見習い魔法使いイジーとスライムのスマイル   作:ヤングコーン

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皆で力を合わせてケネスィの幻と戦う事にしたイジー達。いよいよ幻惑の城の中で合図を待つ。しかし、合図はまだなのにステンシーがイジー達の元にやって来た。しかも殺す気で戦いを挑んで来る。これは一体…。


26話 仮面の女

私達は馬車の中で話し合い、ケネスィの幻戦では手を組んで戦う事にした。あの怪物を個人で撃破するのは不可能だ。お互いに協力すればまだ可能性はある。活路を見出せるかもしれない。後の決闘の事を考えれば出し抜いた方が賢い。しかしいざと言う時に戦いでお互いを騙し合いをする様では仲良く失格と言うのもあり得る。

 

だからリプの魔法でお互いに約束を破れない様にした。2人以上に裏切り行為を確認されると手の甲に刻んだ模様が浮かび電撃が走る仕組みだ。ズルがないように事前にちょっとしたゲームを行いお互いにイカサマをやってその魔法の動作を確認する。飽くまで動作確認なので今回の痛みは軽微な物。実際にやればもっと強い電流が流れるそうだ。

 

その後バズが降りた。やがて私が降りる番がやって来る。私はリプに手を振って馬車を下りた。戦いはあの日のミルジナが再現され、その町の中にケネスィの幻が降り立つ所から始まる。参加者の全員が所定の位置につくまではまではまだ時間がある。

 

そして私は戦いが始まった後の事をスマイルと確認した。まずは学校のある位置に向かう。あの時代ではまだ兵舎だが大雑把な形状はあまり変わらないらしい。目印となるものは事前にリプが調べて見繕っておいてくれた。

 

事前の確認が済んでからは大きく深呼吸をした。ローブが僅かに震える。

 

「ううう…怖い…」

 

スマイルが怖がっている。

 

「大丈夫。私がついてるからね」

 

「うん…」

 

スマイルがあまりに怖がるものでむしろ私は落ち着いていた。日頃からどんな事にも果敢に挑んでいく方なので怖い物があるのは意外だった。スマイルをなだめながら待っているとふと足音を耳にした。音のする方を向くとステンシーがこちらに向かって歩いているのが見える。

 

合図があるまで指定の位置から動かない様に言われていたはずだが…。どうして彼女はここにいるんだろう。

 

「あれ?ステンシー?何でここに?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

彼女は無言で魔法を唱えるとこちらに魔法の短剣を5つ飛ばして来た。私はバリアを張って身を守った。しかし弾かれた短剣はまるで意思がある様にこちらに追撃してくる。

 

「ステンシー!まだ開始の合図はまだだよ!」

 

私は叫ぶがお構いなしに攻撃を続けて来る。スマイルがローブから飛び出すと魔法の剣を手に持って攻撃を仕掛ける。ステンシーも同じよう魔法の剣を手に持つとスマイルの攻撃を受け流す。

 

ステンシーは火や水や風の魔法を同時に遠隔操作して私に襲い掛かりながらスマイルの攻撃を捌く。

 

開始の合図もなく、特に因縁もないのに襲い掛かって来るステンシー。珍しく私から離れて猛攻を仕掛けるスマイル。極めて不可解で異常事態だった。特に彼らのやり取りはもはや試合とかそう言うレベルではなく殺意の応酬。殺し合いだった。

 

「イジー。この試合を棄権しろ。そしたら命まで取らない」

 

彼女は私に向かってそう言った。

 

「命までって…ステンシー、正気??」

 

ステンシーが局所的に突風を起こすとスマイルを吹っ飛ばす。スマイルが着地した地点の近くからまるで生える様に空に向かっていくつもの電撃が伸びる。それは空中で手の形になるとスマイルに向かって落ちた。スマイルは左腕を分離させて上空へ投げて電撃を受け止める。

 

そして黒変した右手で電撃を帯びた左腕の手首を掴むとステンシーに向けて投げた。目に負えた速度ではなく尾を引く電撃のみ刹那に見えた。ステンシーはいくつも岩の盾を用意した上で更に回避する。スマイルの投げた左腕は全ての岩を貫通した。

