見習い魔法使いイジーとスライムのスマイル   作:ヤングコーン

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嫌な先輩2人組みをやり過ごすと、今度現れたのは嫌な同級生3人組だった。イジーとスマイルの歩く先に堂々と立ちふさがる。隣を通り過ぎようとすると決闘を申し込まれた。この学校では魔法の鍛錬のために決闘は推奨されている。断ればどんな目に遭わされるかも分からず引き受けざるを得なかった。試合は案外と順調で…?


10話 嫌な同級生と決闘

嫌な先輩達をやり過ごした後、私達は教室に戻ってゆっくり休む事にした。教室に向かっていると同級生の3人組が目に入った。彼らもまた事ある毎に私をいじめているメンバーだ。嫌な先輩の次は嫌な同級生か…。

 

彼らは真っすぐ進めば邪魔になる場所にわざわざ横広がりに立っている。迂回して通り無視しようとするが3人のうちの1人のジフに話しかけられた。

 

「お前、魔法が不得意だったのに上達したんだな」

 

「まあね」

 

「俺も少し上手くなったんだ。手合わせ願えないか?」

 

彼はクラスで群を抜いて魔法が上手いと言う訳ではない。しかし、今の私に比べればかなり魔法を上手くコントロールできる。できれば相手にしたくなかった。しかし、この学校では魔法の鍛錬もあって決闘は推奨されている。断る事はできるが残り2人がどう出るか不気味な事もあり首を縦に振らざるを得なかった。

 

私達は決闘部屋に向かった。ここでは他の誰の援護も受ける事ができない。スマイルが少し心配そうな顔をしていたが私の手に触れると魔法学の授業の時の腕輪を貸してくれた。

 

「僕にできるのはこれぐらいだけど応援してるよ。頑張って」

 

「ありがと」

 

そうしてジフと向き合う。まずは魔力操作による魔法弾を撃って来る。これは扱える魔法の中でも得意な呪文だ。私は弾を弾で弾く。ジフは魔法弾の数を2つに増やして来た。魔力があるのなら…。私は同じように弾を2つに増やして対応する。

 

ジフが驚いた顔をする。私には驚くほど魔法の才能がない。魔法が扱えない理由のうちの1つに魔力を上手く引き出せないと言う物もある。魔力さえあれば扱える幅が広くなる事はスマイルを通して気付いた。私はこれまでの経験を自信に変えて更に難しい事に挑戦した。

 

「これならどうだ!」

 

私は集中して魔法弾を3つ、いや4つに増やした。2つのコントロールを左手で行ってジフの魔法弾を弾き、2つの弾を右手でコントロールしてジフにぶつける。4つに増やした魔法弾を2グループに分けて1つずつの動きをシンプルにする事で私でも制御できるようにした。これには後ろで控えているカウルとトードも驚いていた。ジフも動揺して2つの魔法弾を戻して私からの攻撃を防ごうとする。

 

「へ、へえ。本当に少しはやる様になったんだな」

 

言葉を返さない。バズとタードにも嫌がらせをされて来た。この3人からもそうだ。決闘での多少の怪我は責任を問われない。これまで辛酸を嘗めさせられてきた私には絶好の復讐のチャンスだった。私はジフの攻撃を捌いていた2つの魔法弾をジフの方にやって計4つの魔法弾でジフを殴り続ける。

 

相手は防戦一方だが的確に攻撃を捌いている。私は1発あたりの威力よりも脳の処理能力を上回る手数の多さでで攻めた。

 

「くそ、ならこれでどうだ!」

 

ジフが炎の呪文を唱えた。私の目の前で発火する。

 

「!!」

 

ついさっき授業で習った事を正確に詠唱してみせ、実践で使って来るとは思いもよらず驚いた。集中が切れて魔法弾が消えてしまう。幸いにも火は一瞬で消えて私の体を燃やしたりしなかったがその隙を利用され魔法弾を撃ち込まれる。隙だらけのボディを撃たれ満足に次の呪文も唱えられなくなる。

 

それでも負けを認めたくない一心で何度も立ち上がって次の呪文を唱えようとする。その度に魔法弾を撃ち込まれて床に転がる。

 

『仕方がない』『私に才能がないのが悪い』『少しでも事を荒げないのであればその方がいい』『いじめられる方も悪い』『消えてなくなりたい』

 

いじめられる度に頭で考えて来た独り言が頭を過る。復讐のチャンスが来た事でこの考えが私の中で覆り始める。感情に頑丈に縛って閉じ込めていた蓋が吹っ飛んだ気がした。汗と涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を乱暴に拭って立ち上がる。

 

「ジフ…!!!」

 

私の中で何かがふつふつと沸き上がる感覚が分かる。その感覚が何なのかは分からない。私はウェンズリ―先生から習った呪文を詠唱する。失敗した。スマイルから習った詠唱をする。やはり失敗した。何度も何度も失敗して床を転げる。

 

「はぁ、はぁ…そろそろ降参したらどうだ」

 

「まだだ…!まだまだ!!」

 

決闘部屋にいる先生がこちらを向いている。そろそろ止めにかかるだろう。その前に決着を付けなければ。

 

ふと、頭の中に何かの思い出が蘇った。授業の時、スマイルがウェンズリ―先生の前でやってみせていた高速詠唱だ。私に教えている時は聞き取りやすいようにスペルを読んでいたので遅かった。あの時の音と唇の動きを思い出す。

 

ジフがトドメの魔法を撃ち込んでくる前に私はその高速詠唱の発音を真似した。

 

「!!?」

 

他の誰よりも真っ先に驚いていたのはスマイルだった。呪文を唱えると右手から眩い光が発せられ地面に炎が出現した。それは目にも止まらぬ速度でまるで蛇の様に蛇行しながらジフの方へ進むと跳ねて彼の体に覆いかぶさった。

