超次元ゲイム ネプテューヌ - 終界の新生(ヴィダークンフト) -   作:倉公

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最終章 終界の新生
続いてゆく彼女らの物語


「……こっちはすっかり落ち着いたわ。もう元通りよ」

 

 通信画面の向こう側のベールとブランに、ノワールは報告した。

 ラステイション教会内の執務室に設えた椅子に、心落ち着けて腰を落とせる事に感謝しながら。

 それは頷きながら、リーンボックスとルウィーの近況を告げる彼女らも同じようであった。

 

「こちらもですわ」

「ルウィーもようやく静かになった」 

 

 ようやくゲームや小説の執筆に裂ける時間が云々と続ける二人の姿に、本当に平穏が戻ってきたのを実感する。

 

「あなた達も相変わらずね……」

 

 呆れ声で返しながらも、平和の再来を心より慶ぶ思いは同意できる。

 数週間に渡りゲイムギョウ界中を騒乱させたモンスターらの暴走。 

 その原因と思しき、別次元から襲来した女神との戦いを足せば、ひと月以上にもなるか。

 

 プラネテューヌ上空に自称『パープルハート』たるかの女神が出現したと同時に、

 モンスターらは薇(ぜんまい)の切れた機械のようにぴたりとその狂態を鎮めた。

 

 それ自体は喜ばしいことではあった、が。

 中には稀に強固な影響を受け続けた個体も存在していた。

 

 汚染モンスター同様に通常のモンスターを遥かに様がするそれらを、狩りさながらに相手取っていくのは非常に骨が折れた。

 そしてへし折れた女神らの骨を粉微塵にまで砕いたのは、一連の騒動により発生した諸々の問題である。

 

 襲来した女神との戦いによる傷が癒えきっていないうちから、帰国早々に忙殺された。

 執務室の机の上で、事案の発生した現地にて、その解決に当たらねばならなかったから。

 

「本当になんだったのかしらね、今回の出来事は」

 

 僅かに視線を逸らし、虚空を眺めながらノワールはこぼした。

 狂乱するモンスターも、この世界を訪れた別次元の女神とやらも。

 

 その発生と同じく、終わりもまた唐突であった。

 まるで初めから、何も起こらなかったように……とは、

 国体を司る女神として仕事量を無限増殖されたノワールには思えぬし、それは他の女神らも同じであろう。

 

「全てはうたかたの夢……とは参りませんわね」

「おかげで、応募したかった小説大賞をひとつ逃してしまったもの……この恨みは、せいぜい小説のネタにでもさせてもらう事で晴らさせてもらうとするわ」

 

 あの女神を思い出しただけで苛立たしいとばかりにブランはこぼすものの。

 忌々しいと思いは十二分に共感できるが、ノワールはブランの創作意欲に水を差しておくこととする。

 

「自分以外の女神を滅ぼして、記憶を無くして、別次元を襲う女神の話でも書きたいの? やめておきなさいよ、縁起でもない」

 

 あのパープルハートと名乗っていたの少女の正体は、

 そんな存在であったと……戦いを終え、帰還してきたネプテューヌは語っていた。

 そして全てを思い出した末に、自分の世界へ帰っていった、とも。

 

 一切の犠牲無く撃退に持ち込めたからよかったものの、

 あわや自分達もあの少女の刃の露と消えていたかもしれないと想像すれば、背筋が凍る。

 

「確かに、もう二度とあんな物騒な客人の訪問は遠慮したいですわね」

「同感。さすがに今回は疲れたもの」

 

 画面の向こうで溜息をつくベールに、ノワールは心の底より首肯する。

 剣を片手に他者の世界に土足で乗り込んでくる、忌むべき来訪者。

 再びあのような難客がやって来ればと、想像するだに頭が痛い。ついでに、胃も。

 

 そんなこちらの心中を察したブランは、微笑とともにかぶりを振った。

 

「心配はいらないでしょう。わたし達が、これからも手を取り合っていくのなら」

「そうですわね。今回は決着をネプテューヌに一任する形になってしまいましたが……」

 

 戦えばいいのだ、再び、今回のような事態に陥ったとしても。

 この世界を守護する女神同士で協力し、この世界を脅かす外敵と。

 今回のように、一年前のように。

 

