【本編完結済みと言ったな、あれは嘘だ 本編改稿中】 混沌怪奇譚 夢幻に生きる者たちよ 作:ラットマンΣ
———冥界 旧閻魔庁の広場にて
「少しは落ち着きましたか?」
そう言って閻魔様が私の頭を撫でる。
「……はい、私はエデに託されたものを私は継ぎます!」
涙ながらにそう返答する。
私はもう迷わない。
エデのため、皆んなの為に私は戦う!
「さぁて、アリスの悩みも解消されたし行こうぜ!
「うむ、いくぞアリス!」
「ええ! けどその前に冥界にいると言う僧侶……レストを探さなければ」
そう、冥界に来たもう一つの目的、僧侶レストを仲間にすること。
まずは情報収集から———
「レストならこの旧閻魔庁の庭にいますよ?」
「へ?」
「え?」
「は?」
思わず間抜けな声が出てしまう。
あんまりにも都合が良すぎるが、しかしいるのなら好都合だ。
私たちは閻魔様に頼み旧閻魔庁の庭へと案内してもらう。
そこは……非常に幻想的だった。
赤い花々が咲き誇り、煌々と輝く。
そしてその中心に頭から一対の小さな巻き角を生やした修道服姿の青年が佇んでいた。
「貴方が僧侶レストね、どうか私達に力を貸してはくれないかしら?」
そうレストに話しかける。
するとレストはゆっくりとこちらにやってくる。
そして私と対面する。
私より遥かに大きい、ジニスより少し大きいくらいの大きさだ。
「あなた方が勇者様のパーティーですね。ええ喜んで力になりましょう!」
そう言ってレストは私の手を握る。
あまりにもスッとことが進んでしまい私の方が困惑する。
「貴方ヶの話は閻魔様から聞いております。慈愛に満ちた方々であると、であるならば力を貸すのは当然。未だ修行中の身ではありますがこのレスト力になりましょう」
「ありがとう! レスト!」
「では早速ですが皆さんの傷を癒しましょう」
「はぁ? 傷は俺が魔法で治して来たから……」
震え声でジニスがレストに反論する。
「いえ、正確には治っていない、ですよね。とても高度な縫合魔法で無理やり傷口を塞いでいる状態です。ですがジニス様の超高度な縫合魔法で傷が開くどころか壊死するようなことは起きづらいと思われますが、一応奇蹟による修復をさせていただきます。それに、ジニス様の魔力疲労もかなりひどいご様子ですしね」
「ぬぅ……まぁ、傷ひらいたら大変だしな。悪かった、と言うかそこまでバレてたか」
「いえいえジニス様の魔法の腕にはこちらが驚かされるほどです、ほぼ我々魔族が使う奇蹟と遜色がありませんから。では。あなた方に二大聖女の加護があらんことを」
そうレストが祈ると共に皆の身体中の傷が光、癒えていく。
間違いない、彼はとてつもない僧侶だ。
「良し、これで良いでしょう。皆さん今日はもし良ければ我が家で休息していってください。旅路は急いた方が良いでしょうが今日くらいはぜひゆっくりとお休みください」
「僕もそれが良いと思います。皆さん冥界下りで疲れているでしょうしね」
「……そうですね、今日はゆっくり休んで明日に備えます。それ以降は魔皇の居城がある北の大地を目指します」
そう告げて旧閻魔庁を後にする。
その夜はレストの家で旅の話をしながら一夜を過ごすことになるだろう。
そう思っていた。
「ンンン〜!ついにパーティーが揃いましたか!実にめでたい!」
悪辣な声が冥界に響く。
さっきまで居たたくさんの人魂も消えてなくなっていた。
忘れもしないあの声。
憎くて憎くて仕方ないあの声。
「申し遅れました。ワタクシは千貌道化のチクタクマン。我が魔皇のメッセンジャーにして地球人類で遊ぶ快楽者です」
道化じみた仕草でチクタクマンは挨拶をする。
あぁ……あぁ!!!
こいつだけは!こいつだけは殺さなくちゃ!
「ンンン〜?皆さま反応が悪いですねぇ?せっかく北の大陸からわざわざ顔を出しに来たと言うのに———
「冥界式破却装置起動。第一柱から第七柱出力増大。敵個体チクタクマンの迎撃を開始せよ!」
閻魔様の一言で冥界の外壁から七柱の槍のようなものが出現する。
そして、超高出力の七本の光の一撃がチクタクマンに向かって発射された。
「ンンン〜、行儀が悪いですねぇ?」
だが、チクタクマンはその攻撃を受け止め光の一撃を自らの頭上に輪として蓄えた。
「な……?!皆さん、逃げて!」
閻魔様が言い切る前に光体は一筋の矢となりこちらに向けて発射された。
冥界の七柱の防護装置、その全てを束ねた光の矢が放たれた。
このままじゃ全滅は必死。
だけど……だからこそ、こんな結末は認めない!
