超次元ゲイム ネプテューヌ - 終界の新生(ヴィダークンフト) -   作:倉公

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聖剣の刃は斯く耀う

ゲイムギョウ界歴 20XX年

 

 

 ゲイムギョウ界は、凋落のただ中にあった。

 犯罪組織を標榜する邪教集団と、世界を守護する女神との激戦の最中、

 ついに女神らの恐るべき事態が発生したのだ。

 ――犯罪組織の崇拝する悪神、犯罪神の復活。

 世界を滅ぼすというほどの絶大なる力を持つその存在を前に、守護女神らは打つ手なしかと苦悩する。

 そして女神の命を奪う事で強大な力を得る、呪われし魔剣を得た彼女らは揺れ動き、ついに各国の同盟は解消となってしまう。

 

 まさに斜陽の刻。 

 これより上がる最後の幕は、折りしも夕刻のラステイションより開始と相成る。

 

 

 

 

 傾いた太陽は、燃え上がるな茜色で世界を陵辱していた。

 

 重厚なる黒の大地ラステイション。

 重工業が盛んなこの国家の街の一角にて、彼女ら――黄昏の女神たちの姿があった。

 この国の女神たる、ノワールとユニ。

 そしてプラネテューヌの女神、ネプテューヌと……ネプギア。そして二人に付随する形で、アイエフやコンパらをはじめとする仲間達が。

 

 共に手を取り犯罪組織と戦いを続けてきた女神らであったが、今現在は状況が大幅に異なる。

 ラステイションの姉妹神は、シェアの簒奪という暴挙をはたらく侵略者を殲滅する為に出征したのである。

 それこそがプラネテューヌとラステイションの女神らがこの場に集った理由であり……

 両者が、敵同士として対峙している所以であった。

 

 これ以上の狼藉は認められぬと臨戦するノワールとユニであったが、あえなく返り討ちとなる。

 彼女らの明確な弱体化を、ネプギア一行がこの国から奪っていたシェアの量が物語っていた。

 かてて加え。

 

「ネプギア。アンタ達はアタシ達より強い……」

 

 いみじくも候補生・ユニが述べたように、単純な力量の差が両国の女神の間にはあったのだ。

 そしてその姉であるノワールもその思いを同じくするものであった。

 彼女はこれより、ネプギアが取るべき行動を示教する。

 密かに持ち歩いている『その剣』を使い、こちらの命を奪ったのち……犯罪神を斃せ、と。

 

 

「どうしてもできないと言うのなら、私達がやるわ。その剣を渡しなさい!」

「やめてください――」

 

『その剣』を奪い取ろうとにじり寄るノワールに叫んだ直然。ネプギアは、言葉を失う事となる。

 はたと。

 一縷の天啓にも似た、奇妙な思いが脳裏を過ったのだ。

 

 

 ――同じだ、と。まずネプギアは直感した。

 まるで、そっくりコピーしてきたような。それを、同じようになぞっているような。

 

 つまり、ネプギアの胸に宿った閃きとは。

 

 今のこの状況と全く同じ体験をいつかした事がある。私はこの状況を知っている、という……『既知感』であった。

 自分達が発する台詞も、語気も、立っている位置も、流れてゆく雲の形も、太陽の位置も、肌を伝う汗の感触、果ては空気の感覚に至るまで。

 その『思い返せぬ、いつかの記憶』と、寸毫も違わない。

 

 

 そして刹那に脳裏で垣間見る。

 その『いつかの記憶』が辿ったであろう、この後の展開と光景を。

明滅を繰り返し繰り広げられてゆくそれは、さながら壊れた映写機が映し出す映画。

 登場する役者は自分達で、舞台は同じくこのゲイムギョウ界。そしてその演目は……目も覆わんばかりの、恐怖劇であった。

 

 

 敬慕してやまぬ守護女神たちや、友情を育んだ女神候補生たち。彼女らを次々と、今しも握り締めた、この呪われし剣にして殺戮してまわり……最後は最愛の姉、ネプテューヌまでもその刃に命を捧げてしまう。

 

 そして全ての女神を屠ったのち……完成した魔剣を携え、犯罪神を破り……

 残された最後の女神として、各国を統一したプラネテューヌの支配者として君臨することとなる。

 今際に犯罪神が残した、いずれ訪れる衰退と終焉の時――世界の死たる、怒りの日は必ずやってくるという、言葉に怯えながら……

 

 

 ああ、嫌だ認めない。

 そのような終わりなど、許せない。

 私はこんな展開など望んでいない。

 

 

 その光景に、瞬間の中で戦慄を覚えながら、ネプギアは同時に思う。

 もしも。

 今しも垣間見た映像は、これより自分が辿る未来なのだとしたら。

 そして確かに自分は一度その道を進んだのだとしたら。

 いまこの場に立っている自分達とは、そんな世界からほんの五分ほどの時間前に、回帰してきたのだとしたら?

