しかし、その地震を感じたのはその二人だけだったのだ。
異変を感じた千歌たちはAqoursの仲間達にもその話を切り出すが…
性格のクソ悪いおじさん教師が出てきます!
一応オリキャラ⚠️
「地震?知らないよ?」
むっちゃんがはっきりと言い放った。
「犬とかがすごくうるさかったのは知ってる。うちの近所の犬も突然吠えだしたんだもん。でもその後に地震なんてなかったよ?」
私と梨子ちゃんは「うーん。」と声を漏らしながら頭の中を整理する。 むっちゃんが嘘つくとは思えないしなぁ…なんて思っていると、後ろから突然声をかけられる。
「え?地震でしょ?昨日あったじゃん!」
その声と同時に私の背中がポンと押された。振り向くと、そこには曜ちゃんが笑って立っていた。
曜「みんなおはヨーソロー!」
千歌「よーちゃんおはよー」
梨子「曜ちゃん、昨日の地震知ってるの?」
曜「うん、結構きたよね〜。私一瞬頭の中真っ白になったもん。ただ……」
千歌「…? なにかあったの?」
曜「うん…ママが昨日の夜に地震なんてなかったって言ってるんだ。寝ぼけてたんじゃないの?って笑われちゃった。」
同じだ。私たちと同じことが曜ちゃんにも起こっている。私たちがおかしかったわけじゃないだと安堵していると、梨子ちゃんが私の隣で何やら考え込んでいるようだ。
眉間に皺を寄せた梨子ちゃんが唸っていると、むっちゃんたちに不思議がられて、慌てて会話を切ってその後の授業を受けた。けれど、なんだかモヤモヤする。
その後の昼休み。スクールアイドル部の部室には、段々と人が集まり始めていた。
廊下や近くの購買窓口にはお弁当やパンを求める生徒達の声で賑やかさに満ちている。 今日は学校側の事情で放課後の部活ができないから、昼休みに次のライブへ向けての話し合いをする約束をAqoursのみんなでしていた。
会議室などは使えないため部室で、時短のためお弁当を食べながらすることになっている。
そして部室に一番乗りしたついでに、丁度部室にいた善子ちゃんに昨夜のことを聞き出してみることにする。
千歌「ねね、善子ちゃん。昨日の夜地震があったの知ってる?」
善子「ヨハネよ!…知ってる。でも朝来た時にみんなあんまり地震の話してないし、寝ぼけてたのかと思ったわ…それにマm…我が眷属は感じ取れなかったようね…。」
曜「私もママに寝ぼけてたんじゃないの、って言われたー!やっぱり昨日あったよね!」
余計に分からない。 むっちゃんは地震などなかったというし、善子ちゃんと曜ちゃんは地震があったことを知ってる…一体なんで?
みんな地震は感じたけど、寝ぼけてたと思って話題にしてないってことなのかな…
ますますわからなくなってきた状況に頭を悩ませていると、背後から落ち着いた高い声がかけられる。
「地震、昨日の夜あったよね」
私は声のする方を振り向いた。 花丸ちゃんが、部室のドアを後ろ手に閉めながらこちらを見ていた。
善子「あらずら丸、図書委員の呼び出しがあったわりには早いじゃない。 ルビィは?」
花丸「ルビィちゃんは別の用で先生に呼ばれたから先に行っててってさ、善子ちゃんちょっと席詰めて〜」
善子「善子じゃなくてヨハネ!」
善子ちゃんの鉄板ネタをいつものようにスルーしながら、花丸ちゃんはゆっくりとした動作で部室の椅子に腰を下ろした。
千歌「花丸ちゃんも昨日の地震知ってるの?」
花丸「うん、結構大きかったよね。頭の中真っ白になったもん。 ただ…」
梨子「どうしたの?」
花丸「おらのじいちゃんとばあちゃん、二人とも地震なんてなかったって言うんだ…マルが寝ぼけてたんだろうって、笑われちゃった」
花丸ちゃんはしゅんと困ったような表情で笑った。 花丸ちゃんの家族も地震を感じられなかったんだ…。
花丸「あんなすごい揺れだったのに、ご近所さんに聞いても、知らないって…。だからすごく不安で…千歌ちゃん達も感じたんだよね、よかったずらぁ」
