封印士アリア
アリアは小さな村に住む若い少女だった。ただ一つ普通では無かったのは、彼女が両親の形見であるブレスレット――大きなダイヤモンドがはまった魔法の道具を持っていたことだった。
そのブレスレットが持っているのはモンスターを一種類につき一度だけ封印しカードにしてしまう力。これを時折村を襲うモンスターに対して使うことで、アリアは皆が幸せに生きていけるのだと思っていた。16歳になる、その時までは――。
***
ある日のこと。
「これで5枚目かあ…。一週間前に使ったばっかりなのに」
アリアの手元にあるのはモンスターの絵柄がある5枚のカード。ゴブリン、スライム、ゾンビ、ホーンラビット、そしてスケルトン。封印の力を使う機会は精々数ヶ月に一度あればいい方だったというのに、前回と今回との間隔はたったの一週間だった。
『うむ、どうやらお主の持つ運命が強まっているようだな』
アリアの呟きに応える声があった。それは彼女の持つブレスレットから発せられたものだった。彼女はこのブレスレットを両親から譲り受けた時からずっと一緒なのだ。
「強まっても困っちゃうよー。そんな運命。だって私まだ彼氏だっていないんだもん!」
『……そうか』
「そうなんだよ! って何? 今の間は?」
『いや、なんでもないぞ?』
アリアの声に答えたのは女性とも男性とも取れる中性的な声音だ。それがどこか呆れたような口調なのは気のせいでは無いだろう。
『しかし今回のモンスターはそこそこ強力な部類に入るぞ。今までの奴らはお主に歯牙にもかけられなかったというのに』
「そうだよねえ。ただのゾンビならともかくスケルトンだもん。でも大丈夫だよ。私の魔法があれば追いつかれっこないもの」
『まあお主なら心配はいらんだろうが……』
「それにしてもなんで急にスケルトンなんて出たのかしらね?」
『わからぬ。だがお主が運命に導かれていることだけは間違い無いようだ』
「うんめい~? それって良い事なのか悪いことなのかどっちなの?」
『さて、我には分からぬ。だがお主の両親の行方と関係しておるのかもしれぬな?なにしろ運命が導く相手だからな』
「…………お母さん達……」
両親のことは大好きだったが、唯一悲しかったことがあるとすれば両親が行方不明になってしまったことだ。あの日以来、両親は帰ってこなかった。もし生きているならばきっといつか会いに来てくれるはずだ。
『とにかく今日は休め。運命であるのなら、明日にでも忙しくなるかもしれぬぞ』
「はいはいっと」
言いながら、アリアは自宅への道を歩き始める。その背を見つめる視線に気付かぬまま。
こうしてその日の夜は何事も無く更けていく。
しかし『運命』はもうすぐそこにまで迫っていたのだった。
***
次の日の朝、アリアはやや遅くに目を覚ました。
「ん……あれぇ? なんか外が騒がしい?」
まだ寝ぼけた頭のまま窓の外を見る。するとそこには――
「なっ!? 何これ!!」
思わず叫び声をあげてしまうほど異様な光景が広がっていた。遅くに起きたというのに空は曇り、村全体が薄暗くなっている。その上、異様な雰囲気の霧が村を覆っており、そのせいで視界が悪い。まるで世界そのものが変わってしまったかのような事態だ。
「
一体何が起こって……きゃあっ!」
突然、家が大きく揺れた。地震だろうか? だがこんなに大きな揺れは生まれて初めてだ。
「な、何が起きてるっていうのよぉ!」
混乱するアリアの前に再び霧が立ち込めてくる。それと同時に――
「ギィイイイッッ!」
甲高い雄たけびと共に窓から入ってきた何かがいた。それは人型の怪物だった。黒いローブを纏った骸骨のような姿。手に持っているのは大きな鎌だ。
「ひっ!」
悲鳴を上げるアリアの耳にブレスレットの怒声が届いた。
『起きているのなら避けろ!グリムリーパーだ!』
「え? 何? どういうこと? ってわぁああああっ!」
混乱しながらもなんとか身を捻って攻撃を避けるアリア。同時に部屋の中にいたグリムリーパーの姿が消える。どうやら逃げていったらしい。
「今のってモンスター?」
『当然だ。あれぐらいならばまだ、すぐにでも封印できただろうに…』
「そっか。そういえばそうだった」
『……どうやらまだ寝ぼけておるようだな』
呆れたように言うブレスレットを尻目に、アリアは自分の姿を見直した。パジャマのままでいるわけにもいかないだろう。幸いなことに、クローゼットの中には動きやすそうな服が一揃い入っていた。
「よし! 着替え完了っと」
そうこうしている間にも、村のあちこちでは戦闘が起こっているような音が聞こえていた。
「うーん……。このままじっとしてても仕方が無いよね? 私も行かなきゃ!」
『だが無理は禁物だぞ。特に今回は』
「分かってるって! じゃあ行くよ!」
ブレスレットの言葉に元気よく返事をしたアリアは、そのまま家の外へ飛び出した。
***
外に出るとそこはまさしく戦場さながらだった。
中を舞うグリムリーパー達が暴れまわり、村人達は必死になって応戦していた。しかしほとんどが元々戦士ではない村人に対し数で勝っているモンスター達の方が優勢である。
「これはちょっとまずいかも……?」
『うむ。お主の力が必要になるやもしれんな』
「そうだね。でも私攻撃魔法なんて使えないでしょ!封印できるのも一体だけだし…。こんなにいたなんて…」
アリアは、村人達の援護をするべく近くの村人に襲いかかろうとしていたグリムリーパー一体を封印する。だがそれ以上は不可能だった。ブレスレットで封印できるのはモンスターごとに一体だけなのだ。
だが、ブレスレットは落胆することもなく答えた。
『ふむ。ではワシのもう一つの力を教えてやろう。そら、今回は…ゾンビにスケルトン辺りが良いか。宝石にかざしてみるが良い』
「え?わ、わかった」
アリアは言われるままにゾンビとスケルトンのカードを取り出し、ブレスレットへと近づけた。すると……
「……嘘……!?」
なんと、二枚のカードは光となって消えてしまったのだ。そして一瞬後、その場に新たな存在が現れる。
現れたのは2体のアンデッドモンスター。
一つは、腐りかけた肉体を持つ醜悪な怪物。その姿はまさに動く死体といった風情だ。
もう一つは、ボロ布に身を包み錆びた剣をもった骨だけの魔物。その眼窩には怪しい光が灯っている。
『これがお主の持つカードの本来の使い方だ。お主の魔力を媒介にして、カードを実体化させることができる』
「す、すごい……」
『まあお主はまだまだ未熟だからな。今はせいぜい1日に3枚までしか使えぬだろうが、それでも十分だ』
「うん! ありがとうね、ブレスレット」
『礼などいらんから、早く戦うよう命じろ』
「あ、そうだった。さあ、行って!」
アリアは気楽に答えると、近くにいたゾンビに狙いを定めて手を伸ばす。するとゾンビとスケルトンはそれぞれにグリムリーパー達へ襲いかかった。不意を打たれた形となった敵はあっさりと倒される。
「やったっ!」
『喜ぶのはまだ早いぞ。まだまだ敵は残っているのだからな』
「ええ!」
こうして、アリアは村を守る為に戦い始めたのであった。
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