見習い魔法使いイジーとスライムのスマイル   作:ヤングコーン

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体調が戻ると師匠はイジーに猛特訓を行った。それはそれはもう厳しかった。決闘祭の最終日の前日、アレンの自宅の前に誰かがいた。それはビジーだった。


31話 ビジーの告白

「行くぞ!」

 

師匠の合図で大火の魔法が投げられる。私は高速詠唱を行ったが、間に合わない。スマイルが魔法の盾を使って攻撃を防いだ。

 

「ちゃんと詠唱できていないぞ。練習はしたのか?」

 

「し、してますよ…。通常詠唱ならまだしも、こんな複雑な魔法を高速詠唱なんてできませんよ!」

 

私は思わず愚痴を言った。まだ体が回復してそう経たないと言うのに師匠はスパルタ教育で私に様々な呪文を覚えさせようとしている。彼なりの応援なのは分かるが中級魔法とか上級魔法を平気で教えだすのだ。とても付け焼刃でこなせるレベルじゃない。

 

「決闘まで残り3日だ。そんなんであいつらを倒せるのか?」

 

「も、もうここまで来れば上々じゃないですか…?たった数日の猛特訓でどうにかできる様な相手じゃないですよぉ…」

 

「全く。スマイル、ちょっと手本を見せてやれ」

 

「ええっ、僕!?」

 

スマイルが露骨に嫌な顔をする。師匠は有無を言わせずに大火の魔法をスマイルに向けて唱えた。スマイルは高速詠唱するが間に合わない。師匠が当たる寸前で魔法を消した。

 

「スマイルだってできないじゃないですか!私にも無理ですよそんな事!」

 

「無理じゃない」

 

師匠特有の無茶だ。スマイルは頬を膨らませて立ち上がる。

 

「じゃあアレンもやって見せてよ!」

 

スマイルは高速詠唱すると大火の魔法で師匠に襲い掛かる。師匠は呪文を高速詠唱すると大火に左手を突っ込んだ。すると大火は全て魔力へと変換されて師匠の体内に入って行った。

 

「こうだ。簡単だろうが」

 

「この人頭おかしい…」

 

スマイルが小声で言った。今まで師匠が教えてくれた魔法は基本中の基本であり、戦っている所も見た事がなかった。こうして猛特訓を受け、初めて師匠が魔法使いとしてどれだけ高い技術を持っているのかが分かった。一体どんな舌使いをしたらあんなな呪文を高速詠唱なんてできるんだろう。

 

その後は実戦形式で魔法の練習を行ったりした。私もスマイルもクタクタになるまで修行を行った。やっと修行が終わり師匠の家で休めるかと思えば、魔力回復のために非常にまずい薬を飲まされたりした。料理がまともで美味しかっただったのが救いだ。

 

そしてこの修業は2日連続みっちおりと行われた。

 

 

 

 

3日目、コンディションを整えるために今日は学校を休む事にした。師匠も「今日はゆっくり休んでいろ」と言っていた。結局魔法は殆ど身につかなかった。私はスマイルと一緒にミルジナを散歩する。

 

お菓子を食べようと思って店に寄るとリプと会った。彼女は私にお菓子を買ってプレゼントしてくれた。それを公園で一緒に食べながら師匠から教えてもらった魔法の相談をしたりした。ある呪文について高速詠唱できるか尋ねてみると…。

 

『いや、舌が噛みちぎれるわ。しかも何このスペルの組み方。え??』

 

と困惑していた。優秀な上級生でさえこのリアクションなので師匠が私にさせようとしていた魔法が一体どれだけ高難度だったかが分かる。

 

その後、クレセント魔法学校に行って何とかウェンズリ―先生を捕まえると師匠から教わった呪文について尋ねた。すると彼は急に笑い出した。

 

『さてはアレンから教わりましたね。んー、実に彼らしい。私からも教えてあげたい所ですが、朝から晩まで付きっきりで教えても最低は半年、最大2年半かかります。彼も無茶を言いますねぇ…』

 

と言っていた。ウェンズリ―先生が言うのだから余程なんだろう。まあ師匠らしいと言えば師匠らしいが。

 

私は久しぶりにスマイルと一緒に妖精の森にでかける事にした。師匠から最終日は魔法の練習はしない様に言われていたが、このままじゃ勝てる見込みはない。スマイルも付き合ってくれるらしい。

 

師匠の家の近くを通ると玄関前にある客人が来ていた。

 

「ビジー!」

 

姉弟弟子のビジーだった。彼女は振り向いた。

 

「イジー…。元気にしてたか?」

 

「うん!」

 

「隣に連れてるそいつは?」

 

スマイルはニッコリと笑う。

 

「スライムのスマイルだよ」

 

