担当バをそういう目で見ているトレーナーVS汚物を見る目をしながら対応するアヤベさん   作:晃斗

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主人公の観察眼をアプリ風に表すなら「SS+」(条件あり)だとする。


星明かりの下

 

 さて、あと少しで選抜レースが始まる……のだが………。ことここに至って見る気が湧いて来ねぇ…。 選抜レースを見る気ないトレーナーとかなんでトレーナーやってんだ?『トレーナー……』

 

 いやいやしゃんとしろ俺!せめてアドマイヤベガはしっかりと見るんだ!

 

 周りを見てみろ?客席にはトレーナー達が集まって期待に満ちた眼差しをしてるだろ! ……アイツまた居やがる…!?なにちゃっかり最前列に陣取って腕組みながらドヤってんだ!?バ鹿か!?

 

 

 お、アドマイヤベガだ。やっぱ足ぶっと…!『トレーナーァ!』

 

「……………………」

 

 …………?なんだ?

 

「勝つ、必ず」

 

 距離が遠くてしっかりと聞こえなかったけど……必ず勝つって言ったのか?

……やっぱり危ういな、彼女は。それに嫌な予感もする。万が一に備えて心構えと準備をしておこうか。

 

 

 だが俺の懸念で時間が止まるわけもなく、レースは出走を迎えた。

 

 

 

 

『ワァアアアアッ!!』

 

 うるさっ。歓声とかいる?…いや、G1レースだとこれが比にならないくらいの観客の声援とかがあるか。なら必要だな。

っと、今はレースに集中しないとな。

 

 んー、アドマイヤベガ……レースと関係ない事を考えてるのか…? なんというか走りが雑…? いや精細に欠けてる気がする。けどその割には走りに凄みがある。なら考えてる事は自分が負けられない理由か?

 

『――さあ、いよいよ第4コーナー曲がりまして、最後の直線!

 ハナを切ったのは9番、注目のアドマイヤベガは現在5番手!』

「アドマイヤベガ、囲まれてしまっているな……!やや位置取りが苦しいか?」

 

 …………。

 

「……ぁああああああっ!!」

 

『鋭く内に切り込み、上がってきましたアドマイヤベガ!

 現在3番手……2番手、一番手! きょ、驚異的な瞬発力っ!!』

「え?ちょっと、今のって――」

 

 これは………。

 

『ゴールインッ!!

 選抜レース1着はアドマイヤベガ、アドマイヤベガですっ!』

 

 

 最後の直線でのスピードは確かに素晴らしかった。レースをしていた他のウマ娘達からしたらさぞ恐ろしかっただろう。そのスピードの凄まじさに会場は沸き立ったが……、すぐに不穏なざわめきに包まれた。

 

「ただいまのレースにつきましてお知らせです。アドマイヤベガは、最終直線での斜行により、4番に降着といたします!」

 

 そう、審議からの降着だ。…………アドマイヤベガをしっかりと見ておかないとな。

 

「はぁ、ッ…………」

 

 ……その後アドマイヤベガは、どのトレーナーとも話さず独りその場を走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

「はぁっ…!はぁっ…!何処だ…!?」

 

 「しっかりと見ておかないとな」って言いながらアドマイヤベガを見失うバ鹿が居るか? ……俺の事だよッ!

 

 あの後からずっと走り回ってアドマイヤベガを探し続けているもののまっっっったく見つからねぇ!

そりゃね?ウマ娘と人間の肉体スペックは圧倒的に違うからね?追いつけるはずもないよねぇ!? なんでそんな当たり前の事が思い浮かばなかったんだこの間抜け!『やーい間抜けー』

 

 一応回れる所は全部回った……筈だ。学園内部や食堂、他のレース場やプールなどの思い当たる場所はあらかた探したし、他のヒトやウマ娘に姿を見ていないか話を聞いて回ったりもした……が、影の一つもありゃしない。 まあ普通に考えれば寮の自室に戻るよねって話なのだけども。

 自室に戻っているならそれで良い。けれど思い詰めて身を投げる……なんて事になったら悔むに悔み切れない。『……』

 

 あり得ない事だと分かってはいるが……、それをしてもおかしくはないと思えるほどに思い詰めた顔をしていたのだ。あの時のアドマイヤベガは。 だから俺はその万が一の事が無いという事を確かめるために、こうして探し回っている。

 

 …………の、だが。時間ももう22時とかなり遅い。流石にアドマイヤベガも自室に帰っているだろうと思い始めて何時間経ったっけ? 万が一の為に…!と思ってまだ探し続けているが……まあ、十中八九外には居ないのだろう。しかし最後に行こうと思っていた所がある。それはトレセンのバ鹿デカい裏山だ。『そういえば二人で星を見に来てたよね』

 

