見習い魔法使いイジーとスライムのスマイル   作:ヤングコーン

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ビジーは取り憑かれた様にオルコスの城内の研究所に引き篭もっていた。グリエ博士の研究内容があまりに興味深かったためだ。研究所では時間感覚も狂い、クーファは熱心に書類を読み漁るビジーを心配していた。
アレンは忘れ物を取りに帰るためにミルジナに帰国していたためビジーの世話はクーファが行っている。夜更かしがバレるとまた怒られると思い寝ようとベッドに向かうが、そこで古竜ケネスィを名乗る何かからのテレパシーが届いた。


19話 古竜ケネスィと神チェルダー

師匠は忘れ物を取りにミルジナに戻った。最初から戻る気はなかったが師匠は俺に一緒に帰るか尋ねもしなかった。俺は合間にお風呂に入ったり食事を取る様にしてるが特に師匠はのめり込むように研究所の辺りに入り浸っていて一緒にいるはずの俺でさえ時々何してるのか分からなくなる。

 

しかし師匠の気持ちも分かる。この研究所にいた所長、グリエ博士の研究は非常に興味深い。神の遺骨とか揺蕩う夜についてとか忘れてしまいそうなほど興味深い書類がここにはある。正直、この書類の保護が最優先で行うべきなのではないかと思うほどだ。

 

「ビジー殿、まだご飯には手を付けておられないのですか」

 

クーフォが心配そうな顔で言った。

 

「将軍はまるで俺の親みたいだ。そう心配しなくてもお腹が減れば食べる」

 

「そう言って朝から水も飲まずご飯も食べずにいるではありませんか。もう夜ですよ?」

 

「はは、将軍。からかってるのか?まだ朝だろう」

 

クーフォは時計を見せた。確かに夜だ。近くを見ると灯りが置いてある。彼が置いてくれた様だ。気が付くと朝ご飯や昼ご飯まで一緒に置いてある。

 

「あれ…?」

 

まだからかわれている気がして外に出た。本当に夜だ。おかしい、昨日まて食事を忘れるなんて事はなかったのに。いつの間にか死臭も気にならなくなってる。

 

「この通りです。お風呂は残念ながら今日はもう利用できませんが…。あまり夜更かしすれば体に障ります」

 

「ああ…うん。気を付ける」

 

イジーの声を聴いてからと言うもの心のどこかで気負っているんだろうか。あるいはいち魔法使いとして研究内容に惹かれているんだろうか。どちらにせよクーフォの言う事は尤もで、反省すべきなのは間違いない。

 

クーフォは誰かに呼ばれている。忙しい中、時間を割いていない師匠に変わって俺の面倒を見てくれているのだ。申し訳ないやら有難いやら…。

 

「そろそろ行かねば…。ま明日伺います」

 

「将軍」

 

「なんでしょう」

 

「敬語はよしてくれ。なんかむず痒い」

 

「ビジー殿がクーフォと呼んでくれればそうしましょう」

 

そう来るか。俺は将軍と言う愛称は好きなんだが。まあ彼も似たような思いをしているんだろう。

 

「分かった。よろしく頼む、クーフォ」

 

「こちらこそよろしく頼む。何かあれば呼んでくれ」

 

俺はクーフォの背中に手を振った。彼からは呼び出しベルを貰っている。俺から鳴らす事はほぼないだろうが…何にせよ気遣いは有難い。彼の残してくれた時計を見るにまだ深夜まだ時間がある。

 

研究所にはベッドがあるのでそこで寝泊まりできる。深夜まではまだ読んで過ごす事にした。

 

「…お腹空いて来たな」

 

集中力が切れるととてもつもなくお腹が空いて来た。一度読書の手を止めて食事にした。俺は料理やお菓子を喉に流し込むようにして食べる。ファーガスの料理は俺の舌に合う。ミルジナにもファーガス料理を扱ってる外食店があったらな…と思うほどだ。

