仮面ライダーBLACKMOON   作:サルオ

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 目の前で行われた、人智を超えた怪物同士の醜い争い。血が、苦鳴が、肉片がばら撒かれるその瞬間を何度もリフレインしながら、綾波レイは目を覚ました。

 

「ここ・・・・・・どこ・・・・・・・・・?」

 

 レイが目を覚ましたのは、電車の中であった。自分はどこかに運ばれているのだろうか。いや、それにしては揺れが無さすぎる。それにこの空間は、なんだか妙に生活感があるような・・・・・・。

 

「んんん・・・・・・」

 

 車両の奥、優先席付近から誰かの呻きが聞こえた。レイはとっさに息を殺し、成り行きをじっと見守っていたが、どうやら今の呻きはただの寝言らしかった。よく見れば、優先席からは男のものだろう頭と、座席から投げ出された手足が見える。

 レイは自分の寝転がっていた座席からゆっくりと起き上がると、ジッと車内を見渡した。何かの薬品の匂いが鼻に付く。どうやらこの車両は先頭車両らしい。運転席と思われる部屋のドアは開け放たれていて、そこを覗けば簡易コンロや水道、焦げたフライパンに綺麗に磨かれた包丁、まな板などといった料理をするための器材の数々。かなり質素ではあるが、キッチンという事だろう。

 運転席から振り向けば一番手前の座席には一人用の小さなテーブルが備え付けられていて、朝に使ったのだろう汚れた皿とフォークがそのまま置いてあった。

 朝。そこまで思い立ったレイは窓の外を見た。自分が気を失ってから、どれだけの時間が経ったのだろう?窓から見える景色には朝霧が満ちており、陽光がその隙間を照らす。察するに、自分は最低でも1日は気絶していた、ということだろう。

 この霧では、自分がどこにいるかも分からない。そこまで考えて、綾波は再び散らかった車内へと視線を戻した。自分の所持品はどうなったのか、とキョロキョロと車内を見回す。

 幸いな事に、自分のカバンはすぐに見つかった。足の踏み場もない、というほどではないが、包帯やガラクタなどが散らばった車内をゆっくりと歩き、音を立てないようにカバンに近付く。カバンは、男の寝ている優先席の足元にあった。

 どうにか忍び足でカバンの元まで辿り着いたレイは、その横で眠っている男の顔を見た。男、というには、その顔は幼すぎた。年端も行かない少年が、苦悶を浮かべて眠っていた。

 

「う・・・・・・、うぅ・・・・・・」

 

 悪夢にうなされているのだろう。少年は時折り首をイヤイヤと振り、何かに必死に抗っている。その顔を、どこか不思議そうに見つめるレイ。

 

「・・・・・・あなたは、だれ?」

 

 小さく、レイはつぶやいた。黒く中途半端な長さのボサボサの髪。だがそれに反して、少年の顔は妙に整っていた。上半身に着ている薄いTシャツは適度に盛り上がっており、この少年が日頃から体を鍛えていることが窺える。腕も、ムキムキとは言わないが、細くしなるような筋肉を纏っていた。例えるならば、カモシカのような美しさと強靭さを兼ね備えたような、そんな腕だった。

 

「やめ、やめ、て・・・・・・と、うさん・・・」

 

 少年の手が宙を泳ぐ。顔を覗き込んでいたレイは危うくその手にぶつかりそうになり、咄嗟にのけ反った。その手はしばらくの間、宙を漂っていたが、やがて力尽きたようにパタリと少年の体に着地した。

 

 その顔をなぜか見つめ続けるレイがいた。不思議なことに、レイはこの少年に見覚えがあったのだ。先ほど襲われたときに刻みつけられた恐怖の記憶とは別に、もっと昔からこの少年を知っていたような、不思議な違和感があった。眉間に皺をよせて苦しむ顔が、誰かに似ているような気がして・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・・・・お父さん?」

 

 

 

 レイは自分にとっての懐かしい呼び名を口にした。

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

 第二新東京市の繁華街の外れは、ちょっとした騒ぎになっていた。白昼堂々と起きた爆発と、そこに残っていた大量の血痕、そして肉片。ここで何かが起きたのは間違いない。

 現場に集まった野次馬をこれ以上近付かせないように、対ハイブリッド特務機関NERVのエヴァンゲリオン02部隊の面々が現場周辺にキープアウトの黄色いテープを貼っていく。

 

「ったく。エリートのアタシがなんでこんな下っ端みたいな事を・・・」

 

「事実、下っ端だからな。実力や功績があっても、お前が部隊で一番若いんだ。それくらいはやってもらわないと、な♪」

 

 愚痴をこぼしつつ作業するアスカを、隊長の加持が苦笑しながらも宥める。それに対してアスカは口を尖らせる事で不満の意を示していた。

 