千歌「私も不安だったんだ、梨子ちゃんママとかむっちゃんは知らないって言うから私が変になっちゃったのかと思ったもん」
曜「やっぱり寝ぼけてたわけじゃないみたいだね」
私は隣にいる梨子ちゃんと軽く目を合わせ、小さく頷いた。
花丸ちゃん達は地震のことを知っていた。
クラスでも、多分半分以上の人達が揺れを感じてた。でも梨子ちゃんママやクラスの約4割近くの人は、動物の騒ぎには気が付いても、その後の揺れを感じていなかった。
どういうことだろう。
何かを見た聞いたとは違う。揺れなのだ。
立っていられないほどの揺れを、感じた人と感じなかった人が居る。
これはどういうことなのか。
そんなこと考えている最中、また部室のドアが開いた。
果南「やっほ、みんな来てる?」
千歌「果南ちゃん!」
部室のドアの方に視線を向けると、そこにはお弁当の入った手提げを持った果南ちゃん達が。
鞠莉「シャイニー!って、あら?ルビィが居ないわね」
ダイヤ「花丸さん善子さん、ルビィはどこへ?」
花丸「ルビィちゃんは先生のお呼び出しずら」
善子「もうちょっとしたら来るんじゃない?」
ダイヤ「そうでしたか、ありがとうございます。」
そう言うと、三年生達はいつもの自分達の席へと腰を下ろす。
果南「ふー、やっとお昼だね。お腹すいちゃった!」
ダイヤ「果南さん、ルビィがまだ来ていませんわよ?」
果南「わ、分かってるって〜」
果南ちゃんとダイヤさんがそんなやり取りをしていると、廊下からパタパタと足音が聞こえてきた。その足音は段々と私たちの居る部室に近付いてきて、またしても部室のドアが開いた。
ルビィ「お、おまたせ〜!」
千歌「あっ、ルビィちゃん!」
小走りで来たらしいルビィちゃんが額に少し汗をかきながらお弁当の包みを持ってやってきた。
ダイヤ「ルビィ、廊下を走ってはいけませんよ」
ルビィ「ピ…!ご、ごめんなさいお姉ちゃん!」
鞠莉「まあまあダイヤ、今のは早歩きだからセーフよセーフ。」
ダイヤ「セーフなものですか!大体今のは──」
果南「はいはいダイヤそこまで〜、ルビィちゃんはお疲れ〜!さっ、食べよ食べよ〜!」
ダイヤさんのお説教が始まろうとしたその時、お腹を空かせた果南ちゃんがダイヤさんを制して早々にお弁当の包みを開け始めた。 ダイヤさんは横目で果南ちゃんを睨んで不満そうだが、そんなダイヤさんを果南ちゃんはつゆ知らず。 不満そうなダイヤさんにルビィちゃんは苦笑いを浮かべながらダイヤさんへ向けて小さく手を合わせごめんなさいと合図すると、仕方ないといった様子でダイヤさんは渋々自分のお弁当の包みを開け始めた。
そんな様子の黒澤姉妹をみて「果南ナイス!」なんて鞠莉ちゃんが茶々を入れたり、そんな鞠莉ちゃんをダイヤさんが睨めつけたり、曜ちゃんがふざけて善子ちゃんのシニヨンを揉んだり、善子ちゃんがシニヨンを揉まれて暴れたり…花丸ちゃんがルビィちゃんにお疲れ様と優しく声をかけたり、ルビィちゃんもありがとうと嬉しそうに応えながら花丸ちゃんの隣の席に着く。
何の変哲もない、いつものスクールアイドル部。Aqoursだった。
しかし、私の頭の中は何か違和感があった。 少なからず梨子ちゃんは感じてると思う。
何故地震を感じた人と感じなかった人がいるのか、という疑問が頭の中をぐるぐると渦巻いており、無意識にお弁当の包みを開ける手が止まっていた。
鞠莉「 …? どうしたのよ、食べましょ?」
そんな時、鞠莉ちゃんに言われてハッとする。
周りのみんなはお弁当を広げ始め、果南ちゃんに至ってはすでに食べ始めているのに、私と梨子ちゃんは険しい顔をしたままお弁当を睨みつけていたのだ。
果南「千歌と梨子ちゃん、何かあったの?」
果南ちゃんが不思議そうな顔で、お弁当のおかずのわかめのおひたしをつまみながら聞いてくる。
千歌「えっ、あー…いや」
果南「…? じれったいな〜、どうしたの?」
