FIRST TAKE of LIGHT   作:月の砂袋

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 原作では登場キャラクターにファミリーネームが設定されている事は稀でしたが、拙作内ではほぼ全員にファミリーネームがあります。
(原作にそれっぽいのが無いキャラはみんな捏造オリジナルファミリーネームです)

 オラクル船団に暮らす人々にファミリーネームが無いのは、無くても管理出来るからなんでしょうかね。
 生体データで管理出来るといえばそうなんですが、そういったシステムに頼らず判別するならあってもいいかなーって思うんですが……うーむ。


A.P.238 02/20 『Don't Be a Hero』 - 1

 

「ではこれより、第303期『アークス修了試験』の説明を行う」

 

 

 無機質な機械の壁と、冷たい緑の調光が降り注ぐキャンプシップ。『アークス修了試験』が行われる広大な森林が広がる惑星――『ナベリウス』へと舵を切る最中にて、アークス教導部隊の一人であるキャスト――『イナビ・ウォルテン』は、そのモノアイを深緑の装甲から覗かせながら、キャスト特有のノイズを響かせる低い声色で、眼前に座る訓練兵へと語りかける。

 

 

「貴様達が今回行う試験は、『極地環境における生存能力』を測るものだ」

「……ぐぅ」

「おい、ロシェ……起きろって……」

 

 

 惑星『ナベリウス』における、1週間に渡るサバイバル訓練。それがここ数年における、『アークス修了試験』の内容だ。

 小班*1を作り、サバイバル生活の中でいかに()()()()()()()()()()()()()。惑星資源の調査、ダーカー因子に侵された原生生物の浄化――それらの行動は、ナベリウスに設置された『探索機(サーチャー)』で監視され、試験のポイントになっていく。

 

 

「この結果によって、貴様達がアークスにおけるどういったポジションに就くか。それが決まる」

「……んえ? もう終わった?」

「バカ、声が大きい……!」

 

 

 冷静に、淡々と。そうイナビは心懸けながら説明していたつもりだった。が、前方左45°先から聞こえる小声の会話に、段々と苛立ちが声色に混じり始める。

 目の前で説明を受けている年若い少年の額には冷や汗が浮かんでいた。何をワチャワチャと騒いでいるのか、と。

 

 

「……ここで好成績を残したものは、優先的に就きたい部隊などを選べるだろう」

「ふ、ああ……ねむい……」

「アクビしちゃダメだってば……!」

 

 

 ブチリ、と。堪忍袋の緒が切れる音がした。キャストなのに。

 

 

「逆に成績が悪ければ、それに応じた部隊に配備される……そこに自分の意思は反映されない。

 そうなりたくなければ、全力を尽くすことだ。そう、貴様に言ってるんだイクリシスゥッ!!!

いっっだぁぁぁいッッ!?

 

 

 

 

 キャストならではの鉄拳が、第303期訓練兵における一番の問題児――ロシェの頭上に振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オラクル船団には、その誕生から掲げている理念が一つある。宇宙に蔓延る塵芥。星々を犯し、世界を壊すバグ。そう、『ダーカー』の殲滅だ。

 アークスは、その『ダーカー殲滅』の理念の切っ先でもある。だが、それはあくまでもアークスとしては一側面でしかない。

 

 アークスには、大きく分けて2つの組織がある。

 

 惑星調査、ダーカーの討滅、原生生物の保護、交流を主活動とする組織。惑星調査機構――『the Arks Special Duty Agency Troop』。通称『A.S.D.A.T(アスダット)』。

 

 アークスシップ内の治安維持、犯罪者の確保を主活動とする組織。独立治安維持部隊――『Arks ship Joint Internal Security』。通称『A.J.I.S(エイジス)』。

 

 更に言えば、それぞれの組織の中でも複数の部隊が存在している。イナビが所属する教導部隊などはアスダットの一部隊だ。

 これらの多種多様な組織、部隊の中に修了試験を合格で終えた訓練兵は配属される。配属先は当人の素質などを見て決定されるが、好成績を残した者はある程度の意向を示す事ができる……というのが、この修了試験のシステムだ。

 

 

「いったい……頭が割れるぅ……」

「おー痛かったねーよしよし」

「るぴかぁ……」

 

 

 イナビの鉄拳によって強制的に意識を覚醒させられたロシェが、項垂れながら悶ている。その頭頂部をまるで幼児に対する態度で撫でているのがルピカだ。その内心は「涙目のロシェ可愛い」という、ちょっと倒錯的な心情が渦巻いていたのだが、それはそれ。

