人類最後のマスターには好きな人がいる    作:永久冬眠

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第19話

ーーーー魔槍 ゲイ・ボルク

 

 かつて紅海にて二体の海獣が争った。

 

 それぞれの名をクリードとコインヘン。巨大な二体の海獣の殺し合いは、最終的にはコインヘンへと軍配が上がった。コインヘンに敗れたクリードの頭蓋はアイルランドへと流れつき、ボルクという名の男によって呪いの朱槍へと姿を変えた。故に、ゲイ・ボルク(ボルクの槍)。一説にはオイフェがクー・フーリンへとその槍を授けたともする話からゲイ・アイフェとも呼ぶ事がある様だが、それはまた別の話。

 

「よぉ色男……アイツを見て………どう思う」

 

「すごく……大きいです……」

 

 立香とメリュジーヌを残し獲物を求めて海岸へと移動したクー・フーリンとディルムッドの目の前に現れたのはクー・フーリン曰くコインヘン。イカやタコの様な触手が見えるのみで影の国の薄暗い気候も相まって全体像は黒い影に覆われて確認する事ができない。

 

「……本当に、挑むのですか………アレ(・・)に?」

 

「……ま、殺すのは無理でも、触手の一本、素材の一つくらいはイケんだろ」

 

「えぇぇ……」

 

 脳天気にそう言ってコインヘンに向かって走り出すクー・フーリンを白目で眺めるディルムッドだったが、流石にケルト戦士、頬を叩き気合いを入れてクー・フーリンの後に続いて名状し難き触手に向かって駆けて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、オイフェに城へと連れ去られてから早数日、真純は暇を持て余していた。それはオイフェも同じだった様で、クー・フーリンが絡む事柄以外、つまり今を生きる本来のオイフェが主人格となっている間オイフェは時折、真純が軟禁される部屋へと訪れては、真純と言葉を交わした。

 

 この時代にはない思想、学問、兵器など武力のみならず、知識に貪欲なオイフェは自分にはない未知の知識に目を輝かせ、真純の話に食い入った。

 

 そして時には、話の対価として真純の生きる時代には伝わらない原初のルーンに関する知識を真純へ授けた。

 

 そうやって交流を深めていった二人は今………

 

「…ふむ、チェックメイト……だな」

 

「う…嘘だろ……」

 

 真純が教えたチェスの知識をもとに、オイフェが駒とチェス盤を作り、対局していた。最初の一戦目はまだルールをよく理解していないオイフェが真純からの解説を受けながら指しており、真純が勝利する流れだったが、二戦目に入った途端、プロもびっくりの手腕で真純を打ち負かした。

 

 聡明なオイフェの事だから何戦かすれば負けるだろうと覚悟していた真純だったが、一戦目(チュートリアル)以外全負けという戦績に自信を無くしつつあった。

 

「……惨めだ……己が憎い………」

 

「ふふっ……これで34勝…か……ふふふ」

 

 己の不甲斐なさを嘆きながら膝をつく真純を見ながらオイフェは心底楽しそうに微笑んだ。チェスでの対戦は既に5戦、その他にも将棋やトランプなど、様々な種類の遊びに興じた。ポーカーをした時には賭けるモノが何も無かった真純は半ば無理やり貞操を賭けさせられ、身の危険を感じて最初の一戦で勝ち逃げした。 

 どの遊びにおいても真純が勝てたのは最初の一戦だけ、自分の方が経験があるはずの遊びで呆気なく負かされる真純の様子がオイフェは面白くて仕方がなかったらしい。

 

「……さて、今宵も楽しめたし、何か対価を払わんとな……やはり体で……」

 

「や、その流れ何回目ですか。いい加減慣れましたよ」

 

 アレからも事あるごとに真純を抱こうとするオイフェだったが、その言葉はいつも何処か冗談めいており、最初こそ顔を茹で蛸の用に赤くしていた真純も今となっては真顔でいなす様になっていた。

 

「むぅ……つまらんなぁ……では此度は何の話をしたものか……」

 

 すっかりそっけなくなった真純の対応に退屈そうにむくれたオイフェはいつもの様に真純へと授ける知識について考える。ここ5日程で真純に対してかなりの量のルーン魔術の知識を教え込んだオイフェはそろそろ別のネタを教えようと思っていた。

 

「………ふむ、あの女の真似事の様だが、悪くないか……ふふっ…よし、外に出るぞ、ついて来い」

 

(絶っっっ対碌なことにならない)

 

 部屋の扉を開け、月明かりのさす廊下を歩いて行くオイフェを見つめる。直前に彼女が見せた底冷えする様な笑みに真純は嫌な予感しかしなかったが、従わないという選択肢はあるはずも無いので、石の様に重い腰を渋々上げてオイフェの後を追っていった。

 

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