 記憶を喪失したネプテューヌが、自分達の力となってくれ、絆を繋いでくれたのだから……と。

 友人たるネプテューヌに思いを馳せた所で、ノワールは溜息交じりに口を開いた。

 

「まあ、一番の心配というならあの子の事よね。今回も本当に無茶をして……」

 

 呆れ気味に呟く。

 全て本人の思惑通りにいったから結果的に良かったものの、

 もしも敵女神に返り討ちにあっていたらなどと考えなかったのだろうか、と。

 肝を煎る口調とは裏腹に、だがその無謀さ加減あの子らしいのだが……とも同時に思うのであった。

 

 

 

 そしてノワールらが通信をしていた同時刻。

 プラネテューヌ国内にて、盛大なくしゃみをする者があった。

 プラネテューヌの守護女神、ネプテューヌである。

 

「へっくしゅん!」

 

 クエストより帰還し、結果報告を上げる為にプラネテューヌの都市内を並んで歩いていた時のこと。

 突然に強力な呼気を飛ばすネプテューヌに、傍らのマジェコンヌは怪訝に問う。

 

「どうしたネプテューヌ。風邪でもひいたか?」

 

 いや待て、女神でも風邪をひくのか? ……まあ彼女らだって普通に傷も負うし、自分にとっては大変忌まわしい記憶ではあるのだがかつてリーンボックスにてネプテューヌの毒殺も試みたのだから風邪のひとつやふたつ余裕でひくのかもしれんな――などとマジェコンヌは悔恨混じりの思索を巡らせる。

 

 しかし、それはくしゃみをした当の本人により否定される。

 

「ちがうって。健康はわたしの数多い長所のひとつだよ。たぶんノワールあたりが噂でもしてたんじゃないかな」

「かも知れんな。恐らく、お前の無謀さ加減について談義でもしていたんだろうさ」

 

 こくりと頷き、マジェコンヌはネプテューヌの予想を肯定してやる。

 自国へと帰っていったノワールらが、どのようにネプテューヌを評しているかという予測つきで。

 

「まったく、本当に無茶をしたものだ」

「結果的に上手くいったんだからいーじゃん。ていうか、みんなわたしを信じてくれてたんじゃないの? あれ嘘だったの?」

 

 ネプテューヌは心外だとまくしたててくる。

 決戦となった、あの朝……国民一丸となって女神ネプテューヌの勝利を祈ったあれは、偽りであったのかと……無論、そんなことは無いのだが。

 

「そんな訳あるか。私が言っているのは、『誰があの女神を救うなどと思うものか』、という事だ」

「あー、そのことね」

「よくもまあ、そんな発想ができたものだよ」

「誰も負けない失わない、最高に格好良い完全勝利! それがわたし<主人公>の勝利だからね!」

 

 ラスボスだって助けちゃうよ、と満面の笑みを浮かべる少女の顔を見ながら、マジェコンヌは確信的に思う。

 やはり、この子は清い……と。

 

 ネプテューヌがパープルハートに決戦を挑んだ日の前夜、厄介になっていた病院の病室にて、

 マジェコンヌは、パープルハートが用いていた暗黒剣についての注意喚起を行うと共に、とある情報をネプテューヌに提供していた。

 パープルハートと交戦した火急の修羅場にて、マジェコンヌは異能の力を用いて敵女神の能力を模倣複製した。

 その際に敵女神の記憶が己の脳内に膨大な記録情報として流れ込んできたのだが……その中の一つに、あの黒剣を振るう、『パープルハート』の姿があった。

 

 その手で、幾多もの女神と思しき存在を殺める彼女の光景が。

 

 激流の勢いで垣間見たそれを気にする余裕などあの戦闘中には無かったものの……どういう訳か、朽ち果てたフィルムを流すように判然としない映像ではあったものの……入院中にイストワールより聞いていた、『ゲイムギョウ界でただ一国を統べる唯一神パープルハート』の話と幾らかの食い違いを感じていた。

 

 それを語ったのである。

 

 それがあったからこそ、

 ネプテューヌがパープルハートを名乗る敵女神には何か尋常ならざる背景があるのでは無いかと予測をする手助けとなったのであった。

 妄想と呼んでも差し支えの無いほどの、憶測である。

 

 だが。

 