まさかビジーまで帰ってるだなんて。家の中から師匠が出て来た。

 

「ビジーか。随分早かったな。もういいのか?」

 

「ええ。後はあっちが勝手に片づけますよ。それより…」

 

ビジーはそこまで言うと師匠の隣を通って家の中に入る。そして荷物を置くとこちらに戻って来た。

 

「イジーと2人きりで話がしたい。いいかな」

 

「私はいいよ」

 

「僕も一緒じゃ駄目?」

 

スマイルがしょんぼりした顔をする。ビジーはうなずいた。スマイルは私に訴えかける目をする。

 

「はは、すぐに済むよ。そんな今生の別れじゃあるまいし」

 

「ちぇっ。早く帰って来てよね」

 

そう言ってスマイルは家の中に戻って行った。師匠も家の中に戻った。私はビジーがある後ろを歩く。この道は妖精の森に繋がっている。

 

「妖精の森に行くの?」

 

「あそこは空気が美味いだろ?」

 

2人きりで話がしたいから私を連れ出したと言うのに、妖精の森につくまで殆ど口を開かなかった。妖精の森に入ってしばらくして大きな岩に腰をかけると彼女はしばらくきつく目を瞑って黙り込む。

 

私は心配で彼女の隣に座ると顔を覗き込む。

 

「大丈夫?」

 

「…イジー。俺な、ファーガスに引っ越そうと思う」

 

「随分唐突だね。お父さん、お母さんには?師匠には話したの?」

 

ビジーは首を横に振った。

 

「……話してない。でも、ファーガスにはクーフォって優しいおっさんがいるんだ。そいつが俺を預かってくれるって。あの国は凄いぞ。料理は美味しいし、人柄もいい。それに教わる魔法だって」

 

ファーガスはステンシーの故郷だ。ケネスィの幻と戦った時その実力の高さが分かった。彼女はクレセント魔法学校では物足りないと考えているのかもしれない。もしそうなら仕方がない事だった。

 

本当に彼女がそれを望むのなら喜んで背中を押すべきなんだろう。でも、私はそれができなかった。苦楽を共にした彼女との別れは辛い。

 

それきりお互いに黙ったまま俯いて喋らなくなった。

 

「い、イジー…」

 

ビジーが私の手を掴んだ。私は彼女の方を向く。

 

「お前も来てくれないか?一緒に」

 

「一緒にって…ファーガスに?」

 

ビジーはうなずく。顔は至って真剣だ。いつもより顔に赤みを帯びている。

 

「そんな事、急に言われても…」

 

「急なのは分かってる。俺はファーガスに行って、魔法を猛勉強する。そして師匠をも超える魔女になる。両親がいない事は耐えられる。師匠も。だがな、お前がいない事は耐えられない!」

 

彼女はやや早口になりながら私の手を掴み上げ、両手で握りしめる。私の手を掴むビジーの手から不思議と鼓動が伝わって来る気がした。彼女と同じように私の鼓動も高鳴る。どうにかなってしまいそうだた。

 

彼女はまたきつく目を瞑った。

 

「だが…もし、もし俺とファーガスに来てくれるのなら。俺はお前に苦渋の決断を迫らなきゃならない」

 

「??」

 

ビジーは顔を真っ赤にして、震える唇で言う。

 

「言うぞ…言うぞ俺…」

 

「びびび、ビジー、落ち着いて…」

 

「おお、おおお俺と駆け落ちしてくれ!」

 

私の脳天に雷でも落ちたんじゃないかという様なショックを受ける。信じられない、まさかビジーが私に告白だなんて!!!頭の中が真っ白になる。わわ、私は一体何をどう答えればいいんだ…。

 

駆け落ちって、恋人と失踪…みたいなもんだよね?

 

「…行き先を書かないなら置手紙ぐらいしてくれていい。だけど、もし俺と来てくれるなら…お前に家族と師匠とスマイルとの関係を断ってもらわなきゃいけない」

 

「ど、どうして…?」

 

「理由は今は言えない。ごめん」

 

何も言えなくなってる私との距離を詰める。この距離に迫られたのはスマイルぐらいしかいない。

 

「イジー、俺はお前が欲しい。愛してる。お前を俺にくれ」

 

彼女の告白にどう答えていいか分からない。私にとって両親も師匠もスマイルも大切な人だ。ビジーだって大切な人だ。天秤にかける事なんてできない。私はどうしていいのか分からない。

 

返答に詰まっていると彼女は岩から降りて背中を向けて歩き出す。私は彼女の背中を追おうとしたが止められた。

 

「…明日返事をくれ。早ければ早いほどいい。この事は誰にも言わないでくれ」

 

そう言ってビジーは去っていく。残された私はどうしていいのか分からずしばらく立ち尽くしていた。

 

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