超次元ゲイム ネプテューヌ - 終界の新生(ヴィダークンフト) -   作:倉公

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第一章
狂獣の叫喚


 穏かな午後の陽射しがプラネテューヌの街並みに降りそそぐ。

 陽光に照り煌めく街並みは、みないずれもが怜悧にして流麗に映える。

 

 聳え立ち群をなすビルが、その巨躯を彩る硝子が、地上に張り巡らされた道が。

 全てが輝きを湛えている。

 

 穏かな日和は住まう人々の心身に優しく、プラネテューヌそのものを燦々たる陽だまりに変える。

 当たり前な平穏な日常。

 遍く降り注ぐべき光。

 

 では、最もそれを享受する者は誰か。

 それはプラネテューヌの女神ネプテューヌその人である。

 

「いやー、こんなに天気の良い日は、なんにもやる気がなくなっちゃうよねー」

 

 言いながら、ネプテューヌは両手をうーん、と伸ばした。

 住民の往来で賑わう街中を歩きながら、陽光を体中で浴びるように。

 白を基調としたパーカーワンピを纏う、矮躯の少女が全身を伸ばすその姿は実に愛らしいものであった。

 

 

「気力-50くらいになっちゃって、仕事なんてする気なくなっちゃうよ。

 ついでに精神ポインツも残り0って感じで、戦艦に搭載されたい感じかも」

 

 そのあまりにも能天気な物言いに、ネプテューヌの隣を歩くその女は思わず頭を抱えた。

 

 一切の弛みなく長く伸び流れるような銀色の髪は美麗にして清淑。

 端正なかんばせは、怜悧でありしかして柔和さを窺わせる。

 その双眸が湛える翠の色は、さながら光届かぬ森の秘奥か。

 整った顔立ちの美人ではあるが、なにより抱かせる印象は理智さであった。

 彼女――マジェコンヌはその麗貌を苦悩に歪ませていた。

 

「ねえ、マジェっちもそう思うでしょ?」

「……」

「クエストなんて行ってる場合じゃないよねー、帰ってのんびりしたいよ」

「……」

「あれ、どったの黙っちゃって」

「…………」

「ねーねー」

「……ええーい、やかましい!」

 

 街中に響く怒声。

 老熟した果実が枝から零れ落ちるように。

 限界以上に水を湛えた貯水池が決壊したかのように。

 

 我慢は満を持して限度を超えたとばかりに、一喝がマジェコンヌの喉から迸った。

 美女の怒声に通行人の数名が何事かとこちらに注目するが、当のマジェコンヌ自身は拘泥しない。

 

「さっきから黙って聞いていれば、働きたくない働きたくないなどと……何を言っている」

 

 限界に達して切れた堪忍袋の緒は、彼女の白眉をぴくりと脈打たせる。

 ネプテューヌの放言により我慢の限界に達していたマジェコンヌは、続け様に咎めた。

 

「お前は女神だろうが。この国の、主だろうが! ここにいる全ての者の模範となるべき存在だろう」

 

 言うや、マジェコンヌは細長い腕をざっと一振りし、周囲の風景を示した。

 そこにあったものは、街並であり住人達の姿である。

 

 

「うーん、それは分かってるんだけど。でも、女神だからこそ言うんだよー」

 

 ネプテューヌは物怖じせず反論してみせる。

 

「ほら、わたしって世界を救ったんだよ? ご褒美として、長期休暇くらいもらってもいいんじゃないかな」

「それはまあ、確かにな」

「でしょでしょー? だったらー少しくらいは良いよねー」

 

 数世紀以上に渡り、女神たちはいつ果てるとも知れぬ闘争に身を置いていた。

 守護女神戦争――世界の神となる権限を賭け戦うそれは、まごうことなき戦争であった。

 

 国家の長たる女神同士で行われる為、ややもすれば国家間での諍いになる可能性を孕んでもいた。

 そしてその傾国たるゲイムギョウ界、ひいては守護女神戦争を終結させ、

 女神のみならず民草の中からも義勇の徒らを集わせ束ねたのは、紛れも無くネプテューヌ本人の功績である。

 