果南ちゃんはズイッと顔を近づけて私との距離を詰める。
千歌「いやさ、昨日の地震のことなんだけど…」
果南「ん?…ああ、あの揺れね。すごい揺れだったよね!頭の中一瞬真っ白になったし、その前に犬とか動物が騒いでたし…鞠莉とダイヤは大丈夫だった?」
鞠莉「まあ大丈夫だったけど…一瞬意識が飛びかけたもの…すごい地震だったわ…。 津波のことも心配したけど、特になんの被害もなくて逆にビックリよ。あんなに大きな地震だったのに何にも被害がない所かニュースにもなってないし」
ダイヤ「もちろん知っていますが…両親や家の者は地震なんてなかった、と言っていて…」
鞠莉「あー!それうちもよ!従業員に聞いても知らないって人が多くて、もちろん知ってる人もいたけど」
ルビィ「お姉ちゃん以外は地震なんて知らないって言ってて、ちょっと不安だったんだ…」
みんな不安そうな顔で昨日の地震のことを口にする。
とりあえず、Aqoursメンバーは全員昨日の地震を感じたようだ。
感じた人と感じなかった人の違いって、なにかあるんだろうか…そもそも、あんな大きな地震を感じなかったって、心底おかしな話だ。
するとそんな時。
ガラリとまたもや部室のドアが開いた。 しかしそのドアを開けたのは、今度はこの部室の部員ではなかった。もっとタチが悪い。
浦女では評判の悪い、中年男性教師の上田先生だった。
上田「理事長さんは居るか〜?」
鞠莉「上田先生?どうなさいました?」
上田「おお!居た居た!理事長さんよ、困まるな〜、書類の期限ちゃんと守って頂かないと〜」
鞠莉「え?」
ずかずかと部室に入るなり大きな声で言い寄る上田先生と、それに困惑する鞠莉ちゃん。
上田「だからぁ、書類の提出期限が過ぎてるんですよ〜」
鞠莉「そんなはずは…少なくとも期限が今週末までの書類は全て提出してありますし、そんなことはないと思いますが…」
ダイヤ「私と果南さんも一緒に目を通していますし、期限が過ぎるなんてことはないと思います。」
上田「なんだぁ黒澤?俺の言うことが嘘だと言うのか? …それに松浦、お前も懲りないな。まだこの二人とつるんでるのか?」
果南「…」
上田先生の目に見えた嫌味に果南ちゃんは、先程までの様子が嘘のように黙ったまま上田先生を睨んでいる。
上田「なんだその目付きは、ああ?」
鞠莉「っ…」
上田先生はじろりと鞠莉ちゃんと果南ちゃんを見下ろすと、嘲笑うかのように薄く笑みを浮かべた。
さっきまで和やかだった部室の雰囲気は一変、一触即発ともいえるピリピリとしたものになった。
どうやら上田先生は、高校三年生にしてこの学校の理事長である鞠莉ちゃんが気に入らないようだ。 他にも私達のスクールアイドルとしての活動や、スクールアイドルそのものをくだらないと称している。
何かにつけては嫌味を言ったり、こうして見下した態度を取る。これは鞠莉ちゃんに限ったことではなく、浦女の生徒達全員にも同じような態度だ、女性教員への態度も良いとは言えない。
正直、否。 絶対に教師には向いてない人間だ。
鞠莉「私の手元にあった書類は全て片付けてありますし、上田先生から許可が必要な書類は全て三日前に提出したはずです。 黒澤さん達や事務所の先生方にも目を通して頂いているので、そのような事はないと思います。」
上田「あぁ? …あー……」
ボソリと上田先生が小さく呟いた。
上田「あれは俺が次の授業で急いでる時に寄越して来ただろ、俺が目を通せる時に寄越してもらわないと」
ダイヤ「ですから昨日の放課後職員室へ伺った際にも上田先生に報告したはずです。」
鞠莉「他にも何度か書類のことに関して報告しましたが、その場で目を通してくれませんでしたよね?」
上田「俺はお前らと違って忙しいんだよ」
鞠莉「朝礼前や授業合間の休み時間や昼休み、放課後にも報告しましたがどれも受け付けてくださいませんでしたよね? ではいつ報告すればよろしかったでしょうか?」
上田「……」
