人類最後のマスターには好きな人がいる    作:永久冬眠

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第2話

 立香に会えなくなった古谷真純の世界は色を失った。

 

 立香に会えなくなってからどのくらい経っただろうか。知らぬ間に一年が過ぎ去ったという驚天動地のビッグニュースからしばらく、最近は藤丸家と自分の周りでコートにハットを被った英国紳士風の不審者をよく見るようになったり、動物や何もない空間から視線を感じるようになった。

 

 

 古谷家は歴史は浅いが魔術師の分家だった。幼い頃に唯一の親族だった母が亡くなってからは、お隣の藤丸家に世話になりながら、ほとんど一般人として生活してきた真純だったが、立香がいなくなり、変な人たち(魔術協会の人間)が周りに現れ始めてから家にあった魔術関連の書物を読み漁った。

 

 死んだ母親の日記を読んでわかった事は1つ。どうやら自分は魔術師の中でも特異な部類に当たるようで、魔術を扱う素養はないが、魔力の量が凄まじく、生まれた瞬間に膨大な量の魔力を放出し周辺の魔術を阻害したという。それがどれほどすごいのかは真純にはわからないが、母は真純が協会の実験動物にされるのを恐れ、ある程度成長するまでイギリスの隠れ家で真純を育てたのちに真純を連れて日本へ飛び、一般人として彼を育て上げたようだ。

 

 自身の預かり知らぬところであった母の苦悩と葛藤が綴られた日記を涙ながらに読み終えた真純は母の遺した魔術書を読み、魔術師の基本を学んだ。

 

 

 

 ある日事態は動き出す。藤丸立香が古谷真純に会うためにカルデアを立ったのとほぼ同時に、魔術協会の連中も動き始めていた。協会は藤丸立香について調べる過程で、古谷家の存在を認知する。そこに居る真純がかつて協会から狙われた存在であった事も、藤丸立香と親しい関係である事も。

 

 コンコンコン

 

 深夜、インターホンを鳴らさず、わざわざノックしてきたドアの向こうの存在に真純は朧げながら嫌悪感を持った。何か嫌な予感がする。それが魔術師としての自身の才能なのかはわからないが、決してドアを開けてはならないと本能が囁いていた。

 

 がちゃり

 

 鍵を閉めていた筈の玄関のドアが、開く音が聞こえる。

 

 (玄関のドアには母さんが掛けた魔術が残っている…それを開けられるって事は…まずいかもな)

 

 

 真純は自身の部屋から地下の工房へとつながる隠し扉へ飛び込んだ。真純は魔術師としての基本的な事情は知っているが、戦闘能力は無い。もし、侵入者が自分を捕える、或いは殺しに来ていた場合、真純自身に対抗手段はない。とはいえタダで捕まるつもりは無いため、母が遺した魔術が多く残っている地下の工房、その最奥にある英霊の召喚陣のある部屋へ向かった。

 

 

 

 通常、サーヴァントとは聖杯への願いを持った英霊たちが聖杯戦争の際に召喚されるものであり、一部例外を除いて聖杯の力無しに召喚する事はできない。

 しかし、真純の母は彼を産んだ後、自身の死期がそう遠くない事を悟り、自身の代わりに彼を守ってくれる誰かを求め、英霊召喚に行き着いた。

 たとえ聖杯があらずとも、真純の無尽蔵の魔力を持ってすれば真純自身を擬似的な聖杯、炉心として、サーヴァントを喚ぶことが可能かもしれないと結論付けた。

 

 

 真純の母は死の間際までその研究に没頭し、あとは真純の血液を地面に描かれた陣に触れさせるだけというところまで来ていた。母の日記を読んでいたためそれを知っていた真純は自身の親指の皮膚を噛みちぎり、陣に血を垂らす。

 

 

 しかし

 

 

 「クソッ…どうして…!」

 

 召喚陣は反応しなかった。考えてみれば何のことはない、聖杯が無ければ願いは叶わない、英霊達からしてみれば召喚されてやる義理は無いのだから当たり前といえば当たり前なのだ。

 

 もう追手は直ぐそこまで迫っている。石畳を踏む足音が近づき、部屋と扉が開かれる。

 

 「……!」

 

 真純は恐怖に震える体を押さえつけ相手に対面する。

 

 「デッドオアアライブ、生きていても死んでいてもいい。楽な仕事だ」

 

 真純を追ってきた男は初めて口を開いた。口ぶりからして自分のことを指してのことだと真純は悟った。生死を問わず(デッドオアアライブ)

 男は魔術的意匠の施された剣を構えている。どうやら真純を生かして捕える気はないように思える。

 

 「悪いとは思わねえ、恨むならそんな身体に産んだ母親か、自分自身を恨むんだな」

 

 その言葉と剣を振り抜く男の姿を最後に真純の意識は途絶えた。

 

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