」
互いの両者は、やはり合わせ鏡のように同一のものであった。
これ以上の問答を重ね、それを確認するまでも無い。
なぜなら。
「ここであなたは」
「ここで貴方は」
両女神が唇にて言葉を紡ぐのは、全くの同時。
「わたしが倒すのだから」
「私が倒すのだから」
その宣誓に籠めた、対敵必滅の度合いもまた、寸毫の多寡も無い。
だからこそ次の瞬間、武器を構えるのもやはり同時であった。
「そろそろ、終わりにしましょう。ここであなたを倒し、あの三人の女神達も倒して、私は早く元の世界へ――」
「帰りたいの?」
「ええ。私の次元で、私の帰りを待ってくれている人々が――国民たちがいますから」
「そう、世界中の人々から慕われているのね。けれど。そんなに戻りたいのなら、これからわたしがすぐに送り返してあげる。あなたが、たった一人で支配している世界にね。それとも……」
言うや、取り出した武器を正眼に構え、空を蹴り前進――跳躍し、一気に距離を詰めた。
「この世界で朽ち果てるのがお望みかしら?」
わたしを前に立ち、戦いを挑むというのはそういう事――言外で告げながら、ネプテューヌは剛刀による一撃を見舞った。
この蒼穹の大気ごと斬滅せんと疾走した刃は、しかし中途にて食い止められる。
煌めく金属音が鳴り、火花が散り飛沫を上げる。
麗瞳を眇め、自分の刃と鎬を削る敵の武器――白い銃剣<ガンブレード>を見据える。
こちらの攻撃が防がれ通らぬこの状況、数日前にプラネテューヌの都市内で対峙した時と同じである。
今の所は鍔迫り合いという形で拮抗できている。
が、いずれにせよこちらが劣っている事実に相違はあるまい。
数日前の交戦時に身を以って教えられた事だ、疑うべくもない。
まともにやり合っていては、いずれは劣勢を強いられるだろう。
「そうはならないと、何度も言った筈です。私は負けられないんです、私を信じている人達のためにも」
「そう。けどわたしだって、プラネテューヌの運命を背負ってる。負けられない……!」
信念と信念。
激突する両者の、想いの丈を乗せた鍔迫り合いは、敵女神が制する事となる。
それは心身の優越による結果なのか、或いは守護女神としての気概の多寡が成した結果なのか。
いずれかは分からないが、敵を追撃する権利を得たパープルハートはそれをすかさず行使する。
打ち下ろしていた刃を切り払われ、無防備となったネプテューヌを襲ったのは、無数の銃弾であった。
「くっ……!」
飛来した銃弾――パープルハートが携える銃剣の切先から発射されたものである。
ほぼ零距離にて放たれたそれを回避する事は不可能、ならばと即座に防御を試みたものの、確実な損傷としてネプテューヌに刻まれた。
しかし続けてパープルハートが見舞うのは、追撃では無くひとひらの問いであった。
「この世界の四女神――あなた達も、かつては互いを滅ぼそうと戦争していたのでしょう? それは結局、最後に残った一人しか存在できないという何よりの証左なのではないですか?」
有無を言わさぬ圧を纏った物言いに――しかしネプテューヌは怯みはしない。
体勢を立て直し、再び剛刀を握り締め、パープルハートとの距離を詰めながら全霊で否定する。
「それは違うわ。分からないのでしょうね……世界でただ一つの国を、ただ一人で治めているという、あなたには」
異次元から襲来してきた少女、『パープルハート』。
かの女神は、常にネプテューヌらを理解できぬと断じてきた。
それと全く同様に、ネプテューヌもまた異次元の女神の存在がまるで理解不能である。
「数百年争っていた女神同士が手を取り合って、世界を滅ぼそうとしていた者さえ救われて……ここは、そんなトゥルーエンドを迎えた世界なの」
だからこそ。
この世界の女神が一柱――ネプテューヌは、己が全力を賭けて対敵の存在を拒絶するのだ。
「あなたのようなバッドエンド、欠片だって入る隙間も無いわ」
「手に手を取り合った、仲間? なぜそんなものが信じられるんですか。結局の所は、他者でしょう」
ネプテューヌを迎え撃つ姿勢を取りつつ、パープルハートは論じた。
「肩を並べて戦う仲間達が握る刃……それが或いは自分に向けられる時が来るかもしれないと、なぜ思わないんですか」
「そんなこと、考えた事もない……いいえ、確かに争っていた頃のわたし達ならば、別なのかもしれないけれど」
例えば。
守護戦争の只中にあった当時の自分達が、自分以外の女神と結託・同盟を結ぶ機会があったとして。
共闘という体裁をとりながらも、その二者、あるいは三者を括る語は、『仲間』や『同士』では無かっただろう。
あくまでも、守護女神戦争を制する上での利害が一致した為に結ばれた、仮初の盟約に過ぎないのだから。