鞠莉「見落としていたのはそちらなのではないでしょうか? もう一度お手元にある書類をご確認して頂きたいです。」
上田「……生徒の分際であまり調子に乗るなよ。」
鞠莉「……」
鞠莉ちゃんの凛とした態度に腹を立てたのか…上田先生が鞠莉ちゃんに睨みをきかせ、低く威圧的な声でボソリと呟いた。
それでも鞠莉ちゃんは動じず、上田先生の目をしっかりと捉えたまま黙って見つめている。
上田「俺は授業の準備やらで忙しかった。書類の件は報告を通さなかったそちらが悪い。 いいですね理事長?」
ダイヤ「なっ…!」
鞠莉「…」
上田「期限は守ってもらわないと困るんですよ。子供だからしょうがないとか通用しないんです、理事長なんてのは子供のお遊びでやるようなものじゃない。分かりますよね、小原理事長。」
上田先生は見下すような目つきで鞠莉ちゃんを見つめながら悪意に満ちた顔で口元に笑みを浮かべていた。
あまりにも理不尽すぎる言いがかりと罪のなすりつけ、どう考えてもおかしいのは上田先生なのに。
鞠莉「………申し訳ありません。」
上田「困るんですよねぇ。ご両親がちょっとお金持ちだからってそのコネで良いようにして、友達とのお遊びの感覚で理事長に就任して…」
上田「…大体なんで俺より年下のガキが立場が上なんだ……。 チッ…いいよなぁ金持ちはよ。金でなんでも出来る。」
ガタンッ
突然の大きな音に驚き、一同がその音のした方へ視線を向けると、椅子から勢いよく立ち上がったであろう果南ちゃんが俯いて立っていた。
上田「あぁ?なんだ松浦? 何か文句でもあるのか?」
果南「…んにしな」
上田「あぁ?」
果南「だから、いい加減にしなって言ってんの」
上田「なんだと…?」
背筋が凍るような、刺すような視線で先生を睨めつけ、怒りで普段はおおらかな印象であるタレ目を吊り上げながら静かに怒る果南ちゃんに部室は凍りついた。
普段の優しく落ち着いた雰囲気は微塵も感じることはなく、いつもよりも数トーン低い声で威圧的に言い放ったその言葉は、そのあまりの気迫に上田先生すら呆気にとられていた。
果南「あんた、理不尽な言いがかり付けんのも大概にしなよ。あんたが忘れてたんでしょ? それに鞠莉はいつも理事長の仕事をそつなくこなしてる。 期限を守らなかったことなんて一度もない。誰よりも人一倍努力してるんだよ鞠莉は。」
鞠莉「か、果南…」
果南ちゃんに気迫されていた上田先生は一瞬言葉を理解できなかったのかポカンとした顔をしていたが、みるみるうちに顔が紅潮していった。
上田「 松浦、教師に向かってえらく生意気な口をきくじゃないか? 俺はお前を謹慎にすることも、退学させることもできるんだぞ?」
しばらく果南ちゃんと睨み合った後、先生は妙に静かな口調で言った。
上田「まあ俺の大変さはお前らにゃ分からねえさ」
果南「はあ?なにそれ。」
上田「スクールアイドルなんてくだらねぇ小娘共のお遊びに必死こいて縋りついてるようなお前らなんかにはな──」
先生がそう言った瞬間、果南ちゃんはガタリと音を立てパイプ椅子を跳ね除けて先生の目と鼻の先まで迫って静かに怒りながら睨みつけた。「きゃっ。」と誰かの小さな悲鳴があがった。
果南「今スクールアイドルは関係ない。先生ならちゃんと書類に目を通したらどうですか?あと私達に変に絡まないでください。」
上田「なんだと…?」
上田先生の顔がますます赤くなり、その手が果南ちゃんの胸ぐらを掴んだ。
私は慌てて果南ちゃんと上田先生の間に割って入ろうとした。
その瞬間、唸り声を聞いた。
大地を這うような低い唸り声。人のものではない。
犬?いや、違う。もっと獰猛で威嚇の力を秘めた声だ。
思わず私は辺りを見回した。
空気は緊張している。 でも、人間以外の動物といえば、部室の外に広がる中庭の木に留まるスズメくらいだ。
低く、体の奥まで響くようなこの声は……。 どこで、なにが、唸っているんだろう?
