見習い魔法使いイジーとスライムのスマイル   作:ヤングコーン

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肉が欲しいと言うスマイル。イジーは肉を買って来ようとしたが、狩りに行こうと言い出した。イジーは魔法は不得意で体力もあまりない。しかしスマイルは自分が補助するから大丈夫と言って聞かない。妖精の森に出かけ運よくウサギと会った1人と1匹だったが、魔物とも会う事になってしまい…?


2話 スライムと二人三脚

師匠の家に到着した。あれやこれやと要求の多かったスマイルだったが、私の命を要求する事はなかった。しかしまだ信用ならない。利用価値がなくなったと思われればそのまま捕食される可能性だってある。

 

喋ったりする知能はある訳だから、利用価値がある間は殺したりしないはず。しかし、スライムなんかを家に上げたと知ったら師匠は怒るだろうな。一体どう対処しよう…。

 

家に到着するとスマイルは僕から離れた。要求が通るまでくっついているつもりなんじゃないかと思っていたのでひとまず安心だ。でもまだ危険が去った訳じゃない。今の僕に確実にあのスライムを殺害する方法がない。追い出す方法もない。犬の魔物から逃げた時だって驚くほど素早かったので、逃げ切れるとも限らない。

 

「それで、食べ物って具体的には?」

 

「一番欲しいのは水。次に肉かな」

 

「分かったよ。でも満足したら出て行ってよ。スライムを家に上げてたなんて聞いたら師匠に怒られちゃう」

 

「僕はここに住み着きたい訳じゃないけど、そんな言葉をかけられると悲しくなるよ」

 

変なスライムだ。まずは水をあげよう。僕は飲用水の入った壺を持って来るとそれをスマイルにかけてあげた。水を与えると彼の体の体積が少し増えた。今ふと考えるとスライムの体の色は基本的に水色が多いと聞くがスマイルの体の色は赤い。妖精の森で見かけるスライムの体の色は水色の他に見た事がない。水を得て僅かに体積が増えてもその色が薄くなったりする事はなかった。不思議だ。

 

前よりわずかに元気にそうに動く。せっかく話せるスライムな訳だし、せっかくなので当人に直接尋ねる事にした。

 

「スマイル、君の体は赤いね。妖精の森で見かけるスライムは皆水色なのに」

 

「そうかな?僕が逃げてる最中に見かけたスライムには黄緑色や黄土色も見かけたけどね。でも君の着眼点はいい。僕のこのカラー、ワインレッドはそう見かけるものじゃないんだ」

 

スライムの観察や調査を目的として妖精の森に入った事はない。これは単純に私がよく見ていなかったからかもしれない。それでも赤色が珍しい事はスマイルも認めてくれた。

 

「意図的に着色するぐらいなら訳ないんだろうけど、君のその体の色は生まれつき?」

 

「僕のこの体の色は一時的な物じゃない。住む環境や食べるものに依存せずこの色だよ。自分の姿をじっくり見る機会はないけど、知る限り僕の体の色はずっとこうだ。…ああ、お喋りしてたらお腹が減って来たなー!」

 

ううん…考えてみればこの辺りにちゃんと言葉を通してのコミュニケーションができる魔物っていない。魔物と会話する、これって貴重な体験なんじゃないだろうか。人間が調査して得られた情報の他に、魔物自身ならではの新たな知見などもあるんじゃないだろうか。

 

スマイルの存在について考え出すと身の危険よりも知的好奇心が勝って来る。何より彼には敵意や害意の様な物を感じない。

 

「分かった、肉を買って来るよ」

 

「狩りに行こうよ。妖精の森に行けば獲物はいるはず」

 

「君には分からないだろうけど、私は魔法が不得意なんだ。先生から匙を投げられるぐらい才能が全くない。体力もあまりないし狩りなんてとても無理だよ。私から採れた魔力だって微量だったでしょ?」

 

「弱ってる僕より魔力が少ない魔法使いがいた事には驚きだったね。うん」

 

「しょうがないじゃないか!子供なんだよ!これから成長するからいいんだよ!」

 

「まあ安心して、まだ本調子じゃないけど少し休んで元気が出たから君の魔法の補助するよ。君は魔法のお勉強ができるし、僕は肉にありつけるって訳。どう?」

 

「あはは、バカだなぁ。スライムが魔法の補助なんて。あはは」

 

スマイルは素早く動くと私の背中に張り付いた。まずい、ひょっとしたら怒らせてしまったかもしれない。

 

「わっわっ、ごめん、ごめってば!」

 

「口で言うよりやって見せた方が早いだろうからね。さあイジー、妖精の森へGO!」

 

どういうつもりなのか良く分からないけど、怒って私を捕食してやろうといているとかそういうつもりではないらしい。下手に機嫌を損ねる前にこの妙な自信に溢れるスライムと一緒に、さっき行ったばかりの妖精の森にまた行く事になった。

 

そうして今来たばかりの妖精の森で獲物を探す。薬草などの素材であればそうそう強い魔物と遭遇する事はないが、弱い動物は強い魔物が追ってたりするので動物を探して歩けばそういった物に遭遇しやすい。

