数時間が経過して、周辺警戒を交代で行いながら門から少し離れた林の中で身を隠し、真純達は焚き火を囲む。現在はメリュジーヌが周辺警戒のために飛び立ってから既に数分が経過していた。
クー・フーリンの話によると、彼の師匠でもあり、影の国の女王でもあるスカサハという人物はこの門の前にたびたび現れ、周辺に住む幻想種や、やってきた強者共と戦うのだそう。戦いを通してスカサハに認められた勇士は彼女の弟子として、影の国へと迎え入れられるのだと言う。
つまり、この門の前で待っていれば、いずれはスカサハにお目通りが叶うという事である。現状この特異点に対して何の情報も持っていない真純達にとってはこの世界を最もよく知るスカサハに会うことが、解決の糸口になるかもしれない。
「此処が特異点だっていう話なら、スカサハが既に俺に会っているのかそうじゃないかで話は変わってくるが………まぁ、あの女の事だ……俺を知らずとも、何らかの形で道は示してくれるだろうよ……」
あの女、と苦虫を噛み潰した様な顔でスカサハをそう呼ぶクー・フーリンは、しかしその言葉の端々に彼女への信頼が見て取れる。
ーーーみしり
大地が揺れ、空間が軋む様に悲鳴を上げる。陰鬱な雰囲気の草陰の向こうから獣たちが逃げ惑う音がする。
「「…!」」
異様な気配を感じ取ったクー・フーリンとディルムッドは周囲を警戒しながら、マスター達に告げる。
「門の前に移動するぞ………この気配……スカサハかもしれねぇ」
「わかった。行こう、真純」
「ん、了解」
四人が門の前に移動するとそこには、クー・フーリンの物とよく似た槍を携えて、呪いの朱槍と同じ様にその身を獣の血で染め上げ、下を向く女性の姿が見える。
「よう、あんたが此処の女王、スカサハか?」
クー・フーリンは一応、スカサハが自分を知らないという可能性を考慮して槍を隠し、初対面を装って彼女に問いかける。
「………酷い話だとは思わぬか?自らの師の顔も忘れたとはーーーー」
「!…何だよ、知ってんなら話は早………いや……何者だ……テメェ……!」
彼女が自分を認知している事に安堵して話をしようと近づいたのも束の間、クー・フーリンは目の前の女が自分の知る師匠ではない事を知る。
「……お前を殺したくてたまらない女の存在すらも……忘れたというのか…… …ん?クー・フーリン……!」
そう言いながら女は右手に槍をつがえ、その豊かな肢体を地面スレスレまで倒し、左手と両足の三本で体を支え、こちらを睨みつける。
「…ッチ、おい色男!!嬢ちゃんとボウズを連れて、此処から離れろ!!」
クー・フーリンは最早戦闘は避けられない事を悟り、目の前の女に槍を構えて、マスター達を安全な場所へ移動させるよう、ディルムッドへ叫ぶ。
「!…ええ!マスター!真純殿!こちらへ!」
ディルムッドに先導され、訳もわからぬままにマスター二人は走り出す。
「え!?何!?今のスカサハじゃなかったの!?」
「…分かりません……姿も声も、あの槍も。私達の知る彼女に瓜二つではありますが……」
今までのどこかの特異点で、スカサハとの面識があったのであろう立香とディルムッドは今の女がスカサハではないらしい事に驚きを隠せない様で、その様子を横目に全力でディルムッドの後を追い走る真純の横を………青いナニカが高速で通り抜ける。
周りの木々をへし折ってようやく停止したナニカを見て真純達は言葉を失う。
「クー・フーリン!!!」