ケネスィの幻は頭の向きを前方に戻してリプ達との戦いを再開する。きっと私達を倒した気でいるんだろう。だが私とスマイルはこの通り生きている。失格になったステンシーのため、バズのため。この尻尾は何としても切断する!!
バズが戦っててくれたおかげで尻尾に傷はついている。最も深い切り口に向かって斬撃を入れる事が出来たなら…。
「スマイル、私の身体にもっと負荷をかけてもいいからもっと魔力を!」
「…分かった」
私は天に向けて手を振りかざす。スマイルの詠唱を聞きながら後から続いて復唱する。魔法の大剣の輪郭がぼんやりと空に現れる。私はその絵を掴んだままスマイルと一緒に詠唱を繰り返す。
もっと大きく、もっと長く、もっと鋭く!!!
魔法の大剣が100mほど伸びた。全身から汗が噴き出す。酷く喉が渇く。魔法の大剣に重さはないが、無理をして魔力を使った影響か体中が痛む。
「おおおおおおっ!!!!」
私は魔法の大剣を握りしめたままスマイルと共に飛翔し、まだ高熱を帯びているケネスィの幻の尻尾に迫る。スマイルの操縦補助で尻尾に当たらずに接近で来た。やがてバズがつけた傷口の箇所が攻撃範囲に入る。
そして大きく横に凪いで傷口を広げた。ケネスィの幻は叫び声をあげて上半身をこちらに向けた。口に火を溜めながら下半身を移動させて尻尾の切断を免れようとしている。遠くでリプとクレムが同時に魔法を唱えて巨大な泥をケネスィの幻の頭にぶつけた。
僅かに動きが鈍った隙にもう一撃魔法の大剣で尻尾の傷口に追撃する。刃は傷口から入り、骨と骨のつなぎ目の中に入り、そして残りの肉まで切断しきった。
遠くからクレムが猛スピードでこちらに飛んでくる。彼は私の身体を抱きかかえるとその場から飛んで逃げる。すると先ほどまで私がいた場所に高熱の炎が通った。泥から顔を出したケネスィの幻が炎を吐いたのだ。炎を吐きながらこちらを向こうとしているケネスィの幻の顎のあたりに青白く糸が光ったかと思うと、急にその頭は上を向いた。おそらくリプだろう。
「ありがとう、よく頑張ったぞイジー。後は俺達に任せるんだ。スマイル、後は頼んだ」
「2人共、気を付けて」
「待って、まだ私は戦え…」
猛烈な眠気が襲って来た。魔法の大剣を使った後ぐらいから体の感覚があまりなかったが、もう意識を保っているのも難しいらしい。スマイルはバリアを張ると体を液状にして私を優しく包んだ。
「後は頼れる先輩達を信じよう、イジー」
「………」
次に目が覚めたのは保健室のベッドの中だった。目を開けると周りにはスマイル、リプ、クレム、バズ、ステンシー、両親にスティル先生と沢山の人に囲まれていた。
「良かった…もう起きないかと思った」
真っ先に開口したのは父だった。母は目元を抑えてカーテンの外に出て行った。クレムは私の手を強く握る。
「やったぞ…!俺達はやったんだ!皆のおかげで、あのケネスィの幻に勝ったんだ!!」
「それ、私が言おうと思ったのに」
リプがしょんぼりとする。皆が笑った。そうか…勝つ事ができたんだ!!私は嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。感情を抑えきれずに思わず泣いて喜んだ。
「イジー、お前は家族のほごっ…」
多分誇りだと言おうとしたんだろう。そこで泣き出した。その後カーテンから出て行った。鼻水をすする音が聞こえる。
「アタシがいなきゃ全滅だったな。感謝しろよ」
ステンシーがえっへんと威張る。
「ありがとう、ステンシー。ありがとう、バズ、ありがとう皆。ああ…夢みたいだ。こんな…」
「後は優勝するだけだ。あんな大業を成したんだ、お前ならできる」
バズがニッコリ笑った。何だか照れ臭い。
「そんな…バズのつけてくれた傷口がなきゃ切断はできなかったかもしれない」
どの道飛べなくなったから結果オーライではあるが、右翼の破壊はできなかった。尻尾の切断もバズのおかげ。私が勝利に貢献できた部分はあまり大きくない。
「尻尾が排熱器官だと言う考察は魔法使い達も考えてたみたいでね。あの後は炎攻撃は使わなくなったし、動きも鈍くなっててやりやすかった。この勝利は私達だけじゃできなかった事」
それぞれ謙遜したが、皆の意見をまとめると皆のおかげで勝てたと言う結論でいいんじゃないかとバズが言いだした。皆はそれに納得する。ステンシーはその場にぴょんぴょんと跳んで抗議する。
「MVPはアタシだーっ!」
「よく頑張ったね。チームの勝利に最も貢献したのは君だ、ステンシー」
