決闘部屋についた。スマイルは私に腕輪を貸してくれる。ジフ達が私の事を心配してくれていた。いつもいがみ合っていた彼らにこんな目を向けられるのは初めてだ。これから痛い目に遭うと言うのに少しだけ気分が良かった。
戦いに向かう私をスマイルが手を掴んで止めた。
「意地なんか張らないですぐに降参するんだ。君は確かに以前よりとても強くなった。でも相手が悪すぎる。大怪我なんてしたら僕…」
「分かってるよ。勝てない勝負にやせ我慢して戦うほどの根性は私にはないから」
これまで色んな事を諦めて来た。恥を忍んできた。潔く負けを認めるぐらいなんて事はない。私はバズの前に立つ。
「逃げなかった事は褒めてやる」
「そりゃどうも」
「だがな…尻尾捲いて逃げるべきだったな!!」
魔法弾を5つも同時に飛ばして来た。私はスマイルに借りた魔力を通して一気に集中して魔法弾を4つ出して対応する。それでも相手は私と違って全ての魔力弾を全てバラバラに動かしてこちらを狙って来る。私の様に2グループに分けて単純な動作を繰り返すその動きとは全く違う。
それだけじゃない。魔法弾の硬さや大きさも相手が大きく上回っている。仮にバズの魔法弾を叩いても同じ数では力負けしてしまう。たった1つの魔法弾を処理するのに2つの魔法弾を当てなければならない。
「イジー!!」
ジフが私の名前を呼んだ。隣でカウルとトードも応援の言葉をかけてくれる。それでもこの力量さはとても覆せるものではなかった。魔法弾に何度も殴られながら高速詠唱の事を考えていた。
スティル先生とスマイルのやり取りを思い出す。あれはまぐれだった。この戦いでやるにはリスクが高すぎる。私はできるだけゆっくりと火の呪文を唱える。バズの胸元で小さくはあるが爆発が起きた。
「!!」
バズが驚いた。一瞬だが隙を作る事が出来た。私は今のうちに魔法弾を使ってバズを殴りつける。4つの魔法弾を1つにして威力を高めて何度も何度も殴りつける。
「くそっ、ガキが…思いあがるな!!」
目をカッと見開くと高速詠唱して来た。衣服に火が点く。さっきの呪文、私達が習った火の呪文とはスペルが異なっていた。早口ではあったが聞き取る事は出来た。魔法はできなかったが少しでも付いて行こうと独学で単語の事はある程度予習をしている。1つ1つの単語に識別して頭で組み立てる。確かこうだったはずだ…。
私は燃える身体も気にせずバズと同じように呪文を唱えた。解釈や読み方が合っていたらしくバズの衣類にも火が点いて燃え上がる。彼はすぐに水の呪文を唱えて鎮火した。私も真似をして火を消す。
「何でだ、何でお前がその呪文を使える!!」
バズの質問に答えず水の呪文を唱える。発声ミスで呪文が発動しなかった。バズの放った雷の呪文で全身が痺れてその場に倒れる。
「そこまで!!」
決闘部屋にいる先生が決闘を止めた。バズは構わず雷の呪文を私に放って苦しめる。体の至る所を針が泳いでいくような痛みが走る。
「やめろ!!」
遠くでタードの声がした。その後、私は痛みからは解放されたが意識が遠のいて…。
私は気が付くと保健室にいた。隣でスマイルが泣きそうな顔をしていた。私が目を覚ましたのを確認すると私に飛びつく。私は彼の頭を撫でた。
「良かった、死んだかと思ったよ…」
「私は大丈夫だよ。ほら、この通り」
「全然大丈夫じゃなかったよ。僕が治療しなきゃ危なかったよ。保健室に来てもスティル先生はいなかったし」
「?」
スマイルが私の体の傷がどれほど酷かったか説明してくれる。バズとの戦いは興奮状態にあったため気付かなかったが、私はかなりの傷を負っていたらしい。その状態の酷さをいち早く察したスマイルが私を抱えて飛んでここへ連れて来たらしい。
彼が『治療』をしてくれなかったなら当分は病院で過ごす事になっていたとまで言う。
「…治療って?」
「ああ。…君は嫌だったかもしれないけど…、今自分の身体を見てもらえれば分かるよ」
そう言ってスマイルがベッドから降りた。私は自分の身体を見る。すると私の体の皮膚の一部が赤い液体になった。私は思わずギョッとする。スマイルの言う治療の意味を理解した。私の体の損傷部をスマイルの体液で補ったのだ。それからすぐに損傷部が私の皮膚の様な模様に戻る。
