依頼人を東京へと観光させる為、その日の翌日に黒い車が一台リコリコの前に止まった。
そして後部ドアから車椅子に乗った男性が降りて来る。
その間に黒服の男性がリコリコのドアを開ける。
「お待ちしてました~。あっ」
千束が挨拶をした際に黒服の男性だった為、間違えたのか言葉が止まる。
そして車椅子に乗った老人【松下】が入って来て、零士と大雅が松下の方を見る。
スーツを着た感じにゴーグルをした状態、更に生命維持装置も付いてあることから相当ALSが進行していると見える。
松下が入って来たのをミカが言う。
「遠路はるばる来ていただきありがとうございます」
『少し早かったですかね? 楽しみだったもので』
その際に千束の方を見る松下、その時零士と大雅は松下の様子を少し見て気付き、千束がしおりを渡そうとした時に零士と大雅は千束に言う。
「千束、ちょっと待った」
「え?何零士?」
「データで渡した方がいい」
大雅の言葉に千束は松下の方を見て、その時気付く。
松下はもう手が動かない状態で、恐らく目のゴーグルのみ頼っている様子。
そして黒服の男は松下の指示で下がり、リコリコを後にする。
クルミがPCを使ってしおりの状態をデータ化している中、松下は千束と話していた。
『今じゃ機械で生かされてまして。おかしいでしょう?』
「いえいえ、そんな事無いですよ。私も同じですから、ここに」
っと千束は自分の胸辺りにハートの形をさせて松下に見せる。
それを見た松下は問う。
『ピースメーカーですか?』
「いえ、
「え?」
その言葉を聞いたたきなは驚き、クルミもそれに反応し、それを見た零士と大雅は思わず顔を合わせる。
たきなの反応…恐らく彼女は千束から何も聞いていない様子。
『人工心臓ですか』
「あんたのは毛でも生えてんだろうね」
「機械に毛は生えねぇっての!」
ミズキの言葉に千束は反論する。一方全く知らないたきなはそれを聞こうとした。
「あの!一体どう言う」
「よし、出来たぞ」
『おお、これは素晴らしい』
クルミがデータを松下のゴーグル内に送信し、それを見て感心する松下。
「では東京観光!出発!」
そして出発の時間が来て、千束が松下の車椅子を押し始める。
残されたたきなはミカ達に問う。
「あの…さっきの話は?」
「たきなー!行くよー! ミズキー!車ー!」
「あっ!はい!」
千束に呼ばれた事にたきなは慌てて追いかけ、ミズキは仕方なさそうにしながらも自分の車を取りに行った。
そして零士と大雅は若干呆れつつミカの方を見る。
「おやっさん…」
「アンタな、ちゃんとたきなに伝えておけよ」
「…千束に任せればいい」
「甘いぜおやっさん。あいつその事に関しては一向に喋らないって知ってるだろう?」
零士の言葉にミカは言葉を無くす。
千束はあまり自分の事は喋らない、それは昔からリコリコに居る零士と大雅はよく知っていて、その事には何度も頭を悩まされた事だった。
そして今現在千束の相棒であるたきなにその事を話していないとなれば、この後の展開は予想が付かない。
「おやっさん…大事な事はちゃんと言うのが基本だぜ? 俺からたきなに伝えておくけど、千束にはちゃんと言っておいた方がいい」
「…じゃあ俺達は護衛に向かうから、後はよろしく」
零士と大雅はそう言って大雅のランエボの所に向かった。
「…後でボクにも教えろ」
「…ああ、分かった…(やれやれ…痛い所を突かれてしまった)」
クルミにそう返事した後、ミカは零士と大雅に言われた事に少しばかり反省するのだった。
───────────────────────────────────────────
千束達が松下と共に東京観光している中で、零士と大雅はランエボの車内で軽い食事をしながら対象者の護衛を務めていた。
勿論遠い場所で監視しながら。
「たくぅ…千束の奴、たきなにちゃんと説明して置けよな…ただでさえ真っ正直な子だって言うのに」
「全くだ。千束はあの心臓の事となると全く喋りたくない感じになるし、適当にあしらうから困るんだよな~。相棒だったら尚更話さなきゃいけないだろう」
零士と大雅は菓子パンを食べながらペットボトルのカフェラテを飲み、千束達を見ている。
そんな中で大雅は零士にある事を問う。
「なあ零士…」
「ん?どうした?」
「…お前はどう思ってんだ? 千束の人工心臓の事」
「ああ…その事か。あの心臓は元は誰が送ったのか知らない上に、おやっさんに聞いても答えてくれない…。でも正直言ってあの心臓は俺からすればオーバーテクノロジーだ…、よくそんな心臓を千束は貰えたもんだな」
「そうだな…。おやっさんもそこの所は教えて貰ってもいいのに」
零士と大雅はそんな会話をしながら双眼鏡を取り出して、今現在フェリーに乗っている千束達を見る。
するとたきなが千束の胸に手を伸ばそうとして、それには零士と大雅は驚きを隠せず、思わず無線をオンにする。
『ちょいちょいちょいちょい!!』
『本当に鼓動がしてないか確かめようと…』
『良いけど公衆の面々で乳を触ろうとするな!』
「「…マジ?」」
その言葉を聞いた零士と大雅は思わず言葉をこぼす。
『え? ちょいちょい!零士に大雅!あんた等聞いてたの!?』
「別に聞いてたって訳じゃない。見張ってた時に見てしまっただけだ」
「たきなに伝えてくれ。少しは控えろってな」
『う、うん…って!!お前等はもう少し控えろって!!』
そう言って千束は零士と大雅の通信を切る。
一方的に通信を切られた零士と大雅は思わずため息を吐き、カフェラテを飲むのだった。
そして別の場所では、一台のバイクが千束達の方を双眼鏡で見ていて、今の様子を窺っている様が見えたのだった。