見習い魔法使いイジーとスライムのスマイル   作:ヤングコーン

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オルコスに向かうビジーとアレン。頭はないが普通に生きてる謎の馬が客車を引っ張る謎の馬車に乗った。そこでアレンはビジーに神の遺骨を知っているか尋ねる。神の遺骨は最近見つかった幻の4冊目の聖書にあった物だ。しかしその内容から誰にも信じられてない本であり物だった。何故それを訪ねて来るのかビジーは不思議だった。


12話 神の遺骨

俺は師匠を揺さぶった。時間になっても起きなかったからだ。ここ最近は忙しくあまり休む暇もなさそうで、ぐっすり眠ってる師匠を起こすのは少し気が引けたが。やがて冬眠から覚めたばかりの猛獣か何かの様にのっそのっそと体を起こす。

 

「んん…もうそんな時間か」

 

「行きましょう」

 

「そうだな」

 

俺達は支度を済ませるとチェックアウトを済ませて宿屋を後にした。それから待機しているであろう馬車へ向かった。話の通りの場所には客車が見えた。俺は御者を探すが見当たらない。師匠は何も言わず中へ乗った。俺も師匠の後に続いた。

 

この客車を引っ張る馬には頭がない。御者もいない。しかし俺達が乗ると走り出した。

 

「大丈夫なんですかね?」

 

「俺も何度も利用してる。問題なく目的地に着くぞ」

 

まあ師匠がそう言うのなら間違いないんだろう。不思議な馬車だ。

 

「師匠、寝ててください。何かあれば起こしますんで」

 

「ああ。お気遣いどうも。だがお前も寝ておけ。この馬は自分の身ぐらい自分で守れる。お前も寝ておかないと後が持たないぞ」

 

師匠が言うにはオルコスに着いてからはあまり休む暇がないらしい。寝たふりでもしていれば師匠も寝てくれるだろうか。そんな風に思ってわざと横になって眠ってるふりをした。今は極秘任務中だ。どんな襲撃を受けるかも分からない。

 

しばらく寝たふりを続けたが師匠は全く寝る気配を見せない。本当は体も堪えているだろうに。

 

「ビジー、神の遺骨って知ってるか?」

 

「知ってますよ。何でもやべー物だって事ぐらいしか知りませんけど」

 

「起きてるじゃないか」

 

呆れた。師匠は俺が狸寝入りしているかどうかを確認するためだけにわざとそんな質問をしたらしい。返事をするんじゃなかった。俺は寝たふりを諦めて体を起こした。

 

「師匠だって見張りぐらい俺に任せて寝るべきですよ。俺の事ばかり心配しながら現場で倒れたりしたらどうするんです?『お前ん所の師匠は体調管理もできねえのか』とか言われるの嫌ですよ俺」

 

「お前は自分の心配だけしてればいい」

 

またそんな事を言う。俺を一人前に認めてくれた様な発言をしたかと思えばまた子供扱いをしたり。一体何なんだか。不満に思いながらもまた横になった。どうせ師匠は意地でも寝ないつもりだろうから見張りは彼に任せる事に決めた。

 

客車の作りのせいか思ったより揺れない。むしろこの揺られる感覚が眠気を誘う気さえする。心地よい眠気にうとうととしながらミルジナにいるイジーの事を考えていた。

 

「それで、さっきの神の遺骨の話なんだが…」

 

「寝ておけと言ったり起こしたり、師匠は俺にどうして欲しいんです?」

 

「すまん」

 

今度は起き上がらず寝たまま師匠と話す。このまま話の途中で眠ってしまってもそれは俺の責任ではない。

 

「それで、神の遺骨がどうしたんですか?あんな与太話を師匠から俺に振るだなんて珍しい」

 

神の遺骨は割と近年に見つかった聖書に出て来る物だ。この世に残された聖書は3冊だけとされていたが、幻の4冊目が見つかった。しかしその内容は我々には到底受け入れられるものではなく偽物だとか紛い物だとか、陰謀だとか様々な事が言われている。

 

今でも大半の人々が信用していない。その本を発見し公開した人物はあらゆる嫌がらせを受けて自殺してしまった。その本の内容は信者はもちろんの事、権威サイドもとても認められないものだった。と言うのもその聖書によれば神は既に死んでこの世界にいないのだ。これが誰にも認められない。

 

この世界の聖職者達は神が生きている事を前提に考えを代弁したり恩恵を借りたり儀式をしたりしている。それが事実なら聖職者のお偉方達は大ウソつきになる。魔法もそうだ。魔法は神が創造したものであり俺達が使うのは我々人間が全ての生き物を統べる物として選び与えた権利とされていた。しかし神の死後もどうして魔法が発動できるのか誰にも分からない。更に死んだとあれば神が万能である説も揺らいでしまう。だから誰もが信じない。

 

尤も、その幻の4冊目が本物であると言う証拠は確かにどこにもない。しかし偽物であると言う決定的な証拠も見つからない。誰にとっても不気味な物だ。現在は偽物であるとしてその悪質な聖書を作った人物について調査されている。

 

神の遺骨とは文字通り神が死んでこの世に遺した物だ。4冊目の聖書によれば力尽きた神は小さな骨片となってバラバラに世界に飛び散っているのでどこにあるのかさっぱり分からない。この世界の創造神の骨なので、事実なら誰もが触れてみたい神秘だろう。

 

