【本編完結済みと言ったな、あれは嘘だ 本編改稿中】 混沌怪奇譚 夢幻に生きる者たちよ   作:ラットマンΣ

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番外編
栄光のその先へ


 嵐の如き剣撃が止み、周囲に静けさが満ちるその時、私は確かにその声を聞いた。

 我ら人類の敵、我が敵、そして我らを助けたあの声を。

 

「その程度か勇者? ならば其処でのたれ死んでおけ!」

 

 単なる暴言じみたその言葉には親しみと私達を鼓舞するかの様な想いが詰まっていた。

 私は奮起する。

 痛みが走る身体を持ち上げてその声の主を見上げる。

 ———白と黒の鎧を身に纏い光の王冠を乗せた銀色の髪を靡かせる一人の女性。

 68億年にわたって人類を苦しめ続けた脅威、魔皇アキルが其処には立っていた。

 

「なんだ、立てるじゃないか?」

 

「……魔皇、なんで?」

 

「何、天獄で静かに眠りについていたら私の眠りを害する者が現れた。故に殺す! ただ、それだけだ」

 

 そう言って、魔皇は異形と化した大司祭を睨んだ。

 

「魔皇……だと?! 人類の敵が何様だ! 神たる我の力を持って滅してくれる!」

 

「は! 激昂するか、歪んだ願いを叶えしものよ! ならばその力を見せてみよ!」

 

 そう言って魔皇は歪な大剣を大司祭に向ける。

 

「来い、魔皇の力、その身を滅ぼしながらとくと味わうがいい!」

 

 状況が飲み込めない私は視線をシズハ達の方に向ける。

 其処には光の扉から多くの人々が現れていた。

 そして、シズハの元には二人のシスターが佇んでいた。

 

「おい、シズハ。いつまで寝てやがる! さっさと起きろ!」

 

「……クレア? 私負けたの?」

 

「まだ、負けてないぜ! ほら奇蹟使って立ちな! それと、メリアーナは其処の3人も頼むぜ! アタシは回復の奇蹟使えないからな!」

 

「人に指図する暇があれば周りの人達をどうにかしなさい! 魔薬の成分を吐かせれば元に戻るから! あんたにもわかりやすく言うなら軽く出血させなさい! ()()()()()()()()()()()()()!」

 

「オッケー、任せな! さて……聖装展開!」

 

 クレアはその掛け声と共に、自身の眼前に垂直に落ちてきた十字架を全力で殴りつけた。

 十字架は5つのパーツに分かれた。

 瞬間、激しい光がクレアを包む。

 分かれた十字架の銀のパーツはそれぞれクレアの胸部、背面、左右の前腕付近で浮遊、そして青く輝く石は空中で浮いたまま待機している。

 そうして各パーツが変形を始める。

 胸部のパーツは広がり上半身を覆う鋭くかつスマートな鎧へと姿を変える。

 背部のパーツは鎧の配備と一部結合したのち、一対の二股に分かれた翼のない羽根の骨格のようなものへと姿を変える、さながらロボット作品のブースターじみたものだ。

 左右の腕の2つのパーツはそれぞれの腕の前腕部を覆う様な鎧に形を変え、手の甲に沿う様に前腕部の鎧の側面からは腕と同じくらいの長さのブレード状のエネルギー展開パーツが構成された。

 最後に、浮いていた青く輝く石が鎧の中心にはめ込まれる。

 すると、変形した各パーツに石と同じ青い光の機械的なラインが浮かび上がった。

 この間僅か0.5秒の出来事である。

 

「うっし! さぁて久々に暴れますかねぇ!」

 

「……クレアらしいですね……私も! 慈悲(ケセド)起動! 我を癒せ! そして、聖装展開!」

 

 光が収束した後に見えた静葉の姿はクレアのそれとは大きく違っていた。

 全身に軽度の鎧を身に纏い、下半身、特に脚部が重点的に装備によって強化されており、両足は完全に鎧で覆われかつその鎧にクレアの背中に付いているブースターの極小版の様なものが片足につき左右5個づつ、計10個も付いている

 両足で計20個もあるブースターから分かる通り静葉の聖装はスピードに特化したものだ。

 そして、一際目を引くのは彼女の背面に浮遊している彼女の身長の倍ほどの大きさの(むげん)の形を作って動いている無数の緑色の光の刃……否、大量のクナイであろう。

 

「さぁ! 救済の時間です!」

 

 そう言ってシズハともう一人のシスターは飛び立った。

 そして、ジニスの方にも援軍が来ている。

 

「起きろバカ弟子、いや、今は寝てろか? まぁいい」

 

