【単話読み切り】幻想とじゃれ合って、時に傷付くのは無駄だろうか? 作:堪えきれぬ狂い火
これは初めて描いた作品ですね。初期の頃の作品は見てて未熟だなぁと感じますね。
「これで…良かったんですよね…?」
日本からドイツに向かう飛行機の中で私はそう呟きました。先ほどまでトレーナーさんやファルコンさんと一緒だったのに、もう寂しいと思ってしまいます。
「いえ、最初からこの予定でした。予定通りです」
そう、私は日本で3年間を走り切り、引退後はドイツへ帰り、パティシエとなる。その予定でした。しかし、日本で大切な人を見つけました。そう、私のトレーナーさんです。私をどこまでも支えてくれた、良き指導者にして私の好きな人…。
いつまでも一緒に居られるなんて思っていたのは、私の思い上がりでした。言われてみればそうです、私はただの学生で、トレーナーさんはトレーナーです。私が卒業しても、トレセン学園でトレーナーを続けるでしょう。私と一緒にドイツに来て、共に過ごすことなんてできません。
私が進路を決める5月頃にはそれはもう気付いていました。トレーナーさんが「一緒」という言葉を発する度に、私は終わりを意識して苦しくなっていました。だから、その苦しみに負けないように毎日を楽しもうと心掛けていました。
そして、全ては今日で終わりました。私の気持ちを打ち明けられず、また会えるからと笑顔を作ってしばしの別れを告げたのです。ああ…私のトレーナーさん…離れたくない…離したくない…もっと一緒に居たかった…そう思っていると涙が溢れてしまいました。
「うぅ…ぅ……、ぁ…」
いけないと思った頃には遅すぎました。涙は大粒で滝のように流れていきます。まるで私の心の悲しみや後悔がとろけて流れ出ているようでした…。
「トレー、ナー…、さん…、…私の…、私のトレーナーさん…っ、…」
こうしているうちに楽しかった思い出も思い浮かびました。選抜レースで私の走りに一目惚れしたと言ったこと…予定を守ろうとするあまりに無理をしないよう説得されたこと…初めてG1で勝ったときのこと…トレーナーさんとカフェ巡りをしたこと…夏祭りを一緒に楽しんだこと…。この3年間は本当にトレーナーさんありきの日々でした。
トレーナーさんは不思議な人でもありました。どこか抜けているようで、適当な人でした。それでいて、なぜか仕事は完璧にこなしてしまうのですから。仕事はちゃんとやる。だからこそ、彼がトレーナーを続けることは当然です。彼の夢はパティシエになることではないのですから…。
「ぁ……、あぁ…、っ…ぐす…ひっく…」
この恋心が無ければ、このような思いをすることはなかったでしょう…。諦めたい…淡い期待は私の心を苦しめるだけです…。サプライズでこの飛行機に同乗しているだなんて期待をしています。わかっています。そんなことは有り得ません…。今、私にできることは、ひっそりと、トレーナーさんのことを思い出すことだけでした。
「うぅ…、トレーナーさん…、寂しい………会いたい……」
ドラマで見飽きたよくある話です。恋仲の男女が道を違え、お互いの気持ちを伝えることなく恋が終わってしまう。そんな話。私はトレーナーさんに気持ちを伝えることはできませんでしたが、一緒に居たときは永遠にも感じました。それが確かに恋心であったと、恋と生きたのだと改めて感じました。
ひとしきり泣いた後、私は決心しました。私がパティシエとして一人前になったら彼ともう一度会って、心を伝えよう。それまで、私の恋心ともお別れしよう。そう決めました。そしていつかまた逢いましょう。その日までさようなら、私の恋心。