見習い魔法使いイジーとスライムのスマイル   作:ヤングコーン

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いよいよ満を持して決闘祭が始まった。例年よりも参加者が多くその数は16名。中でもイジーが注意しなければならないと考えているのは4名。生徒会長のクレム。闇魔法を得意とするピポ。魔法学の先生をして芸術と呼ばれる魔女リプ。ファーガスからの転入生で実力が未知数のステンシー。特にピポは気になているのか校長の説明の間は一切他の事に目を向けずにイジーの方を眺めてばかりいた。曲者揃いのムヘンの揺り籠の中、イジー達は勝ち残る事ができるのか…。


21話 ムヘンの揺り籠

それから間もなくしてついに決闘祭が開催された。参加者は16名。今年はかなり多い。私も一段と気を引き締めてかからないといけない。沢山の候補者がいるが、特に注意すべきはあの4人だ。

 

クレム。赤毛で凛々しい男性。上級生。この学校の生徒会長だ。成績は優秀。行事の時にその力の一部を見せてくれるが魔法のコントロール技術や魔力の貯蔵量もかなりのもの。例えスマイルが一緒でも真っ向勝負では勝つのは困難だ。

 

ピポ。緑色のレンズのゴーグルに茶髪のオールバックの男。中級生。幅広い魔法を扱えるようだが好んで闇魔法を扱う。決闘祭にはほぼ必ず参加し積極的に参加者を蹴落とそうとするので周りから嫌われている。決闘祭の挨拶を語っている校長のスピーチを一切気にする事なくこちらをガン見している。絶対に最優先で私を落としに来る気だ。要注意人物。

 

リプ。一つ結びに顔の掘りの深い美しい女性。上級生。この学校で優秀な生徒と言えばクレムとリプは必ず挙がる。魔力の貯蔵量は人並みだが驚くべきはその魔法コントロール技術の高さ。魔法学の先生、ウェンズリ―先生をして彼女の魔法を芸術と評したほど。決闘祭では自ら他人を蹴落とそうとしたりはしないため襲って来る心配はなさそうだが、真っ向から戦う事になれば魔力切れさせる様に立ち回るしかない。できればの話だが。

 

ステンシー。ファーガスからの転入生。私と同じぐらい大きな帽子をかぶっていて、顔には目と口の部分に太いパイプでも突き刺した様な突起のある鉄のマスクをしている女性。ファーガスは非常に競争の激しい国で学生レベルでも生き残るために優劣を競っている。成績優秀はもちろん、不得意魔法がなくどの魔法も高水準で扱える。人前で仮面を取る事がなく素顔は先生達しか知らない。何かと不気味な噂が絶えない。

 

 

「あの緑ゴーグルの人、ずっとこっちを見てるよ」

 

スマイルが不思議に思って私に小声で話しかける。

 

「目を合わせちゃ駄目」

 

スマイルはピポを見つめ返すのをやめた。それから私達はムヘンの揺り籠まで案内された。お互いに異なるスタート地点まで送られる。結局ピポはこちらが見えなくなるまで私達を見ていた。一体何なんだ。

 

『それでは皆様、用意はよろしいか?よーい、どん!』

 

校長の合図が鳴り響いた。ムヘンの揺り籠でのエンブレム探しは実は合格は困難とされているケネスィの幻との戦いよりも危険だったりする。ケネスィの幻は非常に強いが攻撃に当たっても死んだり大怪我を負ったりはしない。攻撃が当たった場所には魔力の痕ができる。その具合によって死亡した、または大怪我を負って戦闘不能になったと判断されれば失格になる。

 

しかしムヘンの揺り籠にいる魔物達は幻ではない。ケネスィの幻ほど強くなくとも爪で裂かれれば怪我を負うし下手をすれば死ぬ。先生達もそれなりに途中途中に立って警戒しているがそれでもたまに生徒から死者が出る。失格扱いにされるが救難信号のための小さな銃を渡されている。

 

私達はできるだけ戦闘を避けながら4賢者の意匠が刻まれたエンブレムの8つのうち1つを見つけなければならない。

 

「それじゃ行こうかスマイル」

 

「オッケー。さっさと見つけてしまおう!」

 

エンブレムを見つけたら後は先生に渡すか森の入り口に戻る事で第1の試練を終える事ができる。しかし森は広くどのあたりにあるのか皆目見当もつかない。中級生や上級生だらけじゃ下手な所は歩きたくないし…。

 

スマイルと意見を交換しながらできるだけ目立たない場所を通って行く。それでも時々他の生徒と会った。私がエンブレムを持っていないからか、あるいは下級生だと思って情けをくれているのか襲って来たりはしなかった。

 

森の中は静かだ。まだ争いの音が聞こえない。

 

思ったより穏便に試練を済ませられるかもしれない。なんて考えていると急に少し離れた場所で早速と爆発音が聞こえた。身を隠して音のする方を観察する。生徒達が争っている。見れば片方はピポだった。特にエンブレムを持っている様子の無い生徒に見境なく襲い掛かっている。数人がかりでピポを倒そうとしているが彼も相手の魔法を適切に捌いている。最初に出会ったのが私じゃなくて良かった…。

 

そう思って安心しているとふと私の頬のあたりに杖が当たった。

 

「ひっ!」

 

驚いて声が上ずった。ゆっくり振り返るとそこにリプがいた。

 

「いけないなぁ、他の生徒に集中して背中が隙だらけなんて。これが私じゃなきゃやられたかもよ?ふふっ」

 

やばい…実力者に当たった。スマイルがリプからの攻撃を予想してバリアを張って前に押し出した。彼女は慌てて後ろに下がると手を短く前に突き出して振った。

 

「ま、待って!戦う気はないよ!ほら!…下級生からの参加って聞いたからちょっと心配ててさ。周りは中級生や上級生ばかりでしょ?」

 