目の奥でチカッと光が瞬いた。
その光の中に白い牙が一瞬浮かび上がる。
上田「うわっ。いて!」
上田先生が不意に背中をおさえて大声をあげた。
上田「あいたっ、痛い!なんだ、背中が──。」
後ろに手を回して自分の背中を叩く上田先生を、皆はきょとんと見つめていた。
花丸「先生。」
花丸ちゃんが立ち上がった。
花丸「ハチじゃないですか?さっき部室に入ってきてたので…」
上田「ハッ、ハチ?」
花丸「はやく保健室で診てもらった方がいいかもしれません。」
上田「しっ、しかし…うわっ、痛い!くそぉ…」
上田先生が部室から飛び出していき、部室は静まり返った。 あまりに突然の出来事でみんな状況を理解出来ずにいた。
花丸「………ふぅ」
鞠莉「な、何だったの?」
善子「ハチなんて部室に入ってきてた?」
花丸「…うーん、どうだろうね」
善子「………そういうことね」
ダイヤ「ど、どういうことですの善子さん!」
善子「多分、ずら丸が先生の背中にイタズラでもしたんでしょ」
曜「イタズラ?」
善子「そ、先生やみんなは果南達に目がいってたし席の配置的にも気が付かなかったけどね。先生がそっちに背中向けてたから、ずら丸がなんか投げたんじゃない? そうでしょ?」
花丸「まあそんな感じずら」
梨子「えっ、花丸ちゃんって大人しい印象だから先生にそんなことするとは思わなかった…てっきり本当にハチにでも刺されたのかと…」
花丸「上田先生は普段からちょっと嫌な人だったし、今回は鞠莉ちゃんに言いがかりつけてきたから…さっさと退散して貰うためにちょっぴりイタズラさせてもらったずら」
そう言うと花丸ちゃんは てへ、とでも言うように困ったような顔で小さく笑った。
鞠莉「そうだったのね、ありがとう花丸!助かったわ」
果南「ありがとうマル、ついカッとなっちゃって周り見えてなかったよ。マルが機転を利かせてくれてなきゃやばかった…。」
花丸ちゃんの機転で何とか上田先生を追い払い部室はいつもの雰囲気に戻っていた。 しかし私はそんな和やかな雰囲気の部室にまたも違和感を感じた。
千歌「…梨子ちゃん」
梨子「千歌ちゃん?なに?」
千歌「…梨子ちゃんは感じた?唸り声と白い牙みたいなの」
私と梨子ちゃんの視線が合う。
口元を引締め、梨子ちゃんは首を横に振った。
その日の放課後。
地域活動で学校が使えない今日は、生徒たちは授業を早めに切り上げ学校を後にする。
今日みたいな部活がない日でも下校前には学年ごとにHRがあるため、各学年の下校時間が微妙にズレるのだが、HRが始まる前にLINEで果南ちゃんに一緒に帰らないかと声を掛けた。 あれから授業中にこっそり鞠莉ちゃんとLINEでやり取りをしていたが、鞠莉ちゃんはあれから果南ちゃんがずっと不機嫌な顔をしているのが気になっているらしいのだ。
果南ちゃんは気持ちのいい性格をした女の子だ。
いつもは海みたいにゆったりとして穏やかで優しくて、それでいて爽やかクールな雰囲気で、千歌と曜ちゃんのお姉ちゃんみたいな存在だ。深い紫色をした綺麗な瞳とタレ目がおおらかな雰囲気を醸し出している。
幼い頃から地元の子供達のお姉さん的存在で、知らない子にも声を掛け、屈託のない笑顔ですぐにその子を魅了して友達になってしまう。
毎日よく笑って、よく食べて、よく遊んで。
鞠莉ちゃん達との一件以外には今まで友達との喧嘩もなく、怒りの感情を顕にすることなどほとんど見たことがない。 そして例の一件後は特に悩みとか考え事をしている素振りはなかった。