 

師匠はとにかく俺自身が揺蕩う夜の調査や原因解明に精を出していない事について文句言われる事はないと思うが、これでも一応師匠の手伝いのために来ているのだから全く好き勝手してていいとも思えない。趣味もほどほどにして師匠の役に立たないと…。

 

俺は食事しながら研究所にまとめて置いてあった不用らしい裏紙に今まで読んで来た書類の中で気になる事を書いて思考をまとめて行く。

 

この研究所の所長、グリエ博士はスライムの生態を調査していた。スライムは世間一般からはとても脆弱で軽く見られがちの生き物だ。初級の雷の魔法さえ使う事ができれば楽に対処でき、集団行動は狩りを行う時以外は稀。非好戦的で仕返しを恐れるためか特に人間に襲い掛かるような事は殆どない。

 

しかしグリエ博士はスライムのその高い再生能力に目を付けているのだという。コアさえ破壊されなければその他の臓器はどう破壊されても治る。体液は切り刻んでも意味がない。そしてグリエ博士はこの能力を医療に活かせないかと考えていた。

 

オルコスの王達はある国との戦争が迫っている事を予期していた様で、有事の医療用品や医療薬などの不足の問題をどう対処するか頭を悩ませていた。回復魔法を扱える者は少なく、医学薬学のレベルは世界的に見てもあまり高い方とは言い難い。また、現存の薬は高額で高級品な上に長持ちしない。買いだめするにしたって予算確保は容易ではななかった。

 

オルコスの国民は戦争が迫っている事など知らないため、薬は輸入に頼ればいいと言うのが当時の世論だった。国民はオルコスが資源国である事を強みの様に思っている様だが魔法科学技術が発展していない国では第一次産業に力を入れているのではっきり言ってオルコスからの輸入をストップしても他国を頼ればいいだけになる。ファーガスは特に農法の技術を広めたりする事にやけに熱心だった様だ。

 

オルコス王、カヴァロンは王国の魔法力を底上げするために国内外の籍を問わず魔法使い達の研究には金を出す事を宣言した。これにより他国の魔法使いや科学者達が大勢やって来た。申請は厳正に審査し金を出したが国民からは不満が高まった。国の魔法科学技術力の向上は建前で、実は多くの外国人を人質とする事で戦争を仕掛けづらくするのが本当の狙いだった。実際に効果はあったと言える。しかし、代わりに研究者に紛れてスパイや工作員も抱え込む事になった。

 

国民の関心が余所に移ってる間に他の法案を通したりしつつ、グリエ博士の研究は特に手厚く支援した。彼の理論によればスライムが怪我の治療薬になる。スライムは知っての通り脆弱だが飼育は容易い。低コストで高級な薬に取って代わるのであれば医学界の革命でもある。

 

側近達はグリエ博士とその研究に対して懐疑的だったがカヴァロンは彼を機密情報の漏洩を恐れて城内に研究所を作り割けるだけの予算を割いて彼の研究費に充てた。

 

時を経てグリエ博士の研究は功を成しスライムの体液を用いた治療薬の開発が成功した。更にスライムの擬態能力の高さにも目を付け研究によっては欠損した体の部位ごと再現できると大口を叩いた。調子に乗ってた訳ではない。例の国の軍事力が高くなり警戒したためオルコスも軍拡に予算を割かざるを得なくなり、余計な予算を削減する話が出た。だから研究費の必要性を声高に、大袈裟に言う必要があった。

 

しかしグリエ博士の考えは全くの荒唐無稽でもなかった。スライムを用いて移植可能な皮膚や耳、鼻などを作る事には成功していたのだ。しかし大きな問題があり、それらを作る原料とするスライムの繁殖に行き詰まっていた事だ。

 