私はどっと疲れた。

 

「もう、脅かさないでくださいよ…」

 

「ごめんごめん。怖がらせちゃったね。君は確かイジー君だったね。私はリプ。決闘祭、一緒に頑張ろうよ。最後の決闘までは敵対はもちろん協力してもいい事になってるから、困ったら頼ってくれてもいいからね」

 

「ありがとうございます、リプさん」

 

「そうだ、私も先輩としていい顔したいからいい事を教えてあげるね。特別だよ」

 

リプはムヘンの揺り籠の地図を取り出すとある場所を指差した。地図上には何も描かれていないなんも変哲の無い場所に見えるが…。

 

「この辺に不死のバーチが住んでたって言う小さな塔があるんだ。去年はここにエンブレムがあったよ。私は他の場所を当たるから、まずはここを探して来てみたら?」

 

リプは茶目っ気がある様だが悪質な冗談を言うようなタイプじゃない。彼女が去年そこで不死のバーチの塔を見たと言うのもエンブレムを見たと言うもは本当なんだろう。仮に嘘であっても闇雲に探すよりはずっといい。私達は素直に彼女の言う通りにバーチが住んでいたと言う塔を目指す事にした。

 

彼女はそれから杖を構え直すと塔の方と逆方向に向かいだす。

 

「あの、そっちはピポって人が他の生徒と争ってました。避けた方が…」

 

普通に戦って彼女が負けるとは思わないが消耗は避けるべきであり、更に奴は狡猾だ。彼女は最高の笑顔で振り返る。

 

「それは結構。私は去年、あいつのせいで失格にさせられたのよ。決闘を申し込んでも拒否されるし、決闘祭以上に先生に咎められずに思い切りあいつをぶん殴れる機会はないからね。んふふふ」

 

まるで氷の女王の王に非常に冷たく鋭利な微笑みだった。そう言えば思い出した。リプは去年も参加していたのだ。ケネスィの幻との戦いで躓いて今に幻の炎で丸焦げにされそうになった所をピポは闇魔法で僅かに先を走るリプを転倒させて道連れにした。

 

自ら助かるためではなく、ただ道連れが欲しいがためだけに妨害を行った彼をリプは非常に恨んでいるのだ。

 

「あのお気に入りの緑ゴーグルを眼底まで陥没させてやるからな」

 

何やら恐ろしい独り言を言いながら去って行った。

 

「僕、あの人と戦いたくないなぁ」

 

スマイルがやや怯えていた。

 

「私も」

 

私達は彼女がくれたヒントを頼ってバーチの塔へ向かった。途中途中何度も強そうな魔物を見かけたが何とか交戦を回避する。途中で熊の魔物とクレムが戦っているのが見えた。激しく争っている熊は既にかなりの傷を負っており勝敗は見えている。さすがは生徒会長だ。

 

彼に限って私達に襲い掛かって来る心配はないと思うが念のために姿を見られない様に隠れながら進んだ。

 

やがて見えて来た池の近くで狼の魔物と何度か戦ったが何とか撃退して無事にバーチの塔まで辿り着く事が出来た。ここがバーチの住処である事があまり知られていないのか生徒達は見当たらなかった。私とスマイルは用心しながら進む。

 

まずはボロボロのドアの前に向かうとドアに耳を当てて中に誰もいないか確認する。足音はしない。争う音も声もしない。私は安全を確認するとゆっくり中に入った。1階…2階…やはり誰もいない。

 

やがて3階に到着した。机の上にバーチらしい人物が描かれたエンブレムがあった。

 

「あった…!本当にあったよ!」

 

「まさか、去年と同じ場所にあるだなんて…。良かったねイジー。後はこれを先生の所へ持っていくだけだよ!」

 

私達はエンブレムを持って塔を下りて行く。1階の階段に向かって進むその時の事だった。

 

「危ない!」

 

スマイルが私のローブの背中側から飛び出した。私の背後に衝撃が走る。思わず前のめりに転倒してしまい手に握るエンブレムを手放してしまう。後ろからドカドカと何者かが駆け寄る足音が聞こえた。その足音の主はエンブレムを拾ってこちらを振り向く。

 

その姿は他でもないバズだった。バズが私の背中を狙って魔法を撃ったのだ。スマイルは私を庇って魔法を受け止めたらしい。まさか決闘祭に参加しているとは思わなかった。

 

「へへ…あまりに迷わずこっちの方角に向かうのが見えたんでね。まさかと思ってつけてみたらこれだ。エンブレムは有難くいただくぞ」

 

そう言って走り去っていった。私は急いで後を追う。

 

「まって、イジー!焦る気持ちは分かるけどまずは落ち着いて!」

 

「でも、エンブレムが…」

 

スマイルの言っている意味はすぐ分かった。走って追いかけて塔の外に出るとバズが目の前で熊の魔物に殴られて倒れた。私はとにかく他の生徒と遭遇しない事ばかりに気を取られていたがスマイルは近くに猛獣がいた事を確認していたのだ。

 

バズは頭から血を流しながら魔法を唱えようとしている。しかし意識が朦朧としているのか上手く発音できていない。

 

「イジー、どうする?」

 

「あいつは嫌いだけど、見殺しになんてできないよ!」

 

私はスマイルから魔力を借りると大きな魔力の塊を勢いよく熊の魔物にぶつけた。僅かに怯んだ隙にスマイルが分裂してバズをバーチの塔の中に連れて行った。こんなに獰猛で巨大な魔物と戦うのは初めてだ。でも覚悟を決めるしかない。

 

熊の魔物は唸り声をあげて私を睨む。私はすくみ上りそうな足を叩いて喝を入れる。大丈夫だ、やってみせる…!

 

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