 その『ただの憶測』から、己の危険を顧みず他者に救いの手を差し伸べられるのだ、隣を歩く少女は。

 事実として、それに救われたのだ、今ある自分もまた。 

 道を外した先代女神と同じ轍を踏まぬよう、正しく育てる為に女神の力を欲しているのでは無いだろうか――と。

 ネプテューヌは思い立ってくれたのだ、気づいてくれたのだから。

 

「おーい、マジェっちー。どったの? ぼけっとしちゃって」

「うん? いや、何でもないさ」

「ほんと?」

「ああ」

 

 思わず考え込んでしまっていたようだと、隣に並ぶ己にとっての救済者に気づかされる。

 そして次の瞬間、マジェコンヌがネプテューヌに抱いている感謝の念は、少しばかりその対象者の手によって踏み躙られる事となる。

 

「ずいぶん、物思いにふけってたね。まるでお婆ちゃんみたいだったよ――」

 

 っていうか、生きてきた時間を思えば、お婆ちゃんっていうかミイラだよねー……などと。恐らくネプテューヌは言いたかったのだろうが、お婆ちゃんことマジェコンヌの形相が赫怒に燃えてゆくのを見て言い留めた様子である。

 しかし、既に遅い。

 超大型の地雷を、大跳躍してピンポイントで踏み抜いてしまったのだ、ネプテューヌは。

 満面朱を注ぎ、噴火するマグマの要領でマジェコンヌの怒りが爆発した。

 

「だーれーが…………お婆ちゃんだっ、貴様ぁぁアアアアアアアッ――――」

 

 美女の喉より発された大轟音が、エンシェントドラゴンの咆哮もかくやとばかりにプラネテューヌの街中に鳴り渡った。

 いつぞやと同じく、道行く人々はみな怒号を上げる美女の姿に一様に振り向いて行く。

 これもまたいつぞやと同じく……否、凌駕する勢いで溢れ出した炎熱は留まる所を知らず、熱源の摂氏を秒毎に上げてゆく。

 

「あー、言っちゃった……」

 

 怒らせてしまった当の本人は、自分の粗相をまるで省みる様子もない。

 そんな女神に、怒りも顕なマジェコンヌによる説教が十数分にも渡り続いてゆくこととなる。

 それが終わった後、ようやく激怒の焔は鎮火してゆくのであった。

 

「まったく、言うに事欠いてこの私が老婆などと……」

「だからゴメンって~。もー、いい加減機嫌なおそうよーね?」

「ふん……だいたい、私はまだ十分すぎるほど若いのだ……ああ、そうだとも……」

 

 マジェコンヌはぶつぶつと呟き続けている。

 瞬間的な怒りは収まったものの、一度損なわれた機嫌は未だ回復する兆しを見せない。

 

 飼い馴らせぬ感情を持て余しながら、ふと。

 

 道すがらよぎる、とある商店の外に設置された飾り棚のガラスに映った己の姿を見つめる。

 血色の良い肌に、淀みない長髪は流麗で、深緑色の双瞳が瞬いている。

 

(――そう、若いのだ。肌の張りだって完璧だ。皺の一本だってあるものか。こんな私をつかまえて、オバサン呼ばわりする者がどうかしているのだ。うむ――)

 

 ……などと、黙して自分の心へと言い聞かせるのであった。

 

 マジェコンヌはオバサンなどと呼ばれるのを厭う。

 ひとたびそれを犯されれば、彼女は先程のように激怒するのだが……

 余人からすれば些か過剰なまでのこの嫌悪的態度にも、とある理由がある。

 

 それには彼女の胸の内……誰にも明かすこと無き深奥に秘めた、ささやかな感傷が関係しているのだ。

 それはつまり。

 

(ましてや老婆などと……相変わらずの馬鹿娘だなっ……)

 

 不老不死のまま、悠久の時の中を生き続ける女神達と、肉体が老いてゆく人間とは、同じ時間の流れを共有する事はできない。

 オバサンなどと呼ばれてしまえば……自分が女神たちとは異なり、肉体が老いさらばえてゆくことを認識させられるから。

 

 いずれ訪れる、『別れの時』。

 それが来る事を、痛感させられるから。

 だからそれを口にする者に怒りを向けると同時に、自分自身に言い聞かせるのだ。

 

