人類最後のマスターには好きな人がいる    作:永久冬眠

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忙しい時期が過ぎたので投稿再開


第21話

 さらに数日後、オイフェの元で槍の手解きを受ける真純は少しづつ、しかし着実に成長しようとしていた。

 

 真っ先に覚えさせられたのは魔力放出による身体能力のブースト。真純の魔力量に気付いたオイフェは細かい制御は後回しにして、魔力放出のコツを教えた。

 

 魔術とは違って文字通りシンプルに魔力を放出する業は魔術の扱いが得意ではない真純にとって、まともに扱える数少ない手札であった。

 

「そうら!どうした!もっと踏み込め!!」

 

「ッセァァ!!」

 

 有り余る魔力を放出してオイフェの周囲を駆け回り、背後をとって一気に接近して槍を振るう。一見して善戦しているように見えなくもないが、槍の使い方を学び始めて精々が一週間程度の真純の攻撃など、オイフェにしてみればなんのことはなかった。

 

 オイフェの手に握られているのは、城の倉庫で埃をかぶっていたごく普通の鉄剣。彼女はその場から一歩も動かずに真純の槍を剣で弾き続ける。

 

「私の得物は剣だぞ!槍を持つお前の方がリーチで勝っている!身体が引きすぎだ!」

 

「アンタがその剣振ると衝撃波が飛んでくるからでしょうが!!」

 

「それは正直悪かった」

 

 オイフェが持つのは確かに何の能力もないただの剣なのだが、彼女の技量が高すぎて、剣から衝撃波が発生していた。最初の打ち合いでその衝撃波に吹き飛ばされた真純はそれが若干トラウマになっていた。

 

 オイフェも衝撃波を出さないように加減に加減を重ねて剣を振っているつもりではあるが、積み上げられた経験がそれを許さない。

 

「だが、コレが出ない程度の剣速ではお前の試練にはなるまい」

 

「なりまーす!めっちゃなりまーす!!」

 

「ならない」

 

「ハイ」

 

「あと、背後を取るのは大事だが、それに固執しすぎだ。そのせいで攻撃が読みやすい、恐れるなとまでは言わんが、もう少し勇気を持って踏み込め」

 

「はい!」

 

「よし、もう一度!今度は正面から!」

 

「はい!」

 

 そう返事をして、真純は槍を構える。穂先に近い場所を握る左手を前に、石突の方を握る右手を後ろに、クー・フーリンもよく使っていたその構えは、オイフェが真純に一番最初に教えた構え方である。そこから魔力放出で一気に加速してオイフェに向けて槍を振る。対するオイフェも初めて出来た教え子の成長に喜びを感じながら、自ら弟子に与えた槍を剣で受け止めようとして。

 

 

 

 

パキン

 

 

 

 

 

 

 

 と、音を立て真純の持つ槍の穂先、刃の部分が根元から折れて、地面に突き刺さる。

 

 

 

「「あ」」

 

 

 

 互いに武器を構えたまま、折れた穂先を見て呆然と立ち尽くして数秒。先に声を上げたのは真純の方だった。

 

 

「お、折れたァァァァァ!?」

 

 初めて持った武器が破損してショックを受け、地面に突き刺さる穂先を大事そうに抱える真純の背後から、オイフェが声をかける。

 

「まぁ、海獣の頭蓋とはいえ、寄せ集めの端材で作ったものだ……槍として振るうには限界があろうな」

 

 オイフェがそう言って真純の持つ穂先の取れた槍に手をかざすと、今まで隠れていた槍の本来の模様(・・)が浮かび上がり、ひび割れて今にも砕けそうなガラスのような線が見えるようになった。

 

 

「正直、お前の槍の振り方は槍というより棒を振っていると言った方がしっくりくる。案外、穂先の折れたそっちの方が性に合っているやもしれんぞ?……な?だから……その、なんだ……そんなに落ち込むな」

 

 元々いつかはこうなると予想した上で槍を送ったオイフェだったが、想定以上に槍を気に入っていた真純の落ち込みようは凄まじく、思わず気を遣ってしまうほどだった。

 

「……そら、貸してみろ……槍には戻らんだろうが、頑丈な杖くらいにはなだろう……今日はもう休め」

 

「…はい」

 

 そう言ってトボトボと部屋へ帰って行く真純を見送ったオイフェは、一人呟く。

 

「……そんなに気に入っていたか…………ふふっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に戻った真純はショックから不貞寝した。不貞寝して気付いた。

 

(俺、何で槍の修行なんてしてたんだろう………?)

