洞窟の中は暗く、地面は湿気を帯びていた。
アリアはゴブリンに松明を先行させ、周囲を照らしながら進む。
「この先に、黒幕がいるんだよね?」
『ああ。この辺りでは異常に強力な部類のモンスターもいたが、もうほとんど出会わんだろう。だが、とっておきがいるだろう。油断するなよ』
「うん」
しばらく歩くと、大きな広間に出た。その奥の壁には靄で覆われた巨大な結晶が埋め込まれている。
「あれが、霧の元凶……?」
『間違いない。あれを破壊すれば霧は止まる。どういう仕掛けかは分からんが…』
「正確にはその周りの靄が霧を生んでるのよ。あの結晶は単なる魔力源」
その声の方を振り向くと、そこには青い髪の魔女が立っていた。
「貴女が、今回の事件の首謀者ね?」
アリアが尋ねると、魔女は不敵に微笑みを浮かべた。
「ええ、そうね。そういうことになるのかしら。でもね、その前に私の質問に答えてほしいのだけれど?」
「……何を聞きたいの?」
「貴方、どうやってここに来たのかしら? ここに来るには、かなり深いところまで進まないといけないはずなのだけど。まさかとは思うけど……、あなた一人で来たんじゃないわよね?」
「……当然。私はみんなの力を借りて……っ!」
アリアが言いかけたところで、突如として目の前の空間が歪み、そこから大きく開いた口と牙を持つ生物が現れた。全身に半透明な氷の鱗を持つそれは翼こそ持っていなかったが、間違いなく強力なモンスター、アイスドラゴンだった。
「きゃあっ!」
『落ち着け! こいつは今のお前なら勝てる相手だ!』
「そ、そうなの!? こいつ、ドラゴンでしょ!?」
『そうだ! だがこいつはまだ若い個体だ! それよりもこいつらの厄介な点は──』
「遅い! フリーズブレス!」
次の瞬間、口から吐き出された冷気によってアリアの足は瞬時に凍結した。
「あ……う……動けな……」
『焦るな! モンスターを召喚しろ!』
「あ、う、うん……グリムリッパー! スノージャイアント!」
アリアは咄嵯にカードを取り出し、発動させる。出現した漆黒の鎌が迫る竜の首を切りつけ、巨人の腕がドラゴンの頭部を抱え込んだ。
「へえ…。グリムリッパーにスノージャイアント…。見覚えのある上にここらじゃ生息しないはずのモンスターねえ…。つまりやっぱりあなたが封印者…」
「はぁ、はぁ……。それがどうしたっていうの?」
『アリア! お前がモンスターを封印できることは他の連中が知っているわけがないだろう! こいつはお前を狙ってきたのだ!!』
「……そういうこと。こんな場所に単身で乗り込んでくるなんて他にないでしょ。さて、分かったなら封印の力を貰いましょうか」
「そう簡単にはやられない!」
アリアは茨の束を出現させて魔女に攻撃しようとした。だが、その攻撃はあっさりと防がれる…。どころかすり抜け、壁を削っただけだった。
「無駄よ。私達には実体が無いの。だから直接は攻撃することができないんだけど…。それにしても本当に面白い能力を持っているみたいね」
そう言いながらも、魔女はドラゴンに指示を出す。すると拘束を振りほどいたアイスドラゴンがブレスを吹き出し、今度はスノージャイアントの足元の床が凍り付いていく。
「あ……足が……」
「ふぅん。この子も、なかなか強敵を相手にさせてきたけど。まだ甘いわね。あなたも、この程度で終わりなのかしら?」
「そんな、ことは……ない!!」
必死に抵抗するアリアだったが、状況は芳しくなかった。グリムリッパーの鎌は強固な鱗をひっかくだけで大した傷を与えられず、そしてその場を動けない巨人もドラゴンの爪と牙でたちまちのうちに傷を増やしていく。ついにスノージャイアントも動きを止めてしまった。
「これで、もう抵抗はできないようね。あとはゆっくり……」
「させない!」
そのとき、黙り込んでいたアリアが顔を上げて叫んだ。
取り出したカードはシールドメイデン。その力はスノージャイアントと融合し、その両腕に長方形の大盾が装着される。「シールドメイデンの力は、盾になるだけじゃないんだから!」
そのまま足下の氷を破壊し、盾を構えて突進する。だが、氷の鱗を纏うドラゴンは真正面から受け止め、踏ん張った。
「こんなものかしら?」
「まさか」
アリアが不敵に笑みを浮かべると、突然部屋の中に充満していた霧の気配が消えた。
「これは……!? まさか!」
魔女が部屋の奥に目をやると、そこにあったはずの結晶体は茨で覆われており、霧のモンスター【ミスト】も姿を消していた。再びアリアの方を見てみればその手にはいつの間にやら新しいカードがあった。
「いつの間に…。魔力源の結晶体ごとミストを封じていたのか! いや、それよりも…」
『ドラゴンの使役すらも怪しくなる、か?』
その言葉の通り、ドラゴンの目に宿っていた黒い気配が消え去り、力が抜けた体躯は組み合う巨人によってたちまち投げ飛ばされてしまう。そしてもがくその頭部と腹へと重厚な盾がそれぞれ投げつけられて潰れ、胴体には巨大な穴が空いた。
「な……そんな馬鹿な……!」
「……私の勝ちだよ」
「くっ……!」
「逃がさない!」
アリアが追撃を行おうとしたが、一歩踏み出したときにはその姿は消え去ってしまう。同時に、洞窟の中を満たしていた冷気も晴れていった。
「逃がしちゃった……」
『まあ仕方あるまい。どのみち実体が無い相手を取り押さえることはむずかしかったのだ』
「でも、あの魔女……一体何が目的だったのかな?」
『さあな。だが、あの口ぶりだとお前がここに来ることを狙っていたようだ。ともあれ、あのドラゴンを封印しておけ』
「うん。みんなにも報告しないとね」
こうしてアリア達は伝説とも言われるモンスター、アイスドラゴンを下位種とはいえ封印することができたのだった。
『しかし…ドラゴンともなれば今すぐには使いこなすことはできまい。もっと使役の力を熟達させるまでおあずけ、だな』
コモン☆:【ミスト】
エピック☆☆☆☆:【アイスドラゴン(レッサー)】