 周囲の野次馬達は気付く。この場に現れたのが警察ではなくNERVである以上、この事件は十中八九ハイブリッドが関係しているだろうと。つい先日に発生したハイブリッドの民間人襲撃事件。それが否が応でも脳裏によぎる。

 

「ていうか、アタシ達が出張ってきたから騒ぎが大きくなってんじゃないの?」

 

「仕方ないさ。実際ここで起きたのはハイブリッド同士の戦闘だろう。いや、もしかしたら感染者同士の諍い、かもしれないけどな」

 

『残念ながら、事はもっと重大みたいよ』

 

 二人のやり取りに、通信のザザッという雑音と共に割り込んだのは、NERV司令官の葛城ミサトの声だった。

 

「どういう事だ、葛城?」

 

『今回の出動。要請してきたのはSEELEよ。それと、ゴーゴム党からも、ね』

 

「なんだと・・・・・・?」

 

 応答した加持に驚きの事実が告げられる。SEELEはNERVの上位組織。そこがこんな事件に直接指示を出すなど考え辛い。部隊はまだ到着したばかりで現場検証もロクにできていないのだ。それなのにSEELEが出動要請をしたという事は・・・・・・、

 

「アイツら、ここで何があったか知ってるってワケね・・・・・・」

 

 流石にアスカも緊張を隠せない。日頃から鉄火場で鍛えられているアスカをしても、この事態は異常であると瞬時に理解できた。

 

『その通り。SEELEとゴーゴムの奴ら両方から、同じ答えが返ってきてるわ。ここに居たのは間違いなく使徒、だってね』

 

「使徒ぉ!?」

 

 アスカの声に驚きと、怒りが混ざった。

 

 全人類を破滅に導き、自分たちの楽園を築こうとしている集団『使徒』。彼らが何者で、いつから存在していたのかは誰も知らない。だが、セカンドインパクトの後、世界中でテロ行為を行なっている集団である。メンバーの大半が感染者であり人外の能力を持つ者達だが、その上位メンバーは感染者やハイブリッドを凌駕する力を持つと言われていた。

 

 そして、アスカの母親は直接的にではないにしろ、使徒と関わった事で命を落としている。

 

「ようやく、アタシの手の届くところにまで来たってワケね・・・・・・」

 

 アスカの目が吊り上がる。復讐の相手がようやくその片鱗を見せたのだ。アスカの胸中には憎悪の炎が渦巻いていた。

 

 しかし──、

 

『アスカ。残念だけど、その現場で死んだのは使徒のほうだそうよ』

 

「はぁ!?」

 

 アスカが驚愕の声を上げる。ハイブリッドを凌駕するほどの力を持つ使徒。それを殺した者が、別にいる?

 

「そんなヤツ、いるわけないでしょッ!?」

 

『怒鳴らないでよ・・・私だって信じられないんだから。でも二つの組織からおんなじ情報が出てんのよ?信憑性はあると思うわ』

 

「・・・・・・葛城。殺ったヤツはわかってるのか?」

 

 加持が緊張の面持ちでミサトに問いかける。

 

『・・・・・・エヴァンゲリオン01号』

 

「・・・なに?」

 

「はっ!それってつまりテスト機ってことでしょ?そんな奴が使徒を殺れるワケないでしょ!?」

 

『違うわ。エヴァンゲリオン01号は意図して作られた改造人間。あなた達エヴァ部隊が着ているスーツとは違う。使徒を殺すために作られた人造兵器よ』

 

 改造人間。その眉唾物の単語に、アスカは顔を顰めた。それを他所に、加持は話を進めた。

 

「・・・ソイツの場所はわかるのか?」

 

『残念ながら・・・・・・』

 

「どっちにしろ、しょっぴけって事ね。それとも〜、殺っちゃってもいいの?」

 

 復讐に駆られたアスカが獰猛な笑みを浮かべるが、それをミサトは諫めた。

 

『できればしょっぴいて欲しいけど、多分、殺すのもしょっぴくのもシンドイわよ?』

 

「舐めないでよね。アタシはNERVのエリートよ?そんな生意気なテスト機ごときに遅れをとるもんですか!加持隊長!」

 

「・・・なんだ?」

 

「これからアタシは単独捜査に移ります。よろしいですね?」

 

「・・・・・・ほどほどにな」

 

「舐めないでっていってるじゃない」

 

 加持の返答を聞いたアスカはそう告げると、アスカは鼻息荒く、その場を立ち去った。そんなアスカを横目に、隊長の加持が確認する。

 

「ゴーゴムは誰からその情報を得た?」

 

『・・・渚カヲルよ。覚醒したらしいわ。そして、忽然と姿を消した』

 

 ミサトの返事を聞いた加持は懐からタバコを取り出して火を付けると、実に不味そうに煙を吸った。

 

「厄介ごとの匂いしかしないな・・・」

 

 

 

 

 

つづく

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