 賢王リリスが治療中のジニスに話しかける。

 

「うるせぇ……こちとら結構キツいんだよ」

 

「分かってる、仕方がないから久々に老骨(老朽機体)に鞭を打つとしよう! それに……今日は死者達が好き放題する日の様だしな!」

 

 そう言うとリリスは宙に浮かび上がり虚空から杖を取り出す。

 それに呼応するかの様に空を埋めるほどの蝙蝠の群れが光の扉からリリスの元に集う。

 

「久しぶりね! リリス!」

 

「久しぶりだな。シェリー。数億年ぶりだな」

 

「そうね、まぁ、昔話もいいけど今は戦いましょう?」

 

「それもそうだ、血液操作で魔薬の回収頼んだぞ? 殺すなよ?」

 

「はいはい、任せなさい!」

 

 そう言って賢王と蝙蝠の王は天をかける。

 

「さてさて、皆さん今日は特別ですよ! 死者も生者も関係なし! ひたすらに戦い抜いてもらいますよ!」

 

 冥王……閻魔大王の呼び声で死者の魂達が次々と現れる。

 其処には過去の大英雄も、名もなき戦士も関係なし。

 誰もが今を生きるものの未来を救う為現れる。

 星の数の様な戦士たちがサクルに集う。

 それだけじゃない、彼方から聞こえる声はヨクドとジニムの戦士たちの雄叫びだ。

 

「ようやく来たか、3日前にマドホで連絡したのに全く来るのが遅い!」

 

 宙に浮かぶ賢王が呆れた声を出しながら静かに微笑む。

 今ここには多くの人間が集ってる。

 明日を手に入れる為に集ってる。

 なら、立たなきゃ! 

 

「さぁ、大司祭! 決着をつけましょう!」

 

 私は立ち上がり大司祭に剣を向ける。

 

起動・巨神戦(スイッチオン・ギガントマキア)!!!」

 

 その(ボイス)と共に剣と右手が一体化し金色に輝く。

 剣のサイズは私の胴の十倍弱、まさに巨神の剣だ。

 

「行くぞ!」

 

 私のその一言を皮切りに戦いの火蓋が切って落とされる。

 

 

 

 ———後方戦線にて

 

「さぁ! 紅い厄災のお通りだ! 畏れ、敬い、逃げ惑え!」

 

 一人の紅い少女が銃撃をぶっ放しながら暴れ狂う。

 その一発一発が巨人と化した住民だけに当たる。

 紅い血飛沫が空を彩り、少女を照らす。

 

「全く相変わらず物騒ですね。ケイトは! いざ、送火・夢想」

 

 また一人の着物姿の少女が舞うが如く巨人達を切り刻む。

 その一撃全てが音を置き去りにしていた。

 

「俺たちも負けてられんな! 行くぞ、レスト!」

 

「あまり荒事は得意ではないのですが……いざ!」

 

 フェロウは手に持つ大鎌で舞いながら切り付ける。

 レストは奇蹟で自らを強化し拳で肉を抉る。

 そして出血した側から蝙蝠の王が血液に含まれる魔薬の成分を吸い取る。

 吸い取られた住人たちは次々と元の姿に戻っていく。

 

「さぁ、ここからは私たちの出番ですよ! お姉ちゃん!」

 

「まさかあんたと一緒に戦う日が来るなんてね。さぁ、いくわよ!」

 

「「大結果・楼閣」」

 

 二人の幼い巫女が巨大な結界を展開し、無辜の市民を包み込む。

 それは絶対なる防御を誇る神の領域、悪しきを弾き弱きを救う救済の結界だ。

 

「僭越ながら私も音楽でみんなを鼓舞するよ! さぁ、奏でましょう!」

 

 一人の女性が美しく力強い旋律を響かせる。

 戦士たちはその音色で奮起し力を増す。

 まさに神の如き所業が現実に行われていた。

 

「さぁさ描きますよ! タイトルは『終末の誘い』ですかね! まぁ、負ける気はありませんが! さあおいで! 私の瞳の宇宙から!」

 

 一人の絵描きが戦場で即興で絵を描き上げる。

 描かれたのは戦いの絵画、それにより戦士たちはさらに力を増す。

 神域の画家はその一筆で戦況を変えてしまう。

 

「おっと、荒事は俺ら松零会の取り柄でねぇ。テメェら気合い入れろ!」

 

 傷だらけの男の号令で荒くれ者たちが突撃する。

 殴る蹴るの原始的な戦いだが、それでも押している。

 彼らも歴戦の戦士なのだ。

 

 

 

 ———最前線

 