 ならばなるほど、本人の希望通り眇眇たる安息の時間が齎されてもなんらとがめだてされる事でも無いのかもしれない。

 そこまで考えたところで、マジェコンヌはかぶりをふった。

 

「……ってそんな訳があるか。あの戦いから一年以上経っているんだぞ?」

「いやー、なんだか懐かしいねー」

「女神がそれだけの期間不在だったんだ、お前はそれ以上の働きをせねばならんだろう」

 

 ネプテューヌとマジェコンヌが、最後の戦いから天界より帰還するまでの間、国政に従事するべき彼女が一年以上も国そのものから言葉通り不在だった。

 

 本来であれば国家その物が破綻していても不思議ではなかったのだろうが、

特筆すべき大過も無く平穏に月日が経過したのも、ひとえに女神の史書イストワールや他国の女神ら、

かてて加えネプテューヌ達と共に戦った義勇の徒らの尽力があったからだろう。

 

 ネプテューヌが行方不明となっていた理由。

 それはとどのつまり、彼女が自分を救ってくれたからに他ならない。

 

 敵同士であった自分達は、天界にて最後の決戦を繰り広げた。

 天界が崩壊する中で、彼女は宿敵たるマジェコンヌに齎したのもの。

 それは幕引きの斬戟ではなく、ひとつの祈りであった。

 それは、敵であるマジェコンヌを助けたい、というもの。

 

 女神らを害そうとし剰え世界を滅ぼさんとした、マジェコンヌ。

 大逆人たる彼女が左道に堕ちたのは相応の理由があったのかもしれない……そんな憶測で、しかしネプテューヌは倒すべきマジェコンヌを救わんと願い。

 そして聖らかなるそれは、言葉通りの奇跡を起こした。

 

 そしていま、マジェコンヌはここにいる。

 死者のような肌は人間のそれへ。

 狡猾かつ残忍さを窺わせる双眸は、思慮深き智慧を湛えて。

 腰ほどまで伸びる長髪は麗として流美に。

 人間であった頃と、寸分違わぬ……元い、それそのものの姿へ、時計の針を逆回転させたように回帰を果たせたのだった。

 

「だからこそ自分の務めを最大限に果たせよ。この国と住民の行く末は、お前の双肩にかかっているのだからな」

「はいはーい。分かってるよー」

「まあ、休ませてやりたいのは山々だが……だからこそ、この私が、お前の力になると決めたのだからな」

 

 続けた言葉は、やや語気を柔和にしてのものだった。

 国の長として国政と国家運営を司る女神の職務は、実に多忙を極める。

 その女神の一人たるネプテューヌの身に、本人の希望通りの怠惰など叶わない。

 

 だからこそ。

 

 せめて女神を補佐する者として、その傍にあり時には愛の鞭を振るってやろうと決めたのだ。

守護女神同士を数世紀に渡り反目させ、あまつさえ世界の破壊を目論んだ贖罪のひとつとして。

 

 無論のこと、それで過去の大罪が全て帳消しになるなどとは到底迷妄してはいないが。

 それでもその身一つで一国を預かる女神のために、微力ながらも力を貸したいと思った次第である。

 

 だが同時に。

 

 極めて個人的には、世界を救った彼女にそんな休息を与えてやりたいともひそやかに思うのであった。

 

 

「は~あ……世界を救って、ノワールや他のみんなとも仲良くなれたのに、

 なんで未だにクエストしなきゃいけないのかなあ」

「ぼやくなよ」

「ハッピーエンドを迎えたスタッフロールの向こう側の世界って、意外と夢も希望も無いんだね……」

「その辺にしておけ。こういった地道な活動を重ね、シェアを得ていくのだろう? うかうかしていると、他の国に圧倒的な差をつけられてしまうぞ」

 

 しかしながら、このプラネテューヌという国家はなぜか四つの国の中で最も発展していた。

 それはつまり住人たる民たちが、国長たる女神をひろく支持していることに他ならない。

 

 一見すればうら若い少女の姿であるこの女神が、国民から愛されているのはまあ分かる。

 つい先日などもプラネテューヌ商店街のとある惣菜屋の女店主から『ねぷちゃん!! コロッケ揚げたてだからもっていきなさいよ!』などと売り物の惣菜を貢がれていた。

 