 だから脳裏を過った光景とは、修羅場の中で思い描いた妄想などではなくて。

 遠い遠い記憶の、残滓。 

 

 例えば。

 ちょうどそう……迎えてしまった最悪の結末をリセットして、

 選択肢前に保存しておいたセーブからやり直してきたように。

 

 誰がその時計の針を戻したのか、戻してくれたのかは分からないが。

 今がその、選択肢前……大いなる分岐点なのではないか、と。

 

 ……なぜかそんな埒の無い、誇大妄想がふとネプギアの胸に満ちる。

 荒唐無稽ではあるが、一度そのように考えてしまうと、もうそれ以外の考察はあり得ないように思えて。

 

 そして耳朶の奥で、『がんばって。わたし、信じてるから』と。誰かの声を思い出した。

 その声の主に背中を押してもらった、大切な何かを教えてもらった……そんな気がする。 

 

 それが誰かは知らないし分からないが。

 曖昧な感覚の中で確信を以って思う。

 その誰かというのはちょうど傍らに立つ、最愛の姉と、すこぶる似た……そんな人だったような、と。

 

 何よりもそれは、確かな自分との誓い。そんな気がして。

 

 ――私は、どうすればいいんだろう。

 

 零れてゆく時間の、細分化された一秒のただ中で、ネプギアは自問した。

 

 この差し迫った状況は、未来の分水嶺。

 自分が脳裏で幻視した最悪の未来と、女神同士で争うこの状況を拒んでいて。

 二度と戻れぬ滅びの悲劇は、もうすぐそこまで迫っていると知ったから。

 そのような結末は、なんとしても防がねばならぬと何より強く願うから。

 

 ――そんなの、決まってる。 

 

 もはや一分一秒の猶予もない。

 呪いの剣を手にするこちらと対峙する、ノワールを見据えながら想う。

 この剣の刃を前に彼女がどのような行動をするのか、自分は『知っている』のだから。

 

 ――なんでこんな事に……

 

 そも、なぜこんなこんな事態へと至ったのか。

 知れたこと。

 全ての原因は、この手の中に在るではないか。

 

 ゆえに。

 待ち構えていた筈の、無数の悲痛と嘆きと哀しみから。悲愴たる救世の未来から。

 今ぞネプギアは、逃れだす。 

 

「こんな剣が……こんな剣があるから! えーい!」

 

 剣の柄に掛けた指のひとつひとつに、あらん限りの力を込めて。

 記憶するだに厭わしい、この馬鹿げた邪剣を掲げて。

 狙いを定め、己が持ち得る限りの総力で振り下ろす。眼前に立つ、女神ノワール――――の統治するこの国の、地面目がけて。人域を超えた、女神の膂力を以って。

 

 覚醒前の、ただの剣に過ぎぬその魔剣は、実に小気味の良い音を立てて、壊れた。

 

 ノワールは目の前で起きた光景に、驚愕し目を見開いている。信じられぬ物を見たという思いはこの場に立つ全ての者――ネプギアを除いて――がそのようであり、みな一様に言葉を失っていた。

 

 我を取り戻したノワールはネプギアをなじる。

 自分達が巡り争っている要因、犯罪神に対抗し得る唯一の可能性が失われてしまったと。

 彼女の怒りが、自分の成した英断が確かな現実であるのだと認識させてくれるから、ネプギアは己の所業を弁明はしなかった。

 

「自分でも綺麗ごとだって分かってるんです」

 

 だがそれでよし。

 その清らなる信念こそが、これより始まる新たなる結末の礎となるが故に。

 そも、ネプギアが守りたかったのは敬愛する四女神と友情を育んだ候補生の仲間たち……彼女らの治める四つの国、全てがあるゲイムギョウ界なのだ。

 死骸と化した、がらんどうの世界を抱きしめたいなどと……断じて求めてはいないから。

 

「国を滅ぼしたり、誰かの命を奪ってでしか救えない平和なんて、そんなの誰も望んでなんかいません!」

 

 喉を突き、言葉という形を得る揺ぎなき思い……それは決意。

 おぞましき未来像を真っ向から全否定する、気高き宣戦布告であった。

 