 

「待って2人共、戦うのをやめて!!」

 

スマイルは返事を返さず風の刃を大量に出現させるとステンシーに向かって放つ。ステンシーがバリアを張るとスマイルは自らの放った風の刃に当たりながら彼女に急接近して右手に握った魔法の剣でバリアを斬って破る。

 

「やるな化け物…」

 

ステンシーは炎を纏った鳥を出現させると風の刃と相殺させながら後ろに下がる。スマイルは右腕で魔法の剣を振るって攻撃を続ける。

 

「だが考えが甘い!」

 

ステンシーはその場に大きく跳躍する。スマイルが投げた左腕が魔法の剣を持って帰って来ていた。その魔法の剣はステンシーの背中の代わりにスマイルの胸部に突き刺さる。更にステンシーは空中で刃に電気を纏わせるとそのまま落下しながらスマイルを縦に真っ二つに斬った。

 

ようやくステンシーの放った魔法を打ち消す事が出来た。私は急いでスマイルを助けに行く。魔法弾を放ってステンシーを妨害しようとする。しかし、彼女はそれよりも早くスマイルに横薙ぎを入れた。魔法弾を彼女に当てる事は出来たが手遅れだった。

 

もしスマイルのコアが今ので斬られてしまっていたなら…、もし今の電撃がコアにダメージを与えていたなら…。私は血の気が引いた。

 

「スマイル!!!」

 

スマイルはその場にドロドロと溶けて水たまりになった。私は水たまりの傍に座って液体に触れる。

 

「スマイル、スマイル!!!!」

 

嘘だ…。スマイルが動かなくなった。返事をしなくなった。ただ水たまりばかり残っている。

 

「嘘だ、嘘だこんな……」

 

ステンシーはすぐそばまで歩み寄り魔法の剣を向けた。

 

「スマイルは死んだ。分かったら試合を棄権しろ。もうお前には万に一つも勝ち目はない」

 

私はスマイルだった水たまりに漬けていた手を放した。頭に浮かぶのはスマイルと過ごした短い日々。あの笑顔。そしてスマイリー。これまでの過酷な人生が覆るぐらい幸せな生活を送らせてあげようって思ったのに。ずっと一緒だと思ったのに。

 

体の底奥からこれまでに感じた事のない怒りが湧いて来る。こいつだけは生かしてはおけない。例え相打ちになってでも殺してやる。

 

左手を突き出すと人差し指と親指で輪っかを作って呪文を唱え光を放つ。動きを予想していなかったのか仮面越しに左腕で目のあたりを庇う様に抑えてよろめく。

 

「…ろしてやる…殺してやる!!!!」

 

私は魔法の剣を曲刀の様に形を変えて斬りかかる。ステンシーは右手に魔法の剣を持って攻撃に耐える。どこでもいい。体のどこでもいい。斬って斬って切り刻む。感情任せの剣戟はあっさりと手を読まれて防御される。

 

それでもいい。なら相手の体力が切れるまで切り刻んでやる。スマイルにそうしたように。息が切れようが、腕が千切れようが、足が千切れようが。何が何でも殺してやる。

 

「やめろ!戦いはもう終わった!もうお前の命を狙ったりしない!俺が殺したかったのはそこの怪物だけだ!!」

 

「終わっちゃいない!お前が死ぬまで終われないんだ!!!」

 

ステンシーは僅かに下がると大火を起こして私の全身に火を当てる。飽くまで威嚇のつもりの様で極めて短時間の燃焼だった。痛みなど感じない。私はただ攻撃を続ける。

 

「っ…体を庇いもしないとは、魔物に付け入られて人心までなくしたか!?」

 

「お前には分かるもんか…。スマイルがどんな思いをして、何を願って生きたのか…!」

 

彼女は呪文を唱えて突風を起こした。私の身体は飛ばされる。間に風の刃が仕込んであった。体の数か所が斬られて血が出る。私も魔力の消耗をぐっと抑え局所的な突風を彼女の足元に起こすように呪文を唱え彼女を転倒させた。