「魔皇と勇者如きが我が救済を否定するなぁああ!」

 

「は! 貴様の言う救済は独りよがりのもの!」

 

「そうだ! 真の救済はみんなが手を取り合って助け合うことなんだ! 私はそう信じてる!」

 

「そうだよアリス! それこそが、助け合うことこそが救済なんだ!」

 

 懐かしい声が響く。

 そう、その声は間違いなく———

 

「エデ!」

 

「さぁ! 狂った救済を終わらせよう!」

 

「すでに住民は元に戻った。狂いし神よ、お前の救済は潰えた! さぁ仕置きの時間だ!」

 

「ありえん! 私の救済が間違っているなど断じてありえない! 貴様ら全員消し飛ばしてくれる!」

 

 大司祭に光が集う。

 また先ほどの攻撃が来る! 

 しかし……

 

「ギリギリ間に合ったぜ! いくぜ兄貴!」

 

「任せてください! グレン! アナンタ・シャーシェ! リスタート!」

 

 巨大な巨神兵(ゴーレム)が光を遮る! 

 あれは鉄巨人の墓場に眠っていたゴーレム! 

 しかも私が倒したのよりはるかにデカい! 

 

「食らえ! 必殺ダイナマイト・ナックル!」

 

「ガァああ」

 

 爆発する腕による右ストレートが大司祭に直撃する! 

 そして大きな隙ができる。

 

「みんな行くよ!」

 

「「「応!!!」」」

 

起動・巨神戦(スイッチオン・ギガントマキア)!!! ギガトンインパクトォォオ!!!」

 

「魔剣解放! 虚無幻影一閃!!!」

 

「これはいつかの夢、在りし日の幻想! 星神剣解放! 旧神連斬!!!」

 

「さぁ、懺悔の時間だ! 紅き獣の厄災!」

 

「不知火流究極奥義! 次元斬!」

 

「喰らっていきな! 救済斬(サルベーション・スラァァァアッシュ)!!!」

 

「神手流究極奥義! ブラストストライク極!!!」

 

「究極氷結! 絶対零度(アブソリュートゼロ)!」

 

「死神の大鎌、とくと受けるがいい! 静かなる死(サイレントデス)!!!」

 

「奇蹟充填! 破壊掌!」

 

「魔道の真髄を見せてやろう! 零・無限(ゼロ・インフィニティ)!」

 

「さぁ、麻薬と血液を混ぜた神槍! 受けなさい! ガングニール!」

 

「アナンタ・シャーシェ、フルパワー! バーストインパクト!!!」

 

 各々の最強の必殺技が異形と化した大司祭にぶつけられる! 

 その威力は大陸全土を揺るがすほどの凄まじいパワーだ! 

 

「馬鹿な! この私が! この神が! こんな人間どもにィィイ!!!」

 

 大司祭は断末魔と共に大爆発を起こし、ここに全ての異変は解決した。

 

 

 

「勇者よ、またお前たちと戦えて楽しかったぞ」

 

 そう言う魔皇の体は徐々に光の粒子になって消え始めていた。

 魔皇だけじゃない光の門から現れた皆が光の粒子になって消え始めていた。

 

「エデ、魔皇、みんな……」

 

「アリス、大丈夫だよ。あるべき場所に還るだけ。それにいつかまた会えるよ」

 

 エデはそんなことを笑って言う。

 

「……うん、そうだね! ありがとうみんな!」

 

 さよならは言わない。

 いつかきっとまた会えるんだから。

 そうして蘇った死者たちの魂は光の粒子になって天獄へと還っていった。

 

 

 

 ———数ヶ月後

 

「さぁ! 今日も今日とてお仕事だ!」

 

 これは長きにわたる物語。

 一人の魔術師から始まり68億年にわたる永き物語の終着。

 それでもきっと彼女たちは生き続ける。

 これからもずっと———

 

 

 

———決戦の後、天獄にて

 

「そう言えばアキル、なんかいつもと口調違いましたね?」

 

クリスが私に問いかける。

 

「あー……何と言うかあっちだと勝手にあの口調になっちゃうのよね……ほら、私元魔皇だし?」

 

そんな答えに対してクリスは笑う。

 

「ふふふ、アキルらしくないとは思っていましたが、そう言うことでしたか」

 

「何よ、笑うことないじゃない!」

 

そこにケイトが話に混ざる。

 

「何?おもしろ気な話?ちょっと混ぜろよ」

 

「もう!ケイトまで!」

 

そんな談笑をしながら魔皇である私は屋敷で静かに暮らしていた。

長い年月の中で夢見たこの景色がとても愛おしい。

そんな幸せを噛み締めながら……

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