 確かに全ての原因は先ほど破壊された呪いの剣にあるのだが、それを助長させたのは自分のシェアの一極集中化発言にあるのだけれど……と、ネプギアは内心で苦笑する。

 

 

 

 そして四ヶ国の女神と教祖らは、再びプラネテューヌに集い会議の場を設ける。

 ゲイムギョウ界を救いたいという思いは誰もが同じ。

 ならば救えばいいのだ。

 手を取り合って、一丸となって。

 あの場にいた全ての者から冷静さを奪った、熱病は去ったのだから。

 

 といえど、全てが終わった訳では無い。

 犯罪神を屠る、唯一の可能性が絶たれてしまったのだ。

 それがこの会議のテーブルに着く者らの表情の多くに、影を落としている原因である。

 だが、奇妙に晴れ渡ってゆく心地の片隅で、これで良かったのだろうとネプギアは確信するものがあった。

 これが、これこそが唯一無二の選択肢だったのだろうと。

 然り、である。

 

 これよりその姿を現すのだから。絶望に灯る光のごとく、産声を上げる最後の希望が。

 

 それは各国の教祖らの意見交換を糸口にして提唱される。

 魔剣の再利用と、四つの国のシェアを凝縮した玻璃――シェアクリスタルの刃を設えればどうか、と。

 そしてネプギアは、仲間たちに見守られながら無二の友人たるユニと共に鍛造する。

 

 かくして、魔剣は二度とその凶刃を輝かせることは無いが。

 それでいい、そうでなくてはならない。

 悲劇はもう要らぬから。

 これより先に待つは、希望が満ちる未来でなくてはならないから。

 女神が織りなす希望の舞台でなくてはならぬから。

 

 ゆえに新世界に相応しき、新たなる剣が求められ……ついに完成する。

 

 生まれ変わったかつての魔剣の姿に、誰もがその目を奪われた。

 霊験灼たかなるその刀身は、ただひとえに美しく。

 ネプギアの意向により柄も一身され、かつての面影は消え失せていた。

 

 

 

 そして一行は全てを終わらせる為に赴く。

 犯罪組織の拠点にして、犯罪神の鎮座する決戦の地、ギョウカイ墓場へと。

 かつて四女神とネプギアが虜囚となった、ゲイムギョウ界の陵(みささぎ)。

 腐敗した大地は黒ばみ、広がる空は糜爛した茜色に焦げている。今にも、汚濁たる血が滴り堕ちてきそうなまでに。

 禍々しいその光景は、逢魔が時を想起させる。

 邪なる魔物の跋扈する、間近までにじり寄った夜闇の世界……事実として、その通りである。

 

 この墓場の深奥にこそ、このゲイムギョウ界に生を受けし全ての者の敵である大邪、

 犯罪神が待ち受けているのだから。

 

「女神、か」

 

 訪れたネプギアらを一瞥し、犯罪神は荘重に呟いた。

 一帯に轟くその聲は、不気味な音色を以って生理的嫌悪を催す。

 だがそれが、一行の高まった気概を挫く訳では断じて無かった。

 

「はい。あなたを、倒しに来ました。あなたを倒して、ゲイムギョウ界の希望を取り戻します!」

 

 応えを返すネプギアの言葉に、寸毫も怯む処が無いのがそれを証明している。

 そして犯罪神は、彼女が携えたひとふりの剣を見つけ、訝しげに呟いた。

 

「その剣は……魔剣……では無いな」

 

 俄かに、顰めた響きが含まれていた。

 然もありなん。

 ネプギアの手の中で光を放つそれは、この魔界の主たる邪神が知る姿とは異なっているのだから。

 知らぬならば教えようと――ネプギアは教授する。

 魔剣の変生した姿、これより犯罪神を葬る最後の希望たる聖剣の出自を、朗々と謳い上げた。

 

「ラステイション、ルウィー、リーンボックス。そして、プラネテューヌのシェアクリスタルを刃にした剣です」

 

 贄として捧げられた女神の命を啜るかつての魔剣ゲハバーンとは異なり……その剣が糧として燃やすのは、刃に宿る人々の希望を冀う祈りの力。

 そして……その柄を握り締める者の、勇気。

 

 魔剣と聖剣。

 シェアの化身たる守護女神が手にする剣として、どちらが相応しいかは明白であろう。

 