元々果南ちゃんはとても楽観的な考え方をした能天気さんで、悩みとは無縁そうな人間なのだ。
そんな果南ちゃんが昼の上田先生との騒動の後、珍しく何度もため息をついていた。 そもそも、あそこまで果南ちゃんが怒りを顕にしているのは初めて見たし、先生に対して噛み付いたことに驚いた。
あんな果南ちゃんは幼馴染みの鞠莉ちゃん達や千歌達でさえ初めて見たのだ。やはり気になってしまう。
善子「千歌ってちょっとお節介な所があるわよね」
千歌「えっ、そうかな?」
果南ちゃん達三年生のHRが終わるまで昇降口で待っていると、善子ちゃんたち一年生がやってきた。
そして靴を履き替えながら善子ちゃんは言った。
善子「そうよ。あんた、自分が思ってる以上に世話焼きよ。普段はあんなんだけどね」
千歌「普段はあんなんは余計だよ善子ちゃん!」
善子「ヨハネ!」
曜「ふふっ、でも…確かにそうかもね」
曜ちゃんは私を見つめながら、優しい口調で言う。
曜「千歌ちゃんは何だかんだ周りを見てるし、よく気にかけてる。善子ちゃんをAqoursに誘った時だって…」
ルビィ「うん、確かに。善子ちゃんのことずーっと気にかけてたもんね」
梨子「それに今日だって、元気のない果南ちゃんを気遣って遊びに誘うんでしょ?」
花丸「確かに、お節介かもね」
善子「ん、そーゆーことよ」
千歌「んふふ、そっかぁ」
ちょっぴり照れながら言う善子ちゃんを見て、私は何だか褒められてるような気がして嬉しくなった。 そんな事を話してるうちに果南ちゃん達三年生がやってきた。
鞠莉「ちかっち達お待たせ〜!」
ダイヤ「すみません、HRが長引いてしまって。」
曜「大丈夫大丈夫〜!さ、行こ行こー!」
果南「え? 行くってどこへ?」
千歌「そりゃもちろん沼津だよ!」
果南「沼津ぅ?」
事前に何も聞かされていなかったらしい果南ちゃんは少し驚いているよう。
それに、普段遊びに行くなら近くの松月や私の家なのが、今日は急に沼津に行くと聞かされて少し眉をひそめた。
善子「まあここらでお店があって遊べる場所と言ったら沼津しかないでしょ」
花丸「と、都会に行くずら?」
曜「そんな都会って程じゃないよ〜」
果南「でも、何で沼津に?」
鞠莉「何でって、そりゃ珍しくカナンチャンが落ち込んるみたいだからね〜」
果南「えっ。」
ダイヤ「まさか、バレてないとでも思ってましたか?」
果南「い、いや。そんなに分かりやすかった?」
鞠莉「ええ。授業中も何度もため息なんてついちゃって」
千歌「果南ちゃんがため息つくなんてただ事じゃないよ!」
曜「幼馴染みの私たちですら果南ちゃんがため息ついてる所なんて数える程しか見たことないんだから!」
果南「そんなに?」
鞠莉「あんたにため息なんて似合わないのよ。 せっかく今日は部活ないんだし、今日はとことん遊んじゃいましょ?」
果南「…そっか…みんな心配してくれてたんだ…。」
果南ちゃんは頬を指でポリポリと掻きながら少し照れくさそうに呟いた。 そして小さい声ながらも少しづつ語り始める。
果南「……私さ、今日。なんか本当に変でさ…もうちょっとで上田先生に手を出しちゃうって言うか…殴っちゃうかも、って気がしてさ」
曜「な、殴るって…」
果南「…なんだか怒りっぽいんだ…すぐに頭にきて手が出るし…ほんと、自分が嫌になるよ」
ダイヤ「…こんなこと言ってはいけないのでしょうが、私も上田先生のことは苦手です。まあ手が出るのは宜しくないですが。」
善子「私も嫌いよ。マリーにだって変な言いがかりつけて偉そうにして」