 この山は整備された道から外れると遭難すると言われるほどに広いため、用事のない生徒やトレーナーが立ち入ることは滅多にない。……聞くところによると、とても昔に此処で遭難したウマ娘がおり、遭難している最中に土砂崩れに巻き込まれ無念の死を迎えた…という話がある。

 まあどうせ噂だろう。そんな事が本当にあったのならこの山はとっくの昔に封鎖されている筈だろうからな。『こわぁ……!』

 しかしそんな噂話がされるくらいには危険性がある、という事なのだろう。実際夜の山道は危険でしかないからな。

 

 よし、登るか。……明るいうちに来ておいた方が良かったな。何時間も探し回ってもまだ回りきれないとか学園広すぎんだろ。もう足がパンパンで感覚がねぇわ。『その足で山登って大丈夫?』

 

 

 やっぱ暗いな。微かな星明かりで道がギリギリ見える程度の明るさしか無いから当然だけど。……一番上の展望デッキにアドマイヤベガが居なかったら流石に帰ろうか。それに今日はもう遅いし明日探そう。『ん…?あのウマ娘は……?』

 

 …………こういう暗闇と静寂が場を満たしてる所に居ると普通のヒトは不安になるモノなのだろう。というか数年前まで俺もそうだった。

 いつだっただろうか。光が一切無い暗闇の中でも怖くなくなったのは。いつからだろう、音の無い静寂の中で安心する様になったのは。何故だろうか、暗闇と静寂の中に居ると近くに誰かが居ると感じるのは。『さっきトレーナーが話してたウマ娘なのかな? おーい!貴女は同類さんなのー!?』

 

 ……一人になると余計な事考えちまうから駄目だな…。他の事を考えようかな?例えばアドマイヤベガの揺れる胸とか太い足の事とか。『あっ、頷いてる』

 

 揺れる胸に太い足、とてもえっちだと思います。

 

 

 

 お、やーっと頂上が見えてき……た………。

 

 ……その光景が目に入った時、下衆な考えで埋め尽くされていた頭が冷えていくのが分かった。『トレーナー…?』

 

 アドマイヤベガが夜空……、いや、星を見上げて何かを語っていたのだ。苦しそうな顔で、悔しそうな顔で。

 

 

 ……何クソみたいな事考えてんだこのカス。何時からそんなゴミに成り下がったんだボケが。しっかりと思考を回して目の前の光景について考えろや愚図。それが出来なきゃ死ね。『っ……!またトレーナーの悪い癖…!』

 

 思考を回す。

 

 まず間違いなくこれ以上近づいたらアドマイヤベガに気づかれる。多分今俺がいるこの位置が気づかれないギリギリの範囲だ。ならば此処から観察できる範囲で事情を察するしかない。

 

 思考を回す。

 

 見る限りではアドマイヤベガが身を投げる気配はない。また雰囲気からしてこれから身を投げようともしていないのだろう。ならば俺が懸念していた可能性は無いと見てもいいだろう。

 

 思考を回す。

 

 アドマイヤベガが何を語っているのかは此処からは聞こえないが、その様子からして独り言で思考を纏めようとしているのではなく、誰かに語りかけている様に見える。

 

 思考を回す。

 

 わざわざこんな場所に来て話している事から誰にも知られたくないということが分かる。つまりアドマイヤベガのデリケートな部分でありプライベートな部分。そして選抜レース前の鬼気迫る様子から察するにアドマイヤベガがレースで負けられない理由がそのデリケートでプライベートな部分なのだろう。

 

 思考を回す。

 

 こんな場所に来てまで誰かに何かを語りたかった。誰にも知られたくないデリケートでプライベートな部分。星を見ながら誰かに語る様に話している。そしてレースで勝ち続けなければならないと思っている。

 これらの情報から察するに、語っているその相手はアドマイヤベガにとって一番と言ってもいい程大切な相手、だが誰にも知られたくない。そして星に向かって誰かに語りかけている。……つまりはその語りかけているその相手は故人であり、もう生きてはいない………と。そういう事……なのだろう。

 

 

「はぁ…っ……」

 

 久しぶりに高速で思考したから頭あちぃ…。どっと疲れが襲いかかって来やがった。『大丈夫トレーナー!?』

 

 

 …この事は俺が知るべきではなかった。少なくともアドマイヤベガの担当トレーナーでもなく、友人でもない赤の他人である俺が知っていて良い事ではないだろう。

彼女の事は気になるし、何かをしてやりたいとも思う。だがそれは今日ではない。今日ではダメなのだ。……誰にだって一人になりたい時があるのだ。彼女にとって……アドマイヤベガにとってのそれは、きっと今日がそうなのだから。

 

 …………帰ろう。アドマイヤベガを思うのならそうするべきだ。 まあ、寮の管理人とか警備員とかにはそれとなくアドマイヤベガの事を伝えておこうか。

 




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