ダンジョンにメイドが居るのは間違っているだろうか   作:taimanman

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 前作読んでくれていた方はお久しぶりです。そんなの見たことねえよボケという方は初めまして。Taimanmanと申します。
 ダンまち好きのしがない字書きです。
 この駄作が少しでも皆様の好みに刺されば幸いです。
 それではどうぞ。


だから私は貴方に願った

 最後に覚えているのは、村を出る前の知り合いのおばさんとの会話だった。

 

「別にいいよ、見送りなんて来なくたって。どうせ今日の夜には戻ってくるんだし」

「まあまあ、来る必要はないけど来ちゃ行けない理由もないだろ?」

「それはまあそうだけど」

「どうせそんなに時間がかかるわけでもないんだし、見送りぐらいならするさ」

 

 あの日、私は村を出ていた。必要なものがあって、でも小さな村では手に入らなかったから少し離れた街まで買いにでかけていたのだ。

 偶然朝出かける前に知り合いのおばさんと出会ったので、彼女と少し話した後に村を出た。今思えば、あの人が一番最後に会っていた村の知人だった。

 

 それは突然で、なんの前触れも無かった。

 誰も、平和な村にそんな化け物が来るとは考えても居なかった。

 そのたったひとつの存在が、己たちの長閑(のどか)な暮らしを壊すとは、夢にも見ていなかった。

 その怪物(モンスター)は、唐突に、すべてを奪っていった。

 住んでいた家々は半壊し、家畜を飼っていた小屋が潰され生き残っていたものたちは辺りに散らばって逃げ惑っていた。集落を囲む柵は元から無かったかのように消え去っていたし、それ以上に周囲に点在する巨大なクレーターの数々がその存在の脅威を物語っている。

 当時用があって村を離れていた私が帰ってきた時に見たものの全ては、瓦礫の山だった。

 全てが壊され無事な姿のものは何も残ってはいなかった。

 でも、まだ心は壊れていなかった。だって私はまだ村の誰にも会っていなかったから、よく私に格好つけていた昔馴染の少年も、何度も恋なんてものについて語ってきてはいつか自分にも素晴らしい英雄が現れないかと夢見ていた少女も、毎日朝早くからパンを焼いていた気さくなおばさんも、私が考えていることを何度も聞いてきては感心して褒めてきた白髪の老人も、他の多くの知り合いだって、だれも姿を見せていなかった。だから私は既に壊れきった、村だった場所を彷徨い続けた。彼らを探すために、崩れそうになっていた足を運び続けた。

 ――瓦礫の下に溜まった、血の池には目を向けずに。

 

 そしてとうとう、見つけてしまった。

 村の真ん中に溜まった赤い液体。その中に見覚えのある人が寝ていた。

 それは朝村を出た時に話していた彼女だった。

 

「ねえ、なんでそんなところで寝ているの? 風邪引いちゃうよ。起きて……」

「………………」

 

 彼女は何も喋ってくれはしなかった。

 当たり前だと思う。その目にもう光は無かったから。

 それでも私は鉄の匂いがする赤水の上に膝をついて彼女に話しかけていた。

 彼女は、変わらず黙ったままだ。

 

 やがて私の履いていた脚長のズボンが真っ赤に染まった頃に、ソイツはやってきた。

 目の前に立っていたソイツは意外と大きかった。

 近づいてくるまで気づかなかったのが不思議なくらい、とても大きいナニカだった。

 ズンッズンッと音がして、それで上を見上げたその後から、記憶がなくなっている。

 

 気づいたときには、下半身だけじゃなくて体中全身を真っ赤に染めたまま、ピクリとも動かなくなった穴だらけ大きな怪物と一緒に村があった筈の更地の真ん中で立ち尽くしていた。

 その後も、殆ど記憶はない。

 呆然としながら、ただ一つだけ使命感のようなものに突き動かされ、平になった村の跡地に小さな墓を作った。

 それを終えたあとは、ふらふらとどこかに歩いていった気がする。

 

 ――あの時から何日も立っていた。

 私はいろんな場所を巡る旅をしていた。

 行く宛がなかったとも言う。どこに行っても化け物のような目で見られる私は、どこか一つの場所にはいられなかったのだ。

 そこで初めて気づいた。

 私は天才なんだって。

 村の皆よりも優れていたのは分かっていたけど、世界は広くて私以上の存在だっていくらでもいるんだと思っていた。

 けど実際にはそうではなくて、私の才はどんな場所に行っても誰より秀でていた。

 小さな私が町一番の兵士を片手一本で地にねじ伏せた時、町一番の賢人として知られる老夫を知恵比べで負かした時、何よりも街を襲ったモンスターの群れを一人で壊滅させた時、誰もが揃って私を化け物を見る目で見てきた。

 失ってみて初めて気づいた。

 あの村の皆は、途轍もなく優しく、私をちゃんと見てくれていたのだと。

 

 出会う先で誰もが揃って私を恐れの目で見てくる内に、いつの間にか私の顔から笑顔はなくなっていた。

 それが原因で更に私を恐れる声は増した。

 ピクリとも顔色の変わらない不気味な少女として。

 そうして、どんどん私は一人になっていった。

 

 そんなある日、いつも通り適当に旅をしていた時だった。

 ある山の村落にたどり着いていた。

 出会ったばかりの人達は私のことを不気味がらない。そんなことが今の私には救いだった。

 それでもすぐに私を恐れることになる。

 誰も私を知らないうちにこの村を出よう。そうやって悲観して村を見て回っていた。

 そんな時、村の外れに小さな家が立っているのを見つけた。

 村からはそれなりに距離があるものの、この村の一部であろうその家が少し気になって、少し村の人に尋ねてみるた。

 案内してくれていた男性曰く、あの家には一人の老人とその孫の少年の二人が住んでいるらしい。

 二人は元々この村の出ではなく、つい数年ほど前にこの村にやってきたのだという。

 だから少し離れた場所に家を立てて、そこで暮らしているとのことだ。

 私と同じく故郷を出ることになったというその経緯を持った二人に、少し興味が湧いていた。

 だから私の足は自然とその家に向かっていた。

 

