見習い魔法使いイジーとスライムのスマイル   作:ヤングコーン

18 / 34
登校中、イジーはアレン師匠と会った。余程忙しいのか服は汚れていてやや匂う。それも忘れ物を取りに来ただけですぐ戻るのだと言う。ビジーの事といい心配は増えるがイジーにはどうする事もできない。
思う事は沢山あるイジーだが、ビジーやスマイルとの約束のために決闘祭のエントリーしに多目的ホールに向かった。


18話 ミルジナの4賢者

私は家を出た。最近は日中も夜も過ごしやすい暖かさで嬉しい。ただただ嫌だった学校生活も変わりつつある。これからどうなるか分からないけど不安半分期待半分の心持ちでいた。きっと、スマイルが一緒ならそんなに悪い事にはならないだろう。

 

今日はスマイルにも言ったように決闘祭にエントリーする。自分から積極的にこういう催し事に参加するのは初めてだ。ちょっとドキドキした。

 

スマイルが一緒でもさすがに優勝は無理だろう。それでもある程度行けたならビジーにも「それでこそライバルだ」って認めてもらえるはず。帰って来た彼女もどんな風に変わっているのか楽しみだ。

 

そんな風な事を考えていると近所のおばちゃんの打ち水を思い切り浴びてしまった。

 

「わぷっ!」

 

「ああああっ!ごめんなさい、大丈夫??」

 

「大丈夫…です」

 

バケツ一杯分浴びたので大丈夫ではない。これは確実に着替えなければ。

 

「ちょ、ちょっと待っててね。今タオル持って来るから」

 

「いえ、お構いなく。家で着替えてきますので」

 

おばちゃんは家に駆けこんで行った。気持ちは嬉しいがこの濡れ具合は拭いてどうにかなるものではない。彼女には悪いがこのまま待っていると次の授業に遅刻しかねないので黙って家に戻って行った。

 

出て行ってすぐに戻って来たので母に不思議に思っている様子だった。気にせず私は2階に上がって行く。ベッドで眠ったままのスマイルを見かけるとふと思いついた。

 

「ねえスマイル、ちょっと近所のおばちゃんの打ち水にかけられて濡れちゃってさ。乾かしてもらっていい?」

 

「すぴー…すぴー…」

 

駄目だ。完全に寝てる。

 

「…スライムが寝息??」

 

「……………」

 

黙った。

 

「おい!起きてるだろスマイル!」

 

「すぴー…すぴー…」

 

スライムの生態は詳しくないので寝ている時に寝息を立てるのか立てないのか分からない。でもスマイルのこれは寝たふりじゃないかと思った。だが今はとにかく時間がない。私は乱暴に服を脱ぎ捨てると新しい服に着替えて家を出た。

 

学校へ向かう通学路、今度は打ち水をかけられたりしないように周りに注意しながら進んだ。さっきのおばちゃんが私に謝って来たので「大丈夫です、もう着替えましたから!」と伝えておいた。

 

それからまた通学路を進んでいると意外な人物に会った。

 

「し、師匠!?」

 

途中で会った人物は間違いなくアレン師匠その人だった。ちゃんとお風呂に入ったり着替えたりしているのか疑問に思えるほど汚れていて臭かった。

 

「ん?イジーか。元気そうだな」

 

「帰って来てたなら言ってくださいよ!迎えに行ったのに!」

 

「帰って来たって程でもない。自宅につまらない忘れ物をしてしまっただけだ。どうせすぐに戻るから何も言わなかったんだよ」

 

「ビジーは?ビジーは一緒じゃないんですか?」

 

「さっきも言ったがすぐに戻るんでそのまま残して来たぞ。…だが連れて行ったのはまずかったかもしれない。最近あまり元気なくてな。帰ったら励ましてやってもらえないか?」

 

「師匠、あまりビジーに無茶させちゃダメですよ。あまり元気がないなら帰してあげてください」

 

「ああ。そうするよ」

 

そういう師匠もあまり元気がなさそうだった。

 

「師匠もあまり無理しないでくださいね」

 

「気持ちは受け取っておくよ」

 

そう言うと師匠は私の帽子ごと頭を掴むとわしゃわしゃと撫でた。いつもは子ども扱いされてるみたいで好きではなかったが、ここ最近は自分なりん頑張っている事もあり少しだけ認められた気がして嬉しかった。

 

それから師匠に頼まれていた薬が全て調合済みである事も伝えた。師匠は自宅に寄った際に見ていたらしく約束した通りビジーに私の恥ずかしい寝言を言わないでくれるらしい。やったね。

 

それから二言も話さないうちに師匠と別れた。

 

それから学校に向かっている途中でジフ達と会った。一緒に登校する。寄り道した割には割と余裕を持って登校できたらしい。母から「幼いうちにちゃんと時間管理できる様にしておきなさい」と言われていたが、この調子なら大人になっても問題ないだろう。

 

 

 

 

それからいつも通りに授業を受けていた。いつもは隣にスマイルがいるので今度はクラスメイトが隣にいないスマイルの事で私の事を気にかけていた。先生も気になってたようなので「遅れて来る」とだけ伝えた。

 

午前の授業が終わる頃になるとスマイルがご機嫌で学校に登校して来た。私を見つけ次第走って来て私を抱き着いた。

 

「スマイル、学校でそう言うのは?」

 

「やりません…」

 

「そしてこの距離は?」

 

「恋人です…」

 

「よくできました」

 

「あーい」

 

スマイルが私に抱き着きたがるのはもう諦めたが、さすがに世間体もあるので学校や外を出回る時は一定の距離を取ってもらうようにしている。魔物が懐いていると言うだけならまだしも、スマイルは人間の姿でも私に抱き着いたりするのだ。変に思われては大変だ。