協力して他女神と戦いながらも、その同盟が反故となるのはいつなのかと疑心暗鬼にかられていただろう。
だが、今は違う。
自国のみならず、世界をも守護せんと共に手を取った、かつての戦い。
結ばれた絆は極めて強固であり、それは死すらも別てまい。
そしてそれは、今なお無間の熱量を帯びてネプテューヌの全身に満ち、激しく燃え輝く、シェアエナジーが証明してくれている。
自分達が築き育んだ、確たる信頼と信愛を。
それは不可視なる幻想ではないのだと。
美辞麗句に飾られた、都合の良い妄想ではないのだと。
自分は仲間達と国民を信じ、彼女ら、彼らもまた同一のものをネプテューヌに返してくれる。
それを信じる想い。
かけがえなきと尊ぶ思い。
世界を滅ぼさんとする邪神を相手取るこの戦いに於いて、ネプテューヌが恃むよすがであったから。
ネプテューヌは、あらん限りの力で吼えた。
「この気持ちが、悪いものである筈が無い!」
そして。
ついに、飛翔を続けていたネプテューヌは銃弾の驟雨を突破する事に成功する。
敵女神が銃として構える武器が次弾装填に要する、糸屑ほどの間隙を見出したのだ。
「もらった! クロスコンビネーション!」
無防備と化した敵女神の懐へ躍り出て、発動した技はクロスコンビネーション。
斜め十字に走る剣筋は、確かに敵の身体を這った。
斬撃が完全に入った、確かな手応えをネプテューヌは感じた。
それが幻視ではなく、見紛う事なき戦功である事は、次の瞬間にパープルハートが苦悶の表情を浮かべた事が証明している。
加えて。
敵が纏っている鎧――プロセッサユニットの端々に損傷が見受けられた。
昨日のノワール達との戦闘により負った傷に加えて、此度は体調がほぼ万全なネプテューヌの一撃を受けたのだ。
そも、無事である筈が無い。
連撃を期し、二太刀を見舞わんと剣を振り下ろすネプテューヌ。
が、猛攻はそこまでとなる。
図に乗るなとばかり、パープルハートの銃剣は唸り、はたき落とす様にネプテューヌに振り下ろされた。
「くっ……!」
パープルハートの空色の瞳は見つめている。
呻き声を上げるネプテューヌを、冷然と。
まるで自分こそが、この蒼穹の大帝なのだとばかりに。
「終わる訳にはいかないんです、私を信じてくれている人々の為にも」
紡がれる言葉には、寸毫も邪なものは無い。
あるのはただ、進むべき道行を一途に往く求道者のような純然さと。
清らなる、祈りであった。
「みなさん、お願いです……私に力を貸してください……!」
言うや、少女の懇願に応えるかの様に――事実として応えたのだろう――彼女の身体は光を帯びる。
その神聖な輝きは玉響に終わったが。
要する時間はほんの刹那だった、という事に他ならない。
「……まるでチートね」
体勢を整えながら、半ば呆れ気味にネプテューヌは呟いた。
その言葉の表現は決して大仰では無く、言い得て妙であった。
パープルハートに刻まれていた、無数の損傷――それが、輝きに包まれている間に消え失せている。
一片の欠片すらなく。神聖なる宝玉に瑕疵があるなど許されぬ、とばかりに。
敵女神が用いた今の力は、恐らくはシェアの力。
別次元のゲイムギョウ界からのシェアエナジーを得て、瞬間に総身を回復させたのだろう。
そしてそんな、大いなる力の発現を目の当たりにしたネプテューヌは幻視する。
大敵として立ちはだかる眼前の少女が背負う世界の、住人達。
彼ら無数の民らが、無垢なる祈りを捧げるそのさまを。
敬慕し崇める唯一神の、絶対の勝利を求める姿を。
そして同時に悟った。
異世界。
少女が治めているというそれは、こちらとは異なり国は一つだという。
幽世と化したその唯一国の名はプラネテューヌだとも。
ならば、今しがた自分が幻視した、そこに住まう民らは涅槃の軍勢である。
首魁たる唯一女神・パープルハートへと無窮の信奉を捧げ授ける信徒達。
溢れ出す願いの奔流は、正しく無限。
その加護と恩恵を受け続ける少女を滅ぼす術は恐らくあるまい。
世界中の信仰を一身に受ける彼女を倒す事は不可能……昨日のイストワールの言葉通り、超克などできよう筈も無い。
そも、対敵と自分、他の女神らには絶対的な力量の差があるのだ。
大きくあけられた水。
隔絶たる壁。
如何ほど手を伸ばそうと、決して届きはしない。
あるいは、自分もまたこの世界の全てのシェアエナジーを一身に受けられれば、眼前の女神と同等かそれ以上の力を得られるのだろうが。
だが、それは叶わない事である。
何より他の女神達も認めぬであろうし、ネプテューヌ自身もそんな独裁世界に君臨する事など望みはしない。
ゆえにそれを体現した、大敵を前にしてネプテューヌは。
「ふっ……」
ただ笑うのだ、嗤うのだ。
ゲイムギョウ界中の、全てのシェアエナジーを束ねた存在?
