見習い魔法使いイジーとスライムのスマイル   作:ヤングコーン

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暗闇が町を満たす頃、イジーは眠りの狭間を行き来していた。珍しくイジーと離れていたスマイルが戻り一緒に眠っているとビジーから電話がかかって来た。日頃は強気で弱音を滅多に言わないビジーが大した要件もなく声が聴きたいと言うだけで連絡して来たと言う。師匠や彼女の事が心配になるイジーだが…。


17話 ビジーからの電話

真っ白の頭の中に僅かに夢が見えて来た頃だった。珍しく私から離れて散歩に行ってたスマイルが帰って来た様で私のベッドの足元の方から入って私の隣に滑り込む。瞼の向こうからスマイルの視線を感じるが私は眠ったフリを続けた。

 

スマイルは私が本気で眠ってると思っているのか話しかけてこない。私はゆっくりと薄目でスマイルの方を向くと彼はこちらをじっと眺めていた。どれだけ姿形を似せていても彼は人間じゃないので目を開けていようと閉じていようとこちらを見ているのか見ていないのか分からない。

 

「おはよ♡」

 

スマイルが話しかけて来た。どうやら私の寝たふりは看破されていたらしい。

 

「おやすみ」

 

「決闘祭に出ようよ~」

 

やっぱりその事だった。ジフ達は私にその話題を振る事はなくなったがスマイルだけはいつまでも私を決闘祭に誘って来る。決闘祭で優勝すれば王様に会える。相互理解を促し世を平和に導く。そういう使命感に燃えている彼としては是非とも会っておきたいんだろう。

 

彼の気持ちは分かるが私はこれ以上目立ちたくないし、他のクラスメイトや学年の学生と戦いたくはなかった。私は何事も荒立てずに平穏に生きていたいのだ。

 

何よりこの行事にはビジーが参加しない。彼女さえいれば参加してみても良かったが…。

 

「スマイルが治療してくれた所だって完全には馴染んでないし、これ以大きな上怪我を作りたくないよ。大義は分かるけど私の身体も少し労わって欲しい」

 

「うん…」

 

スマイルはしょんぼりとしながら諦めたように目を瞑る。そうして眠りに落ちるまで待っていると誰かが階段を上る音が聞こえた。この控えめな足音は母だ。足音は私の部屋の前までやって来ると扉をノックした。

 

「イジー、ビジーって子から電話よ」

 

「ビジーから?」

 

そう言えば我が家には電話があるんだった。師匠はひっきりなしに電話がかかって来るのが嫌で電話を自宅に置かないし、基本的に遠くにいる相手とのやり取りは手紙しか使っていなかったから存在ごと忘れてた。私はベッドから降りると1階に降りて受話器を握る。

 

「こんばんはビジー。どうしたのこんな時間帯に電話だなんて」

 

「ああ…。別に大した用事じゃないんだ。ちょっと声が聴きたくなってな。元気してるかなって」

 

「うん、元気してるよ。でも変だね、ビジーがそんな事を言うなんて。ひょっとして私がいなくて寂しい?」

 

「うん、寂しい」

 

私は驚いた。負けず嫌いで強がりのビジーが本当に私の声を聴きたくて電話しただなんて。冗談でも言いそうにないのに。師匠の事も気になるがビジーの事が心配になって来た。

 

「そっちそんなに大変なの?大丈夫?怪我してない?病気にかかったとか呪いをかけられたとか…」

 

「いや、それは大丈夫。至って健康だよ。ちょっと色々あって精神的に参ってるんだよ」

 

「何があったの?」

 

「すまん…言えないんだ。訳アリでね」

 

あのビジーが弱音を吐く程だ。師匠が私を連れて行かなかったのは正解だったんだろう。傍にいて励ましたりしてあげられないのが残念だった。私は近況を伝えようと考えたが、頭に浮かんだのはスマイルの事だ。

 

まだ師匠にもビジーにもスマイルの事を話していない。いつかは話すつもりだけどこの様子では心配事を増やすだけじゃないかと思えて言うのも憚られた。受話器越しにお互いに黙る。

 

「あっ、いや…別にこれはそう言うアレじゃないからな!ただほら、お前が1人残されて泣いちゃいないかって心配になったんだよ。お前泣き虫だろ?」

 

ビジーが急に言い訳の様な事を言いだした。

 

「ははは。ありがとう。授業に出なきゃいけなかったり行事があったりで大変だけどこっちは上手くやってるよ。私もビジーや師匠に会いたい」

 

「そっか…。イジー、俺も大変だけど色んな事を勉強して帰って来るよ。次に会う時は立派な魔女に見間違えるかもしれん。お前は俺のライバルなんだから、あまり差を付けられない様にせいぜい頑張れよ」

 

少しだけいつものビジーに戻ったみたいで私も嬉しくなった。

 

「もちろん。帰ったら私の変わりように腰を抜かさないでね」

 