果南「鞠莉は理事長の仕事でミスなんてした事ない。誰にも文句言えないくらいに完璧にやってる。 なのに上田は…」
果南ちゃんは吐き捨てるように言った。
果南「それに…それに、上田は私に言ったんだ…」
鞠莉「What…? なにを言われたのよ」
鞠莉ちゃんの問いには応えず、俯いて握りこぶしを強く握る果南ちゃん。
目元は前髪に隠れて見えないが、暗い表情をしているのは確かだ。
果南「…」
梨子「…?」
千歌「果南ちゃん?」
黙ったまま足元を見つめている果南ちゃんの顔を見つめていると、コクンと心臓が高鳴った。 果南ちゃんの横顔が、いつもの見慣れた横顔とは違って見えたのだ。細めた目も、歪んだ口元も、果南ちゃんなんだけど果南ちゃんじゃない。
そこに鞠莉ちゃんが近づく。
鞠莉「果南、大丈夫?」
果南「……うん、ただちょっとムカついただけ。…………あいつ、鞠莉とダイヤに私は釣り合ってないとか言ってきてさ」
ダイヤ「!」
鞠莉「…!」
その瞬間、鞠莉ちゃんとダイヤさんは目を見開き顔色を変えた。
果南「…地元の名家のダイヤに、ホテルチェーンを経営してるお嬢様の鞠莉。 そんな二人には貧乏人で二人より学のない私は釣り合ってない、見苦しいって……」
鞠莉「なによ、それ……何ふざけたこと言ってんのよあのクソジジイ…!!」
ダイヤ「流石に酷すぎますわ!それに果南さんは貧乏人ではありませんし勉強だって「いいんだ」
果南ちゃんが少し大きな声をあげ、ダイヤさんが言葉を止める。
ダイヤ「果南さん?」
果南「もういいんだ。確かにすっごい腹立つけど、もういーの! あんなやつに構ってるのが馬鹿らしくなっちゃった!」
千歌「果南ちゃん…」
果南「こうしてみんなに心配かけちゃってたしさ!あんなやつの言うこと気にしてみんなに心配かけるなんて馬鹿らしいでしょ? ほんとごめんね。鞠莉とダイヤも。」
ダイヤ「そんな…」
果南「あいつに構ってるだけ無駄だし、もしこのまま構ってたら私が我慢できずにぶん殴って、退学とか…ラブライブ出禁とか…部活に影響があったら大変でしょ? まあ殴らないようにはするけどさ」
そう言うと果南ちゃんは腕を頭の後ろに組みながら、たははと軽く笑って見せた。さっきよりは少し吹っ切れたようだけど、多分まだ空元気だ。
鞠莉「果南…」
ダイヤ「…」
そんな果南ちゃんを心配そうに見つめる鞠莉ちゃんとダイヤさん。幼馴染みである二人に、果南ちゃんの空元気は目に見えてわかるようだ。勿論、私と曜ちゃんも。
果南「も〜!みんなそんな顔やめてよ!もう大丈夫だからさ!」
鞠莉「次、またそんなこと言われたら私に言って。…本当はあいつのこと今すぐクビにしてやりたいわ…」
善子「できないの?」
鞠莉「解雇なんてそう簡単にできるものじゃないのよ。私はまだ未成年で経験不足だし、そこまでの権力は…それに上田先生はパパのお気に入りだからもっと難しいわ。」
ダイヤ「上田先生は鞠莉さんのお父上とお知り合いなのですか?」
鞠莉「ええ。でも見ての通り、娘の私は気に食わないみたいね。おまけにパパから私の監視役を任されてるようで口答えもできないし…」
梨子「だからさっき理不尽なこと言われても言い返さずに謝ったの?」
鞠莉「…迂闊に言い返しでもしたらパパになんて報告されるか分からないし、面倒事にしない為にもね」
善子「ホントめんどうね、あの人」
果南「まあそんな訳で、この話はおしまい!今日はみんなで沼津行くんでしょ?行く場所決まってるの?」
ダイヤ「…強引に話題を変えましたわね。」