「星神剣ノーデンスよ!我が魂を糧とし悪辣なる道化を光もろとも消し去れ!」
私の生命力を可能な限りノーデンスに回して極光の斬撃を放つ。
幸い、光の矢と極光の斬撃の勝負はこちらの勝ちだ!
後はそのままチクタクマンを……
「あ、思い出しました。貴方、勇者の里の生き残りでしたね。じゃあ、死んでください」
「え?」
いつの間にかチクタクマンに背後を取られていた。
それだけじゃない、私の身体がチクタクマンの手によって貫かれている。
私はまだこんなところで死ねないのに……エデと約束したのに……
「ふぅッ!」
貫かれた身体を捻ってチクタクマンの首を切り落とす。
せめて、せめてコイツだけでも殺さなきゃ!
そうして、チクタクマンの首は地面に落ちた。
「ゲホッ……」
大量の血が口から、腹から流れ出る。
もう命の灯火が消えようとしている。
微かに残った意識が仲間の声を私の脳に伝達しようとする。
私はここで死ぬのか?
使命も果たせないまま?
ダメだ、ダメだダメだダメだ!
そんなの私が認めない!
必ず生きて魔皇を撃ち倒さなきゃ……
「ハァ……はぁ……ゲホッ……」
なんとか意識を奮い立たせて立ち上がる。
不思議と身体の傷が癒えていくのを感じる。
レストの奇蹟のおかげか?
だけど、意識は未だ霞んでいる。
「アリス……アリス!」
その一声でようやく意識が鮮明になる。
「ジニス?」
「良かった……死んじゃいねぇようだな……にしても、チクタクマンの野郎は呆気ない最後だったな」
そう言って、ジニスはチクタクマンの死体を見る。
首は切り落とされ、胴とはもう繋がっていない。
間違いなく死んでいる。
死んでいるはずなのに、嫌な予感が消えない。
そして、それは現実のものとなった。
分たれた胴体は動き出し、自らの頭を掴む。
その時点で私達は最速で距離を取った。
そして、再びチクタクマンの頭と胴体は繋がった。
「ンンン!なかなかの一撃でした!遊んでたとはいえ、首を持っていかれるとは思いませんでした!いやぁ、勇者の里のチンケな生き残りがここまで成長してワタクシは嬉しいですよ!」
「……ッ!!!」
怒りが止まらない。
だけど理性で分かる、今の私じゃアイツに勝てない。
例えみんなと一緒に戦っても全員死ぬだけだ。
「おやおや?攻撃続けないんですか?アナタの宿敵チクタクマンはここにいますよ?」
「お前ッ……!!!」
怒りに身を任せそうになる。
だが、耐えろ。
今攻撃したら間違いなく次は死ぬ。
「理性が働いてるようで結構。人類にしては良い判断です。さて、本題にでも入りましょうかね」
チクタクマンはそう言うとパチンと指を鳴らし悪趣味な椅子を召喚し、それに座った。
「まぁぶっちゃけた話なんですけど、アリスさん……でしたっけ?文字通りの最後の勇者さん。さっさと魔皇城まで来てくれません?待ってるこっちの身にもなってくださいよ?魔皇様は常に微睡んでいて、他に話す相手もいなくて暇なんですよねぇワタクシ」
チクタクマンは自分の爪を気にしながらそうぼやく。
「無駄に人助けとかやって時間潰さないでもらえます?要はさっさと魔皇城に来い。これがワタクシが伝えたかったことです。ワタクシが冥界に現れたと言うことは、もう何処にでも顕現することが可能になったと言うこと。あ!まずは王都でも焼きますか!他の国を崩しても良い!まぁ、後一年くらいは待ちますよ?すぐおもちゃを壊したんじゃつまらない。とりあえずそう言うことで」
そう言ってチクタクマンは姿を消した。
もはや気配すらない、完全に撤退したようだ。
「……ッ、はぁ」
膝から崩れ落ちる。
私はチクタクマンに勝てなかった。
それどころか、遊びで一回殺された。
力が足りない。
もっと力がいる。
もっともっと強大な力が……
「……アリス」
ジニスが私の名前を呼ぶ。
だけど、今の私にはそれに応える余力すら残っていない。
「あれは無理だ。勝てるビジョンが見えん」
「フェロウさん!そんなこと言わないでください!きっとみんなで力を合わせれば……」
「じゃあ聞くがレスト、お前は本当に私達が力を合わせればあの化け物に勝てると思うか?」
「それは……」
「おい、お前らやめねぇか!今は仲間同士で争ってる場合じゃないだろ!」
ジニスがフェロウとレストの仲裁に入る。
「はい、そこまでぇ〜。最後の勇者パーティがこんな事で揉めてるなんて惨めだねぇ」
誰かもわからない傲慢とも取れる一声がその場を鎮めた。
そして、それは私たちにとって最善であり最悪な決断を示すのだった……