「…あるかもしれないんだ。オルコスに」

 

「へ?」

 

師匠の言葉に耳を疑った。思わずもう一度聞き返すがやはり同じ事を言う。どうやら聞き間違いではならしい。

 

「師匠、俺を子供だと思ってからかってません?そろそろ怒りますよ」

 

「いいや本気だ。そうでもないとあの日俺が見た物の説明がつかん。きっとある。もしあるのなら、ファーガスの連中より先に見つけねばならん」

 

私は師匠の隣に座り直して彼の手を握る。

 

「師匠、疲れてるんですよ。少し横になりましょう?少し休めば気も楽になります。オルコスで何を見たのか知りませんが、あんな物を信じるだなんて師匠らしくありません」

 

「……そうだなお前の言う通りかもしれん。そうする」

 

師匠はそういって体を横にする。さりげなく俺の膝を枕代わりにしようとした。

 

「ちょっ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「嘘だよ。もう少しあっちに詰めるか反対側に座ってくれ」

 

「まあ膝枕ぐらいいいですけどね。ほら、ここに頭置いてください」

 

「後10年後に同じ事言ってくれ。さあ、あっち行った」

 

俺は反対側に座った。師匠は馬車の椅子の上で横になって眠る。しかし師匠が神の遺骨を信じるだなんて。オルコスで一体何を目撃したんだろう。おとぎ話にあったようなドラゴン?まさか。現実にいるドラゴンは思ってるほど大きくない。

 

じゃあ一体何を見たのか…。眠る師匠の顔は少し険しい。俺はこれから何を見る事になるのか不安にならずにはいられなかった。

 

 

 

 

気が付くとまたあの部屋にいた。そう、夢の中だけで会う事ができるもう1人のスマイル。いつもの様に牢屋の中に閉じ込められている。彼は私の姿に気が付くとにこやかな表情でこちらを向いた。私は傍に行く。

 

「また来てくれると思ってたよ」

 

「また会えたね、スマイル」

 

スマイルは外の世界について知りたがっていた。私は自分について簡単に説明し、スマイルと言う友達がいる事を話した。彼はとても興味深そうにスライムのスマイルの話しを聞いていた。彼は元気がないがやはりその反応の仕方や仕草は彼に似ている。

 

「へえ、僕に似たスライムか…。会ってみたいね」

 

「起きたら君の事をスマイルに話してみるよ。一応聞くけど、そのスライムについては君は全く知らないんだよね?」

 

「うん。僕はこの通り魔物はおろか人間とも殆ど関係を持てない。今までも会った事がないね」

 

ますます分からなくなってきた。スライムのスマイルもモデルになった目の前のスマイルも知らないし…。いや、考えてみれば目の前のスマイルは実在する人物なんだろうか。空想上だたり、あるいは夢の中だけの存在だったり?

 

彼が知ってる事は多くなさそうだが、それでも聞き出せる範囲の事は尋ねてみる。あまり自分の事を尋ねられるのは好きじゃない様子だったが少し話してくれた。

 

「君はミルジナ出身なんだ。いいな、僕も行ってみたい。治安はいいし料理もおいしいって聞いた事ある。僕の生まれはオルコスだよ。そして今君がいるこの場所もそう」

 

オルコスはミルジナの隣国だ。高い魔法、科学技術を所有する国だ。法律が緩いので多くの研究者や技術者がオルコスで様々な実験を行ったりしている。代わりに治安は良くない。犯罪者と警察が結託してて解決しない事件も多いらしい。

 

師匠も若い頃は良く出かけて勉強に勤しんだほどでいつかは皆で研修旅行に出かける予定になっていた。これは飽くまで私の予想なのだが、ビジーと一緒に出掛けた先はオルコスなんじゃないかと思う。あの国は治安が悪い。だから自分の身も守れない私を連れて行けない。そう言う事だったんだと思う。絶対に研修旅行だよ。

 

「ここはオルコスなんだ…。私も魔法使いとして興味が尽きない国だよ。私もいつか行ってみたい」

 

「その時は僕が案内してあげられたらいいけど…生憎と僕はここを出られないしあまり外を出歩いた事がないから観光案内もできないんだ」

 

「私がオルコスに来たらまず君をここから連れ出すよ。そしたら師匠とビジーとスライムのスマイルと一緒にオルコスを観光するんだ」

 

それを聞いてスマイルが笑った。

 

「駄目だよ。僕はここにいないと皆が迷惑しちゃうし」

 

「君はここで一生を終える気なの?まずは一緒に外に出てみようよ。外の世界が気に入らなきゃまたここに戻ればいい。少し外に出るぐらいいいでしょ?」

 

私がぐいぐいと迫るもので彼は気圧されてしまった。押しには弱いタイプと見た。それに外の世界の事は彼自身も気になっている様だった。私は「一回だけだから」とか「ちょっとお散歩に出かけるだけだから」とか自分ながら怪しいフレーズを使いながら巧みに彼の好奇心の背中を押していく。

 

彼は悩んでいたがやがて首を縦に振ってくれた。

 

「でもスライムのスマイルと人間のスマイルじゃ名前が混同しそうだね。便宜上他に名前が欲しいな」

 

段々と意識が遠のいていく。どうやら目覚めの時が来たらしい。急がなければ。

 

「じゃあ、…スマイリーで!」

 

「スマイリー・スマイルね。ふふ。オッケー」

 

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