第二新東京市。数日前に事件の起きた繁華街において、大規模なデモが行われた。デモの参加者は皆一様にマスクで顔を隠しており、手に持つ旗やプラカードには過激な言葉が刻まれている。
《ハイブリッドを許すな!!》
《感染者に人権はない!》
《ハイブリッドも感染者も全て殺せ!!》
『国連も!対ハイブリッド特務機関NERVも!甘すぎぃる!!ハイブリッドに対して人権なんて認めて、ゴーゴム党なんて感染者達の政党まで作って!全くもって我々国民、いや、人類のことを考えていなぁい!!』
デモの先頭にいる男がスピーカーを使い、それに従うデモ隊が「そうだーっ!」と大声で応える。半ばカルトのような異様な熱に当てられた、狂信者のごとき集団であった。
『数日前!たった数日前ですよ!?ここで一体何人の尊い命が失われたと思いますか!?これも全て、ハイブリッドを、感染者を根絶やしにしなかったからだ!さっさと皆殺しにしていれば!こんな犠牲は起きなかったんですよ皆さん!?』
先頭の男がデモ隊を、それを遠巻きに眺める民衆を煽る。彼らは熱に浮かされ、警察の敷いたルートを外れ始めようとしている。デモ隊の進行を止めるため、警察が列を成して行方を阻んだ。
『ほら、こうだ!私たちが何か間違った事を言ってるのか!一市民としての意見を言っているだけだ!なのに権力は我々を抑えようとしている!今こそ我々は!こういった権力の圧力に屈してはならなぁいッ!!』
デモ隊が無理やり警察の隊列を抜けようと力を込める。警察の背後には一般市民と共に、感染者。つまり、ハイブリッドと同様にセカンドインパクトの影響を受けながら、未だ人間性を失わない者達がいた。警察はそういった被害者である感染者を、強烈なデモ隊から守っていたのだ。
その行動がデモ隊の反感を買い、守られていた感染者たちはデモ隊に反発する。
「ふざけるな!俺たちは人間だ!姿が変わっちまっただけで、なんでお前らに殺されなきゃなんないんだ!」
「そうだ、そうだーっ!!」
『やかましいんだよ怪物どもが!姿が変わったぁ?もうその時点でお前ら人間じゃねぇんだよ!!お前らの同胞が人を殺してんだろうが!その時点でお前らみぃんな同罪だ!!』
「なんだとこの野郎ッ!!」
感染者の一人が、デモ隊の男の声にキレた。ハイブリッドとして人間を上回る膂力を持った感染者は、自らを守っていた警察を弾き飛ばし、デモ隊に襲いかかった。
「バカ!やめろぉ!」
警察官の制止の声も聞かず、感染者の獣のような鉤爪がデモ隊の一人を切り裂こうとした時だった。
パァンと、乾いた音が響いた。
「え・・・・・・、アレ・・・?」
「馬鹿者ぉ!誰だ、撃ったのは!」
感染者の脇腹から血が流れていた。
「ご、ごめ、ごめんなさい・・・ごめんなさい!」
「やめろ!撃つな!」
「ごめんなさいぃいい!!」
撃たれた感染者が背を向けて走り出す。その背中を、恐怖に襲われた一人の警官が何度も、何度も何度も撃った。
「あああああああああああああああああ!」
感染者が断末魔をあげて地に伏せる。命を終えた感染者の姿が、元の人間だった頃の姿を取り戻した。その姿は、まだ幼い子供であった。
「うあああ!やりやがったなぁ!!」
『いいぞぉ!そうだよ!そうやって皆殺しにすればいいんだよぉ〜』
「ちくしょーっ!よくも俺のダチを!!」
『ほら皆さん!聞きましたか!?アイツら仲間意識を持ってる!また集団で襲ってくるぞぉ!!』
「双方共にやめろぉぉおおお!!」
感染者たちの怒り。デモ隊の煽り。一般市民の悲鳴に警察官の怒号。街は一瞬にしてパニックに陥っていた。
これが2015年の日本の、世界の姿。人間とハイブリッド、そして、その中間にいる感染者たちが織りなす社会像。互いの間には埋め切ることのできない溝があり、それは明確な対立となって、全世界を巻き込んだヘイトクライムを引き起こしていた。
その騒ぎを横目に、一人の少女が何かから逃げるように、人目を避けるように歩いている。だが少女の見た目は特徴的で、一度見れば忘れられないだろう。
晴れ渡る青空のような髪、そして白磁の肌と赤い目。そんな見目麗しい少女であった。少女は騒ぎに巻き込まれないよう、急いでその場を後にする。
その姿を見ていた者がいた。繁華街にあるチェーン店の蕎麦屋で、かけ蕎麦を啜っていた少年。その目は死んだ魚のようでいて、しかし確実な殺意を宿していた。窓ガラス越しに少女の姿を捉えた黒髪の少年は、最後の一口を急いで啜ると、店を出た。
そして、この場を離れようとする少女の後を追うのだった。
仕事のために。
殺すために。
つづく