 

 至極当然の疑問が浮かんでくる。

 

(そもそも俺捕虜だよな……何で鍛えられてんの?めちゃくちゃキツかったんだけど)

 

 

 そこはオイフェの気まぐれとしか言いようが無い。しかし、ともすれば殺されていたかもしれない身なので、それよりは断然マシである。

 

 

 

 

(でもまあ……)

 

 

 

 

「ちょっと楽しかったなぁ………」

 

 

 

 

 

 

 オイフェもまた、折れた槍を持って自室へと戻っていた。夜の静寂に包まれて、静まり返った部屋で声が響く。

 

 

『師匠だと……弟子だと……ふざけるな、虫唾が走る……あの女の真似事のつもりか』

 

 その声は確かにオイフェのものだが、言葉に込められた憎悪と怨嗟は、真純の師匠としてのオイフェが持ち得ないものである。

 

「………力を蓄える為に眠っているのではなかったか」

 

『貴様が醜態を晒しているからだ……なぜ小僧を殺していない』

 

「何を馬鹿なことを………あやつがクー・フーリンとやらのマスターなのだからお前が連れ去ってきたのではないか」

 

『惚けるな!分かっている筈だ……あの小僧は既にクー・フーリンのマスターではない!小僧を殺せば、厄介な竜の小娘も消える!……それに、小僧が死んだと知れば、あの男は本気で私を殺しに来るぞ………嗚呼、憎悪に歪む顔が目に浮かぶ……!』

 

「……お前の復讐とあの子に何の関係がある!これ以上無関係な人間を巻き込むな!クー・フーリンを殺すことが目的では無かったのか!」

 

『あの子……?あの子だと?………ふはははっ!!何だ!?博愛主義にでも目覚めたか!?そんなに小僧が大事か!?あの女が、愛する自らの弟子に自分を殺して欲しいと願ったように、貴様もそう思うのか……ん?』

 

「黙れ……これ以上話すことはない」

 

『………その感情は底無しの沼のようなものだ………どんなに戦の経験を積んだ戦士でも囚われる………抜け出せなくなる前に、とっとと小僧を殺せ……』

 

 そう言い残して、復讐を願う魂の残滓はまた眠りについた。

 

「………」

 

 一人取り残されたオイフェは折れた槍を片手にここ数日を振り返る。

 

 未来の自分の依代となってからというもの、オイフェの思考は常に復讐へと向けられ、理性でそれを否定しつつ、それにも限界が近づいていた。

 

 真純と過ごした時間は体感的には既に一月に迫ろうとしている。時の流れが狂っているこの場所では、時間など気にしても仕方がないのだが。

 

 真純と会話して、鍛えて、ボードゲームをして、そうしている間だけ、彼女の中で燻る存在しない筈の怨嗟の炎は鎮まっていた。

 

 別に誰でも良かったのかもしれない。ただ他者との触れ合いで気分を紛らわせたかっただけで、そこにいたのが偶然真純だったというだけの話。

 

 それでもオイフェは彼との時間に言いようのない悦楽を感じていたのは事実である。

 

 

『その感情は底無し沼のようなものだ』

 

 

 未来の自分が言った言葉が頭の中で反芻する。

 

 

 

(何だというのだ………全く)

 

 

 

 答えのない問いを頭の片隅に追いやり、折れた槍をどう作り変えるか思案しながらオイフェは夜を明かすのだった。

 

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