 その様子を見ながら、はぁとアフィンがため息をつく。殴られて痛いのは分かるが、どう考えても自業自得である事は明白だからだ。

 

 

「そりゃ、教官が説明してる時に寝るからだろ」

「でも、殴れば起きるのね。次からそうしようかしら」

「やめてぇ……」

 

 

 まだ痛みが走っているのか。弱々しい声でスゥの悪魔のような発想の中止を懇願する。冗談よ、とスゥはおどけて口にしているが――彼女がやる時はやるという事を知っているからか、ロシェとしては冗談に聞こえない。

 

 まるで授業の休憩時間に学生が交わすような会話。試験前にしては和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気が漂っていたが、そこはアークスの卵である訓練兵。雑談を交えながらも、試験前の装備の最終点検の動きは淀みない。

 

 

(…………ふむ)

 

 

 その光景を、教官であるイナビは悟られないように見ている。『サバイバル訓練』と銘打っているが、その実態はどれだけアークスとして問題のない行動を取れているか、調和を見出していないか、チームワークは成立しているか――などと言った、行動点を見ている。

 そう、試験は既に始まっている。いかなる任務にも油断する事のない心持ちを持っているか。それは、『ナベリウス』に赴くキャンプシップ内でも測り知れる事だからだ。

 

 イナビの視線が、弾丸のカートリッジの整備状態を確認するアフィンに向けられた。 

 

 

(……『アフィン・ロットランド』。積極性には欠けるが、咄嗟の機転、判断は眼を見張るものがある。武装は射撃を好み、命中率も悪くはない)

 

 

 訓練兵の中でも、そう取り分け目立つような存在ではない。あまり率先して行動するようなタイプではないが、一歩引いた位置から俯瞰して物事を見る事ができる。

 平凡というわけではなく、将来に期待できる程には器用に物事をこなす。それがイナビの中でのアフィンの評価だった。

 

 視線を外し、その傍らで精神統一をするように目を閉じて深呼吸をしているスゥに向ける。

 

 

(……『スゥ・フラクタル』。訓練兵の中でも優れた身体能力と群を抜いた技量を持つ。が、性格が強気であるため、いささか協調性に欠けるきらいがある)

 

 

 スゥの身体能力や武装を操る技量は、長く教導官を勤めてきたイナビをしても高いと唸らせるものだ。その協調性のなさ――というか、我の強さはチームにおいては不和をもたらすというマイナスも、チームの意思方向を固めるというプラスにもなるだろう。

 総じて高水準。それがスゥという少女の評価だった。

 

 視線を外す。既に装備の点検を終えたのか、椅子に腰掛けて足をぶらつかせるルピカに目を向ける。

 

 

(……『ルピカ・セクティート』。高いフォトン感知を持ち、危機察知能力に優れる。だが、身体能力や技量はあまり高くないのが玉に瑕、か)

 

 

 訓練兵の中で見ればその成績は下から数えたほうが早いだろう。だが、その優れた感覚からもたらされる危機察知能力は、チームの生存能力を上げる事も出来る。柔和な性格も相まって、チームメンバー間の緩衝材ともなれる存在。

 そして、未だに頭の痛みが引かないのか、頭を擦る問題児(ロシェ)に目を向ける。

 

 

(……『ロシェ・イクリシス』。座学だろうが実習だろうが所構わず寝る問題児。身体能力も中の中だが、戦闘センスは悪くない……が、他人の問題に一々首を突っ込む。何かしらのトラブルの場に大体いる。行動力は高いが、向こう見ずなのは減点だな)

 

 

 ()()()()()()()()にも近い、他人への献身性。その行動力はリーダー向きだが――一人で突っ込んで暴走する事は目に見えている。だが、それは諫める者――もといコントロール出来る者がいれば、大した問題にはならないだろう。

 

 

(そして――)

 

 

 ロシェ、という少女について、問題があるとすれば、こちらだった。イナビは視線を外し、手元の『光子板(フォトンパネル)』に目を通す。そこに映し出されたロシェのパーソナルデータ、評価――その中に存在する、一点。

 

 

(……フォトン総量、『()()()()』、か)

 

 

 宇宙を漂う記憶粒子――『フォトン』。自らフォトンを発する、あるいは周囲よりフォトンを集束するなど、方法は多岐に渡るが――それらに指向性を持たせ、多種多様な現象を巻き起こす技術によって、アークスはダーカーとの戦闘を優位に進めていく。