 恐らくは謎のカリスマがあるのだろう、とマジェコンヌは考える。

 それを裏付けるように、国民の幸福度がこの国は高いともイストワールから聞いていた。

 

 だからといって、国政を蔑ろにしていい訳では無論ない。

 ……が、無休で職務に従事し続けるなどあまりにも酷であるのもまた事実である。

 どのような者にも、身体を憩う休息は必要なものである。

 

 ならばせめて、仕事前の腹ごなしを兼ねてどこかで軽食でもと勧めようかとした矢先に。

 次のネプテューヌの発言が、彼女自身を苦しめることとなる。 

 

「あーもう、わかったよ。マジェっちったらー、いっつもお小言ばっかりなんだから。耳にタコが出来そうな勢いだよ」

 

 概して多くの災いとは、口から生じるのだという。

 使い方を間違った言葉は他者の不興を買い、心の無い発言は聞き手の激怒を喚起し要らぬ衝突を招く原因となる。

 ゆえに誰もが己の言葉に細心の注意を払い、責任を持たねばならない。

 この場面におけるネプテューヌの不幸とは、それを重んじなかったために生じることとなる。

 

「まるで口やかましい小姑だねー」

「……ぴくり」

「そんなんじゃ、あっという間にオバサンになっちゃうよー」

「……ぴくぴく」

「すぐにシワも増えちゃうよー? いいのー?」

「………」

「……って、アレ? どうしたの……? 黙っちゃって。お腹でも痛かったりする?」

 

 ぴくぴくなどと謎の擬音を生じさせながら黙していたマジェコンヌの顔をネプテューヌが覗き込めば、彼女はモンスターからマヒ攻撃を食らったかのように頬を……のみならず顔面をいつのまにやら痙攣させていた。

 到底言葉など発せそうもないように伺える。そんなマジェコンヌの口から紡がれた言葉は、意外にも落ち着いた静かな音色であった。 

 

「前言は撤回だ……」

「?」

「なあ! ネプテューヌ」

「は、はい」

 

 しかしその語気は明らかに変化しており、有無を言わせぬ迫力を帯びていた。

 そしてネプテューヌはそんなマジェコンヌの様相に逆らえない。

 

 彼女はなぜ静かなる激情を赫怒と燃やしているのか、ネプテューヌには検討もつかない。

 敵として対峙していた頃から「オバサン」という蔑称にはなかんずく怒りを示していたが、ネプテューヌはそこまで思い至れない。

 

「これでも私は、お前達には本当にすまなかったと思っているんだぞ? お前達が先代の女神と同じ轍を踏まぬよう、導くと決めたにも関わらず、数百年もそれを怠っていたのだ」

 

 その懺悔はこれまでも幾度かマジェコンヌはネプテューヌらに告げたことがあった。

 

「だが安心するがいい。今のお前の言葉で心を鬼にして愛の鞭を振るう決心が固まったよ」

 

 重要な仕事たる、クエストに赴く前に休息を与えようなど、自らの不明を恥じるばかりである。目を覚まされた思いであった。

 

 その決意表明を聞かされたネプテューヌ本人といえば、喜ぶどころか辟易を表情に浮かべるよりなく。

 

「うう……じゃあわたしばっかりじゃなくて、その鞭はノワール達にも振るってあげよーよ」

「バカを言え。お目付け役が必要な女神はお前くらいだ」

「いやあ、ネトゲー三昧なベールとかも大概だと思うけど」

 

 ああ、なぜわたしばかり……と言わんばかりに、女神は瞳を閉ざした。

 しかし次の瞬間には、観念したかのように折れるのであった。

 

「はあ……まあ確かにわたしが行くのが一番いいしね」

 

 プラネテューヌ。

 ラステイション。

 リーンボックス。

 ルウィー。

 

 各国家に共通する、最強の戦力。

 それは、国を治める主である女神本人に他ならない。

 人域を凌駕した女神らに、人間の兵士以上の能力が存在するのは必然である。

 それゆえに、国内に何がしかの問題が生じた際や、一般の人間の手に余るクエストが生じた際は女神自らが赴く事もままあった。

 

「……理解が得られたようで何よりだ」

 

