見習い魔法使いイジーとスライムのスマイル   作:ヤングコーン

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ケネスィの幻は5人にとっても想像を遥かに超える強さだった。それでもそれぞれ臨機応変に動いて戦う。敵も強いが味方も頼もしかった。しかし、激闘の末についに欠けてはならないメンバーの中から脱落者が出る…。


29話 激闘!ケネスィの幻

私達は2チームと1人に別れてケネスィの幻と戦っていた。主戦力はクレムとリプで正面から戦うが、私とステンシーは奴が飛翔しないように羽根を攻撃する大役だった。バズは尻尾を狙っている。1人だが比較的に攻撃が大人しく対処もしやすい。リプがドラゴンについて調べた時に面白い事が分かったのだと言う。

 

飽くまで現代ドラゴンであり古代にも通じるか分からないが、ドラゴンの表皮はどこも硬いがとにかく熱が籠りやすい。そのためドラゴンは比較的肉質の柔らかい尻尾を排熱器官としているのではないかと言う説がある。もし切断できたなら比較的前方に重心が偏りがちなため体幹バランスを崩しやすく戦いを優位に進められるのではないかとの事。

 

最も厳しい戦いを強いられるのはクレムとリプ。この戦いの要になっている彼らを信じるしかない。クレムは作戦を説明する時にこういった。

 

『幻影であろうと俺達は未知との戦いをやる。束になって争っても実力が上の相手だ。勝つための戦いをするより負けない戦いをしなければならない。この中で誰が欠けてもいけない。皆、絶対に勝ってミルジナに帰ろう』

 

上級生の最優秀2人組みとあって既に彼らはケネスィの幻の頭部の方へ到着し戦いを始めている。私達は遅れて定置に向かった。先に定置に着いたバズが私達に向かって叫んだ。

 

「頑張れ!お前がミスしたら、俺が出来る範囲でカバーする!」

 

「ありがとう、バズ」

 

「尻尾ビターンで退場とか恥ずかしいからなお前―!」

 

それぞれ言葉をかけるとスマイルは分裂して私とステンシーの身体に憑りついた。飛翔の魔法は中級生からだが、ステンシーはまだ習ったばかりで技量は一定に達していない。その点のカバーをスマイルにしてもらうのだ。

 

「あひゃひゃひゃ!馬鹿、くすぐったくするなスマイル!」

 

ステンシーが言った。慣れないうちはスマイルの服への憑依はくすぐったく感じる。慣れればどうと言う事はないが。

 

「それじゃイジー、右翼は頼んだよ」

 

ステンシーの方に憑いたスマイルがそう言った。ステンシーは飛ぶとケネスィの幻の左翼の方へ飛んでいく。私はスマイルの力を借りて飛ぶと右翼の近くへ飛んだ。途中で2…いや3人の生徒が見えた。彼らは地面にぐったりとしていたがやがて体は透けて消える。なるほど、失格扱いになるとああやって回収される訳か…。

 

背中に一度降り立つと真っすぐ翼の方へ向かう。まずは翼膜のの破壊からだ。スマイルに風の刃の呪文を唱えてもらい攻撃を行う。

 

しかしどれだけ風の刃を当てても翼膜は破れない。まるで雨粒でも受けるかのようだ。

 

「イジー!避けろ!」

 

ステンシーの声が聞こえた。全身を影が覆う。私は考えるよりも早く避けた。先程いた場所に尻尾による叩きつけが行われる。ダメージはそれほどでなくてもこちらをしっかり認識し迎撃に来ているらしい。

 

「ありがとう、ステンシー」

 

「いいって事よ!しっかしかってえなぁーこいつ!」

 

魔法を変えて火、雷、水を当ててみるがいずれも効果はない。

 

「スマイル、魔力は大丈夫?」

 

「まだ余裕だよ。力を出し切らなきゃこいつには勝てない。イジー、僕に構わずやるんだ」

 

さすがスマイルだ。私は魔法の剣を6つ出して操り翼膜に斬りつける。どれだけ力を込めても翼膜は全く傷つかない。2度目の尻尾攻撃を避けるステンシー。しかし翼に当たって飛ばされた。幸いにもスマイルの体液が盾になったためダメージは軽減されているように見える。

 

「ステンシー!」

 

ステンシーに憑いたスマイルが魔法を用いて空中で体勢を立て直そうとしている。私は一端持ち場を離れて彼女を受け止めてケネスィの幻の背中に戻る。

 

「…危なぁ…意識が遠のいた。アタシ失格になってない?」

 

「まだセーフみたいだね。戦える?」

 

「もちろん」

 

もう一度背中に戻ろうとしたが、ケネスィの幻の表皮から高温を発したため一度退いた。ケネスィの幻の頭部は大きく空を向く。やがて口元から火を噴きだすとリプ達の方へ炎を吐いた。それはもう巨大な炎の滝と呼ぶべきか…回避はできたようだが背後のミルジナの城がまるで巨大なスプーンで抉られたみたいの溶けて火が噴き出している。まともに喰らえばひとたまりもない…。