 アークスが大なり小なり体内に宿すフォトンは、ダーカー因子による侵食を防ぎ、長時間のダーカーとの戦闘を可能としている。宿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 機材の故障を疑われたが、何度測り直しても出る結果は同じ。計測を担当した研究者から「アークスシップ一隻分なら余裕で賄えますよ!」と興奮気味に言われた記憶が、脳裏によぎった。

 馬鹿馬鹿しい、とは思いつつも――確かにロシェという少女はフォトンの出力という一点においては、底が見えないほどの出力を訓練で見せた事もあるのが事実だった。

 

 

 

 ――まもなく、惑星『ナベリウス』近宙域です――

 

 

 

 無機質なアナウンスが、シップ内に響き渡る。あと数分もすれば、惑星の大気圏内に突入し、『近距離空間歪曲装置(テレプール)』の使用圏内に入るだろう。

 思考を切り替えたイナビが、手元の光子板(フォトンパネル)を燐光として掻き消す。

 

 

 

 ――大気圏内に突入しました。『近距離空間歪曲装置(テレプール)』使用可能です――

 

 

 

 そのアナウンスが聞こえた瞬間、イナビは腹の底に響くような大声で、訓練兵へと指示を出す。いつも通りの光景だ。教導官を務める中で、幾度なく繰り返した指示。

 

 

「各員、装備の最終点検を済ませた者より『近距離空間歪曲装置(テレプール)』に入れ! 全員が転移されたのを現地で確認後、試験を開始する!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青々とした、どこまでも続く大森林。自然とともに生きる動植物が、弱肉強食の様相を呈しながらも、当たり前のように巡る世界。

 ――惑星『ナベリウス』。アークスの『修了試験』に利用される、『ダーカー』の影響が取り分け少ないとされる惑星。その草原の上に、青白い光を纏った人々が降り立つ。

 

 

「わぁ……!」

 

 

 ロシェの口から、感嘆の言葉が漏れ出る。アークスシップで生まれ、アークスシップで育ったロシェは、こういった自然溢れる環境に触れたのは初めてと言っても良い。

 さんさんと降り注ぐ暖かい光。鼻孔をくすぐる、自然そのものの香り。そのどれもが初体験で、新鮮そのものだった。もし試験中で無ければ、このだだっ広い草原に仰向けに横たわり、思う存分自然の風を楽しんだことだろう。

 

 そしてそれは、ロシェだけではなく、他の訓練兵も同じだった。アフィンも、スゥも、ルピカも。アークスシップから出た事のない彼らからすれば、全てが新鮮そのもので、誰もが目を輝かせている。

 

 

「――注目ッ!!!」

 

 

 だが、これはあくまでも試験だ。イナビの大喝にも似た呼び声に、どこかピクニックのような浮ついた雰囲気を漂わせていた訓練兵達は、一斉にその気を引き締め、その佇まいを直す。

 その表情に油断も緩みもない。鍛え上げられたアークスの卵たちの姿に、イナビは少しだけ微笑んだ――キャストなので、表情の変化はまるで分からないが。

 

 

「――よろしい。これより君達へ送る最後の教導となる『修了試験』を開始する」

 

 

 イナビが訓練兵に、試験の開始を告げようとしたその瞬間だった。

 

 

「――え?」

 

 

 ルピカが、何かに感づいたように顔を頭上に上げる。その優れたフォトン感知能力か、あるいは第六感か。その目線の先にある『何か』を、ルピカは朧気に感じ取った。

 その様子に、アフィンも、スゥも、ロシェも、他の訓練兵も――イナビですらも、その視線の先を辿って、何もないように見える、晴れ渡った青空を見つめて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――だが確かにそこにある『淀み』を、感じ取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ダーカー発生警報――因子震源地『惑星ナベリウス』――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空が、歪んでいく。青が鮮血の如き紅に染まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――空間許容限界を越えます――近隣の■ークス■ただちに出■準■を――

 

 

 

 

 

 

 

 

「いかん――!!」

 

 

 

 

 

 

 

 腐ったフォトンが流れ出る。世界の犯す蛆が、ありとあらゆる法則を無視し、現世へと躍り出る。

 惑星『ナベリウス』には存在しないはずの『ダーカー』。その尖兵たる虚影が――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■―――!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘経験も疎らな新兵へと、牙を剥いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
3~4人ほどから構成されるチーム

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