担当バをそういう目で見ているトレーナーVS汚物を見る目をしながら対応するアヤベさん 作:晃斗
昨日の今日であまり気は進まないものの、アドマイヤベガと話をするために学園内を歩き回っていると、昨日アドマイヤベガの行方を探す為に話を聞いたウマ娘を見かけた。確か名前は…………メイショウ……………ドット?だった気がする。たぶん間違いない。『惜しいっ…!一文字違い!』
あ、それに俺がアドマイヤベガを知った模擬レースで一緒に並走してたっけ?
「そこの君、アドマイヤベガを見てないか?」
「はわ……あ、ああアヤベさんを見てないか、ですか……? えとえと、そのぅ〜……!み、見たといえば見たんですがぁ――」
ん、昨日話した時よりどもりが多いな。それに視線も右往左往しまくってる。……何か知ってるな。
「はーっはっはっは! 我らが星の徒ならば、遥かなる頂きへ! 険しき峰へ、その身を捧げているところさ!」
うわ、クセ強ウマ娘だ。確か名前はテイエヌオペラオー。『やっぱり惜しい…!!あと一文字!』
ええと?我らが星の徒?なるほど分からん。でも遥かなる頂きはG1レースとかだろ?なら険しき峰云々はトレーニングをしてるって事か。よし大方は理解した。……ん?違うか?『分かった!山だ!』
「もしかして……山か?」
「噛み砕いて言うとそうさ! 更に噛み砕くとこうさ。『トレイルランニングに向かったよ!』」
全く理解してないじゃないか!アホなのかな俺は!?『やーい、ざーこざーこ』
「あ、あのぉっ……! すすすみません、私なんかが目に入って……。 でもでも、場所を知ったら今から追われてしまいますよねぇ……?」
おん?……よく見たら胸デカいやんけワレェ!! エッ!!デッッッッ!!!!!!ムチムチッ♡でバルンバルンッ♡やないけ!?『トレーナーァ!!!!!』
いや、すんげぇ身体付きだなマジで…。とても高校生とは思えねぇよ……。神様仏様お胸様!感謝ッ…!圧倒的感謝ッ……!!『私もあるでしょ!ほら!ほら!!』
「あ、あのあの…!どうして拝んてるのですかぁ……?」
おっと無意識に。…………ありがたやありがたや……。
「ど、どどどうして続けてるのですかぁ……!?」
はっ!つい! くっ…!魔性のデカ胸めッ……!!『最低だよトレーナー!』
「おお、お話を戻しますよぉ……?」
あっはい。どうぞ。
「あ、アヤベさんは、とってもストイックに、レベルの高いトレーニングをなさるのでぇ……今回もそうといいますか……。ですからあのっ、あ、あぶ、危ないですよぉ……!ヒトの方にはちょっと、道が険しすぎるかとぉ〜……!」
危険って言ったら、昨日の疲れ切った状態で暗闇の中での山登りも相当危なかったよな。今更か。『本当に危ないんだからねっ!本当だかんね!』
「心配してくれてありがとな。でも、行かなくちゃいけないんだ」
昨日のアレ、俺の考えが正しいのかも出来れば確かめたいしな。
「いいんだよドトウ。……彼の頭の中では既に、運命の鐘が鳴り響いているのだからね。止めることはできないさ」
あぁ!ドトウか!メイショウドトウ! 流石に憶えたぞ!魔性のデカ胸メイショウドトウ!『憶え方ぁ!!』
テイエヌオペラオーは高らかに笑って、アドマイヤベガの向かった場所について詳しく教えてくれた。 ふんふん、なるほどねぇ…?よし分かった。
「助かった、ありがとう。それじゃあ」
二人にそう言い残して、俺は教えられた場所に走って向かうのだった。
………………足バ鹿痛ぇ……!!筋肉痛が…!足にぃっ…!響くッ…!『へいへーい!トレーナー遅いんじゃなーい!』
み……つけた……………。も、むりぃ………。あし…ちぎれる…………。
「ちょ、ちょっと、貴方どうしたの!?いきなり倒れて!?」『大丈夫ですか!?』
「ちょ…………たんま……」『誰か助けてぇ!?』
「いいから喋らない!水を飲む!」『えっとあのその、どうしよ〜!?』
アザマス……アザマス……。
「はぁ………人心地つくー」
や、下手したら夜まで倒れてたなコレ。アドマイヤベガさんマジリスペクトっすわ。『ありがとうアヤベさん!』