 

液体の状態なら私に抱き着いてていい?みたいな交渉をして来るがどの道誤解を招きそうなので断った。スマイルはしょんぼりした。

 

それから昼ご飯を学食で済ませた。遠くでバズが1人でご飯を食べている姿が見えた。タードとは一緒じゃない。バズは1人で行動する様になってからはまるで私を避ける様に絡んで来なくなった。

 

タードは他の同級生と話している姿を見かけたりする。バズの事もタードの事も、もっと言えばジフ達も事も心の底から許したわけじゃない。でも今のバズを見ていると少しだけ可哀そうに思えた。

 

休み時間の間に多目的ホールへ向かった。中に入ると担任のイルチェ先生が暇そうにしていた。私は決闘祭の申し込みに来たことを伝えると驚いていた。

 

「おやおや!イジー君、決闘祭に参加するんですか?下級生からの出場だなんて珍しいですね」

 

「そうなの?」

 

スマイルが尋ねる。私はうなずいた。

 

「と言うか全校生徒を合わせてもそう参加者は多くないんだよ」

 

イルチェ先生が笑った。

 

「祭りと言っても内容は過酷だからね~。先生達もあまり酷い負傷者が出ない様には頑張るけどね」

 

私は既に内容を知っているがスマイルは内容を知らない。確認も兼ねて私に大会の由来と行う事についての説明をしてくれた。

 

ドラゴンがドラゴンテイルと共に神様と人間に牙を剥いた時代。戦いは無事に神様と人間の勝利に終わったが、全てのドラゴンが力を失った訳ではなかった。ケネスィと言う名の今でも謎が多く正体不明の古竜がミルジナを襲ったのだ。

 

国に降り立ったケネスィの猛攻は、安物の玩具を踏み散らかす様にあらゆる建物を壊し燃やした。飛び散る肉の破片。建物の崩れる轟音。耳をつんざく人々悲鳴。燃え盛る炎。まさに地獄、阿鼻叫喚。もう全てが終わりかの様に思われたが、後の時代に4賢者と呼ばれる者達が立ち上がった。

 

剣聖ノロール。神の手ィエア。不死のバーチ。獣王ンーグ。この4人によってミルジナは救われた。バーチは常人では術者が耐えられないようなあらゆる呪いでケネスィを苦しめた。神の手ィエアは仲間の腕が飛ぼうが首が飛ぼうが奇跡としか呼べない魔法で仲間を回復した。獣王ンーグはケネスィの足元に張り付いては何度も転倒させ、その羽根を剛腕で掴んで飛翔させない様にした。剣聖ノロールはケネスィの吐く炎に身を焼かれながら眼前にて魔法の剣を振るいその金属の様に硬い鱗を穿ち肉を割いた。

 

ケネスィも弱り果て、ンーグがノロールがトドメを刺すチャンスを作るためにケネスィを抑えようとした。しかし必死の抵抗に遭いンーグは踏み潰されて死亡し、空を飛んだノロールの一振りは胸に大きな一閃を入れるも殺しきるには至らなかった。そしてケネスィは空へ飛ぶと二度と姿を現す事はなかった。

 

それから国王は4賢者の功績を称えた。しかし、ケネスィは生きている。国王は今後来る日に備えて毎年4賢者を継ぐ者を育てる事を目的として決闘祭を開催する事にしたのだ。彼らの墓はミルジナでも観光地として残っている。

 

決闘祭ではまず能力が一定以上あるか二次選考まで行って確かめる。次に4賢者がそれぞれ修行のために篭ったとされるムヘンの揺り籠と呼ばれる森で4賢者を現すエンブレムを探し集め、次に国選の魔法使いや先生達がバーチが建てたと言われている幻惑の城でケネスィを再現した幻影を作り候補者と戦わせる。

 

そして生き残った人々の中から最も優秀な英雄を決めるための決闘が行われる。ケネスィの幻影に勝つ事自体が極めて栄誉な事だが、更にその生き残りの中で最も優秀な者のみお城に呼ばれ祝われる。この祭りでの成果は優勝まで行かずとも就職時にもそれなりに有利になる。国に仕える魔法使いになりたい場合はこの行事に参加しない手はないほど。

 

…とまあそれはいいのだが、ムヘンの揺り籠の時点で候補は8人以内に絞られる。更に多くの候補者達の殆どがケネスィの幻に勝つ事ができない。幻影越しとは言え未熟な見習い魔法使いが凄腕の魔法使い達が作り出した魔法に勝たなければならないのだ。

 

状況によって中止になる年もあるがこの祭りも1000年以上は行われている。にもか関わらずケネスィの幻を打ち倒す事が出来た生徒は十数人ほどしかいない。結果は見えてるので余程優秀か、驕り高ぶった馬鹿か、参加しなければならない理由がある者か、そのぐらいしかいない。とにかく参加者は非常に少ない。普通に他の事に時間を充てるか見学してる事を選ぶ学生が大半なのだ。

 

その話を終える頃には先生と手続きを終えていた。

 

「それじゃ、放課後に参加資格があるかテストしますので来てくださいね」

 

「分かりました」

 

そうして私達は多目的ホールを後にした。

 

「うー、緊張して来た。でもイジーとなら大丈夫だよね?」

 

スマイルが私に尋ねる。

 

「大丈夫だよ。スマイルが一緒だし」

 

2人で笑った。ケネスィを倒すのは無理でもせめてムヘンの揺り籠でエンブレムを得る所までは頑張りたい。私はそう思いながら午後の授業を受けて放課後になるのを待った。

 




竜に挑むは、騎士の誉れよな…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。