 

「うわあああああっ!!」

 

「そこまで!」

 

ジフと先生の声が遠く聞こえる。視界も暗転する。どうやら私は気絶してしまったらしい。

 

 

 

 

気が付くと保健室にいた。時計を見ると既に午後の授業が始まっている。また1つ授業を別の日に入れなければいけなくなった。それでも気分は全く悪い訳じゃなかった。私は勝ったのだ、あのジフに。

 

私が気が付くとスマイルがひょっこりと顔を現した。

 

「あ、起きた?」

 

「スマイル!」

 

私は思わずスマイルに抱き着いた。スマイルも私を抱き返す。嬉しくて涙が出た。

 

「見た?見た?私勝ったよ、ジフに勝ったよ!」

 

「うん。見てた。凄いよ、あんな高速詠唱をやってのけるなんて」

 

「大事なのは音だったんだ。歌を歌うみたいに。それで、スマイルのやり方を真似したら出たんだ!」

 

我ながら凄い出来の魔法だった。後は先生が止めに入るばかりの窮地の反撃で勝利をもぎ取った。スマイルから魔力を貸してもらっていたとは言えあの魔法は私が行ったんだ。炎を這わせ一切の回避もさせずにあてた。

 

しばらくすると冷静になってジフのその後について気になった。私はその事についてスマイルに尋ねる。

 

「火は先生がすぐに消したから大きな怪我はないよ。それでも今日はもう下校して休むっぽい」

 

「そっか…」

 

炎の呪文を唱えた時思わず死んでしまえって思いながら呪文を唱えた。あいつは嫌な奴だけど死んだりしたら大変だ。それを聞いて少し安心した。

 

私達のやりとりが聞こえたのか保険医のスティル先生がやって来た。

 

「イジー君、無茶するねー。体はまだ痛むでしょ」

 

「ええ、ちょっと…」

 

まだ興奮の中にあるせいかそこまで痛みはなかった。この興奮が冷めた頃を考えると少し怖い気がする。

 

「あまり痛い思いをするぐらいなら早めに降参した方がいいよ?ああいう決闘なんて言うのは結局強者がやって楽しいだけなんだから」

 

「そんな事ありません。私は痛い思いを堪えて勝利をもぎ取ったんですから」

 

「あらあらあら、勝っちゃったの?やるじゃん」

 

スティル先生は私を褒めてくれる。いじめられてばかりで保健室に通う事は多かったためスティル先生とはかなり仲がいい。彼女はこの学校で一番好きな先生だ。辛い時はいつだって親身に相談に乗ってくれた。私が泣くほど悩んでいる時は自分の仕事を放り出してでも私を慰めてくれた。学校に行く事自体は億劫だった私だがこれまで不登校にならずに済んだのはスティル先生の存在があったからこそと言っても過言ではない。

 

私は決闘の様子を事細かく話す。やや誇張気味に話したのでスマイルと隣でジト目で見ていた。

 

「へえ、高速詠唱したんだ。凄いじゃん。ちょっとやってみせてよ」

 

「で、でも保健室でやるのは…」

 

「いいって。炎を消すぐらい訳ないし」

 

「分かりました。では期待に応えて…」

 

私は早速と先ほどやった様に呪文の詠唱を行った。炎どころか火も出ない。不思議に思うと腕輪がなかった。そうだ、魔力…。

 

「す、スマイル。腕輪貸して欲しいナー」

 

「何だかなぁ」

 

スマイルはそう言いながら腕輪を貸してくれた。咳ばらいをして改めて火の呪文を唱える。やっぱり火は出なかった。スティル先生が笑い出した。私は恥ずかしくなって必死に訴える。

 

「ほ、本当に出たんですよ!?」

 

「ええ、ええ。分かってる。でもイジー君今の詠唱は早く読み上げる事にばかり意識が行ってアクセントを置くのも忘れてるしスペルも微妙に間違えてる。いい、火の魔法はこう」

 

先生が近くに置いてあった指示棒を掴むと素早く呪文を詠唱してその場に炎を起こして見せる。

 

「イジー君、高速詠唱はカッコいいけど基礎は抑えないとダメ。別の呪文が発動したりしたらそれはそれはもう怖いんだから」

 

「精進します…」

 

スティル先生の前でカッコつける事が出来ずに落ち込んだ。そうなると体の痛みも少しずつ出て来る。痛みといいやっぱり情けなかった。

 

「でも先生、高速詠唱ならこの辺の単語はこう略した方が良くないですか?」

 

スマイルがそう言って先生にいくつか呪文の単語を発音する。先生は顎に手をやってうなる。

 

「その辺は単語の語尾の子音が次の単語の語頭の母音と重なるから正確に読み分けないと魔法が発動しないでしょ」

 

「いいえ、その問題は次のスペルの語頭を露骨に1オクターブほど高くするか低くするかして発声するだけで解消できます。慣れは必要ですけど」

 

そう言うとスマイルは目の前で高速詠唱を正確に行って見せスティル先生と同じ様な炎を起こした。悔しいがやっぱりちゃんと決まるとカッコいい。スティル先生は驚いていた。スマイルの呪文詠唱が歌の様に抑揚が大げさだったと思ったのはスペルミスになり魔法が不発にならないようにするための工夫だったのかと改めて感心する。

 

「知らなかった…。スマイル先生って呼んでいい?」

 

「いやぁ、先生だなんてそんな。えっへっへ」

 

スマイルはすっかり上機嫌になった。私も特訓を重ねてあんな風に呪文を唱えられる様になろうと決意した。

 

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