 私はまだ若い、と。

 死などとはほど遠い、と。

 

 まるで年頃の、生娘のような感傷だと……分かってはいる。自分自身で。

 

 けれど、いつまでもネプテューヌと一緒にいたいと願う思いもまた本物なのだ。

 それが、いつか終わると分かっていても。だからこそ、余計に。

 

『誰かといて楽しいとか、ずっと一緒にいたいってすっごく大切だと思うんだ』

 かつて自分に向けられたネプテューヌのその言葉が、今ではマジェコンヌ自身の望みとして宿っているから、なおさらだ。

 

 あるいは、いずれ終わるこの限られた時の中で苦悩する事もまた、贖罪者たる己に架せられた刑罰なのだろうか。

 そう思いはするものの、それは違うかとマジェコンヌは悟る。

 

 なぜならば。

 

 自分はかつて、四女神の母親代わりであった存在だ。

 ならば、いつかネプテューヌらを置いてこの世を去るのも、それはそれで当然のことだ。

 もとより、親は子よりも先に逝くものだから。

 

 だからそれは、決して罪などでは無くて。

 

 人間としてのこの姿を取り戻せたのと同じく、奇跡の一つなのだ。

 人の生を全うできるのは、同じく人の身でしか成しえぬことなのだから。

 ならば限りある時間の中で、無上の幸福を享受し続けよう。

 傍らに立つ、この輝かしい自慢の馬鹿娘の母親的な存在として。

 

 そう内心で結論づけたところで、いい加減にこの話題を切り替えようと口を開いた。

 二週間ほど前の、『パープルハート』との戦いに思いを馳せながら。

 

「……ところで、どうなったのだろうな。あの『パープルハート』とやらは」

「ちゃんと無事に帰ったんじゃないかなあ」

「ならばいいがな。本当は記憶を失っていた……だったか」

「うん、って本人も言ってたよ」

「そして、全てをやり直すために元の世界に帰った、と。こちらの世界中を騒がせたんだ。なんとしてでも、やりとげてもらわんとな」

「きっとあの子なら、大丈夫だよ。なんだか、そんな気がするんだ」

 

 二人でそのような事を話しながら、目的地であるギルドへの入り口を、くぐろうとした瞬間。

 何処からか、ひらひらと飛んできたイストワールに、呼び止められることとなる。

 

「ネプテューヌさん、ちょっといいですか?」

「お、いーすんだ。どったの?」

「実はネプテューヌさんにプレゼントがあるので、今からちょっと来てもらえませんか?」

「プレゼント!?」

 

 プレゼント。

 魅惑的なその言葉がネプテューヌの心を奪ったのはいうまでもあるまい。

 誘われるまま、ネプテューヌはマジェコンヌと共にイストワールに着いて行くこととなる。

 導かれた先は、とても見慣れて、身近な場所……教会であった。

 一体何をプレゼントしてくれるというのか、いやまさか日頃遊んでばかりのネプテューヌに対してお説教というなの贈り物をしてくれるのではあるまいかと不安が翳りをさしたところで。

 

 教会内に設えられていた礼拝者用の長椅子。

 等間隔に並べられていたそのひと隅に腰を掛けていたその人物……

 少女は、来訪者の気配に気づいて、立ち上がり、ネプテューヌらのもとへと、遠慮がちな足取りで歩み寄ってきた。

 

「あ」

 

 その少女の姿に、ネプテューヌは思わずぽかんと開口してしまう。

 ついでに、閉じるのを忘却してしまった。

 それほどに、その長い髪の、ネプテューヌよりも背の高い彼女は、衝撃を与えるものであったから。

 

 

「えと……あなたが……私のお姉ちゃん、ですか?」

 

 

 呆けたネプテューヌに話しかけ、名乗る少女の自己紹介も。

 先の異次元の女神との戦いの際、プラネテューヌや他国の女神らのネプテューヌに捧げられた信仰の高まり云々によりネプテューヌの妹たる彼女が誕生云々といったイストワールの解説も。

 

 

 

 驚嘆に暮れるネプテューヌの耳奥には、いまいち入ってこなかった。




Vにて、どんどん成長して大人になっていくアイエフコンパの姿を見て切ない気分になったのは私だけでしょうか。

あと、次で最終回となります。
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