 

無事に回避できたはずのクレムの浮遊の魔法が解けて落下を始めた。リプがすぐに飛んでキャッチするとまだ無事な建物の屋上へ彼を連れていく。ケネスィの幻はそちらに視線を向けると今に攻撃しようとしている。

 

「ああ、非常にまずい!」

 

このままじゃ2人まとめてやられてしまう。

 

「あーもう、しょうがねえなあ!アタシの大魔法、とくとご覧あれ!」

 

そう言うとステンシーは地面に向かって落ちて行った。

 

「ステンシー!?」

 

彼女の落下地点に黒い渦が現れ彼女を飲み込んで行った。すると黒い渦はどんどん広がり、中から巨大な人間の骸骨のような怪物が這い出た。上半身だけ体を出すとケネスィの幻を右手で抑え、左手で去奥を掴んで引っ張る。

 

ケネスィの幻は暴れて抵抗した。その長い首で腕を殴り、剛腕で引っかく。しかし巨大な骸骨は微動だにせず、やがて左翼を引きちぎった。

 

リプもクレムもその光景に驚いている様だった。意識を失ったのかと思いクレムの事で心配したが、どうやら無事なようで安心する。骸骨の身体がバラバラに砕けると黒い渦の中に入って行く。やがて渦は小さくなり中からステンシーが出て来た。

 

「わーっはっはっは!参ったか!!」

 

大魔法と言うだけあって凄い魔法だった。物言いは変だがやはりただの変な人ではなく実力者だ。しかし、彼女が出て来た黒い渦のある位置は悪かった。

 

「ステンシー、避けて!!」

 

「あん?」

 

ケネスィの幻は戦っていた骸骨を探しているのか体動かしている。ステンシーの出現位置はちょうど動く足の軌道上にあったのだ。ステンシーはケネスィの幻の足に轢かれるとその場に倒れる。体には魔力の痕が付いていた。

 

「ヴぁああああっ!こんあのありかぁーっ!」

 

そう言いながらステンシーは消えて行った。彼女の事は残念だったが彼女はチームとしての役割は果たしてくれた。ドラゴンが飛ぶ事はもうないだろう。

 

ステンシーに憑いていたスマイルがこちらに合流すると私は一度下がり、バズと一緒に尻尾への攻撃に協力する。とはいえ片翼を失った分だけバランスがとりづらい様でリプ達は攻撃への対処が以前よりはマシになった様に見える。後はこの尻尾さえ斬れば…。

 

その時、ケネスィの幻が立ち上がると再び口元から火が噴き出す。リプ達は炎に備えるが、なんと奴は立ち上がり顔を上にあげたまま、首を更に後ろにのけ反らせてこちらに炎を吐いた。

 

あまりに唐突の事で頭が真っ白になった。炎がすぐ目の前まで迫る。到底回避できるはずもなかった。

 

しかし、放心状態にある私に炎はいつまで経っても届かなかった。バズが目の前に立ってバリアを張っていたのだ。

 

「ば、バズ!?」

 

「ぐうううっ…駄目だ耐え切れん!お前もバリアを張って自分の身を守れ!」

 

「でもバズは!?」

 

「俺の事はいい!」

 

バリアにヒビが入り軋む。私はバズも助けたかったがこのまま共倒れでは全滅もあり得る。私は意を決して自分を守るためのバリアを張った。

 

バリン!

 

音を立ててバリアが壊れる。炎が押し寄せる前にバズはもう少し手前にバリアを張った。

 

「ぐぐ、ぐぐぐ…まだだ…!」

 

2枚目のバリアにもヒビが生える。軋む音が響く。バズはバリアを張りながら後ろに下がると魔法を更に唱えて巨大な魔法の盾を作った。2枚目のバリアが砕けると巨大な魔法の盾が私達を炎から守る。

 

バズは顔中に脂汗をかいて服に滴らせていた。スマイルがローブから顔を出す。

 

「バズ!もういい!魔力はとっくに尽きてる!それ以上は駄目だ!」

 

「魔力が尽きてる?でもあの魔法の盾は…」

 

「バズは足りない魔力を自分の生命力で充ててる。魔法使いなら最終手段に行う事もあるけど、戦いに負けたって死ぬわけじゃないのにあんな使い方…」

 

バズは笑った。

 

「これ以上にない恩返しの機会が来たんでな。馬鹿には馬鹿にしかできねえ意地の張り方があるんだよ!!」

 

魔法の盾がみしみしと音を立てる。ヒビも生えた。外側は既に溶け始めている。バズはこちらに向かって走って来る。私は自分の身を守るバリアの中に彼を入れる。バズは私を押し倒すと上から被さった。

 

巨大な魔法の盾が壊れた。残り火が辺りを焼いて行く。私が張っていたバリアも壊れ、僅かに残った炎がはバズの背中を焼いた。魔力の痕が背中にはっきりと残る。

 

「後は頼んだぞ、イジー」

 

バズが消えた。

 

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