 

私はこれまで以上に気を引き締めて妖精の森で獲物を探した。やがて1匹のウサギに出会った。

 

「ウサギ、ウサギだよイジー!」

 

「ダメダメ、ウサギは足が早過ぎて私じゃ仕留められない。もっと遅くて確実に倒せる動物がいい」

 

「ウサギはこっちに気付いてない。魔法を使って縛ればいいじゃないか」

 

「そんな魔法知らないよ」

 

「…君、本当に魔法使いだよね?」

 

スライムにまで馬鹿にされた。授業で習ってる物だってまだ火を出したり水を出したりとか、そんなレベル。相手を束縛する魔法なんて知る訳ないじゃないか。

 

「しょうがない、思ったより早かったけど僕の出番だ」

 

スマイルはそう言うと背中から私の服全体にしみこんでいく。

 

「うわーっ!ちょ、何するんだよ!うひひ、ひひ…」

 

「あまり動かないでよ、ほらじっとする!」

 

「そんな事言ったって……んふふふっ…」

 

身体の至る所がくすぐったい。一体私はスマイルに何をされているんだろう。痛みは感じない。やがてスマイルの動きが大人しくなった。ふと気が付くとウサギが既に逃げてその場にいない事に気付いた。

 

さっき思い切り騒いでしまったからだろう。思わずため息をついた。

 

「もう、スマイルが変な事をするから得物に逃げられちゃったじゃないか!」

 

「変って…体を這うのが?」

 

駄目だ、スライムに人間的な常識は通じない。

 

また獲物を探す所からかと考えていると狼の魔物が飛び出して来た。口元にはさっきのウサギが咥えられていた。こちらと目が合うと、ウサギを空中に放り投げ丸呑みにする様に食べてしまった。そして私をじっと睨みつける。足がすくんで動けない。

 

「あわわ、あわわわ…お、狼の魔物なんてこの辺じゃ見かけないのにどうして…」

 

「誰かが外から連れて来たのかな?」

 

「呑気な事言ってる場合じゃないよ、食い殺される!」

 

あたふたとしているとこちらに飛びついて来た。すると私のローブの左袖が勝手に前に突き出すように動いた。そして袖の先からスマイルの体液が飛び出して盾の様に広がり狼の魔物の牙から私を守る。

 

スマイルは服を使って私を動かす事で狼の動きを的確に捌いて対処する。

 

「イジー、ぼーっとしてる場合じゃないよ!」

 

「え、えっと…」

 

魔力を集中させて球体を作る。こんなものでどうにかなるか分からないけど…。すると私の意図したものとは異なる剣の形状をしたものが出て来た。こんな形状の物、今までに作る事ができた事なんてなかったのに。

 

狼の魔物の攻撃をスマイルが私のの体を使って回避する。そうだ、今は目の前の敵に集中しなければ。私は腕を振るって宙に浮いた剣を操り攻撃する。複雑な形状の物をこんなに正確に、思い通りに動かせた事がない。

 

俊敏な動きをする狼を中々捉えられない。狼が隙を見てこちらに飛びついて来た。私は魔法の剣を呼び戻し狼の魔物の口に咥え込ませた。こんなに上手く行くなら…、そう思ってもう一つ剣を思い浮かべる。思った通り同じ物を出す事が出来た。狼の魔物は魔法の剣から口を離して距離を取る。

 

片方の剣で動きを牽制し、もう一方の剣で着実にダメージを与えて行く。切れ味があまりよくないので斬ると言うより殴るに近い。相手の動きが鈍くなった頃合いになると剣を1本にし、力を集中させる。刃がもっと鋭利になる様に…。

 

それから飛び掛かって来た所をスマイルの補助を受けつつ回避して喉笛を斬った。

 

「はぁ…はぁ…やった?」

 

「やったね!僕達の勝利だ!」

 

そう言ってスマイルが私の服から飛び出すと、倒れている狼の魔物の体に被さる。驚くほどの速さで体が溶けて行った。それは恐ろしい光景だったが、痛みを感じる時間が僅かだったんだとポジティブに考える事にした。自分の体を捕食するつもりだったらと想像してしまいやはりゾッとした。

 

私はふと気になって魔法を使ってみる。しかし、さっきの様に剣の形状にはできなかった。2つ同時に出す事も。

 

「夢みたい。魔法を自分の思うように使えるなんて」

 

「僕にかかればお茶の子さいさい!補助はしたけど、魔法を扱ったのは君だ。不得意かもしれないけど全く才能がない訳じゃないよ」

 

「君は何者なの?魔法を使うスライムなんて聞いた事がない」

 

「僕はスライムのスマイル。相互理解を促し、世を太平に導くために生まれたスーパースライム。それが僕だ。手始めに君と友達になりたい!」

 

やっぱり変なスライムだ。

 




どうもイジーの一人称を僕にしてしまう…。校正時に見逃してなきゃいいけど
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