「……それで?何か様があるんでしょ?わざわざこんな所にまで来て」『ありがとうお姉ちゃん!』
ふぅー……。切り替えようか。
「あぁ、君と話をしに来た」『そうそう』
「……私と? ……私から話すことは、ない。スカウトも、今は受けるつもりはないから。……それじゃ」『お姉ちゃん!?』
そう言うとアドマイヤベガは颯爽と走り去って行った。
…まあそうだろうよ。でも今日は話を聞くって決めてるんでなぁ!食らいつくぞアドマイヤベガ!しゃあ行くぞォ!筋肉痛なんて気にするなァ!『あっ…』
「はっ……はっ……はっ……」『大丈夫かなぁ…』
「…………ッ!……はっ…はっ…はっ……」
やべ…、やべ……。 筋肉痛を気にしないなんて出来るわきゃねぇだろが…!このアホめぇ…!!それが出来たら人間卒業してるんだっつーの…!!!『やっぱり…?』
「はっ……ふぅ。………………」『えと、えと……やっぱり大丈夫じゃないっぽい…?』
「カヒュ……コヒュ……オェッ……」
険しいっちゃ険しいけど大した傾斜じゃない………と言えるのは身体に問題がない場合の時だけだよ…!筋肉痛……、なんてデバフなんだ…!最強じゃねぇかよ…!
アドマイヤベガとの距離がとんでもない勢いで離れてるぞ…!? ふぁ、ファイトォ!踏ん張れ俺ぇ!『がんばれっ!がんばれっ!ふぁいっ!おー!トレーナー!』
「………………コフッ」
モ……ムリ…………。『と、トレーナー!?』
日はもうすっかりと落ち、おまけに彼女の姿が見えなくなって久しい。……完全に昨日の二の舞じゃねぇか。
「……やっ…べ……!」
あっ。と思った時には足を滑らして斜面に………。『ぁっ…!トレーナーぁ!?』
「―――」
……………ん……?どう、したんだけっけ。……あぁ、足を滑らして斜面から落ちたのか。…………間抜けめ…。『起きた…!?よ、よかったぁ……!』
そんな事を考えながらゆっくりと目を開けると、そこには星空が広がっていた。飛び込めそうなほどの星の海が――。
「きれい、だな……」
ん…?俺今なんか言ったか…?
「……痛むところは?」『大丈夫そうです?』
「……助けてくれたのか。ありがとう」『んむむ……。……うん!大丈夫そう!』
って言っても、アドマイヤベガが助けてくれてなかったらまだ地面に寝てるはずだからな。聞くまでもないか。 はぁ……、勝手に追いかけるならまだしも、彼女に迷惑をかけちまった…。……本当に何やってんだよ。『本当だよ!気をつけてよね!』
「今は私が質問してるの。痛むところは?」『ですです』
「ない。大丈夫だ。…………放っておいてもよかったんだぞ」『は?』
実際、彼女の迷惑になるくらいなら放っておかれる方が俺的には良かった。そうすれば彼女はトレーニングが続けられて嬉しい。俺はアドマイヤベガに迷惑をかけないから嬉しいでWin-Winだったのに。
「……普通、放っておかないでしょう」『放っておけるわけないじゃないですかっ!』
……その普通が出来るってのが凄いと思うんだが。
例えば自分が町を歩いているとして、道の端で倒れている誰かが居たとする。ならそれを見て自分は助けるか?……大体のヒトは見て見ぬ振りをするだろう。
知らないヒトに話しかけたくない。わざわざ助けに行くのも億劫だ。その誰かが倒れているのは大した理由じゃないだろう。他の誰かが助けるだろう。ただ寝ているだけだろう。……他にも色々な理由があるだろう。
こんな風に誰に言い訳をするでもなく、助けない自分を様々な理由で正当化する。そして結局助けに行かない。それが「普通」というものだ。それがヒトという生き物なのだ。
今回の件は先程話した例とは事情が異なり、そもそも助けられた側が押しかけて迷惑を掛けたカスだという前提がある。にも関わらず、アドマイヤベガは助けるのが普通だと言ってのけたのだ。途轍もなくヒトが……ウマができている。
やはりアドマイヤベガは優しい。面倒見が良いとも言える。……だからこそ、彼女がレースに勝利することに執着している事が
