【本編完結済みと言ったな、あれは嘘だ 本編改稿中】 混沌怪奇譚 夢幻に生きる者たちよ   作:ラットマンΣ

116 / 120
教導国への旅路とサクルにて

 ———旅立ちから1週間 教導国への道中にて

 

「シズハはさぁ、天獄から来たんだよね? ……魔皇ってさどうなったの?」

 

 私は歩きながらシズハに話しかける。

 魔皇……アキルはあの後どうなったのだろうか? 

 御伽話の天獄は善き行いをしたものには救いを悪き行いをしたものには苦痛を与えるとされている。

 ならアキルは……

 

「良くも悪くも半々ってところですかね。彼女の犯した罪と彼女の成し遂げた偉業は両方とも凄まじいものです。ですが、悪き魔皇としてのアキルを天獄の住人の()()()()は受け入れられずに迫害気味です」

 

「そんなの酷い! アキルは———

 

「ええ、()()()()は迫害気味ですが、生前の彼女……いや、魔皇ではない蒼葉アキルを知るものたちは彼女を手厚く迎えました。彼ら彼女らは皆アキルに一度殺されてなおアキルと共にいることを良しとした。それは彼女にとって何にも勝る救いでしょう。……彼女は今天獄の館で古き友たちと共に静かに暮らしていますよ」

 

「……良かった」

 

 その話を聞いて思わず言葉がこぼれる。

 魔皇としてのアキルは確かに最低最悪だ。

 けど、最後に私たちと共に戦い、私たちを助けた彼女は紛れもなく善人だった。

 神話の時代から続いた68億年にも及ぶ魔皇との戦いの歴史、それは言い換えれば彼女が一人で戦い続けた歴史でもある。

 無限にも思える時間の中操られ、友を殺し、人を殺し、それを傍観することしかできない苦痛。

 そんな中でも彼女は折れなかったのだ。

 私たち(自分を倒す者)が現れるまでは決してその魂を堕とさなかったのだ。

 そう思うと彼女が少しでも救われたのが嬉しい。

 

「にしても、まさかアリスさん達に心配されてるとはアキルも思わないでしょうね。あの人、根が真面目すぎてネガティブになりやすいから」

 

「……! ってことはシズハもアキルの友達なの?!」

 

「……ええ、アキルが魔皇の頃はそれさえ忘れてただ敵として戦いましたが……それでも彼女は私を友だと言ってくれましたよ。全く、本当に生真面目で優しい人です」

 

 どこか嬉しそうにシズハは語る。

 

「ねぇ、昔のアキルの話聞いてもいいかな?」

 

「あ! それ俺たちも気になる!」

 

 ジニス達もそう言ってシズハに聞く。

 

「ええ、いいですよ。旅はまだ長いですからね。話しながら歩みましょう」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ———一ヶ月後 教導国サクル周辺

 

「着いたー!」

 

 白い城塞に囲まれた南の大国、『教導国サクル』。

『教会』の教えを信じ、また他宗教にも寛容で聖職者や信者たち、駆け出しの冒険者が集まる活気にあふれた国だ。

 

「さて、私は()()姿()()()()()()

 

 シズハがそう言うと姿が半透明になっていく。

 

「貴方達には見えるし聞こえますが他の人間には見えないし聞こえないようにしました」

 

「何でわざわざそんな事するの? 普通に調査すればいいじゃん」

 

 シズハは私の問いに対し絶句した後頭を抱えて答えた。

 

「アリス、サクルは『教会』の教えを信仰しています。そこに神話の時代の英雄が現れたらどうなりますか?」

 

「そりゃ、お祭り騒ぎに……あ」

 

「そう言うことです。ろくに調査もできなくなります。ですから私は姿を隠すのですよ」

 

 なるほど、言われてみればそうだ。

 信者からしたら神様が出てくるのと同じなんだから。

 うん、納得。

 そうして私たちはサクルに入国した。

 勇者パーティーだったからか顔パスで通して貰えた。

 ちょっとお得だね。

 

「さて、では各自周辺調査と行きましょう。集合場所は2週間後にマサ町の中心の噴水で、それでは解散」

 

 シズハの一言で私たちはそれぞれサクルを調べる為解散した。

 けど、この国は好きな感じだ。

 活気にあふれてみんなが笑顔、幸せそうに暮らしている。

 妙な諍いもないし平和そのものだ。

 私の担当は国の南部、一番平和な土地で王都が構えられているエリアだ。

 冒険者ギルドや雑貨店が多い、後、美味しい飲食店も。

 

「このオダンゴって言うの美味しい!」

 

 うーん、もちもちしていて甘い! 