長年をかけて創り上げたスライムは治療薬として活用するのに大変優れいている。しかし病気に弱く、どれだけ栄養を与えても繁殖はあまりしない。天敵がいないためかと考えストレスを与えたり、餌を極端に減らしたりして生存本能を刺激させられないか試行錯誤したがやはり駄目だった。

 

軍部のお偉方、カーマンに睨まれ急かされ非常に大変だった様だ。しかしグリエ博士の苦悩も苦労もついに実を結び、ついに奇跡が起こる。その成功体は『スマイル』と名付けられた。野生種よりは弱いが病に強く、餌を与えれば体積を増やし仲間を増やす。そしてその体液は適切に処理すれば優れた薬として扱えた。

 

カーマンにとっては面白くない様子だったが、その時のグリエ博士の喜びようはレポートからひしひしと伝わって来た。

 

「…こんな所か。そろそろ寝ないと。ふあぁ…」

 

時計を見ると深夜を超えていた。書類にも書いてあったがかつてオルコスには沢山の外国人がいた。ビジネス関係者や他国にいた家族も入国はできない、連絡も取れないで揉めている。メディアの関心も高まっている。揺蕩う夜が世間に知られるのも時間の問題だ。そんな訳で人に注意しながらもクーファは殆ど寝ずに調査に当たっている。俺が夜更かししてないか見に来るかもしれない。

 

興味は尽きないがもう寝るべきだ。パジャマに着替えてベッドに向かった。

 

『…ビジー、ビジー、ビジー』

 

遂に幻聴まで聞こえて来た。

 

『忠実な神徒の末裔よ。我の声を聞け。ビジー、ビジー…』

 

「うるせえな!俺の頭に語りかけんな!」

 

『我が名はケネスィ。神徒…今はドラゴンテイルと呼ばれているか。お前を必要としている』

 

俺は面食らった。ケネスィはかつてミルジナを襲った伝説の古竜だ。そんな幻聴まで聞く事になるとは。早く寝た方がいい。気が触れたと思われればミルジナに帰国させられてしまう。イジーにだって笑われる。

 

無理矢理無視してベッドに潜り込んだ。

 

『仕方がない。お前がその気なら我にも考えがある』

 

「おわっ!」

 

体が勝手に動き出す。ベッドを出るとフラフラとどこかに向かって歩き出した。

 

「や、やめろ!分かった信じる!信じるから!まずは着替えさせろ!外を歩くのにパジャマはないだろ!」

 

『急を要するのだ』

 

そう言って研究所の奥へ向かう。俺の周りに辺りを照らす光の魔法が浮かんだ。このケネスィを騙る奴は何者なんだ?見渡せども術者は見当たらない。只者じゃない事は確かだ。

 

「ああああ!やめろ落ちる!落ちちゃうってば!」

 

『案ずるな。静かにしろ』

 

砲撃で穴が空いた箇所の前に向かう。構わず体は進む。しかし穴から落ちるとふわふわと何かに支えられてる様にゆっくりと降下した。本当に落ちない。術者は一体どうやって、見えない範囲からこれだけ精度の高い操作をしているのか。

 

今、自由落下が始まれば俺の体はジャムの様になるだろう。俺は術者の気分1つで充分に死ねる高さにいた。

 

「お前何なんだよ…俺をどうするつもりなんだよ…」

 

やがてある場所に降り立ち、更に進んで行く。時折瓦礫やら土やらが意思でもある様に立ち退いた。更に奥に進んで行くと…それはあった。

 

「何だよ…何だよこれ…!お、俺は…頭がおかしくなったのか?」

 

「見ての通りだ。会えて嬉しいぞ、神徒よ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

目の前には巨大なドラゴンがいた。胸に大きな傷口があり、そこからは巨人の上半身が生えていた。その姿は聖書で見た神様、チェルダーに酷似していた。そしてケネスィを名乗るこの怪物は、巨人の口で喋っていた。

 




校正を忘れてたので投稿が遅れた。お兄さん許し亭
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