アドマイヤベガは思考している俺を尻目に、眉根を寄せて深く息をつき………それから訪ねてきた。
「なぜ、私にこだわるの?選抜レースはあんな結果だった。私があなたを知らないように、あなたも、私をほぼ知らないはず。 それなのに、どうして?」『確かにそうですね…』
なぜ……か。
俺は彼女がレースに負けた事で身を投げるのではないかと思って、レース後に彼女を探し回った。そして見つけた事によって彼女が誰にも見せる気のない部分を見てしまい、その結果彼女の走る理由についても大体の推測がついてしまった。……だが、これが彼女にこだわる理由ではない気がする。『え?そうなの?』
もう少し前……そう、模擬レースで彼女を見かけた時。その時、何故か彼女が寂しそうに見えたのだ。全然そんな顔をしていないのに。そんな雰囲気を感じなかったのに。 …………それが何処か、1年前の自分に重なって見えたから。『……ッ…!』
いや……、いや。でも、これが理由では…ない……? 分からない、分からない。何故彼女にこだわるのかが自分でも
「分からない。でも――」『へ…?』
「でも……?」『はい?』
「君を独りのままにはしたくなかった」『ぁっ…!そういう……事…なの……?』
アドマイヤベガにこだわる理由は自分でも分からない。でも、この言葉が今の彼女に対する率直な想いだ。
「………………。私は――独りでいい。独りが、いい。走ることも、勝つことも、私が独りで背負うべきこと。 だってあの子は、……私の妹は、他でもない――私の身代わりに、亡くなったのだから」『お姉ちゃん…』
…………やっぱり………か……。……推測、外れていてほしかった……な…。
「……話しすぎた。忘れて」『あの……また会いましょう…?』
そう言って彼女は去って行く。
……俺の勝手な推測ではない、彼女自身から打ち明けられた彼女の背負っているもの。『すべて独りで背負う』という決意は固いのだろう。 だが、だからこそ――
「俺は、君を独りにさせたくない」『やっぱり…、そういう事………』
昨日からの無茶の連続で身体は碌に動かせないし、体力なんてとうに底をついている。……それでも、彼女の背中が見えたから――
「君を、担当させてもらえないか?」
……もう、二度と口にすることなど無いと思っていた言葉がスルリと出てきた。『……!?…いや、この際そういう事でも良い!』
「……また追いかけてくるし、突然なに」
彼女が振り返ってそう聞いてくる。……これで断られるのならそれまでだ。でも、これだけは伝えたいと……そう思えたから。
「君が独りで行きたいなら、それでもいい」『…………』
「え?」『え?』
「独りで進む君に俺が勝手について行って、俺が勝手に支えるから。 絶対に勝たせるとは言えない。誰よりも強くするとも言えない。……でも、絶対に最後まで走り切らせてみせるから。…………約束する」『………っ……』
「なに、それ……。…………………」『へ…?』
彼女は戸惑う様にそう言うと、胸を抑えて少しの間沈黙した。
「――門限、だから、帰る……」『あ、えと…じゃあまた』
「…………車とかに気をつけて帰れよ?」『…うん…………。………トレーナー……』
…………俺の希望的観測、なのだろうか? 彼女は俺の事を拒絶しなかった……と、そう考えるのは。
翌日。アドマイヤベガの返答を聞くために、俺個人のトレーナー室に居るとためらいがちに扉がノックされた。 入って来たのは…………アドマイヤベガだった。
「スカウトの話、しに来てくれたのか?」『や、昨日ぶり』
俺がそう問うと、アドマイヤベガは腕を組み、そっぽを向きながら言ってきた。
「どちらにせよ、トレーナーがいないとトゥインクル・シリーズには出られないから。 選ばなければならないなら――あなたに、しておく」『はい!』
そう……か、そうか。…………。
「ありがとう。これからよろしく頼む」『これからよろしくねっ!』『はいっ!』
こうして――アドマイヤベガとの日々が幕を開けたのだった。
次回からトゥインクル・シリーズの三年間が始まるよ。