 美味しい食事は幸せな気持ちになれる! 

 

「勇者アリス様ですか?」

 

 不意に声をかけられる。

 

「元ですけど、そうです。何か困りごとでも?」

 

「いえ、私は王宮からの使者です。大司祭様が是非お会いになりたいとの事で……もしよろしければお願いできますか?」

 

「大司祭様ってサクルの王様ですよね? わかりました!」

 

「ありがとうございます。では着いてきてください」

 

 そう言って男性の後ろをついていく。

 一応警戒してるけど、嘘は言っていない。

 多分本当に王宮からの使者だ。

 けど、私になんの様だろうか? 

 しばらくして王宮に着く。

 そのまま、案内されるがままに着いて行き遂に私は大司祭様の元に辿り着いた。

 

「お初にお目にかかります大司祭様。元勇者アリス。参上しました」

 

 跪き挨拶をする。

 

「いえいえ、顔をあげてください。勇者様。堅苦しいのは無しにしましょう」

 

 その声は老齢の男性だった。

 優しい声色だ。

 

「それでは、失礼して」

 

 私は立ち上がる。

 そこにいたのは白いローブに身を包み、鉄の仮面をつけた老人だった。

 

「勇者様、しばしお待ちを今椅子を持って来させますので」

 

「お気遣いありがとうございます」

 

 しばらくして椅子が持って来られ、それに座る。

 少し間をおいて大司祭様が話始める。

 

「わざわざ観光中に呼び立てて申し訳ありません。実は勇者様に頼みごとがありまして……巷で流行っている魔薬についてなのですが……」

 

「……! やはりこの国でも魔薬が?!」

 

「はい、魔薬の売人らしき人物が各地で目撃されていまして……勇者様にはその売人を捕まえていただきたいのです。どうかお願いできませんでしょうか?」

 

「任せてください! 仲間も今、サクル内で魔薬の売人を探しているところなんです! 是非協力させてください!」

 

「おお! 勇者パーティー様が皆揃っているとは! これは安心できそうだ! 売人の目撃情報があった場所をマドホに送信します。それを頼りに奴らを捕まえてください。どうかよろしくお願いします」

 

 大司祭様が深々と頭を下げる。

 

「わかりました! 必ず捕まえて見せます!」

 

 その後、私は王宮を後にしマドホに送信された目撃情報をみんなに共有した。

 結果、各自のいるエリアの目撃場所を潰して回る事になった。

 私の担当は今いる南エリア。

 目撃場所は森林地帯。

 おそらく人目のつかない場所に拠点を構えているのだろう。

 人を化け物に変える薬を売るなんて許せない。

 拳に力が籠る。

 

「さぁて! 捕まえるぞ!」

 

 

 

 ———王都サクル周辺 森林地帯にて

 

「さて、随分と身を隠しやすそうな場所だ」

 

 私は目撃情報のあった森林地帯に踏み込んでいた。

 鬱蒼と生える木は太陽の光を遮り昼間だと言うのに薄暗い。

 普通なら迷子100%だろう。

 しかし、私には秘策があった。

 めいいっぱい空気を吸い込み()()

 

「ァァァァア!!!」

 

 森全体に叫び声が響く。

 その反響音を()()()()()()()

 

「よし! マッピング完了! 西に洞窟と人っぽいのが多数、当たりだね!」

 

 そう言って私は全力で駆け出す。

 全力で走れば1分もあれば着く距離だ! 

 それに今ので当然売人にも気づかれているはず、ここからはスピード勝負だ! 

 

 

 

 ———西の洞窟にて

 

「見つけた」

 

 私の眼前には3人の屈強な男と数人の子供たちがいた。

 子供たちは怯え切っており、中にはぐったりしている子もいる。

 

「貴方達、その子達に何をしたの?」

 

 男達に問いかける。

 

「チッ! よりによって勇者に見つかった! テメェら、魔薬(ヤク)キメろぉぉお!!!」

 

 回答はなく男達は魔薬を口に含む、一瞬しか見えなかったけど丸薬じゃない! 

 まるで紙片の様なものを口に含んでいた。

 みるみるうちに男達の筋肉が肥大化するが怪物にはならない。

 それに……

 

「流石だぜ! 新作の悪魔の門(デモンズゲート)はよぉ! これなら勇者一人如きぶっ殺せちまうなぁ!」

 

 理性が残ってる。

 魔薬を使った人間は怪物になり理性を失う。

 あいつらが言う新作はそれを克服したらしい。

 だが、やることは変わらない! 