「ベル、頼んだぞい」

「わかった!すぐにとってくるね!」

 

 家の近くまで来ると中からは声が聞こえてくる。

 どうやらお年寄りの誰かが孫の少年になにかの使いを頼んだようだった。

 そしてすぐに家の扉が開く。

 出てきたのはうさぎと見紛う白い少年だった。

 珍しい容姿の彼に目を寄せていると、すぐに彼もこちらに気づいてきた。

 

「あれ? おねえさんだぁれ?」

 

 知らない私に対して不思議そうに首を傾げている。

 そんな少年の姿が微笑ましく、気づけば久方ぶりに少し顔の筋肉が和らいでいた。

 

「!?」

 

 そんな私に少年は顔を真っ赤にしていた。

 自分で言うのもなんだが、私は見た目がいい。

 というか私以上の容姿をした存在を見たことがないので相当美人なんだろうという自覚はあった。

 そんなだから旅先でよく顔を見られることはあったし、なかにはねっとりとした視線を感じることもあった。

 それを不快に思うこともあったし、煩わしさを感じたこともあるが、不思議とこの少年に対してはそんな気持ちを抱くことはなかった。

 きっとそれは少年の顔が笑ってしまいそうになるほど真っ赤に染まっていて、嫌な感情一つ抱いていない純粋な視線を向けられているとわかったからだろう。

 彼が私に見惚れているのは少しこそばゆかったけど、なんだか気分が良かった。

 ふとこの少年の姿が昔故郷で私に格好つけていたあの男の子と重なった。

 格好悪かった彼と比べるのはこの少年にはとても失礼だけど。

 そう思うと少し可笑しく思える。

 けれどすぐ昔の記憶を思い出してしまい、うっかり目尻を下に下げてしまった。

 寂しさと、懐かしさが混じり合ってなんとも言えなくなる。

 そんな私の変化に気づいたのだろう。少年は、赤くしていた顔をキョトンとさせて、こちらに近寄ってきた。

 そして目の前まで来ると、おずおずとしたまま顔をあっちこっちにやって、う〜んと悩んだあと、

 

 私の体を抱きしめてくれていた。

 

「えっ?」

「あ、あの、おねえさんかなしそうだったから、おじいちゃんに女のひとがかなしそうにしてたらこうやってだきしめてあげろっていわれて、それでこうしなきゃって、」

 

 だからごめんなさい、と――

 たどたどしく、けれど優しさを持って少年は私に話しかけてくる。

 小さくて私の背中にも届かないけれど、その手は確かに私にぬくもりを与えてくれる。

 誰もいない世界に居た私を、この子の手は引っ張り上げてくれた。

 

 どうしようもなかった。

 瞳から溢れるものを止められなかった。

 せっかく抱きしめてくれる優しい少年にぽたぽたとそれが垂れてかかってしまうのに、腕で拭ったって顔をつねったって手のひらで顔を覆ったってその涙は止まってくれなかった。

 今日までずっと一人だった。

 話しかけてくれる人はいても誰も私に触れてくれはしなかった。

 もう遥か太古の記憶にすら思えるほど掠れていたあの故郷の記憶が蘇ってくる。

 彼らは皆私に微笑んでくれていた。

 今抱きしめてくれている少年は、私が一人ではなかったのだと、その暖かさをもって教えてくれていた。

 

 ふと、昔の記憶を思い出した。

 たった一言、よく話す知り合いの少女が私について聞いてきただけ。

 

「あなたは将来何になりたいの?」

 

 あの時はその質問に答えられなかった。

 正しい答えを導き出すことができなかった。

 生まれて初めて誰かからの質問に答えを返すことができなかった。

 

 聞かれたことは簡単で、ただ私の思い描く将来を教えて欲しいというだけ。

 だけどそのたったそれだけのことが私には全くできなかった。だって自分の将来なんて考えたことが無かったから、自分のなりたい自分なんていうものがカケラも想像できなかったから、あのときの私には何も答えることができなかった。

 でも、今なら答えられる。

 たった今私にはやりたいことができた。

 何が何でもなりたいものが見つかった。

 だから私は目の前の少年に尋ねていた。

 

「あなた、は、あなたの名前は、何ですか?」

「え?」

「あなたの名前を、私に教えてくれませんか?」

 

 そう聞くと、彼は聞かれたことを理解したのか、ぱあっと花が咲いたような笑顔を浮かべてこう言った。

 

「ベル! ぼくのなまえは、ベル・クラネル!」

 

 きっと私はこの先永遠に今日この時を忘れないだろう。

 そんな事はありえないとわかっていても、今ならば死んで神々の手で生まれ変わった後でもこの出来事を覚えていると思えた。

 私にとっての全てを与えてくれた少年。

 彼に私の全てを捧げようと決めた日。

 

「私をあなたに仕えさせてもらえませんか?」

 

 だから私は、彼、ベル・クラネル様に、そう願ったのだ。




 告知。
 あらすじでもかいたけどカクヨムの方のオリジナルの作品をどうかよろしくお願いします。
 ナメクジの私に少しのお情けをください。
 どうかどうかよろしくお願いします。

 勇者、ムカついたので魔王さらってみます
https://kakuyomu.jp/works/16817330654569984707
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