 四つの国のシェアの結晶たる、シェアクリスタル。

 全てを集め刃として鍛えた聖剣を振るうネプギアは、言わば世界中の信仰を束ねた存在である。

 はからずも、唯一神として世界中のシェアを支配していた次元と同じく。

 唯一の決定的な違いがあるとすれば。

 もはやネプギアは、一人ではないという事に尽きよう。

 その手の中に委ねられた世界中の希望の光が、今ここに真の救世を成す。

 

 

 

 世界中を罪深き紫色で塗りつぶした唯一国も、支配者として君臨した左道なる罪姫も、今は遠き夢幻の彼方へ消え去った。

 曙光の聖性を帯びて輝くシェアクリスタルの刃が、悪夢を運ぶ夜の終わりを告げているから。

 

 誰も、その露と消えた歴史を覚えている者などいない。 

 ただ、こことは違う次元の彼方、遥かなる超次々元の世界にて……

 ネプギア――『パープルハート』とまみえた四女神らの記憶や、

世界の事象を観測する史書イストワールの記録のなかで残るだけであろう。

 

 別の次元よりそのような存在が訪れ、ほどなくして去っていった、と。

 それだけである。

 

 だが、それでよいのではあるまいか。

 今や魔剣の刃は儚く手折られ、希望の地平を生む舞台装置へと成り下がったのだから。

 

 涙に蹂躙され、絶望に陵辱されることの無きように。

 悲劇に支配される物語<ルート>も結末<エンディング>も全くの無用なれば。筋違いも甚だしい。

 絶望も悲愴も悲劇も。

 舞台違いの演出など、もはや必要ない。

 ここには、輝かしい希望だけあればいいのだから。

 

 

 ここに集いし花形は。

 あらゆる絶望に従わず、あらゆる滅亡に服わぬ八柱神。

 並び立つは、いずれ劣らぬ戦乙女<メーカーキャラ>。

 

 プラネテューヌの女神候補生ネプギア。

 彼女もまた、このゲイムギョウ界を羽撃く主演のひとりに他ならぬから。

 

「この想い……全て、あなたにぶつけます!」

 

 全身に漲る想いの力を胸に、ネプギアは主人公としての科白を諳んじた。

 ならば犯罪神に与えられた役柄は、もはや決定づけられてしまった。

 主人公の前に立ち塞がる、敵役。

 そのようなものは、古来より輝かしい栄光を掴む主人公を引き立てる当て馬でしかないのだから。

 

「小癪な。その想いごとギョウカイ墓場の藻屑としてくれる!」

 

 嘯く台詞の悉くが叶わぬとも知らず、道化の邪神は嘲笑う。

 その姿の、嗚呼なんと滑稽なことか。

 

「ネプギア、あとは任せるよ! 絶対に勝ってね!」

 

 至大の信仰を捧げる姉の声援を背なに、ネプギアは聖剣シェアブレイトを構えた。 

 

 そのとき、沙耶かなる一陣の風が吹きぬけた。

 びょうと鳴り響いたそれは、あたかも祝福のように。

 この世界に風は吹く。

 遍く罪過を祓い、穢れを清める科戸の風が。

 その優しい息吹の中で、少女は思う。

 

 ――私はもう、大丈夫です。あなたのおかげで、今度こそ掴むことができました。

 ――あなたと約束した、トゥルーエンドを。ほんとうに、ありがとう。

 

 なぜかは知らないが。

 誰に宛てた謝辞なのか、自分でも分からないが。

 どうかこの瞬間に言わせて欲しい。誓いし未来を遂げる事ができた、と。謎めいた感謝を思いながら。

 最後の戦いへの一歩を、踏み出すのだった。

 

 

 

 目の前に待ち受けるは、此岸を滅ぼす大邪神。

 抗う自分に託されたのは、数多の祈りを束ねし聖なる剣。

 握り締めるこの手は、決して非力なんかじゃなくて。

 最愛の仲間達に見守られる、この道を往こう。

 私はこれを、選ぶことが出来たのだから。

 この剣と共に、運命も未来も変えてゆく。

 もう何も壊れはしない。

 

 

 この、最後の幕はこれにて仕舞いとなるが、その上がった緞帳が降りることは無い。

 別次元の姉……パープルハートに敗北した少女が勝ち取った、紛れもないこの現実が終わる訳では無いのだから。

 ネプギアが語る、宿業からの解脱と超越の物語は、今ここから始まるのだから。

 

 

 かくして、終わる世界は新生を果たした。

 

 

 歪み狂いし世界の終焉と、輝ける新世界の再誕<リバース>を祝って――




これで終わりとなります。

今まで読んでいただいた方々、ありがとうございました。
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