自分達では葬る事は不可能な存在?
自分は今、この世界の理を超越した存在を相手取り刃を向けている?
ああ認めよう。
確かに自分達も、一度はそれに敗れた。
だが、だからどうしたというのか。
こちらが恃む力の源泉は、友情と、愛。
結び付いた魂の絆で戦っている。
所詮敵は、その世界でただ一人の女神だ。
自分以外の女神の存在など認められぬ、信じられぬという……救い難い、取るに足らぬ愚物だ。
四者共に互いの存在を認め、讃え、信じあう自分と、自分達とは違う異形神。
言うなれば。
これもまた、守護女神<ハード>戦争。
同次元内に於いて行われていたかつてのそれとは異なり、正しく次元と次元を賭けた壮絶なる戦いなのだ。
女神と、女神による。
「仲間達(みんな)の魂に賭けて、私は負けない」
故に、勝つ。
これより往き、この戦場を征するはパープルハート……ネプテューヌ。
ただひとりで世界を統べているという哀れな支配者に、敗れようものか!
「仲間……」
パープルハートは、今しがた敵が言い放った言葉を、思わず反芻していた。
ああ、まただ。またこの、奇妙な心地に至ってしまった……激闘の最中、そう思った。
なかま。
耳朶を打つその語は、胸裏を過(よぎ)らずに駐留し続けている。
自分もかつてはそんなものがあった気がして。
理解できぬと触れるだにしなかったそれは、その実、確かなる輝きを放っていた気がして。
思い出すことさえ叶わぬ昔……遥かなる忘却の彼方で。
まるで、自分の中にもう一人の自分がいる気がして。
その者が、何事かを訴え叫んでいるように思えて。
これ以上の思考を続ければ、ゲイムギョウ界の唯一女神たる自分が、自分でいくような気がしたから。
パープルハートは携えていた白い銃剣を握る代わりに。
暗澹たる夜色の邪剣をその手に取るのだった。
「私だって、プラネテューヌの女神なんです! この想いだけは…誰にも負けません!」
パープルハートの叫びとも悲鳴ともつかぬ想いの言葉。
耳にしながら、やはり出してきたわね、とネプテューヌは思った。
禍々しい邪光を放つ暗黒剣……数日前に自分を刺し殺さんとし、マジェコンヌを貫き、昨日ノワールにも向けられた凶刃。
あれに対し、ネプテューヌはひとつ考察するところがあった。
通常時、パープルハートが用いていたのは大型の白い銃剣。
その取り回しは敵ながら見事なものであり、正しく手足宛らに操っていた。
それに対し、今彼女が取り出した剣は常時握っていた訳では無い。
即ち。
あの黒い剣は、少女が得手とする本来の兵装では無いのではないか……という事。
だからとって、彼女の戦闘に於いての力とあの剣が油断を許してよい訳でもまた無いのだが。
数日前、あれに貫かれんとしたネプテューヌは悟っていた。
あの邪剣は、決して触れてはならぬものだと。
自分たち守護女神に止めを刺さんとする最後の終焉に用いているのだ。
どのような意図があるのかは判然とはしないが、その殺傷力が絶大にして絶対なものである事に変わりはあるまい。
『あれに気をつけろ』という、マジェコンヌの警告もそれを裏打ちしていた。
故に、これより求められるのは完全なる勝利。
ただの一撃とて、あの邪剣の猛威を許す訳にはいかない。
「そろそろ、勝たせてもらうわ。主人公らしく、ね。はあッ――!」
ネプテューヌが構え直した剣は一切の迷い無く空を走り、振り下ろされた。
繰り出した一撃は、パープルハートと交戦した中で過去最高の速度を誇るものであった。
回避を許さず、防御を認めず、敵女神を強かに襲った。
「くっ……」
パープルハートが拡げる薄桃色の翼、プロセッサユニットのウィングパーツの端が欠け、砕け散ってゆく。
次の瞬間には再生をしていくが、訪れる次の刹那に更なる斬撃を見舞う。
二撃、三撃、四、五と織り成す剣閃の、その勢いは衰えない。
どころか、一太刀ごとに増してゆく。
ネプテューヌには解っていた。
今の自分に湧き上がる力の源が。
全てのプラネテューヌ国民ら、仲間らが捧げてくれる信仰の力。
それもあるが、自らと同じくシェアエナジーの加護を受ける存在。
即ち、ノワール、ブラン、ベール。
この世界の守護女神たる彼女らが、今もなお地上から捧げてくれるシェアの恩恵である。
無論それはネプテューヌもまた然り。