 奴らを捕まえて『薬』のニャルラトホテプの居場所を吐かせる! 

 

起動・眠り姫(スイッチオン・スリープ)

 

 言葉と共に剣は細長いレイピア状に姿を変える。

 眠り姫は相手を毒で昏睡させる捕縛用の形態これで奴らを仕留める! 

 

「そんなチャチな剣じゃ傷ひとつつかねぇよぉ! 死ねオラァァァァア!」

 

 大振りながらも早い右ストレートが私を襲う。

 ギリギリのところで避け、眠り姫を突き刺す。

 

「おお、痒い痒い。勇者様ご自慢の一撃は痒いなぁあ!」

 

「……」

 

 眠り姫の難点は毒が回るまで時間がかかること。

 後二人にも刺して、その後は耐える! 

 

「兄貴ぃ、俺たちにもヤラせてくだせぇ! ぶっ殺したくてうずうずしてるんすよお!」

 

「いいぞ、やっちまえ!」

 

「「オラァァァア」」

 

 両サイドからのタックル、避けるなら上! 

 避け際に一刺しづつ! 

 

「ち、避けてばっかか勇者様よぉ〜? 随分と逃げ腰じゃねぇか、あぁん?」

 

「脳みそ筋肉のバカとは違うのよ! お猿さん達?」

 

「……ンダとゴラァァァァア!!!」

 

 またパンチ、けど避けられ———

 

「かかったあ!」

 

 瞬間男の手が()()()()()()

 腹部に全身全霊のストレートが入る! 

 そのまま木々を薙ぎ倒しながら吹っ飛ばされて血反吐を吐く。

 

「が……ぁ、はぁ……はぁ……」

 

 息がしづらい。

 意識が朦朧とする。

 ダメだ! 

 起きろアリス! 

 

「勇者ちゃんもよわいでちゅねぇ〜じゃあ、死ねや」

 

起動・大剣(スイッチオン・バスター)ァァァァア」

 

 大剣を盾に一撃を耐えるが身体が軋む。

 マズイ、このままじゃ……

 

「往生際が……悪……い……」

 

 男は言い終える前に沈黙した。

 どうやら眠り姫の毒が回った様だ。

 他二人の男も同様に眠っている。

 ……とりあえず口に含んでる魔薬……悪魔の門(デモンズ・ゲート)だっけ? を回収して蛇腹剣で捕縛する。

 後は……

 

「君たち怪我はない?」

 

 洞窟にいた子供達に話しかける。

 曰く森で冒険していたら男たちに捕まったらしい。

 ぐったりしている子の様子を見るが軽い脱水症状だった為、手持ちの水をあげた。

 男達を担いで子供達を連れながら王都に帰る。

 子供たちは無事に親のところに帰れた。

 男達は一旦王宮の地下牢に投獄されるとのことだった。

 

 

 

 ———2週間後 マサ町にて

 

「ってのがコッチの結果だよ」

 

「随分手痛くやられたな、傷は大丈夫か?」

 

「大丈夫だよジニス、ゆっくり休んで治したし」

 

「まぁ、アリスは頑丈ですからね。一応あとで奇蹟で治療しますが」

 

「レスト、言い方酷くない? 乙女に対してもっと言い方あるでしょ」

 

「乙女な……まぁ、ともかくアリスが無事で安心した。俺の方でも2人ほど捕まえたぞ」

 

「さっすがフェロウ! 聞いてるかねー男子諸君?」

 

「はいはいお喋りはそこまでにして新しい魔薬…… 悪魔の門(デモンズ・ゲート)について調べた結果が出ましたよ。配合を変えただけですが何度でも使用できると言う点、肉体が怪物にならないと言う点で既存の魔薬よりも優れています。リリス……賢王曰くこっちがこれからは主流になるとの事です。後は捕まえた売人から何か分かり次第動く、と言う感じですね」

 

 シズハがそう説明する。

 まぁつまりは。

 

「現状やる事なし……ってコト? ならサクルの観光しようよ!」

 

「ちょ、私達は仕事できていて……」

 

「でもやれるコトないんでしょ? なら気分転換だ! そういうのも大事だよね?」

 

 そう言って私達は売人が口を割るまでの間サクルの観光を楽しんだ。

 オダンゴを食べたり、クッキーを食べたり、他にも色々食べて回った。

 そうして2週間経った日のことだった。

 売人の1人が口を割ると同時に()()は動き出した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。