 

私は地面を転がりながら受け身を取って立ち上がる。そして彼女に向かって走る。ステンシーが高速詠唱すると足元から泥の手が現れ私の足首を掴まんとする。私は跳躍すると魔力の塊を足場の様に出現させてステンシーの元へ一気に駆け寄る。

 

そして段差を付けて飛び降りて彼女の元に着地しながら魔法の剣を振り下ろす動きをする。咄嗟に身を守るために前方にバリアを張ったが、私は彼女の背中側から発動する様にして雷の呪文を当てる。残りの魔力を全て込めた。それなりのダメージにはなったはずだ。

 

ステンシーはその場に膝をついた。

 

「今のは…効いた……」

 

私はその手に魔法の剣を持つと彼女の首元に向けた。

 

「何でだ。何でスマイルを殺した」

 

「ははは…言えるもんかよ……」

 

意地でも言わないつもりか。私は魔法の剣を振り上げてトドメを刺そうとする。ステンシーは顔を上げて私の目を見る。その仮面の目の部分の窓から僅かに目が見えた。

 

すると私はまるで頭を殴られた様な感覚に襲われた。全身から汗が噴き出す。今すぐにでも斬ってやりたい。しかし、そうする事を私の中の何かが全力で止めている。人殺しは行けない事だ。それは間違いない。ただそれだけじゃない、何か取り返しのつかない事になる予感がした。

 

持っている手が震える。どこから来るかも分からない膨大な不安と恐怖に私は動けなくなった。

 

「イジー…」

 

ステンシーが私の名前を呼ぶ。私の記憶の中で何かがチラついている。しかし脳が理解を拒んでいる。

 

「う…ぐぐ、く……」

 

殺せない。大切な人を殺した仇を殺せない。私の中で自分が真っ二つに引き裂かれそうなほど葛藤した。

 

その時、ゴオッと一陣の風が吹いた。私達は何かの気配を感じてそちらを向いた。するとそこにはスマイルが立っていた。彼はニッコリと笑う。

 

「気は済んだかな…?」

 

ステンシーはしばらく黙っていたがすくっと立ち上がると。2歩、3歩と後ろに下がる。

 

「…悪趣味な冗談みたいな奴だよお前は」

 

そう言うとステンシーはその場に煙を起こした。幻影だろう。スマイルが生きていた事もありこれ以上深追いする必要はない。スマイルも笑顔のまま彼女の方を向くばかりで追いはしなかった。私はすぐにスマイルの方へ駆け寄った。私は彼に抱き着いた。彼も同じように私を抱きしめる。

 

「ふふ。イジー、この距離は?」

 

「心配したよ…死んじゃったんじゃないかって…」

 

「僕は死なない。君を残して死ぬもんか。ずっと一緒だ」

 

再会を喜ぶ暇も感傷に浸る暇もないらしく、あたりに空砲の音が鳴り響くと辺りの風景が町に変わった。合図だ。どうやら全候補者が揃い、先生達の準備もできたらしい。そして町の中心には古竜ケネスィの幻が落ちて来た。建物が轟音と共に壊れて行く。

 

「イジー、大丈夫?戦える?」

 

「大丈夫。やろう」

 

私が頷くとスマイルは私のローブに憑依した。失った魔力を補充すると現代で言う学校があった場所へ向かって走る。まずはケネスィの幻と戦う前に合流しないと…。

 

その道中、極めて不可解な物を目にした。先程まで戦っていたステンシーの服を上からかぶせられた少女がいたのだ。丁寧に仮面や帽子が気を失ってる彼女の手に握られている。一体どういうことだ?




今回からスマイルが「ローブにつく」と書いてたのを「ローブに憑依する」と言う風に変えます。正直霊的な物じゃないし憑依と書いていいかわからないけど…。もうこう書いた方が分かりやすいんじゃないかと思う。

本当は修正とかした方がいいんだと思うけど…もうどこからどこまで書いたか振り返るのが怖い←
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