少女はあどけない表情ですやすやと気持ちよさそうに眠っている。彼女を助ける義務もないしこのまま放っておこうかと思って通り過ぎたが、やはり放ってはおけず私は体を揺さぶった。
「おーい、起きて!」
彼女は体を前後させながらも起きる気配はない。
「んーふふふふ。もぉーよせよぉー」
まるで親しい友達にでも話しかける様な気さくな声色で寝言を言う。早くバズやリプと合流しなければならないのであまり時間を潰してる余裕はないのだが…。私は耳元でやや大きな声で言った。
「おーきーろー!!」
「ぷえっ!敵襲か!」
ぱちりと目を覚ます少女。こちらの顔を見ると変な顔をする。
「んー誰だお前。確かアタシは自室に戻ろうとして…」
ガバッと体を起こすと身構えた。上から被せてあったのみの服がはらりと落ちて下着姿が露になる。
「ほあーっ!お前アレだろ!夜這い!夜這いだなお前おい!アタシを気絶させて何をした!言え!」
凄くハイテンションで喚き散らす少女。とてもさっきまで戦っていたとは思えない言動だ。夜這いだとか何を言っているんだろう。謎は深まるし変な疑惑はかけられるし…。それにしたって彼女は下着姿で目のやりどころに困る。
私は目元を覆った。
「何だお前!人と話す時は目を見ろ目を!何だ!アタシの顔が見れないってか!ええ!?」
「ふ、服を着て…」
少女は自分の身なりを見る。やがて自分の顔に手をやってぺちぺちと頬を叩いた。すると顔を真っ赤にして仮面と帽子をかぶった。服は着てくれない。
「お前―っ!お前お前お前!許さんぞ!アタシの顔を見たなァーッ!」
「顔はいいから服を着てってば!」
少女は肩をすくめると笑った。
「なーんだお子様かよぉー。夜這いはないな。よし、アタシの清純は保たれた。しかい可愛いなーお前。夜這いまでして服をひん剥いておいて下着ぐらいで恥ずかしがるなよ。んー?」
「何こいつ」
スマイルが冷たい声で言った。少女は服を着る。サイズはぴったりだ。
「何でこんな所で服なんか脱いでたのさ」
私は尋ねるが少女は首を傾げた。
「おかしな事を言うなよ。アタシの隠しきれないグラマラスなボデーに欲情してお前が脱がせたんじゃないのか?」
「イジー、このままじゃ会話が平行線だ。僕が仲介するよ」
スマイルはそう言って目の前の少女と会話を進める。まず私達を襲ったのは彼女ではないと主張している。そして彼女も何者かに襲われてここへ連れて来られたんだそうだ。実際先ほどまで戦っていたのが彼女にしては声がまるで違う。
そして目の前にいるこのおかしなおませさんが本物のステンシーその人なのだそうだ。さすがはスマイルなもので、両親と話し合いをした時の様な口調で強引に話を軌道修正すると最速で話をまとめた。
更に丁寧に今の状況についても手短に説明する。
「変な奴には襲われるわ、アタシを騙る奴は出るわ、よく知りもしない男の子達に顔は見られるわ。本当踏んだり蹴ったりだわん。アタシの顔を見た事は内緒にしとけよ。エッチ」
下着姿を見られる事は全く気にしてないのに顔を見られることをこんなに気にするとは。随分と変わった人だ。ファーガスの文化?とは聞いた事もないし…。とにかく今は彼女の事で頭のリソースを割いてる場合じゃない。
私は彼女に別れを告げるとさっさと待ち合わせ場所に向かう。しかし彼女も後ろからついてくる。
「何で私の後を追って来るの。戦う気?」
「これからあのでっかいドラゴンと戦うんだろ?アタシ個人が闇雲に駆け回るより誰かといた方がよっぽどいいじゃん」
「そりゃそうだけど…、普通はあんな事があった後で私達を信用する…?」
「んもー、お互いに人に言えない秘密をシェアしてる仲じゃあないかぁ♡仲良くしョ」
「イジー、ピポの事といい相互理解の限界を感じ始めてるよ。どうしよう」
「諦めちゃだめだスマイル」
ステンシーや偽ステンシーのおかげでケネスィへの恐怖は明後日の方に飛んで行ってしまったらしい。だが代わりに彼の一生の中で大きな壁にぶちあたってしまったようだ。バズ達とも理解できたのだから…、まあ今度はスマイルの事は私が応援してあげようとおもう。
かなり変わった人物だがムヘンの揺り籠での試練はしっかりエンブレムをゲットしてるあたり事前に聞いていた情報に嘘偽りはなくかなりの実力者なのには間違いない。貴重な戦力だ。