「体の一部がスライムだなんて嫌だろうけど…こうするのが手っ取り早いんだ。大丈夫、すぐに馴染むから」
「そんな事も出来ただなんて…凄いよ。おかげでちっとも痛くない」
本当に傷が塞がった訳ではないはずなのに不思議と本当に痛くない。私は心から感謝したし褒めたが彼は嬉しくない様子で俯く。
「気を遣ってくれなくていいよ。馴染むまでの我慢だったとしても、体の一部がスライムになるだなんて嫌でしょ」
「…スライムだったら嫌だったかもね。でもスマイルならいいかな」
「ふうん。まあイジーがいいならいいけど」
スマイルはそう言うとそっぽを向いた。彼のやってる事は飽くまで人間らしい仕草なので見た目から人間と全く同様の推測はできない。それでも今の彼の仕草は照れ隠しの様に見えた。きっとそうなんだと思う。
しばらくしてからスティル先生が走ってやって来た。
「イジー君!!」
「は、はいスティル先生」
カーテンがしてあるので入っては来ない。彼女は私の安否を確認して来た。私は大丈夫だと答える。やがて着替えを済ませてから会った。傷はないと言い張ったが当然ながら信じて貰えず確認させるまでは私を部屋から出してくれなかった。
私の体に傷がない事を確認するとスティル先生はほっと胸をなでおろした。
「良かった…。上級生のバズと決闘したって聞いたからどんな大怪我を負ったかと思って飛んできたけど…」
私はスマイルの方を向いた。スマイルは首を横に振る。あの治療の事は言わない方がいいだろう。ただでさえ回復魔法が使える魔法使いは重宝されているのだ。スマイルが体液を使った治療ができると知られればかなり注目される。
有用性を確かめるために捕まえるとか言う話になりかねない。私は仕方がないので嘘をついてこの場を乗り切る事にした。
「意識は失っちゃいましたけど、はっきり言ってバズの魔法は思ったほど大した事ありませんでしたね。打ち所が悪かっただけであのまま決闘を続けられていたなら勝っていたのは私の方です」
「もう…調子いいんだから」
スティル先生は僅かに笑った。
「そう言えばあれからバズはどうなったの?」
私はスマイルに尋ねる。私だってそれなりに魔法で戦ったつもりだが…。
「ピンピンしてるよ。魔法に対して的確に対処してたし傷は少ないんだろうね」
「そっか…」
一矢報いる…程度の事はできたけどやはり追い詰めるには至らなかった。私は改めて自身の実力不足を痛感した。でも私はもっと強くなれる。もっと上手に魔法を扱えるようになれる。そんな自信も同じぐらい湧いた。
あの場でまだ習っていない呪文をコピーして返したのだ。あんな事、そう多くの同級生にできた事じゃない。まあ、ビジーぐらいならやりかねないけど。
それから私はスティル先生からひとつまみのお菓子と学生服の替えを貰い授業に戻った。ジフ達はあの戦いで私がとても授業に戻れそうには見えなかったため驚いていた。
休み時間の間、どうしても話がしたいと言って来たので私は彼らに耳を傾ける事にした。彼らの話によるとジフ達はバズに命令されて私をいじめていたらしい。でなければジフ達を虐めると脅されて仕方なくやっていたのだそうだ。あの苦しかった日々を思えばその謝罪だけで完全に許すつもりにはなれなかったけど、それでも少しだけ彼らに対する印象は変わった。
それからトードとカウルはバズにいじめの命令をされるたびに少しでもそのいじめの内容がマイルドになる様に苦心していたと言う話をしてくれた。バズはできるだけ軽いいじめでバズが満足する様に努力していたそうだ。
最初は本当かどうか疑わしい事も沢山あったが、そうして話をしたり昼ご飯を一緒に食べているうちに彼らと仲良くなれそうな気がして来た。彼らは少しやんちゃだが話すと気のいい奴らだ。スマイルも相互理解を促せたと満足そうにしている。
彼らも変わろうとしているのだから、少しずつでも私も彼らを受け入れるべき時が来たんじゃないかと頭の中で考えていた。