 マジェコンヌ自身は、言葉の辛辣さとは裏腹に、自分が身を置く現状に感謝をしていた。

 ゲイムギョウ界に君臨してた先代女神の化身であり遺児でもある、四女神。

 彼女らを正しく導き育てる為の力を欲して、堕ちた過去がある。

 心ならずも道を踏み外した己が、ともすれば自侭に振舞いがちな女神に仕えることができるのだ。

 かつては振るいそこなった愛鞭を、今こそ全うできる。

 そんな今の状況を、なによりありがたいと思っていた。

 

 

「……そういえば、どこへ行くんだっけ」

「さっきギルドで受注した内容も忘れたのか、バーチャフォレストだろう」

 この数週間に渡り、ゲイムギョウ界ではとある異常が発生していた。

 世界各地にて、生息するモンスターが凶暴化していたのだ。

 

 その原因は不明ながら、世界規模で暴走し猛威を振うモンスターを看過できようはずもない。

 そのためギルドから請け負うクエストにも、それに類する依頼が増加していた。

 

 このたびネプテューヌとマジェコンヌが受注した仕事もそれによるもの。

 近隣にある自然公園に、他地区より強大なモンスターが住み着いたというのだ。

  

 バーチャフォレスト。

 プラネテューヌ郊外にある自然公園である。

 緩やかな山道が続き、周囲を取り囲むように木々や林が立ち並ぶ。その穏かな緑の園は、名が示す通りの森でもあった。

 遥か頭上から流れる滝は、煌めく飛沫をあげて長閑な森に彩を加えている。

 ここはかつて、守護女神戦争のさなかに敗北し天界より落下したネプテューヌが、文字通り墜落した場所でもある。

 

「やっほー、あいちゃーん」

 

 森の入り口より十数分ほど歩いた地点で、現地にて待機していた少女――アイエフにネプテューヌは声をかけた。

 すらりと細い体系に、青い外套を纏ったその姿は遠めにも特徴的であった。

 

 アイエフ。

 

 かつては世界中を旅する冒険者であった。その気質は常に冷静沈着であり、ネプテューヌの誇れる仲間の一人である。

 現在はプラネテューヌへと帰属し、諜報員を務めていた。

 

 共に旅をしていた頃とは異なり、いついかなる時もネプテューヌと行動を共にするという訳にもいかなくなったが、女神としての職務を支援する形で、今日のように肩を並べて事にあたるという事もままあった。今回でいうならば、女神たるネプテューヌが現地へ到着するまでの斥候と現地調査、といったところである。

 

「待ってたわよ、ネプ子、マジェコンヌ」

「お待たせー」

「すまないな、少し時間がかかってしまった」

 

 マジェコンヌの謝罪に、アイエフはいいわよ、と微笑する。

 

「どうせネプ子がぐずってもたついてたんでしょ」

「そ、そんなことないってば」

「しらばっくれても無駄よ。まあ、いいわ。こっちとしても、あんた達を待つしかなかったしね」

「その事だが、アイエフ。件のモンスターはこの先にいるのか?」

 

 マジェコンヌの問いに、アイエフは首肯した。

 

「あいちゃんが一人でモンスターを退治してくれてても、わたし的には全然オッケーだったんだけどなー」

「馬鹿なこと言わないでよ。私だけでアレがどうこうできる訳ないでしょ」

 

 伸ばされたアイエフの人差し指が示したのは、真下の光景であった。

 彼女ら三人が落ち合った場所は、ちょうど山道の切れ目にして端に位置する。切り立った崖となっており、眼下には特に何の変哲も無い空地が広がっていた。

 

「なになにー? って、ねぷぅ!?」

 

 そう思えただけに、ネプテューヌが素っ頓狂な驚き声をあげてしまう。

 しかし悲鳴じみたその声も無理からぬものであった。

 

 ここバーチャフォレストは。生息するモンスターもスライヌをはじめとした警戒度数の低い種族が大半である。

 そのため駆け出しの冒険者らもまずはここからクエストをこなし経験を積んでゆくのが通例である。

 だが。

 

 「なな、なんでこんな所にエンシェントドラゴンがいるのー!?」

 

