【本編完結済みと言ったな、あれは嘘だ 本編改稿中】 混沌怪奇譚 夢幻に生きる者たちよ   作:ラットマンΣ

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不協和音II

 奇妙な音と頭の激痛で目が覚める。

 ぼやけた視界の先で姉さんが寝かされていた。

 その周りを囲うように黒いパーカーを着た八人ほどの男が立っている。

 男たちは冒涜的(ぼうとくてき)な歌を歌う。

 ……あぁ、あぁ! 

 まずい! 今あいつらはなんらかの儀式を行っている! 

 そしてその中心に姉さんが寝かされていると言うことは、あいつら姉さんを儀式の生贄(いけにえ)にする気か! 

 まずいまずいまずい! とにかく儀式を止めなくちゃ! 

 男の方に向かおうとするが、途中で手を後ろに引っ張られる。

 手の方に目をやると銀色の手錠がかけられていた。

 どうする? このままじゃ間違いなく姉さんは生贄となってしまう! 

 なら、悩んでいる場合じゃない。

 右手で左の親指を強く握り勢いよく逆方向に折り曲げる。

 

「……ッグゥ!」

 

 激痛が走るが必死に声を殺す。

 あいつらに気づかれてしまってはいけない、気づかれたら数で押し切られてしまう。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 なんとか手錠は外せた、後は後ろから〈ヨグ=ソトースのこぶし〉を打ち込んで……

 不意に奇怪(きかい)な音が私の左腕を襲う。

 

「がぁっ……⁈」

 

 なんだ? 音が響いただけなのに左腕から出血している⁉︎クソッ! これが『スグルオ』なのか⁉︎

 

「おい、お前なぜそこにいる! 確かに手錠で柱に繋げたはずだぞ!」

 

 最悪だ、男たちが全員こっちに気づいた。

 各々金属バットやバールを手に取り、こっちに近づいてくる、相変わらずあの奇妙な音も響いている。

 

「はぁ……はぁ……クソッ!」

 

 一人の男がバールを振り下ろす、あれに当たるのはまずい! 

 

「クッ……」

 

 間一髪でバールを避ける、が男の後ろから追撃しにきたバッドのフルスイングが私の横腹に打ち当たる。

 

「がぁッ……!」

 

 激痛が走り意識が飛びそうになる。

 ダメよ、今私が死んだら姉さんも死ぬ、それだけはダメ! 

 

「ツッ!」

 

 舌を思いっきり噛みちぎって痛みで無理やり意識を保つ。

 後少し、後少しだけこいつらを引き付けられればいい、それまで私の体が動けばいい! 

 男たちの攻撃を避けながら冒涜的(ぼうとくてき)な言葉を紡ぐ。

 限界まで気力を呪文使用のために削る、正気が溶けていく。

 後一節唱えれば呪文は完成する。

 そんな時に不意にまたあの音が私を襲う、今度は的確に身体の中心を(えぐ)る。

 

「ガッ……⁉︎」

 

 激痛が走る、だが詠唱(えいしょう)は止めない、止めてはならない。

 

「ッ! よぐ=そとーす!」

 

 呪文の最後の一文を読み上げる。

 同時に男たちは強大な力によって吹っ飛ばされる、手に持っていたバットやバールは砕けちる。

 今回は加減ができていないが生きているか? どっちにしろ、しばらくは動けまい。

 奇妙な音も同時に消失する。

 どうやら、『スグルオ』をこの世界に呼び出していた何かしらも同時に破壊できたらしい。

 

「はぁ……はぁ……キツいわね……姉さんは無事かしら?」

 

 満身創痍(まんしんそうい)の身体を無理やり動かして姉さんの方に向かう。

 よかった、少し怪我をしているけど息はある。

 

「あ……」

 

 瞬間、何か私の中の決定的なものが切れた気がした。

 そして私はそのまま地面に倒れ込む。

 ダメだ、早く助けを呼ばなきゃいけないのに身体がろくに動かない。

 ポケットに入っているスマートフォンを取るのさえひどく体が痛む。

 だけど、まだだ、せめて意識があるうちに助けを呼ばなきゃ……

 限界を迎えた身体を無理やり動かしてクリスに電話をかける。

 お願いだから早く出てちょうだい。

 

「もしもし、お嬢様?」

 

 クリスが電話に出る。

 

「クリス、良い? 今すぐ私のスマートフォンを位置検索してその場所にみんなを連れて来なさい! 零児さんたちもね、そこに八人くらいの男が倒れてるだろうから拘束して零児さんたちに尋問させて、後、姉さんを病院に……」

 

「ちょっと待ってください! どうしたんですか! 今どんな状況なんですか!」

 

「はぁ……はぁ……説明してるほど余裕がないの、後は頼んだ……わよ」

 

 視界がぼやけていく、身体の感覚が薄れていく、音は遠くなっていく。

 

「お嬢様!」

 

 電話越しのクリスの声が遠くに聞こえる。

 あぁ、ちょっと今回はまずいかもしれないわね……

 ダメだ、意識が保てない、私、死ぬのかしら? 

 それはダメ、まだ私は死ぬわけにはいかない。

 まだ、私は何も成し遂げていないのだから。

 その思考を最後に私の意識は途絶えた。

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