人類最後のマスターには好きな人がいる    作:永久冬眠

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第16話

「……何とも皮肉な話だ……あの女を下してもなお、その影から逃れる事はできぬとは」

 

「……フゥゥ……何言ってやがる」

 

 殿(しんがり)として、女の前に残ったクー・フーリンは何合か槍を交えた後、距離をとって話をする。

 

「……本当に忘れているのか……?姿は少しばかり変わったが、面影くらいは残っているはずだが……」

 

「まさか………テメェ……オイフェ……か」

 

 クー・フーリンは女の正体に心当たりがあった。姿はスカサハのそれだが、その発言から彼女がかつて、自身との間に子を成した女であるのではと思い至った。

 

 オイフェと呼ばれたその女はスカサハがまだヒトとしての範疇にいた頃、影の国においてスカサハと並ぶ最強の戦士であった。一説にはオイフェはスカサハの双子の姉妹であったともいわれる。

 

「だが、解せねえな……確かにお前さんは、スカサハに似てはいたが、そこまで瓜二つじゃあなかったはずだ……一体何をした?」

 

「………貴様に答えてやる義理はない……疾く死ね」

 

 

 自身の正体を言い当てられたオイフェは顔から表情が抜け落ち、再びクー・フーリンへと吶喊する。迎え打つクー・フーリンには焦りも油断もない。

 

 生前に一度、オイフェを下した彼は、彼女の実力をよく知っているし、その彼女が自らの師匠と同じ姿をしている事にも何らかの意味があると考え、目の前の女に集中する。

 

 

 

が、しかしーーーーー

 

「ッ!……っがぁ」

 

 オイフェの攻撃を正面から受け止めたクー・フーリンは、背後から突如現れた朱槍に腹を貫かれる。

 

「私とてその槍の製法は理解している……そら」

 

クー・フーリンの周囲に大量の朱槍が現れる。その穂先は全て、彼に向けられる。

 

「!……クソ!……宝具……!」

 

「もう遅い」

 

 クー・フーリンに向かって全ての槍が放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クー・フーリン!!」

 

 今の自分のマスター、古谷真純の叫びでクー・フーリンは意識を取り戻す。

 

「まずい!すぐに来ます!移動を!!」

 

 足を止めた真純達にディルムッドは叫ぶ

 

「逃げろ……ボウズ……アイツは………」

 

 

 

 

 

 

 

「ほう……その小僧がお前のマスターか……」

 

 

「もう追いついて来やがったか……ボウズ、竜の嬢ちゃんは何してやがる?」

 

 幾分か回復したクー・フーリンは真純をオイフェから隠す様に前に立ち、メリュジーヌの所在を尋ねる。先程からメリュジーヌの居場所が掴めない真純はクー・フーリンに答えようとして

 

 

「あの竜の小娘なら此処には来られぬよ」

 

 代わりにオイフェがそう答え、続ける。

 

「あの小娘は厄介だ……アレが飛び立った時に結界を張った……破壊できぬこともないだろうが……まぁそれなりには手間取るだろう」

 

 オイフェの言う事が事実であれば、マスター達を逃す役目を負ったディルムッド以外に援軍は望めない。真純の一画しかない令呪でメリュジーヌを呼び寄せればその限りではないが、オイフェがその対策をしていないとは考えられないし、カルデアの令呪とは違い、回復するかもわからない令呪を使うべき時は今ではないとクー・フーリンは判断した。

 

「貴様を殺すために、色々と用意をしたというのに……何だその体たらくは、今の貴様を殺したところで私の心は満たされん………そうだ」

 

 ふと思いついた様にオイフェはクー・フーリンの後ろにいる真純に視線を向け、深く弧を描くように口を歪める。嫌な予感がした立香は真純の手を手繰り寄せ、強く握る。

 

 自分が何かされる事を粗方察した真純は、自分に何かあったときに、クー・フーリンが退去しない様に立香と手を繋いだ瞬間に彼のマスター権を立香へ譲渡した。

 

「その小僧を捕らえていけば、貴様は私を本気で殺しに来るのか?ん?英雄は逆境に追いて輝くと言うしな」

 

「ッハ……させると思ってんのかよ」

 

 魔力を練り上げるクー・フーリンは勿論、既に自分が真純のサーヴァントではなくなっている事に気がついていた。何か考えあってのことだろうと、真純の覚悟を汲んで何も言わずに容認した。

 

「…弱くなったなクー・フーリン…いや、サーヴァントなら当たり前か」

 

 肩で息をするクー・フーリンにオイフェは冷たく言い放つ。

 

「…お前は違うってのかよ」

 

「………さぁ、どうだろうな」

 

 そう言いながらオイフェはすらりと伸びるその脚で、隙をついてクー・フーリンを蹴り飛ばす。

 

「次会うまでに勘を取り戻しておけ……その辺りの海獣でも狩ればそのうち戻るだろう」

 

 立香は気付く。自身の手に握られていた真純の手はそこには無く、既に彼はオイフェに抱えられている事に。

 

「待って!!」

 

「いけません!マスター!」

 

 真純を連れ去ろうとするオイフェに待ったをかける立香をディルムッドが止める。勇気と蛮勇は違う。その言葉をディルムッドは今噛み締めていた。本心では今すぐにでもオイフェに挑み、真純を取り戻すための一助にでもなれたらと思っている。

 

 しかし、ディルムッドは今自分がオイフェに挑んでも意味はないことが分かっていた。マスターの想い人である真純を見捨てる事になろうとも、クー・フーリンが戦えない今、自分が倒れれば状況は悪化の一途を辿り、最悪の場合、マスター二人ともを失う結果になりかねない。

 

「……この小僧が惜しいのなら、城まで取り返しに来るがいい……次に会えば必ず殺す……精々準備をして挑んでくる事だ………門はお前達なら通すようにしておこう」

 

 そう言い残し、真純とオイフェの姿は消えた。

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