「楽しみにしてる。…また電話しても迷惑じゃないかな?」

 

「私達の仲じゃないか。遠慮するなんてビジーらしくないよ」

 

「へへ…。じゃあ、またな」

 

「じゃあね」

 

そう言って電話を切った。学ぶことはあると言ってたけど、やっぱりただの旅行とは違うらしい。大変なのは私だけじゃない。師匠もビジーも頑張ってる。私だって日々自分なりに努力してると思うけど…。

 

帰って来たビジーには「それでこそライバルだ」と言われたい。思ってたより長く滞在しているけど、だからこそいつ帰って来るか分からない。それまでに何か私なりに出せる成果が欲しい。そうなると決闘祭しかないか。

 

私は2階に戻るとベッドの中に潜る。スマイルの半分ぐらい液体に戻ってる。でも私が以前スマイルに溺れかけた時みたいにならない様によほど気を遣っているのか枕のあたりは人間の姿を完全に保っていた。

 

「ううん……」

 

スマイルは寝言を言いながら寝がえりを打った。寝ている時の仕草まで人間らしい。

 

『スマイルって本当にスライムなのかな』

 

ふと頭の中で独り言を言った。スマイルも日々人間らしさを学んでいるので少しずつその人間の姿に不自然さのない動きをする様になって行っている。ただ、学んでるからと言うだけにしてはやけに人間らしい仕草をしたりするので時々疑問に思うのだ。

 

スマイルは人間に姿を変えられるんじゃなくて、本当はスライムに姿を変えられる人間だったりして??彼は生まれたばかりの記憶がないらしい。だから本当の所は分からない。どうして人間に化けられるのか。言葉を話せるのか。謎は多い。

 

師匠達が帰って来たら彼の事をどう説明すべきか。これからどう付き合っていくべきか。色んな事を考えていると一気に眠気が襲ってきて眠ってしまった。

 

 

 

 

日差しが閉じたままの瞼に入って来てまぶしい。尾を引く微睡みを振りほどいて目を覚ました。やけに身動きがしづらい。自分の身体を見るとスマイルが私の体に簀巻きの様にまとわりついていた。

 

「スマイル、起きてよ。動けないじゃないか」

 

「んー…後5分」

 

「寝てていいから私を放してってば。トイレに行きたいんだよ」

 

「おしっこなら服に着いた水分を僕が抜き取っておくからそのまましていいよ」

 

「ちっとも良くない!あのねスマイル、人には踏みにじってはならない尊厳と言う物があってね…」

 

「んー、分かった、分かったよ。離れるから朝から怒鳴らないでよう…」

 

スマイルがのそのそと私から離れた。全く、ちゃんと目を覚ましたら文句を言ってやらないと。私はそう思いながら用を足してから今日の支度をする。スマイルが眠そうなのはいつもの事だが、今日はやけに動きたがらない。

 

私は朝食の前に2階に上がるとまだ眠ってるスマイルに話しかける。頭以外は液状になってて動く気配が殆どない。

 

「スマイル?大丈夫?ひょっとして体調優れない?」

 

スマイルは頭をこちらに向ける。

 

「そんなじゃないけど…。ねえ、今日学校休んじゃっていいかな」

 

驚いた。いつもなら乗り気で学校について来るのに。本人は何でもないって言ってるけど…本当に大丈夫なんだろうか。スライムならではの病気にかかってたりしないか。魔物の病院なんてこの国にはないし。

 

ファーガスにはあると思う。でも国外に行くにはそれなりの金と時間がかかる。「大丈夫」と言い張るスマイルを連れ出すのも難しそうだし。あれこれと考えているとスマイルは眉をハの字に開いて困った顔をする。

 

「本当に何でもないんだってば。たまには僕のいない学校生活もいいと思うよ」

 

「そっか…。今日は決闘祭のエントリーに行こうと思ってたんだけど。まあ明日でもいいか」

 

スマイルはそれを聞いて目を輝かせると上半身まで人間の姿にして身を乗り出す。

 

「本当!?考え直してくれたんだね!」

 

「うん。まあね」

 

「分かった。でも僕は少し遅れて登校するよ。先に行ってて」

 

「本当に体調が優れないんだったら無理しないで休んでね。別にエントリーの早い遅いが何ら決闘祭に有利不利になったりしないから」

 

「あーい」

 

呑気に答えると私のベッドの上で完全に液体化するスマイル。何を考えているのかは良く分からないけど私は朝食を取って学校に向かった。




思ったより話が長くなりそうで困惑してる。読み終わった読者から「は?」って言ってもらえる様な最終回になる様に頑張って書いてるけど、今作の補足用の次作まで書くととても長くなりそう。どうすっかな〜俺もな〜。
まあ伏線とか上手く隠せてる気がしないので最終回前にオチまで見えてしまって補足とかいらない気もするけども。
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