見習い魔法使いイジーとスライムのスマイル   作:ヤングコーン

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ビジーは研究室に戻るとしばらく姿を見せないでいた事をクーフォに叱られた。本気で心配している様子ではあるもののしばらく1人になりたかったビジーはおやつを要求して退席させた。入れ替わるようにしてアレンがやって来る。この時、ビジーはどうしてもしなければならない事があった。例え師匠と争う事になってでも。


28話 師弟

俺はとぼとぼと研究室へ戻って来た。今日に入って何度目かも分からないため息をついて所内に戻るとベッドに腰を下ろして頭を抱える。

 

「ここにいたのか!心配したぞ、急にどこにもいなくなるから!」

 

急な大声を聞いて俺は思わずその場に跳び上がった。入り口の方を見やればそこにいたのはクーフォだった。彼はどかどかとやって来ると俺をまじまじと見てホッと胸をなでおろす。

 

「怪我でもしたんじゃないかと思った。どこへ行ってたんだ?」

 

俺はしばらく彼の顔を眺めながらぼーっとしていた。

 

「大丈夫か?熱でもあるのか?まあまずは横になれ。何か食べたい物はあるか?」

 

「うん…冷たい物が食べたい」

 

言われた通りに横になったままわがままを言う。彼は「分かった」とニッコリ笑うと深く事情を聞かずに部屋を去って行った。ごめんクーフォ…。そのまま横を向いて胸のあたりを握りしめる。

 

しばらくすると師匠が部屋の中に入って来た。何か探し物をしている。ここへ戻って来てロクに腰もかけていないだろうに忙しそうだ。こちらの目線に気付くと膝立ちになって俺の目線と合わせて座った。

 

「大丈夫か?怪我か?熱か?」

 

「ちょっと倦怠感があるだけです。少し休めばよくなりますよ。随分慌ててますね、さっきオルコスに帰ったばかりでしょう?どうしたんですか?」

 

それを聞くと師匠は苦い顔をして帽子の欠けた方に手をやり頭を掻く。しばらく黙って考えごとをしていた様だが深くため息をつくと厳しい顔つきになってで話を始める。

 

「…ビジー。今からお前に理不尽な事を言う。思う事も沢山あるだろう。だが師匠としてお前にどうしてもそうして欲しい事だ。お願いだから聞いて欲しい」

 

「へえ。何です?」

 

「ビジー。もうミルジナには帰るな。いつか時が来たら連絡をする。それまではファーガスにいるんだ。クーフォには俺から頼む。無骨だがいい奴だ。本当だ」

 

俺は布団を握る手に力が入る。どうせそんな事だろうと思ってた。分かっていたから胸が苦しい。口を閉じる歯に力が入る。言葉を返せない。師匠はしばらく俯いていたが立ち上がって後ろを向いた。

 

「体調が良くなったら研究室の棚においてある旅行バッグの中を見てくれ。それなりにでかいから見ればすぐに分かる。ナンバー錠の4桁は1112。中を読んだら燃やしてくれ。知られてはならないものだ。俺とお前以外の人間には」

 

それを言って立ち去ろうとする師匠の服を掴んだ。

 

「行かないでください。師匠、ミルジナがそんなに大事なんですか?」

 

「ビジー…?」

 

俺は立ち上がって走って部屋の入口前に行くと両手両足を広げて通せんぼする。

 

「ここを通るなら俺を殺して行ってください。本気です。俺にファーガスに行けって?師匠も来ればいいじゃないですか。ミルジナに帰るな??俺のセリフですよ。半殺しにしてでも止めます」

 

本気だった。師匠が相手ならどれだけ本気を出しても死にはしないだろう。

 

「お前……そうか、もうそこまで理解したか…。やっぱりお前は優秀だ。連れて来て正解だった。お前は俺よりずっとずっと優秀だよ」

 

師匠は笑顔を浮かべると俺の元へ歩み寄る。

 

「来るな!ミルジナへは行かないと言え!!でないと…」

 

師匠は構わずこちらに歩いて来る。魔法を唱えようとすると俺の唇に人差し指を当てて詠唱を止める。そしてその場に膝をつくと俺をきつく抱きしめた。

 

初めて師匠に会った時、初印象はとても体躯のでかい男と言う事だった。一緒に暮らして数日で厳格な人物像が崩れた。ずぼらで、だらしない人で。服を脱ぐと驚くぐらい痩せていて骨と皮ばかり。骨太なので余計に痩せこけて見えた。

 

彼の弟子になって俺も日々成長した。少しずつ彼の背中に近付いてる気がした。未だにその背中には程遠い。でも…今は彼の身体がとてもとても小さく見えた。消えてしまいそうなほど。

 

分かったフリをして、何も知らない癖に。大人はいつだってそうだ。子供の事は全て知った気でいる。何も知らないで。

 

「今度、一緒に外食へ行こう。イジーと一緒に。どこへ行こうか。好きな物を頼んでいいぞ。王様に金を貰ってるからどんな高級なものでもな」

 

「いらねえよ…どこへも行かないでくれよ…。それだけで、それだけでいいのに…何でだよ…」

 

「ごめんな、ビジー。少しの間だけお別れだ」

 

師匠が悲し気な笑顔を浮かべると囁くような優しい声で呪文を唱えた。彼の眼に一粒輝く水滴が見えた。意識が遠のく。ああ、駄目だ。寝ちゃいけないのに。師匠を止めなきゃいけないのに。師匠…。

 

 

 

 

起きた。師匠はいない。近くでクーフォが眠っていた。近くには丁寧にフルーツ味のゼリーが置かれていた。それを喉に流し込むようにして食べると俺は研究室へ降りてケースのナンバー錠を解いた。中の書類を確認する。

 

研究所の物ではない。オルコスの軍事機密に関して師匠が簡潔にまとめたものだ。時々何してるか分からないと思ったら、まさかこんな情報まで集めに行ってたとは。ファーガスの軍人は隠したがっていただろうに。

 

私は思わず笑ってしまった。師匠の凄さを再確認すると共に、如何ともしがたいやるせなさがこみ上げてきたからだ。

 

「知ってるよ。そんな事」

 

どうせ知ってる事ばかりだろうが、念のために隅から隅まで一切に斜め読みをせずに確認した。それから魔法で燃やす。寝室に戻るとクーフォを揺さぶって起こした。

 

「おお、起きたのか。すまん少し眠ってしまった。事情は聞いた。しかし君の師匠も無茶を言うね」

 

「クーフォ、…実は俺も無茶が言いたい」

 

クーフォは笑った。

 

「お手柔らかにな。まずは聞こう」

 

「俺の兄弟弟子、イジーも一緒に預かって欲しい。代わりにファーガスが喉から手が出るほど欲しい情報を提供する」

 

クーフォは私の言葉に首を傾げる。俺を子供だと思って信じられないんだろう。だが好都合だ。子供が言う事であれば怒って俺を殺したりはしないだろうからな。それに彼なら信用できるだろう。

 

俺はその事を話した。

 

「冗談にしては少し度が過ぎるぞ」

 

「信じる信じないは勝手だ。だが遅かれ早かれ事実は露呈する。そしてもうすぐ俺の言葉を裏付ける証拠を見る事になる。それからでもいい。クーフォ、俺を信じてみないか?」

 

こうなってしまった以上、俺は何としても計画を成功させなければならない。そのためにも彼との取引を成立させる必要がある。大丈夫だ。絶対に。

 




今回は文字数少な目。まあここ最近は最新話の閲覧数が全部ニーヒル♡なので何も問題ナッシン。悲しいかなぁ
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