クレムがステンシーにそう言った。彼女は嬉しそうにガッツポーズを取る。
「七頭身先輩、今のってプロポーズって事でいいですか?」
「ちょっと何言ってるか分からない」
また皆で笑った。その後、1人また1人と帰って行った。やがて両親も帰った。私は今しばらくは安静にしていた方がいいと言う事で今日は保健室に泊まる事になった。スティル先生が水や氷、時間を潰すための本などがどこにあるか教えてくれる。私への祝いも兼ねて近くにお菓子を沢山置いてくれた。丁寧に旅行用の歯ブラシも用意してくれた。晩御飯を食べた後どうしようか考えていたのでありがたい。
やがて私とスマイルだけになると晩御飯を食べ始めた。興奮はまだ冷めない。
「僕達、下級生で偉業を達成できたね」
スマイルが生肉を取り込みながら言う。
「後は決闘で勝つだけ。でしょ?」
「だねー。でも相手はあの2人か…。勝てる自信はある?」
「スマイルが一緒だし」
スマイルが飛び切りの笑顔を見せて私に抱き着いた。私は彼の頭を撫でる。彼は最高の相棒だ。
夜遅く、生徒も先生もいないはずの校舎で足音がした。警備員だろうか?不思議に思っているとその足音はこちらに近付く。スマイルは私を放すと液状になって天井に張り付いた。警戒している彼の様子を見て私も思い出した。
そう、決闘祭に現れたあの偽ステンシーの事。痛む体を起こして私もいつでも戦えるように備える。
鍵を開ける音が聞こえた。中に誰かが入って来る。そしてカーテンを開けた。現れたのは意外な人物だった。
「し、師匠!??」
つい最近外に出てミルジナにいるはずのない師匠だった。どうしてこんな所に!?
「ムヘンの揺り籠でお前が勝ち残っただろ?その時王様から連絡が来たんだ。お前ん所の弟子が頑張ってるぞって。俺は驚いたし、最低限の事だけ済ませて飛んで帰って来たんだ。そしたらもう勝負がついててな。果てにはお前がクレセント学校で寝込んでるって聞いて。師匠の気苦労も絶えないもんだ」
「ふふっ、残念でしたね。私、大活躍でしたよ」
師匠は中腰になると私の頭を撫でてくれる。
「だがこれで終わった訳じゃないぞ。次は決勝戦だ。王様はお前の身体が完治してから行うつもりみたいだから、例え今の予定日までに体が治らなくても大丈夫だ。安心して養生しろ」
忙しいだろうに、私のためだけにしばらくミルジナに留まってくれるらしい。私は嬉しくて仕方がなかった。私はふと気になった。
「あれ、ビジーは?」
「ああ、あいつか。まだしばらくあっちに残るそうだ。お前もこの決闘祭で優勝してビジーに自慢してやれ」
「うん」
師匠は立ち上がると上を向いた。私達のやり取りを眺めていたスマイルが天井から降りて来て人の形になる。
「この人がイジーの言ってた師匠?」
イジーは私に尋ねる。
「うん。この国で最も優秀な魔法使いなんだ」
「で、こいつが国王の言ってたイジーの契約した魔物のスマイルか。話は聞いてたが凄いな。体液は赤。擬態能力がある。人語も喋れる…。魔法も使えるんだって?」
どうやら大雑把な話は国王から聞いていたらしい。私はスマイルについてこれまで黙っていた事を謝り、どこでであったのか、どんなふうに過ごしたのかを話した。彼は微笑を浮かべながらその話を聞いていた。
「なるほど、それはスーパースライムな訳だ。いつもイジーを世話になってるな。お礼を言うぞ」
「いえいえ」
それから師匠は何かを取り出した。お菓子だ。噛んで食べるキャンディを1つ私にくれた。
「それを手に入れるのは苦労したんだぞ。沢山人が並んでてな。できれば袋ごと買いたかったが売り切れててな。店員にどうしても欲しいって頼んで1つだけ譲ってもらえたんだ。味わって食えよ」
「師匠…」
「僕の分はないの?」
スマイルが口を尖らせる。残念ながら私が師匠にもらったキャンディはとても小さくてとても2つに分けられる物ではない。師匠は服の中をガサガサと探す。やがて何かを取り出した。
「俺の晩飯だがこれぐらいしかない。勘弁しろ」
そう言って栄養補給用のお菓子を渡した。スマイルは喜んでそれを食べる。私ももらったキャンディを食べた。ブルーベリー味でとても美味しい。
「それじゃ、俺はもう帰る。やる事なくて暇だろうが、今日は良からん事を考えて夜更かしとかしたりするなよ」
どんな心配だ。師匠は踵を返すとカーテンを閉めて保健室を出て行った。私は彼の背中に向かって声をかける。
「おやすみ、師匠」
「おう、いい夢をな。イジー」