私はステンシーをつれてバズ達と合流する場所に向かった。
やがて私達の通うクレセント魔法学校が見えて来る。リプは先に来ていた。バズが遅れてやって来て肩で息をしている。それだけじゃなく私と同じように誰かを連れてやって来ていた。クレムだ。バズがクレムを連れてやって来た。
「皆、朗報だ。ここへ向かう途中でクレムが協力したいって」
「おおー♡七頭身先輩っ♡」
「うぐっ…ステンシーも一緒なのか…。心強いよ」
クレムが青ざめた。ステンシーが変な呼び方をしているし知り合いの様だ。リプもバズも馬車の中で会った時とはまるで違う雰囲気に驚いていた。とにかく、協力メンバーが増えたのはいい事だ。誰も異論はない。
それからリプが裏切らない様にクレムやステンシーにも同じ魔法をかけた。お互いの監視は厳しくなる。これでより裏切りはやりづらくなっただろう。
ケネスィの幻が暴れる轟音が鳴り響く。そちらを向くとどうやら城を攻撃しているらしい。歴史では既に4賢者は戦うために向かっている所だ。だが私達は彼らほど優秀じゃない。念入りに策を練ってからでなければとても戦えない。
それでも既に交戦している候補者はいるらしくケネスィの吐く炎の他に花火の様に明るい魔法が放たれたりしていた。
クレムは咳ばらいをして話を始めた。
「まずは僕をこのメンバーに入れてくれてありがとう。後からやって来て偉そうに物を言うのは気が引けるし、貴重な時間を割くのは申し訳ないけどどうしても重要な事を今話したい」
クレムが改まって皆にそう言った。このメンバーのリーダーはリプになっている。彼女はクレムの発言に特に異論はないそうなので彼は言葉を続ける。
「ありがとう。まずは自慢からだ。僕の親は国に仕えていてそれなりに位のある役人だ。だから世間一般じゃ知らない事も知ってる。父は子煩悩で本来話さない事まで話す」
リプが周りを見る。虫が飛んでいる。あれは映像を中継するための…。
「虫が飛んでるけど大丈夫?」
「あの距離じゃ僕達の声までは入らない。大丈夫だ。話を続ける。まずは4賢者の英雄物語は実は後世のために話を改変されているんだ。実際、彼らは物語以上に大苦戦してて全く歯が立たなかった」
「んもー七頭身先輩ったらお茶目さん♪4賢者が勝てなかったんじゃ今のミルジナはある訳ないじゃないですか~」
「英雄ノロールが神の叡智に触れたんだ。だから勝てた。神にも近い力を持っていたケネスィを撃退するにはそれと同等の力が必要だったんだ」
皆揃って驚いた。神の叡智はチェルダーいついかなる時も人間の手に触れない様に固く守っているものだ。それが英雄ノロールが触れた?一体どういう状況でそれが可能になったと言うのか。
しかし今は歴史について議論している場合じゃない。私達はクレムの言葉の続きに耳を傾ける。
「あのケネスィは伝説通りに再現されている。だから4賢者通りの動きをする事が攻略のカギになっているだろう。そう思って戦ったのが去年だ。そして負けた」
「うん。クレムはノロールみたいに一生懸命正面で戦ってた。まずは勝たない事には仕方がないから私やピポは転倒させたり身動きを封じようと一生懸命縛ったり魔法をぶつけたりしたけどとても歯が立たなくて…」
リプが困った顔をする。攻略方法は概ね間違ってないはずなのだ。しかし単純に魔法の力が4賢者の動きをするのに力が全く足りていない。例え新たな4賢者を出すための祭りであってもケネスィの幻を弱くする訳には行かないのだ。
つまりクレムが言いたのは伝説通りの攻略を真っ当に行っても史実ですら勝てておらず自分達にも勝つことはできないだろうと言う事だ。他に攻略方法を考える必要がある。
「じゃあ史実通り神の叡智を使えばいいんじゃないか?」
バズがずっと言いたくてうずうずしていた表情で言う。
「その神の叡智がどこにあるか分からないし、総当たりしてる余裕もくれそうにない。もっと言えばこの幻覚の中にそんなものまで再現してる可能性も非常に低い。現実的じゃない」
「まあ…だよなぁ…」
少しの間しか話していないのにケネスィの幻は既に城を半壊させている。あまり長々とおしゃべりしている余裕はなさそうだ。私達は一生懸命に知恵を出し合い作戦を立てた。