騎士の家に転生したけど海が好きなので船乗りになろうと思います 作:sizuku18
築30年のアパートを出て誰かもわからない政治家の街頭演説を聞き流しながら改札に入る。私のいつもの生活だ。
電車に身を揺らし15分、ところどころ自然がある地方都市から都心へ通勤。その後はいつもと同じ仕事。定時になったら切りのいいところで切り上げ電車で帰る。
夕飯を食べ風呂に入り、溜まっているアニメを消化していく。13時ぐらいになったら寝る。
それの繰り返し。
いつからだっけな。夢を忘れて面白くもなく詰まらなくもない生活を過ごし始めたのは。
子供の頃憧れてた船に乗って世界中を見て回るっていう生活も成長するにつれて無理だと諦めてしまった。誰も決めつけてないのに。
非日常な生活を送る二次元の人間を見ながらそんなことを考えてる。
「ははっ、生まれ変わったら子供の頃の夢みたいな生活をしてみたいもんだ。」
7時のアラーム音でいつも通り目が覚め、出勤する準備をする。
いつも通りの世界、しかし出勤した先の会社はいつもとは違った。
『海外派遣者募集中』
しかし張り出された紙を見てざわめいていたのもつかの間、始業時刻になり社員が働きだすとまた普段通りの世界に戻った。今日も私はいつも通り働く。
12時ごろ、1階のコンビニで買ってきた昼ごはんを食べていると上司から「話がある」と呼び出された。
「黒川君は海外派遣を募集していることを知っているかな?」
「はい」
「君に海外派遣を頼もうかなと思っているのだがどうかな?」
「私は...」
「どうか頼むよ」
「...わかりました。」
どうやら私は白羽の矢が立ったらしい。人生こんなものだ。少しわくわくしている自分に驚きながら仕事を再開した。
どうやらTOICの点数が高い、成績も優秀、性格面でも問題ない、独身という観点から選ばれたらしい。
それからは私は引き継ぎのための資料を作ったり、形式上のお別れ会のようなものをしてついにその日が来た。
空港へ見送りに来た同期と少し世間話をしているとついに飛行機が到着したらしい。
「じゃあ、行ってくる。」
「がんばれよ。」
「おう。」
飛行機に乗り込み、離陸。ちょっと贅沢をしながら窓の外の景色を眺めていると突然アナウンスが入る。
「現在両エンジンが推力を失いました。これから緊急着陸をします。」
戸惑いながら窓の外を見るといつの間にか高度が下がってきていることに気づいた。
動揺を隠せず辺りを見回すと、パニック状態になっている乗客をCAさんがなだめていた。
だんだん高度が下がっていき、ついには海面すれすれのところになった時、私は人生で初めて本気で神に祈った。
強い衝撃とともに飛行機は水面に着地。私たちは助かった。
急いで機体の外に出て主翼の上に待機。生きていることを喜ぶもの、救助は来るのかと心配するもの主翼はあふれ、がやがやしていると1隻の大きな船が近づいてきた。
船の上から作業着を着た人たちが降りてきて、私は救助された。
どうやらこの船は近海で訓練をしていたアメリカ海軍らしく、私はアメリカに連れていかれた。
「Let us collect your smartphone or camera.」
「ok. Here you are.」
スマホを回収され、やることがなくなった私は暇を持て余しながら、アメリカへ着くのを待った。
アメリカに着き所持品を返され、私はカナダ行きの船に乗った。
船に乗り込み出発。潮風に吹かれ、一人で何も考えずに過ごしていると突然船が転覆した。
船内にいていけばよかったものの私は船外にいたので、転覆時の衝撃で気絶。そのまま窒息で死んでしまったらしい。
もはや笑えてくる。誰もいない部屋で一人で笑っていると、ドアの奥からが一人の少年が入ってきた。
「えっと...大丈夫ですか?」
「えっ?まあ大丈夫ですよ。」
笑っている私を見て少し不安になっている少年が私に話しかけてくる。よく見ると彼の背中には真っ白な羽があった。
目を擦りよく見ていると、少年が話し始めた。
「あの、とりあえず死亡おめでとうございます。これから転生させますので念のためお名前を願いします」
「あっはい、黒川海斗です。」
「はい、本人と分かったので転移させていただきますと言いたいところなんですけど...」
「あのすみません。ちょっと待ってもらえますか。少し脳が混乱していて。」
「あっ、そうですよね。いきなりこんなになっても混乱しますよね。じゃあ説明させていただきます。」
それから少年は一つずつ丁寧に説明してくれた。
要約するとこういうことらしい。
1.死んだすべての生き物はここにたどり着き新たな生を受けるらしい。
2.大抵はランダムに世界、国、生き物に転移する。
3.善を積み過ぎている人は神や天使になる権利をもらえる。
4.業を積み過ぎている人は特別な場所へ収監され、罰を受けたのち改善が見られないなら存在自体を抹消される
5.不運すぎたり神の不手際によって死亡した場合はある程度本人の要求通りに転生できる。
6.5のことがない限り、ここでのことや前世の記憶はなくなる。
「海斗さんは大きな善も業もないためランダムな転生となるはずなのですか、短時間で2回も生命に関わる経験をした点と転覆の原因が海の神様にあるという点からある程度転生先の条件を決められますがどうしますか。」
「海の神様何しちゃったんですか。」
「珍しく酒で酔ってましたよ」
「ほんとに何やっちゃってるんだよ。」
「まあまあ、死んじゃった者は仕方ないので早く決めちゃってください」
「はぁ、分かりました。」
わけのわからない事態に少し焦っているが、話を聞くに少年の言っていることはどうやら本当らしい。仕方なく転生先の条件を真剣に考え始めた。
「.................決めました。」
「わかりました。」
「それではこちらの紙に要望を記入してください」
渡された紙に書いて少年に返す。少年は私の要望を書いた紙を見ながら質問をし始めた。
「もう少し要望を増やせますがどうしますか?」
「じゃあ、出自の身分を上げてくれますか?」
「わかりました。」
「ほかに要望はありますか。」
これ以上要望がない私は少し戸惑いながら少年に質問をした。
「ほかの人はどんな要望をしてましたか?」
すると少年は少し考えながら答えた。
「いろいろありますよ。例えば記憶をそのままにしてほしいとか、商人の出自にしてほしいとか、武器を持っていきたいとか、いろいろですね。でも一番あるのは超能力が欲しいって要望ですね。」
「超能力もいいんですか?」
「はい。けど一概にいいとは言えないんですよ。とある人は超能力をもらって転生した結果、異端児として拷問のち死刑になった...って個人情報だから言っちゃだめだ。すみません今の話は忘れてください。」
少年は自分が言ったことに焦り、謝った。私は長考した結果一つ要望を出した。
「目立たない超能力ってあります?」
「ありますよ。」
「じゃあそれでお願いします。」
「わかりました。」
少年は要望を一つ一つ確認したあと、
「それでは転生させます。いい人生を」
と言い、祈ってくれた。
突然、部屋は暗くなり私は意識が途切れた。