やや強引に話の話題を変えた果南ちゃんにダイヤさんは小声で呟き、ため息を漏らした。
隣の鞠莉ちゃんはなんとも言えない顔で果南ちゃんを見つめているが、今は仕方なく果南ちゃんの空元気に合わせることにしたようだ。
ルビィ「一応沼津のモールとカラオケはどうだろうって話してたけど、果南ちゃんはどこに行きたい?」
曜「果南ちゃんの気分転換も兼ねて行くんだから、果南ちゃんのリクエストがあるならそこに行くよ」
果南「私? 私はねー、ゲームセンター行きたいな。でもモールにも行きたいしー」
曜「なるほどなるほど、まあ時間はあるんだしまずはモール見てからゲームセンター行ってみる?」
果南「うん!」
善子「くくっ…果南、ゲームセンターを選ぶとは…以前のヨハネとの闘いのリベンジでもするつもり?」
果南「まあね、あのまま負けっぱなしは癪だし」
善子「受けて立つわ!今回もコテンパンにしてあげる」
ルビィ「あはは、前にみんなでゲームセンター行った時は善子ちゃんがゲームで圧勝してたもんね」
果南「今回は負けないよ〜!ね!千歌、曜!」
千歌「ほえ?」
果南「この間バッティングセンター行った帰りにゲームセンターで修行したじゃん!今日はその成果を見せる時だね」
曜「あーあの時のね、あの時の果南ちゃんすっごいガチってたよね」
千歌「ねー、手加減なしだったね」
梨子「ふふ、果南ちゃんって結構負けず嫌いよね」
千歌「そうなんだよ〜、ちっちゃい頃も果南ちゃんは勝負となると私たち相手でも全然手加減してくれなかったもん」
曜「小さい頃果南ちゃんとの水泳勝負でぼろ負けして悔しい思いをしたのは今でもはっきり覚えてるよ…」
果南「ご、ごめんて曜。曜は昔から泳ぐの早かったし、負けたくなかったから私も本気出してたんだよ」
千歌「曜ちゃんもなんだかんだ負けず嫌いだから、果南ちゃんが手加減したらしたで文句言ってたと思うよ?」
曜「たはは、まあ確かにそうかも」
校門から歩き出しながらたわいもない話で盛りあがる。 会話に参加しながら果南ちゃんの様子を窺うと、果南ちゃんは空元気ながらも何とか暗い気持ちを振り切ろうとしているのか、いつも通り楽しそうに会話を弾ませている。
そこまで無理をしていると言うわけでもないようで、本人もそこまで私達に気を使わせるのが嫌なのかもしれない。 とりあえず今日のところはこのまま遊びに行って元気づけてあげるのが得策かもしれない。
果南「みんなは他に寄りたいところとかある?」
花丸「も、もし良かったら本屋さんをちょっとだけ覗きたいずら…駅前だからそんなに時間はかからないと思うけど」
果南「おっけー、行こうか!他には?」
ルビィ「る、ルビィは駅前にあるクレープ屋さん行きたいな」
梨子「あそこのクレープ屋さん美味しいのよね。この間、新作クレープも出たらしいし」
ルビィ「うん、だから食べに行きたいな〜って思ってて!」
果南「いいね、そこも行こっか!」
曜「あ、次のバス三分後だよ!」
スマホのロック画面の時刻を指さして曜ちゃんが叫ぶ。
果南「やば!みんな走るよ!」
曜「ヨーソロー!急げー!」
千歌「果南ちゃんたち速いよー!」
花丸「あのバス停まで全力疾走なんて無理ずらー!」
梨子「み、みんな待ってよー!」
先に走り出した果南ちゃん達の後を、私や梨子ちゃん達も追ってかけだす。秋の風が、街路樹の葉を揺らして通りすぎていった。
pixivには最新話8話まで載せてあるのでよろしければ見ていただけると嬉しいです!
素人投稿で恐縮ですが、感想お待ちしてます!