ぴちゃり、ぴちゃり
「…ん…うぁ」
耳に入った水音と腹部にじわりと広がる裂傷の熱によって真純の意識は覚醒する。
どうやら自分は地下室に置かれていたベッドに横になっているらしい事を認識して、今度は自身の体の上から聞こえる水の滴るような音が気になり始める。切り裂かれ熱を持った腹部の傷にひんやりとした何かが触れている。
真純は痛む体を動かして、未だに霞む視界で自身の腹部へ視線を向ける。
「…れろ…ん、………あ」
見覚えのない少女が腹部の傷に舌を這わせその血を舐めとっていた。
理解の範疇を超えて何も考えられなくなった真純は白目を剥いて言葉を失う。
「良かったぁ!目が覚めたんだねマスター!」
白銀の髪のその少女は真純の意識が戻った事を大層喜んでおり、その様子を見た真純はひとまずの警戒を解き尋ねる。
「君は…誰?というか何してるの」
「わたしはメリュジーヌ。君のサーヴァントだよ」
サーヴァント
その言葉が頭の中で反芻される。失敗では無かった。母の遺した魔術はしかと機能し、彼女を喚び出したらしい。
ぺろり
ビクッ
再度傷口を舐め始めたメリュジーヌに完全に覚醒した身体がビクンと跳ねる。
「改めて聞くけど、何やってるの?」
「マスター、さっきまで死にかけだったんだよ。お腹にこんな傷をつけられちゃって……でも安心して、わたしは竜なので、こうやって傷を舐めているだけで…ほら」
もう一度腹部を見るとそこにあった痛々しい生傷はもはや傷痕を若干残すのみにまで回復していた。
「!…すご」
「えへへ、そうでしょ、そうでしょ!」
通常ではあり得ない現象に思わず驚嘆の声が漏れる真純とマスターに褒められた喜びを隠しきれないメリュジーヌ、世間(主にカルデア)を騒がせる迷コンビ誕生の瞬間であった。
時は少し遡り
「はぁ、はぁ…もっと急いで!アルトリア!」
「これで全力ですマスター、落ち着いてください」
「…でも」
「セイバーの言う通りだ。急いては事を仕損じる。君は良く判っている筈だ、マスター」
藤丸立香と日本にゆかりのある英霊エミヤそしてアーサー王、アルトリア・ペンドラゴン。3人は
これまで数々の特異点を修復してきた歴戦のマスターと言って差し支えない立香といえども大事な幼馴染のピンチとあっては焦らずにはいられなかった。
「…っすぅ、はぁ…うん、ごめん。落ち着いた」
喉を震わせながらも大きく深呼吸した立香はある程度普段の冷静さを取り戻した。
「…よし。ではマスターもう直ぐ高速を降りる…案内を……!」
「…!」
瞬間、膨大な魔力が解き放たれるのを3人は特にサーヴァント二人は感じ取った。魔術に乏しい立香でさえも鳥肌が立つほどの濃密な魔力。
「マスター…今のは…」
「ま、真純の家の方からだった……と思う」
「セイバー、場所は覚えたな急ぐぞ!」
「ええ、分かっています」
魔力の波動から場所を割り出した3人は直ぐに古谷邸へ到着した。
「……うそ…いや…!」
見るも無惨に一面瓦礫の山となった古谷邸は十二分に藤丸立香の心を折った。
もっとも家が崩れたのは真純が放出した魔力の所為なのだが3人がそれを知る由もない。
膝をつき今にも泣かんとするマスターをサーヴァント二人はただ見つめるしか無かったが、ふとエミヤがあることに気がつく。
「マスター。瓦礫に埋もれていてわからなかったが、どうやらこの家、地下室があるらしい…魔術師の工房に近いものを感じる」
立香は、はっと伏せていた顔をあげ、縋るような瞳でエミヤを見つめる。
「かなり深いから分かりづらいが地下から若干の魔力反応がある……もしかすると君の幼馴染はこの下にいるかもしれない」
「早く行こう!二人とも瓦礫どかすの手伝って!」
運命の出会いまであと少し