【単話読み切り】幻想とじゃれ合って、時に傷付くのは無駄だろうか? 作:堪えきれぬ狂い火
高等部も3年目になり、高校生活最後の一年が動き出した
胸の奥のほとぼりの冷めやらぬ6月、トレーナーさんとの面談
私をじっと見て一言
「で、本当は何がしたいんだ?」
「言い方酷くないですか~?」
「そうか?こういうのは本心で動くもんだぜ?」
今まで、ちょくちょく進路調査はあったけど、こうして面談を受けるのは初めて
「それに、毎回毎回進路の内容が変わるからよ、わざわざこうして話してるんだぜ?」
「それは…まぁ……若さゆえの悩みと言いますか……」
窓から見える景色は曇天、雨がしとしとと降り、曇はその厚さを感じさせる暗さだった
「悩みって?」
私の想いが溢れ出さぬよう、弾けぬように抑えて、ここから遠いものにして、
想いを留めて、声に出すのは、まだ
「自分でも、良く分からないんです。どの道に進むべきか、どうしたらいいか」
「ありがちだね。そういう時は──
トレーナーさんがありきたりな進路の話をする。どれもこれも進路指導の授業で聞いた話だ
「後は……今までの人生を思い返してみるといい。自分と深く向き合うことだな」
雨は降り続ける
~~~~~⏱~~~~~
暫し考える
私は至って普通の家庭に生まれて、育った
私は小さい頃から、漠然とだけれど、カッコいい大人になりたかった
それから、小学校の時に見たダービーに憧れて、部活はレース部に入った
友達の「無理だ」なんて犬のイビキみたいな台詞は投げ捨てた
その頃の私は夢と希望とケツイに満ち溢れていた
その頃の私は主役だった
それから、レースでいい成績を出して、勉強も頑張って何とかトレセン学園に入れた
GⅢなら一度勝てたけれど、それ以上栄光は掴めなかった
私にはテイオーさんみたいな【羽】はなかった
ただそれだけ
せっかくここまで来たけど、何も得るものは無かった
だから、私は、普通の生活をして、普通の人生を送るべきなんだと感じる
だから、私は、カッコいい大人にはなれない。なりたいものにはなれない
だから、実家に帰って農家を継ぐ。それしかない
「それが、本当に○○ちゃんのやりたい事?」
気付くとチームメンバーの一人が居た。いつの間にか声に出していたらしい
「私じゃあ、どうしようもありませんから…」
「本当にそうなの?夢は追い続けた物だけが叶えることができる。そうでしょ?」
「でも、私は何も叶えられなかった、だから…」
「だから?それで諦めるちゃうの?ガッカリだよそんなの。汗もベソもかいたのに、かいた夢が一度かなわなかったぐらいで諦めてもいい夢なの?」
「っ!」
「○○ちゃんも落ちぶれたか、って感じだね」
「そ、それとこれとは違うじゃないですか……そういう話では……」
「一緒だよ!本当にやりたいことなら、持てる手を全て使ってでもやる。それが私たちだったでしょ?」
「…」
「そんな感じじゃ、○○ちゃんにはもう無理かな」
気が付くと外に飛び出していた
雨の中をただひたすらに走る。前だけを見て、どこに行くかも気にせずに
昔から、悩み事があったらとにかく走って、疲れ切って止まるまで走ってた
こうすると、色んなことがちっぽけになって、下らないことを気にしなくて済む
その後に、ゆっくり考えるのが私は好き
体の外側は冷たくて、内側は熱かった。視界は濡れてほぼ見えていない
何もかもがわからなくなるまで、体が動かなくなるまで走った
河川の土手に倒れこむ。冷めた熱い息を吐き出して呼吸を整える
水混じりの酸素をゆっくり取り込んで、思考を引き戻す
手を伸ばしても届かなくて、羽は無くても、上がろうとして、悩んで、絡まって、抗った
でも、ダメだった
しょうがないと言い聞かせた
努力が足りなかった、才能が足りなかった、皆のレベルが高かった、相手が悪かった
でも、××ちゃんの言う通り
夢を叶えた人は皆努力していた。夢が叶うまで諦めなかった
だから、私も諦めない
一着が取れなかったぐらいで諦めない
私が諦めない限り、夢は続くから
枯れて朽ちるより、壊れるまで進む
熟れて落ちるように、想いが溢れる
汗が私を在りし日の夢の名残りへと連れていく
雨も霰も、晴れ渡っていく
まぁなんとかなるでしょ?
────────────
動き出す日々も、胸の奥のほとぼりももう冷めない
「で、何がしたいか、わかった?」
トレーナーさんはにこやかに話す
私の想いが溢れ出さぬよう、弾けぬように抑えて、ここから遠いものにして、
想いを留めて、声に出すのは
今
「私!───」
私には【羽】は無い
ただ、羽はなくとも、何度だって登ることも上がることもできる
何度も悩んで、何度も絡まって、何度も抗う
だから、【羽】はいらない