 広場の中央部。 

 さも己こそがこのダンジョンの長とばかりに鎮座する、巨体の竜の姿があった。

 

 四肢を地面へと横たえ、静かな息づかいで周囲を睥睨している。

 

 かの竜――エンシェントドラゴンは元来このバーチャフォレストを住処としていない。

 その戦闘力は並みいるモンスターの中でも随一を誇り、一廉の戦士でなければ相手取るのは非常に困難である。

 

「ここ一番最初のダンジョンだよね? 『強敵出現』なんて仕様書なかったはずだよ? 強くてニューゲーム? もしかしてこれ、ハードモードの世界なのー?」

 

 いるはずの無い存在が当たり前のようにいる。

 その想定外の現実がネプテューヌから冷静さを奪うのは十分であった。

 そして一人で騒ぎ立てる彼女を余所に、マジェコンヌは傍らのアイエフへと問うた。

 

「これはやはり、最近起こっているモンスターたちの異変とやらか?」

「ええ、でしょうね。本当なら、あんなヤツがこんな所にいるワケないもの」

 

 ここ数週間で起こったモンスターの暴走。

 その影響は、各個体の凶暴化のみに留まっていない。

 生態系や個体の習性から外れた行動を取るモンスターも多数見受けられた。

 

 此度のエンシェントドラゴンのように、である。

 

 他にも一介のスライヌが接触禁止種とされている超上級モンスターに挑み成す術なく返り討ちにあった、などの報告も余所から上がっている。

 雨後の筍のごとく生じたモンスターらの狂態は、まさしく奇行であった。

 

 一地域で、限定的に起こった現象であればさほどの問題でもないのだろうが、事がゲイムギョウ界全域でのこととなればそういう訳にもいかない。

 故に、ネプテューヌがこのほど直々にクエストを受領したのであった。

 

「オマケにあのドラゴン、凶暴化して本来異常の戦闘力を発揮してるわ。見て、警備機械さえ、あのザマよ」

 

 森の王者を気取る竜の傍らにあるそれを、アイエフは人差し指で示した。

 そこには、蜘蛛の屍骸が横臥していた。

 

 

 ヘビータンク・Ⅱ。

 全身を真紅に塗装されたその機械は先日、ラステイションより提供された対凶暴化モンスター用の警備機械である。

 自らの巨体を支えんと両脇に伸ばされた鋼の四肢は威容を誇り、巨大な単一の眼球は昆虫の無機質さを感じさせる。

 そして頭上に二門の砲を装備し、己が武威を誇示する多脚型対地上戦専用戦車。

 全身を機械の身体で武装した、鋼鉄の赤蜘蛛<ロート・シュピーネ>。

 

 

 その頑強なる機体は、無残に破壊されていた。

 鋼の四肢の中央部にある胴体。そこに、巨大な爪痕が刻み……元い、叩き込まれていた。

 そしてその凶爪の主が誰であるかは、もはや語るまでも無いだろう。

 哀れヘビータンク・Ⅱは、物言わぬ鉄屑として余生をこの森で過ごすより無いのである。

 

 一体この世界に、何が起こっているのか。

 竜と蜘蛛を見比べながら、アイエフとマジェコンヌは同時に戦慄する。

 かつてモンスターは、マジェコンヌがこの世界に齎した。

 自然生物とは異なるそれは、瞬く間に世界中で蔓延り跳梁跋扈したのである。

 

 そして今。

 

 それらが人間の予想もつかぬ行動を見せ、世界を混乱させている。

 

 では一体それは何が原因だというのか。何者の仕業だというのか。 

 

 人智を超えた、何か途方も無い事が起ころうとしているのではないか。

 そう思えてならないのである。

 

「まあまあ、こむずかしい話はあとあと! あいつをやっつければ帰れるんでしょ?」

 

 武器である剣を構えながらのそのネプテューヌの一言が、二人の思考を断ち切った。

 

「だったら早く終わらせようよ!」

 

 言うやいなや、一番乗りとばかりに身を乗り出す。

 目指すは眼下、この森を荒らし居座る邪竜――エンシェントドラゴンへと斬戟を見舞う為、ネプテューヌは跳躍した。

 

 

 

 そう、長尾驢のように。

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