シェアの共鳴、共信とも呼べるこの相互関係が、今という状況においてネプテューヌにパープルハートと拮抗するだけの力を齎してくれている。
だがそれを以ってしてもなお、総力の差が完全に埋まる訳では無い。
パープルハートとまったく同じ存在にならなければ、その討滅は不可能であるがゆえに。
そして彼女は、強いられた劣勢に甘んじ続けはしない。。
「それはこちらの言葉です。最後に勝つというのなら、私こそが」
突如に鳴り渡る金属音。
激しさを増すネプテューヌの猛攻を、黒剣にて防いだのだ。
攻撃に転じた剣は、ネプテューヌの身体を狙い貫く勢いで空を走る。
だが、虚しく宙を切る。
寸でのところで回避し反撃を徒に変えたネプテューヌは、再び切り結ぶ。
「主人公だとでも? あなたが? 笑わせないで」
言葉通り、一笑に付す。
「わたしからすれば、所詮あなたは端役。いいところで、ボスキャラクターに過ぎないわ。主人公<わたし>に、倒されるさだめにあるのよ」
敵として己の前に現れた、あの時から。
その運命は決まっていたのだと、ネプテューヌは厳然と告げた。
「だからあなたの様な存在を、これ以上のさばらせはしない」
この世界の、守護女神として。
「帰りなさい。ここは、あなたが踏み込んでいい世界じゃない。このゲイムギョウ界のどこにも、あなたの居場所なんて無いのだから」
そしてネプテューヌはやにわに剣を振る手を止め、僅かに後退し距離を開けた。
必要だったのだ。
これよりこの戦いの終幕を飾る、至大の絶技を成す為に。
「さあ、みんな。わたし達の最後のターンを始めましょう」
紡がれる言葉。
この場にはいないが、信仰を捧げ諸共にこの戦場に立つ全ての者達への呼びかけ。
わたしに皆を誇らせて、と。
雲さえ足元に頂く天涯のなかにあり、なお果てまで伸びよと剣を掲げる。
そしてその姿を見つめながら。
パープルハートは、確信するものがあった。
眼の前に立つ女神……この世界のプラネテューヌを統べるパープルハートは、何度その勇気と気概を挫いても決して絶望しないと。
振り注ぐ絶望を払い、砕き、最後に栄光を掴む、御伽噺の主人公。
英雄譚より飛び出してきた英雄。
今、自分の目の前に立ち塞がっているのはそういう存在なのだ。
溢れる勇気は決して手折れず、倒れず。
そして何よりも強く思うのは、あれは恐らく己を倒し、自分もまた彼女を斃す事は出来ない、という予感であった。
そして。
「ネプテューンブレイク!!」
ネプテューヌは叫んだ。
これより発動し、過たず敵を討つ技の名を。
そして次の刹那、光もかくやという速度にて敵を斬り――一秒後にはそれを凌駕する斬閃が襲う。
まさに神速の疾さを以って振られるその一刀一刀が全て、必斬の威力を宿している。
そんな数多の斬撃が成すのは、絶対勝利を約す必殺剣舞である。
海の砂もかくやというそれを繰り返して咲く、紫電絶華の花。
今この瞬間もなお速度と威力を重ねる、斬神の神楽。
その舞が終極に至らんとする間際、最後の一太刀を刻み降ろしながら、女神は吼えた。
「終わりよ。これ以上、場違いでジャンル違いの存在が、わたしたちの世界<ものがたり>にしゃしゃりでてこないで!」
だからだろうか。
その凛々しく勇壮な姿に、いつからかパープルハートは、信仰を捧げていた。
必ずやこの女神は自分を倒すと、斃してくれるだろうと。
次の瞬間に呟く言葉は、その一抹の想いとは裏腹だったけれど。
「そん、なっ……ここでやられちゃ……駄目……なの、に………………」
あり得ぬ、あり得てはならぬと悲痛な声が響いた。
異次元より襲来した女神パープルハート。
それが凌駕される事が不条理であるならば、それを成した女神……ネプテューヌは世界の理を教えるのだった。
「知っているかしら。『主人公っていうのは無敵』なのよ」
無論、パープルハートは敗北した訳では無い。
別次元より無窮の力を無尽蔵に得られる為である。
いみじくも、イストワールが考察したように。
だからこそ、ネプテューヌは。
天座から失墜してように落ちてゆく少女の姿を追い、その身を抱くのであった。
そしてパープルハートは。
ああ、暖かい――と、そのかいなの中でおぼろげに考えるのだった。
まるで、自分の中の閉ざされていた鍵が扉が、少しづつ開け放たれていくような感覚を覚えながら。